「君に続いて二人目のテストパイロットか。どんな人なんだろうね?」

 連邦軍の士官服に身を包み、滑走路脇の待機所でアムロはぼんやりと空を眺めていた。
 隣には、赤みがかった長い髪が特徴的な美女が立っている。年はアムロとさほど変わらないぐらい。軍服を着ているが、こちらは一般的なパイロットの格好だ。

「ハイスクールの学生だったそうですよ。私と違って、ニュータイプとしての素質は十分だとか」
「君は十分に優秀なパイロットだよクリス。ニュータイプかどうかは関係がない」

 淡々と言うアムロに、隣のパイロット……クリスチーナ・マッケンジーは複雑な笑みを浮かべる。
 シャイアンでテストパイロットをやっているクリスにしてみれば、一年戦争の英雄、連邦軍のニュータイプの象徴であるアムロにそういわれても、素直に喜べない。
 どうしても、自分の腕と比べてしまうのだ。

「それでも、今開発中のニュータイプ用ガンダムのテストには、素養のあるパイロットが必要です。私には、アレックスですら敏感すぎますから」

 開発コードネーム・アレックス。RX-78-NT-1と呼ばれるニュータイプ用にセンサー感度を限界まで高めたガンダムは、すでにロールアウトしてクリスが稼動試験を行っている。
 だが、サイコミュ搭載型の機体を開発しようとしたとき、問題が生じた。
 クリスの潜在能力では、サイコミュを起動することができなかったのだ。
 装置実験で立証されてしまった以上、サイコミュ搭載型ガンダムのテストは、ニュータイプの素養を持っているパイロットでないとできないのだ。

「ニュータイプでなければ使えないようなものをいくら作っても、実戦では使い物にならないよ。そんなことをするぐらいなら、モビルスーツとしての完成度を高めるほうがいい。ガンダムは、まだまだ発展させることが可能な機体だからね」

 そんなことを言いながら、アムロは太陽に手をかざす。
 すると、その光の中に小さな黒い点が見えてきた。

「シャトルが降りてきたようだ。もうすぐご対面だな」
「迎えに行きましょうか」

 待機所前に止めてあるジープにアムロとクリスが乗り込む。
 髪が風になぶられるのを心地よく感じながら、アムロは降りてくるシャトルを眺めていた。
 ほどなく着陸したシャトルの前にジープで乗りつける。
 タラップから降りてきたのは中年の男女とやや中性的な顔立ちの少年だった。

「ようこそ、フランクリン・ビダン大尉」
「出迎えありがとう。あぁ、君は?」
「私はこの基地でテストパイロットをやっております、クリスチーナ・マッケンジー中尉と申します。こちらが……」
「ああ彼はわかるよ。トップ・オブ・ニュータイプ、アムロ・レイ大尉ですな? 連邦軍の英雄と肩を並べられるとは、光栄のきわみですな。よろしくお願いいたします」

 中年の男性が1歩前に出て、クリスと挨拶を交わす。
 英雄、と呼ばれて微妙に眉をひそめる辺りは、まだアムロも大人になりきれてないということか。

「今回は家族で、ということになりまして。紹介してもよろしいですかな?」
「……ええ」
「妻と息子です。妻のヒルダと……おい、カミーユ」

 フランクリンに呼ばれて、後ろに控えていた少年が前に出てくる。
 アムロに向かって挑むような目を向ける。

「カミーユ・ビダンです」
「カミーユ君か。アムロ・レイです、よろしく」

 アムロが差し出した手を、カミーユが軽く握り返す。
 立ち止まらざるを得なかった。
 なりたくてなったわけではない、英雄。
 そんな懊悩を見て取った上で、それでもカミーユはアムロを見返した。
 燃え上がるような、強い瞳で。

 宇宙の動乱のほんの少し前。
 重力の井戸の底で、こんな出会いがあったことを、人々はまだ誰も知らずにいた。

( End of Appendix )