1人……いや、1台ぽつんと残されたポルコートは、ハイウェイに向かって走るキャデラックの位置情報をリアルタイムに衛星から引き出しながら、別の音声をセンサーで感知していた。

『会話にカメラのフラッシュ音、10名以上の足音……予定通りにチャーター便は到着したな』

 ナノsec.のAIの情報処理の直後、到着ロビーへの一般客の出口の脇にある特別出口から、カメラマンに取り囲まれた1人の男とその後ろに付き従う4人の女性、という集団が出てきたのを、監視衛星で確認した。
 次の瞬間、出口に待ち構えていた一般客の集団からものすごい歓声が上がる。

『外見情報照合……確認。チボデー・クロケット。ネオアメリカ出身。ガンダムファイト、ネオアメリカ代表選手。今回は地上のアメリカ行政府より遊説と慰問を依頼され、北米大陸各地を訪れる予定……なるほど』

 様々なところから現状に関する情報を類推して引き出す。
 これを自律的に行うことができるのが、超AIがスーパーと呼ばれる所以である。

『だが、私が会わなければならない人物は別にいる……外見情報照合、確認』

 先に、形骸化していると述べたが、国家組織自体は存続している。
 様々な地域・コロニーごとの思惑が、疑心暗鬼や暗闘を生み出すのは現在の我々の世界と変わらない。
 そんな中、一年戦争やグリプス動乱の反省から、国家間のいさかいを戦争以外の手段で解決する方法が模索されて来た。
 その中の一つが、ガンダムファイトである。
 国家の代表選手が国の威信と主権を賭けて闘い、勝ち取る。
 闘いの手段は、先の戦争の象徴ともいえる連邦軍の機動兵器、ガンダムをモチーフにしたファイター専用の機体、モビルファイターが用いられる。
 闘って、闘って、闘い抜いて。
 勝ち残ったファイターには最強の称号が与えられるのだ。
 そのために、ガンダムファイター達は日夜常人からは想像もつかないほどの修練を己に科し、ずば抜けた格闘能力を有する。
 そんな人類最強に一番近いところにいる存在。
 その一人と目されるファイター、チボデーは周りのカメラマンや取材陣に自信たっぷりのコメントを振りまきながら、内心先ほどまでの飛行機の中の会話を思い出していた。
 会話の相手は、ネオアメリカ政府のとある大臣から依頼されて同道した、ボディガードである。

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