スーパーロボット大戦 exA

 

第14話 アブダクション

 クリムゾンのオーガスタ研究所の爆発事故から数ヶ月。
 珍しく、プロスペクターはネルガル本社の自席にてデスクワークに没頭していた。
 総務部の会計課に所属する彼は、なぜか、しゃれっ気のかけらもないスチールデスクに突っ伏して、感涙に(むせ)んでいた。

「……くぅぅぅっ。すばらしいっ、すべての仕事が完了して後は事務処理のみ。もう東奔西走しなくても、腹の探り合いをしなくてもいいっ。これほどすばらしいことがあるでしょうか……っっっ」

 ……よほどつらいことでもあったのだろうか。
 周りの会計課の社員たちは、彼の奇行に関しては慣れてしまっているので、いまさらこの程度のことでは動じたりしない。
 まぁ、戦艦に乗せるためのスタッフのスカウトなど、一般社員が行う仕事ではないのだからと、同情のまなざしも何割か混じってはいる。
 余談ではあるが、ナデシコの建造は社外秘である。だが、社内に携わっている部署がいくつもあるのだ。これを隠蔽するのは非常に難しい。
 まぁ、スキャパレリプロジェクトの内容まで知っている社員ともなればかなり特別な部類となるだろう。
 そんな極秘プロジェクトに関わっていて、久しぶりに来社した上司にと、女子社員がお茶を入れて持ってきた。
 プロスペクターが置いてある益子焼のマイ湯飲みからほのかな湯気が立ち上る。
 見ると、茶柱が立っている。

「今日はいいことがありそうですなぁ」

 このまま隠居してしまいそうな勢いでプロスペクターはほんわかとつぶやいた。
 と、そのときプロスペクターの目の前の電話がジリリリンと鳴り響いた。
 誰の趣味かはわからないが、このご時世にあるまじき黒電話である。
 湯飲みをゆっくりと目の前に置きながら、プロスペクターはがちゃりと重々しく受話器を取った。

「はいもしもし。はい、私ですが……はい、はい、はぁなるほど。では、予定を繰り上げて合流してください。ええ、そのまま張り付いて結構です。ではよろしく」

 プロスペクターがいるときにしか鳴らず、ダイヤル式のため内線発信の機能キーも存在しないので普段の業務には使えない電話。
 各々の机の上には一般業務用の多機能電話機が並んでいて、必要とされないため誰も気にしていない。
 もし、この電話の内容を誰かが聞いていたとしたら、平静を装って仕事などできないだろう。
 プロスペクターのもう一つの顔は、この古めかしい電話に隠されていた。

Next