第6話 ネルガル&GGG
シャトルの事故。
それも人為的に起こされた、実際にはテロと呼んでもいい、襲撃。
そこに介入した謎の戦艦、および機動兵器。
これだけのことが瞬時に、それも地球の静止軌道上で起こったとなれば、全世界規模のパニックが起こっても不思議ではない。
だが、それは起こらなかった。
「ご尽力に感謝する、大河総帥」
「無用な混乱を避けたかっただけで、他意はない」
強襲艦ラビアンローズはアキトたちを回収してすぐにハイパージャマーを作動させて姿を消した。
だが、シャトルの乗員の憔悴がひどく、また、北辰に一騎討ちを挑んだ青年の容体が急変、緊急手術の必要があったため、近傍の軌道ステーション・オービットベースに身を寄せることになったのだ。
オービットベース。
地球圏の宇宙空間は基本的に誰のモノでもないが、暫定的な制宙権は存在する。
治安維持は地球連邦軍の宇宙方面軍が担当する、ということになっている。
が、実際は月面都市やコロニーは自治を行っている組織が監視しているし、月に本社を持つアナハイムエレクトロニクスは軍を頼りにせず、自衛策を取っている。
そんな組織間の仲介を果たしているのは、旧世紀から存在している国際連合である。
オービットベースは、国連の宇宙開発局が運営する軌道ステーションで、原則としてここでは地球・月・コロニーの間での一切の相互不可侵が義務づけられている。
ラビアンローズの艦長であるヴィンデルが案内されたのは、宇宙開発局の総裁室だった。
そこには、パーマのかかったきれいな金髪をなでつけた、スーツ姿の中年男性が執務机についていた。
その彼の全身からにじみ出す迫力、というか精力は、自然に人が付き従うカリスマといえるものだった。
地球圏に対する情報統制はここにいる国連宇宙開発局総帥、大河幸太郎がその権力とコネクションをフルに活用して行ったものだった。
「シャトルの乗員を助けてもらったのだから、感謝しなければならないのは私たちの方だよ」
「完全に、とはいかなかったが」
乗員の大半は、特に怪我もなく救助できた。
だが、最初にシャトルの足を止めるためにつぶされたコクピットにいたパイロット2名と、北辰が侵入したときにいきなり殺された連邦軍出向の士官は助けられなかったのだ。
「せめて、これ以上の犠牲が出ないことを祈るばかりだな」
幸太郎が沈鬱そうにつぶやく。
総裁室のモニターに、接舷したと同時に運び出されたストレッチャーに件の青年が横たえられているのが映っている。
そのまま、オービットベースの医療ブロックに運び込まれて緊急手術となったのだ。
「彼の父親は、地球圏でも指折りの科学者と言う話だったな」
ヴィンデルの確認の言葉に力を得たように幸太郎が大きくうなずく。
「獅子王麗雄。宇宙工学、ロボット工学、生体工学そのほか、様々な分野での博士号を持っている、まさに天才というべき科学者だ。その英知に期待するしか、今は方策がない」
大きく嘆息して、幸太郎が目をつぶる。
その姿を見てもあえて声をかけずに、ヴィンデルは幸太郎の担当秘書官が取り急ぎ集めてくれた現在の地球圏に関する資料を読んでいた。
幸太郎にはラビアンローズのことを、『連邦宇宙軍の独立部隊で、久しく月とアステロイドベルトの哨戒任務に就いていたため、最近の地球圏の状況を知りたい』と説明するにとどめていた。
総裁室にしばし、沈黙の時間が流れていた。