スーパーロボット大戦 exA
第1話 ジャンプアウト 木星軌道上。
重力中和点に息を潜めるように1隻の戦艦が浮かんでいる。
よくよく見てみれば、装甲は焼け焦げ、ところどころは応急処置がなされているものの、戦闘行動に耐えられる状況とは思えない有り様だ。
はげかかった漆黒のステルス塗料が痛々しい。
だが、艦の機能自体はきちんと生きているらしい。ブリッジでは索敵に追われる当直スタッフが各々のコンソールに向かっている。
「……あら?」
そのスタッフの中で、たまたま索敵用シートについていた女性が何かに気づいたように声を上げた。
ここ数10時間、特に変化を告げていなかったセンサーの反応。
その女性が目にかかっていたナチュラルカールの金髪を手櫛で無造作に持ち上げ、センサーの情報を瞬時に読み取った。
ミノフスキー粒子によって事実上当てにならないレーダーの代わりになる、あらゆるセンサーの変化を個別に解析する。
艦すべての技術的要素を取りまとめている稀代のネクシャリストだからこそできる芸当だ。
「どうした、レモン?」
ブリッジの中で一番高い場所……すなわち、艦長席……から、レモン、と呼ばれる科学者に声がかかる。
「いえ、大したことではありませんわよ、ヴィンデル様」
艦長席についている鈍色の髪の眼光鋭き艦長……ヴィンデル・マウザーに、事もなげにレモン・ブロウニングが答えを返した。
「次元線上に別位相からの転送存在が交錯していますわね。艦内時間で28秒後に相手がこちらに具現化しますわ」
「……何?」
「あと、10、9、8……」
どことなく楽しげにカウントダウンをはじめるレモンを見やり、ヴィンデルはかすかに眉をひそめ、動揺するブリッジクルーに向かって静かに指示を出した。
「落ち着け。レモンが動じていない以上、我々への致命的な影響はない。貴様らは艦を維持することに全力を注げ」
眼光鋭く周りを見やるヴィンデルを見て、ブリッジクルーは落ち着きを取り戻す。
「3、2、1、0」
黒い光。
そうとしか形容できない閃光がブリッジの中心に発生した。
最初の光に目を伏せたブリッジクルーは、どさっ、という何かが落ちたような物音がするまで目を伏せていた。
「人間、か?」
全く動じることないヴィンデルの声音に、レモンが追従する。
「そのようですわね。加えていえば、かなり死にかけの様で」
パーソナルトルーパー搭乗時に着用するノーマルスーツよりもより体にフィットしたデザインの戦闘服。色は漆黒。
黒いバイザーの下から見える髪もこれまた漆黒。肌の色は白く見えるが、これは衰弱で青ざめているためらしい。
体つきからして男だということ、髪の色と肌の色からモンゴロイドの青年だろうことは予測できるが、果たして本当に自分たちと同じ人類なのだろうか。
触るどころか、どう扱っていいのかも判断に困る。
停滞しかけた空気を、ヴィンデルが揺さぶる。
「……ブリッジで人死にを出しては士気が下がる。レモン、任せる」
「あらあら、助けられるとも限りませんのに」
「おまえの研究室へ運べばいい。アクセルに運ばせろ」
ヴィンデル自身は全く動じることなく指示を出した。余裕があるのは知的好奇心を刺激されたレモンぐらいで、それ以外のブリッジクルーは自発的に何かをしようという気にはなれないらしい。
「かしこまりましたわ。聞いた、アクセル?」
レモンが振り返ると、そこには緋色の髪の毛を手櫛でなでつけている大柄な青年が立っていた。
「こいつを運べばいいのだな」
「よろしくね」
「……人使いの荒いことだ」
「3級警戒体制の戦闘要員は待機中、することないでしょ?」
緋色の髪の青年……アクセル・アルマーが倒れている青年を無造作に担ぎ上げる。
ざわめくブリッジクルーを一瞥して、アクセルはその場を後にした。