白い光。
 光。
 まぶしい光に顔をしかめながら、アカツキはストレッチャーから飛び起きた。

「あああっ!? あ? あれ、ここは……」
「あら、気がついたのね」

 周りを見回してみると、いかにも、な簡素な作りの寝台に事務机。そこには、オービットベースで大河総裁と会談したときに居合わせた金髪の美女がいた。今声をかけたのがその彼女である。

「さて、頭痛がしたりしない? あと、ゆっくりでいいから思い出してみてほしいんだけれど、どこまで覚えているかしら?」

 目の前にいるのは確か、レモン・ブロウニングと言っていたか。
 確か、会談中に救難信号をキャッチして、機動兵器を使って救助に向かった。
 そのとき、僕はアシュセイヴァーに乗って現場に赴き、ギガノスの蒼き鷹と交戦して、そして……。

「うわ、なんで僕は生きてるんだ?」
「はい、記憶の整理ご苦労様。気を失った後のことを簡単に解説すると……」
「解説すると?」
「ソードブレイカーのオーバーフィードバックで気絶したあと、ドラグナーの3人とアキト君に助けられました。めでたしめでたし」

 完結に事実だけを伝えられて、アカツキは脱力して真っ白なシーツの上に突っ伏した。

「あんなものだとは教わらなかったからなぁ」
「精神感応兵器がどういうものか、という知識ぐらいはあるんでしょ? まぁ、自分がそれを使うことは考えなかっただろうから、どうなるかなんて予想はしていなかったと思うけど」
「特殊な条件でないと使えないような兵器を量産しても意味がないからね」
「……ニュータイプを量産することは考えなかったの?」

 すっと、場の雰囲気が静まる。
 口調はにこやかだったが、レモンの目が笑っていない。
 あえて表情を殺して、アカツキが端的に答える。

「経営者たるもの、リスクは最小限に抑えなければならない。成功したときの利益と真実が露呈したときの損失を天秤にかければ、真っ当な考えを持つなら結論は一つだと、思うけど?」

 量産されたニュータイプ……すなわち、強化人間とは、紛れもなく人体実験の産物である。
 人道にもとるのは誰の目からも明らかだ。
 これがまかり通ってしまう辺り、やはり戦争状態の軍隊というのは常軌を逸しているのだろう。
 ましてや、最前線からはるか彼方で、自社の利益を追求するために行う所業ではない。
 少なくとも、アカツキはそれを忘れてはいなかった。

「マシンチャイルドとボソンジャンプの研究とは、矛盾があるわね。今の意見」
「なっ、どうしてそれを……っと、テンカワ君から聞いてるのか」

 レモンの鋭すぎる切り返しに、アカツキは息を飲むが、思い至ることがあって深くため息をついた。

「確かに、クローニングを用いたマシンチャイルドの復元作業と生体ボソンジャンプの研究については、ご指摘の通り人体実験と言われても仕方がない。でも、これは必要なことなんだよ」
「……自分の研究が正しいと信じる科学者は、大抵そんなことを言うわね」
「これが絶対に正しいなんて言わないし、それを納得させる材料も今は提示できない。確実に言えることは、僕は自分と、自分以外の人が幸せになるために、今できることをやっているだけだ」
「企業人にあるまじき発言?」
「そんなことはないと思うよ。自分の利益だけしか追求できない人間は、企業人の前に人間失格じゃないのかな」

 何気ないアカツキの言葉の裏に、レモンは根深く黒い炎の揺らめきを見たような気がした。
 企業人としての利益の追求と、人としての道の追求。
 二つを最大限にすり合わせようとする心意気。そして、それ自体がいかに困難であるか。
 光を追い求めるが故に闇を知る。
 そんな矛盾が込められた、黒い炎なのだろう。

「ついでに言っておくと、生体ボソンジャンプの実験については、同意の元に献体になってくれた人物がいる。どこぞの会社のように研究と称して廃人を量産するような効率の悪いことはやっていないよ」

 と、そこまでいったところで、アカツキはストレッチャーから降りて、間仕切りになっていたカーテンを開いた。

「模範解答としてはこんなものでいいのかな、テンカワ君?」

 仕切りの向こう側には、黒いシャツにブラックジーンズのアキトと、いつものつなぎ姿のアクセルとW17が控えていた。

「上出来だが、一つだけ聞きたいことがある」
「……あー、ボソンジャンプの献体のことかな? それについては後日対面できる機会を用意するよ。機会を見て、地球に降りてきてくれればね」

 ゆらりと、以前感じた殺気の予兆を見て取り、アカツキはひやりとした内心を押し殺しながらそう説明した。
 アキトにしてみれば、自分以外のA級ジャンパーというと、イネス・フレサンジュかミスマルユリカしか記憶にない。そのどちらかに地球に行けば会えるかもしれない。
 そう考えると、複雑、かつ、心のどこかが追い求めて止まない衝動につき動かされるアキトであった。

「じゃ、アカツキも目が覚めたことだし、ドラグナーのパイロット達を紹介しておこうか」

 わいわいわい。
 アクセルの言葉で、医務室の中がとたんに騒がしくなる。
 ほんの数時間前まで死と隣り合わせのところにいたパイロットたちだからこそ、生き残った喜びを素直に表に出しているのだろう。
 激動の萌芽は、ここにあった。

( See you next stage!! )


あとがき

 また2ヶ月。
 またかよー……。
 そりゃ確かにここしばらくPSOとかPSOとかPSOとかしてましたけどー。

 やってる間に書け? ごもっとも

 なんか今回、書いてるうちにどんどんアカツキ君が主人公化していきました。
 現実に打ちのめされる前に頼れる味方が見つかったなら、あるいは本編のアカツキもこうなったのかもしれない、という解釈、かな。
 ニヒリズムを徹底しきれない若者、って感じですかね。
 昨今のアニメのひねこびたヒッキー系主人公に比べたらナンボかマシかと(笑)

 で、一応の舞台紹介・宇宙編が終わり(笑)
 次は地球の状況の説明に移ります。
 ドラグナーチームの代わりにいろんな人が登場する予定。
 噂のあの人とかね(^^;

 よろしければまた、次回もお付き合いくださいませ。


本日のNGワード

「ふー、死ぬかと思ったぜー」
「ま、ケーンはあれで死んでも不思議じゃないな」
「悪運が強いと言うかなんというか」
「ライトもタップもうるせえ。主人公は多少のことじゃ死なないんだよ」
「「だーれーがー主人公だってぇ?」」
「そりゃこのケーン・ワカバ様に決まってるじゃ」
「あ、ドラグナーチームはしばらく出てこないから」
「「「なにっ!?」」」
「次の話は地球が舞台で、ドラグナーチームは国連預かりでオービットベースに居残りなんだな、これが」
「聞いてねえぞアクセル!!」
「未成年の民間人が戦争に関わり合ってどうするんだ?」
「それつっこむとロンド・ベルが成立しないんだけど」
「それはそれ、これはこれなんだな、ライト」

 どっとはらい。

 

 

 

代理人の感想

 

>自分以外のA級ジャンパーと言えば

・・・これはさすがに短絡的過ぎるよーな(爆)。

蜥蜴戦争も起ってなければ火星の後継者もいないこの世界では

A級ジャンパー(火星生まれ)がゴマンと生き残って(つーか生きて)いる可能性があるとか、

火星の開発状況がナデシコ世界と違うからユリカやイネスさんが地球生まれで可能性もあるとか、

そういう事実に気が付かないのかこの男は?(爆)

 

 

>ドラグナーチーム

・・結局スポット扱い(核爆)?