それは、余りに長い刹那だった。
 無尽蔵ともいえるバッタの群れ。今のアキトはその理由を知っている。だからこそ、地球圏最強の一撃を待っていた。
 命のやり取りで引き伸ばされている時間は、刹那であり、永劫であった。
 だから、初めて聞く聞き覚えのある声が聞こえたとき、アキトの胸にこみ上げるものがあったのだ。

『お待たせしました、皆さん!』

 海中から姿を現した白亜の戦艦。
 アキトの記憶にあるものとは姿が異なる。ここにあるのは最初のタイプ(ナデシコA)のはずだが、見た目はむしろ後期型(ナデシコC)に近い。地球連合の戦艦の中で異彩を放ったナデシコの面影は見られないに等しい。

『ドックの防衛感謝します。これより主砲による攻撃を行います。データを転送しますのでこちらの指示に従ってください』

 オープン回線で全方位にユリカが指示を出す。間断なく、ナデシコの射線を示すデータが転送されてくる。

『こちらガンダムサンドロックのカトル・ラバーバ・ウィナーです。サセボの市街へのルートは僕とマグアナックでふさぎます。後始末、よろしくお願いします』

 サンドロックの指示でマグアナック12機が半包囲の陣形を3列横隊の重深陣に変え、バッタのドックから後ろへの侵入を完全に遮断する。撃墜することよりも陣地を守ることを優先させたのだ。見事な部隊制御である。

「やるな、あのカトルという少年」

 アキトのつぶやきにラミアが無言で首肯する。
 そのまま、我々はどうする? とラミアが視線で問いかける。
 刹那、アキトはいろんなもの、胸のうちでぐるぐると駆け回るものを一思いに飲み込んだ。

「……こちら、GGG嘱託のテンカワ・アキトとラミア・ラブレスだ。側面から援護する」
『テンカワさんとカトル君ですね。了解しました、ナデシコ艦長のミスマル・ユリカです。改めて、ありがとうございます!』

 そこに、ユリカの言葉に純粋な感謝の念しか感じられなかったことに、ほんの少しだけ、アキトの胸にじくりという痛みが走る。
 この痛みは、後悔という名の呪いだ。
 それも、自分が自分自身にかけた、性質(たち)の悪いものだ。
 願わくば、重力の奔流がそれをも洗い流してくれないものかと想い、アキトは苦く笑った。

『グラビティブラスト、発射態勢に移行!』
『了解、本艦はこれよりグラビティブラスト発射態勢への変形を開始します』

 ユリカの号令に従い、ルリがグラビティブラストの発射プログラムを起動する。
 すると、ナデシコの艦首部分が左右に割れ、艦体の中央部からグラビティブラストの発射口がせり出してくる。
 ディストーションブレードと発射口が重力子へのベクトル制御力場を展開すると、空間の歪みが見て取れるようになる。

『相転移エンジン出力臨界』
『発射準備完了。艦長、いつでもいいわよぉ!』

 ルリとミナトの報告にうなずき返すと、ユリカが右手を大きく振りかぶる。

『総員、対ショック姿勢! 目標、敵まとめてぜーんぶ! グラビティブラスト、発射ぁっ!!』

 それは、黒き奔流。
 全てを押し流す重力の帯が、バッタの群れを切り裂く。

 ネルガルが自信を持って売り出す最新鋭の機動戦艦。
 白衣の戦乙女の黒き槍は、有象無象の蟲の群れを完膚なきまでに叩きのめした。
 その圧倒的な威力に、居合わせた者は誰一人、声を上げることも出来なかった。

( See you next stage!! )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ、うそ、おい、ナデシコ飛んじゃってるよ! おおいっ、待ってくれったら待ってくれーっ!!」
『おとなしくしていたまえヤマダジロウ。戦闘が終われば合流できる』
「戦闘が終わっちまったらオレ様が活躍できないじゃないかーっ! あと、俺の名前はダイゴウジ・ガイ! 間違えんなポンポコダヌキ!!」
『……いくらなんでもポルコートとそれでは似ても似つかないと思うが……』


あとがき

 4月になりました。
 お久しぶりでございます。
 すっかりノリは季刊誌(笑)

 しかし、この文章、某メイドさん喫茶(夜はバー)で書いてる時点でオレってどうなのよ。
 いいのか?

 家で書けないんですよねぇ文章。
 なんででしょ。思い込みに近いものはあるんですけど。

 で、ようやく、ナデシコが飛びました。
 これでもう、ダンクーガともブルーノアとも言わせないぞっ(爆死)
 次回は、まだ宇宙には行きませんよ。もう1人、重要なパイロットを乗せなければなりません。
 火星に行くのはいつの日か。

 よろしければまた、次回もお付き合いくださいませ。


本日のNGワード

「メイドさんはいいなぁ」
「いきなりかっとばしてるなアクセル」
「まぁ、ハラスメントだと言われればそれまでだが、やはりそこは男の浪漫。綺麗で可愛くてけなげな女の子に尽くしてもらって萌えないはずがない!」
「そんなこと力説されても」
「アキト、お前だってルリっぺとかメグミちゃんとかユリカちゃんとかにそーいう格好でかしずかれて、萌えないか? 本っ当に萌えないか!?」
「……家事能力0の人にかしずかれても困るだけなんだがなぁ」

 どっとはらい。

 

 

代理人の感想
いや、十六話までで主役メカが飛ばなかった時点で

既にダンクーガは越えていると思うのですが(笑)。
考えてみてくださいよ、17話ですよ? 
勇者シリーズなら基本的な登場人物が出揃うどころか、二号ロボ登場の手前、
サポートメカのパワーアップイベントが起きちゃうですよ!?
(ほれ、ペガサスセイバーとかスーパービルドタイガーとか)

それはともかく一区切りには違いないので、次回から展開の更なるパワーアップと更新速度の上昇を期待したく思います。(笑)