スーパーロボット大戦 exA
第8話 ドラグーン・カム・フロム・ザ・ムーン
「耕助、ギガノスってのは戦争する気配があったのか?」
地球圏は優良種たるギガノスの民が支配するべきである、というギルトールの演説が未だ続く中、アクセル=アルマーはこの場にいる最も情報に長けているであろう人物に質問を投げかけた。
「神聖統一ギガノス帝国。月面ステーションとコロニー国家の一部で形成される新興国家ですが……VFX-01、ギガノス帝国について現状で分かっている情報を列挙してくれ」
『了解しました』
合成音声のVFX-01が返答するのと同時に、猿頭寺耕助はメインモニターに様々なデータを展開する。
『地球との間には緊張はあるもののトリガーになる事件は起こっていません。ですが』
「……これか。地球人以外の勢力からの度重なる宣戦布告」
耕助がキーパネルをたたくと、3枚のウインドウが拡大される。
「キャンベル星人の地球侵攻。これは南原コネクションのスーパーロボット、コンバトラーVによって撃退しているが、再侵攻の気配が最近見られます。技術的に酷似したロボットが極東地区に現れているようです」
耕助の指差すウインドウには鋭角的な頭部を持つ赤と青を基調とした身長57メートルの巨大ロボット、コンバトラーVの戦闘シーンが表示されている。
「加えて、先住地球人種族といえる爬虫類人種と古代人種、それぞれが地球の地下から侵攻して来ました。前者は恐竜帝国、後者はミケーネ帝国を名乗っています。
恐竜帝国は早乙女研究所のスーパーロボット、ゲッターロボが撃退。その後、こちらも先住地球人種と思われる百鬼帝国と散発的な戦闘状態が続いています。
ミケーネ帝国は科学要塞研究所のスーパーロボット、グレートマジンガー、光子力研究所のマジンガーZ、宇宙科学研究所のグレンダイザーと現在も交戦状態にあります」
片方のウインドウには赤を基調とし、鋼鉄のマントを背負い、トマホークを構える巨大ロボット、ゲッター1が。
もう片方には黒を基調としたスーパーロボット、マジンガーZ、グレートマジンガー、グレンダイザーが表示されている。
「マジンガーにゲッターか……極東のスーパーロボット、懐かしいな」
「知っているのですか?」
ウインドウを見たアクセルの何気ないつぶやきに耕助が相槌を打つ。
そういうリアクションを予測していなかったアクセルは苦笑いを浮かべて、まあな、と言葉を濁した。
『地球圏全体とはいえないものの、これらの勢力による戦闘で連邦軍は混乱しています。これを見て好機、と判断したのではないでしょうか』
「いい判断だ。引き続き、この考察から生じるであろう戦闘の規模などを予測してくれ」
『了解しました』
VFX-01の類推を聞き、耕助が満足そうにうなずく。
「よく鍛えられたAIだな」
「……わかりますか?」
「近くに詳しいのがいるんでね」
感心してみせるアクセルを見て耕助の方が少しだけ驚いている。
AIの類推能力とはすなわち、データ処理能力とデータの保有量に他ならない。
能力の精度はプログラムである程度引き上げられるが、データ処理は保有する処理済みデータの量に左右される。
あえて人間的な言い方をするなら、「経験がものを言う」のである。
研究者ならわかることだが、そうとは思えない人間から意見が聞けたことに、耕助は驚きを覚えたのだ。
その時、けたたましい警告音とともにVFX-01の声が聞こえてきた。
『非常事態です。月面からオービットベースに向かう未確認の機体があります。グループが2つ、先行しているのが4機、それを追うように8機。形状および質量から、モビルスーツかメタルアーマーであると予測されます』
「わかった。オービットベース全艦に非常事態宣言発令」
『了解しました』
さっきとさほど変わらない口調でVFX-01に命じた耕助は、そのままの体勢で先ほどまでの数倍のスピードでキーパネルを叩き始めた。
それを見て取り、傍らのパピヨン=ノワールがアクセルとW17に告げる。
「ご自分の艦に戻ってください。最悪、戦闘に巻き込まれる可能性が……」
ある、と言おうとしたパピヨンを遮るように、アクセルが言葉を返す。
「一宿一飯の恩義は返すんだな、これが」
「ですが、ここは国連の施設です。連邦軍は軍事行動をとることができません」
オービットベースでは、地球・月面・コロニーいずれの勢力も軍事行動を制限される。
不可侵の中立区域として指定されているのだ。
だが、この世界以外からやって来たアクセルたちからすれば、そういう決まり事に従う義務はない。たとえ本来は「別の」地球連邦軍に所属していたとしても。
だからアクセルはあえて軽い口調でこういった。
「秘匿部隊に、そういう約束事は通用しないんだな、概ね」
「……隊長、それでよろしいのですか?」
「戦うのが俺達の役目だ。それでかまわん」
律儀にツッコミを入れたW17に、アクセルが眉一つ動かさないまま言いきる。
そこまで言われたら、パピヨンも止めようがない。
「じゃ、いってくる」
「……すみません」
頭を下げることしかできないパピヨンは、扉が閉まるまでずっとその姿勢で立っていた。
うつむいたまま、パピヨンは独白する。
「なんで、あんなに簡単に戦おうって言えるのかしら……?」
誰かに聞かせるつもりはなかったのだろうが、最愛の人物はそれを聞き逃さなかった。
「きっと、これが始まりだという予感があるんだろう」
「始まり?」
耕助のつぶやきを聞きとがめ、パピヨンが尋ねる。
「もうすぐ始まる戦いの前哨戦。多分、壮絶な戦いになる。だが、前哨戦なんだよ」
「耕助……まさか」
「僕にはセンシングマインドのような能力はない。けれど、すべての情報を解析すれば、これから何が起こるのかを予測することはできる。それが当たるとは限らないし、戦いの予感なんて当たらないに越したことはないけれど」
そこまで言って、耕助が言い淀む。
パピヨンは、席に着いた耕助の背後からそっと抱き締めるように寄り添った。
すべてを知ることが、幸せであるとは限らない。
それがわかる二人の、固い抱擁だった。