「ヴィンデルへの情報提供者は、俺だ、ネルガル会長殿」
弾かれたように振り向いたアカツキの目の前に、ブラックジーンズに黒のカッターシャツという徹底した格好の若い男が立っていた。
「俺の名前はテンカワアキト。故あってヴィンデル達に同行している」
そう言い放ってアキトは視線の先にアカツキを据える。
言い様のない感傷。
ランダムジャンプから初めて出会った、自分が見知っている人物。
だが、アカツキにとってアキトは、全く心当たりのない人物だ。
だからアキトの視線の意味が理解できず、アカツキは困惑した。おかげで、先程の劣等感からくる激情はどこかに追いやられたようだが。
「君は……」
「……そうか、特に心当たりはないらしいな」
いぶかしげなアカツキの声を聞き取れなかったのか、アキトはアキトで別のことを言っている。
「……君とは初対面だと思うけど?」
「その通り。俺が気にしていたのは『テンカワ』という姓についてだ。火星へ行っているメンバーの中に『テンカワ』という人物はいるか?」
「テンカワねぇ……エリナ君、調べられるかな?」
「少々お待ちください」
アカツキに尋ねられて、エリナが自分のコミュニケを操作する。いくつかのデータを参照して、程なく解答を導き出した。
「これまでにネルガルから送り込んだ火星開発プロジェクトのメンバーに、テンカワという姓を名乗る人物は存在しません」
「間違いない?」
「少なくとも、私の権限で閲覧できるデータには一切見当たりません。可能性を論じるなら、密航などの不正規手段ですが、極めて低いと思われます」
「だ、そうだよ」
隣のエリナの答えを聞いて、アカツキはアキトを促す。
「わかった。ならばあと1つ尋ねたい」
「何かな?」
「現在、マシンチャイルドは何人生存している?」
刹那、アカツキの目が見開かれる。
理論だけなら世間に流布されている、遺伝子操作でナノマシンとの親和性を高め、コンピュータ制御に特化した異能力を示す電子の申し子。
それこそがマシンチャイルドと呼ばれる強化人間である。
『1年戦争』で存在が確認されたニュータイプ。その能力を人為的に高めた強化人間。
着想こそ似通っているものの、ネルガルは全く違う概念からマシンチャイルドの技術を確立した。
その根本が火星にある遺跡のテクノロジーであることは世間には知られていない。
ネルガルは公式にはマシンチャイルドはあくまでも理論的存在であり、実在はしないと発表している。
だが、アキトはマシンチャイルドがいることを前提に話をしている。
「テンカワアキト……聞いたことのない名前だが、そこまでのことを知っているってことは、よほど綿密に調べ上げてるみたいだねぇ」
口調に対してアカツキの目が笑っていない。
会社に戻ったら、セキュリティ関係の人員の徹底監査が必要だな……。
そんなことを考えているアカツキを、アキトはじっと見据えている。
「質問の答えになっていないぞ」
「おいそれと社外秘を部外者に教えるとでも?」
「解答への見返りは用意してある」
三度、アカツキとアキトの視線が交錯する。
根負けしたのはアカツキの方だった。
「今、ネルガルのコンピュータ部門で一人、研修を受けているよ。それ以外にジーンパターンを持っているのが5人。ただし、マシンチャイルドとしての能力の発現が見られるのはそのうち1人だけ、といったところだね」
「全部で6人か。念の為に聞いておくが、人体実験などはしていないだろうな?」
言葉の端に殺気が乗る。
アキトの瞳の中の漆黒が、まるで虚無のように深くなる。
アカツキは思わず息を飲むが、どうにか体裁を繕ってアキトに答えた。
「……受精卵のDNAに操作を加え、普通以上のナノマシンを投与することを人体実験というのならば、答えはイエスだけどね。ナノマシンの調整と能力発現カリキュラム以外は、普通の子供と同じように学校にも通っているよ。どこぞのニタ研みたいなことをしても、得られるものは何もないし、ばれたら会社のブランドイメージはがた落ちだ。わざわざ巨費を投じてリスクを囲い込むような真似はしないさ」
「ニタ研?」
「連邦軍のニュータイプ研究所のこと。強化人間を作り出すためにずいぶんと色々とやっているらしいんだけど……軍属なのに知らないのかい?」
いぶかしみながら、アカツキはアキトを見た。
先ほどまでの虚無は、アキトから綺麗に消え去っていた。
「どうやら、俺が知っているアカツキナガレよりも、人間性は高いらしい」
「言ってることの意味がよく分からないけど、とりあえずほめてもらったのかな?」
「お前が率いるネルガルなら、取引相手としては十分、ということだ」
「……認めてもらえたようだねぇ」
頬をひきつらせるように、アカツキがぎこちない笑みを浮かべる。
今までのどんな商談よりも、緊張を強いられた時間だったのだ。
「では改めて交渉だ。シャドウミラーは諸般の事情で軍からの補給が受けられない。ネルガルに頼みたいのはこの部隊のバックアップ。見返りは、シャドウミラーが保有する兵器と、この俺のデータ」
そういうと、アキトがすっと右手を持ち上げてこぶしを握る。
すると、アキトの全身にナノマシンによる発光が起こる。
「ナノマシンと生体ボソンジャンプの生きたデータがここにある」
今日は一体、何回息を飲んでいるのだろう。
アカツキは思った。
時代が、ひょんなことから大きく動き始めたのかもしれない、と。
( See you next stage!! )
遅くなりましたっm(_ _)m<平身低頭の図
出向帰任したらとたんに仕事中にのんきにSS書ける身分から急転直下(笑)
給料泥棒を返上してしまいました。
ま、待ってる人もあまりいないかな、と多少自虐的になりつつ。
シャドウミラー隊のバックアップに、こういうメンバーがつくことになります。
つくことにしちゃって、正直心配です。
何が心配って大河長官とミスマル提督の交渉シーンってちょっと想像してみてくださいよ。
……すごいでしょ?
んでもって、ナノマシンだのマシンチャイルドだのネルガルとクリムゾンの関係だの昔の戦争だの、好き勝手に変えちゃいました。
あと、アカツキ。
TV版をろくに見てなくて、時ナデを読み(笑)、SRWAをやってると、どうも単なる小悪党で終わらせちゃっては面白くないなぁと。
ふとそんなことを考えまして。
で、せっかくGGGを参入させるわけですから、人心掌握のカリスマとして大河長官を位置づけました。
さぁアカツキ、君も成長したまえよ。
よろしければまた、次回もお付き合いくださいませ。
「はっはっはっ、私がガッツィーギャラクシーガード、通称GGGの長官、大河幸太郎であーるっ!」
「うわ、また濃いなぁこの人」
「おお、君がテンカワアキト君だね。GGGはいつでも優秀な人員を歓迎しているよ」
「実力を認めてもらうのはうれしいが……なんというかこー、ウリバタケさんのパワーにユリカのカリスマ、ついでにガイの行動力少々ってところか? ある意味ナデシコっぽい人ともいえるんだけど……」
「では契約金はこのぐらいで早速研修を受けてもらおうか」
「……って、ちょっとちょっとちょっと。なんでいきなりそーいう話になっているんですか!?」
「そりゃ決まっている。ネルガル所属の機動戦艦ナデシコは、国連宇宙局の依頼を受け、共同プロジェクトの一環として火星へ赴くのだよ。君の立場はネルガルの社員か国連職員のいずれかということになる」
「マジですか」
「大マジだよ」
「ヴィンデルやアクセルはどうなるんですか? 彼らは一応軍人ですよ」
「それなんだがな」
「はいはい」
「連邦軍からの横やりに対して『軍からオブザーバーを乗せる』と宣言したら、あっさりと引いてくれたのだよ。いやぁ、軍にも話の分かる人間はいるらしいな」
「……彼らはこの世界の軍人じゃないのに、どうやってだまくらかしたんだ、この人は……」
どっとはらい。
代理人の感想
アカツキ押されっぱなしですねぇ。
格上の大河長官にヴィンデル、情報にぎりまくりのアキトと、
相手が相手ですから仕方ないですが(苦笑)。
(なんのかんの言っても20歳の若造には違いありませんからね)
しかし…波乱創造が100年前の人物?
ダイターン3はどうするんだろう(爆)。
>NGワード
そりゃ大河長官だから(爆)。