地球の広範囲でこのバルバスの宣戦布告は、地球連邦の公用語に翻訳された音声として伝播する。地域によってはこれらの公用語が通じないところもあるが、この通信を受け取れるような地域にそんな場所はない。
だからといって、この宣戦布告でパニックに陥った場所があったかといえばさにあらず。良くも悪くも『戦争』、『異星人の侵略』に慣れてしまった人類は、この程度で動じたりしなかった。
「……ふん、まぁ、謀略だろうがなんだろうが、木星圏の会談があんな形でもの別れしたんだからねえ。こうなるのは当然の展開さね」
ところ変わってアフリカのセネガル。
ダカールの地球連邦議会本部の公館にて、初老の女性が応接室に似合わない大掛かりな通信設備の前で腕を組みながらつぶやいている。
小柄でありながら腰が曲がったりすることなくぴんしゃんとした、全身から覇気をみなぎらせる眼差しと、流すに任せた銀の白髪、あられもないローブ姿であるものの、とても寝入りばなをたたき起こされたようには見えない。
『巻き込まれた側としては溜まったものではありませんが』
「今更そんなことをお言いでないよ、幸太郎」
モニターに開かれた通信ウインドウの1枚には、衛星軌道上に遷移しているオービットベースにいるガッツィ・ジオイド・ガード長官、大河幸太郎のバストアップが映っている。
「解決は目指すさ。だが、降りかかる火の粉をおとなしくかぶるわけにも行かない。かぶるのはあたしらだけじゃない。こんなつまらない問題とは無縁の市民たちもだ」
そして、幸太郎に向かって大きく手を振りかぶり、この初老の女性が高らかに宣言する。
「連邦事務総長、ロゼ・アプロヴァールがここに宣言する。バーム星人の宣戦布告を受諾し、これより地球連邦は防衛のための行動を執り行う! ガッツィ・ジオイド・ガード長官、大河幸太郎には、連邦事務総長の全権を以ってこれに必要な独立行動を許可する。略式だが、この辞令はこの時間より有効とする」
『了解いたしました!』
「スキャパレリのために必要なプロセスだろ? プロジェクトには竜崎博士の息子も参加するって言うじゃないか。復讐に猛るよりは、まっとうな形で問題に向き合わせてやりたいもんさね」
『……感謝しますよ、ばーちゃん』
「なにをいうかこのひよっこめ」
初老の女性、ロゼ・アプロヴァール連邦事務総長が、これだけのことを即決できるのも、過去幾度も起こった異星人や地底人種の侵略行為や、人類同士の地球をつぶしかねない戦争のもたらした結果である。
専守防衛、平和主義、シビリアンコントロール。
当然これらは遵守されねばならない。だが、
議会政治とは名ばかりの君主制とも言われかねないこの現状が正しいかどうかは、後の歴史家が考えることであると、ロゼも幸太郎も割り切ってしまっているのだ。
『ガードダイモビックには私から連絡を入れておきます。あと、サセボ沖のナデシコに非常時特権で全力運行の許可を与えます』
「妥当なところだ。G計画の連中はあたしらの一存じゃ動かせないからね」
『ナデシコは我々の象徴とならねばならない
「……話してわかる連中の相手は連邦軍に任せてしまいたいんだがね」
『コロニーとの交渉も未だ難航しております。ビッグバリアに関しては話をつけましたが』
「そこまで進めば十分だ。コロニーにも話のわかる連中はいるはずさ。さぁ、ここからはあんたの腕の見せ所だよ、幸太郎」
ロゼはモニターの向こうの幸太郎に向かってニヤリと微笑みかけた。同種の笑みを幸太郎も浮かべている。
それは、覚悟の笑み。
『では、早速』
「ああ、任せた」
幸太郎が一礼して、モニターが沈黙する。
ロゼは窓の外の空を見据えている。
「死にたくない、生き残りたいってのは生き物の当然の本能さね。そのためだったら、あたしはなんだってやってやるさ。ビアン・ゾルダーク……あんたもそう思っていたんだろう?」
今ここに生きていない者の名前をつぶやきながら、ロゼは窓の外を見据えている。
ダカールの空は静かだった。
○ ○ ○ O O O ・ ・ ・ O O O ○ ○ ○
トウキョウの空は大いに荒れていた。
ガルンロールの巨躯は目視できるところまで接近している。
「ちくしょう、バームの奴らめ……! 好き勝手しやがって!!」
海の向こうのガルンロールをにらみつけながら、一人の青年がこぶしを握っている。
飾り気のない洗いざらしのジーンズにTシャツ、無造作に撫で付けられた茶色の髪の、美形というよりは男らしい顔立ちの青年だ。
「古人曰く……
その青年の隣にいる同年代の男は彼以上に奇抜な格好である。色の薄い茶髪はこれ以上ないアフロヘアー。カーキのロングコートの背中には日本刀、と街中にいたら絶対に逮捕されそうだ。
「ふっ、すまん京四郎。だがな、あいつらは父さんを殺しただけではなく、この地球も狙っているんだ。そんな奴らの横暴を許しておけるはずがない!」
「それはオレだって同じだぜ一矢。あんな奴らに俺たちの、宇宙へ行こうっていう俺たちの夢を邪魔されてたまるか」
アフロヘアーの青年……夕月京四郎ともう1人の青年……竜崎一矢は東京湾の入口である伊豆半島の先にあるガードダイモビックで、
もうすでにコロニーや火星のテラフォーミングが実施されている昨今ではあるが、外宇宙……太陽系外に進出するためのパイロットは一定以上の技量が要求される。
そのための訓練施設なのだが、周りを取り巻く情勢がそれだけを目指すことを許してくれなかった。
これは、極東にある超エネルギーやオーバーテクノロジーの研究施設全てにいえることなのだ。
『一矢君、京四郎君、聞こえるかね?』
通信機からの中年の男性の声に一矢と京四郎が振り向く。
そこには、車高が低く、コンパクトにまとまったスポーツカーがあった。1人乗りで、フロントガラスが曲面の1枚加工でそのまま跳ね上がる形式になっている。
「和泉博士!」
『一矢君、極東方面軍からの出撃要請が出た。バームの戦艦を水際で食い止めるぞ。一矢君はそのままトライパーで岸壁へ向かってくれ。京四郎君、ナナがガルバーで出た。もうすぐそこに着くので合流して……』
通信機の向こうの中年男性……和泉博士の声がエンジン音の轟音にかき消される。
かなり強引な減速で、周りお構い無しに1機の戦闘機が着陸してきた。ただ、草原で平らな土地であるとはいえ、滑走路無しにランディングを決める辺りはそれなり以上の腕前といっていいだろう。
「おーにーいちゃーん! 京四郎! 迎えに来たよーっ!!」
「「ナナ!」」
戦闘機のキャノピーが勢いよく開き、そこから顔を出したのはミドルティーンの少女だった。癖のある巻き毛を二つに束ねた元気印の美少女である。
その少女に向かって一矢が怒鳴りつける。
「お前、何て無茶をするんだ! 怪我をしたら和泉博士が泣くぞ!!」
「わん! こうでもしないと間に合わなかったんだからしょうがないでしょう!」
「古人曰く……
「そうはいうがなぁ」
「和泉博士も自分の孫を信頼してるってことだ。とにかく、ガルバーは俺が飛ばす。一矢、早く行け。ダイモスの初陣だ!」
和泉博士の孫娘こと、和泉ナナが飛ばしてきた戦闘機……ガルバーFXIIの搭乗ステップに足をかけながら、京四郎が一矢を促す。
一矢も気を取り直して一つうなずくと、先ほどのスポーツカー……トライパーに飛び乗った。イグニッションキーを押し込み、ホイールスピンと共にトライパーを走らせる。
それと同時にガルバーFXIIもエンジン音を急激に高め、再び大空へと飛び上がった。
「ぬはははは、どうした地球人ども。反撃も出来ぬとは情けない。戦闘ロボ・ズバンザーを発進させい! まずはこの島を制圧する!!」
反撃の手が止まったのを見て取り、バルバスが部下に命じると、ガルンロールのハッチが開き、一つ目の人型の上半身とキャタピラの下半身を持った戦闘ロボ・ズバンザーが次々と発進する。
海上に下りたズバンザーはそのまま海へと没するが、潮の流れをものともせずにそのまま海岸へと侵攻していく。
だが、水際でカメラアイを装備した頭部を伸ばしたズバンザーに、容赦ない勢いでミサイルとバルカンが斉射される。
「古人曰く……先手必勝、ってな」
キャノピー越しに着弾を確認した京四郎は迎撃のレーザーを横スライドでかわし、すれ違いざまにミサイルを再び叩き込む。
ガルンロールほどの耐久力はさすがにないらしく、ミサイル数発でズバンザーは爆発四散する。
「わん! 数が多すぎるよぉ〜」
「ぬ、ガルバーだけでは厳しいか。一矢、まだか!?」
そのとき、絶壁となっている岬の稜線を爆走するトライパーの背後から、超大型のトレーラーが走りこんできた。
『一矢君、トランザーの背後に回り、誘導レーザーの軸線を合わせるんだ!』
「了解!」
相対速度を調整し、一矢はトライパーを超大型トレーラー……トランザーの真後ろにつける。
トランザーの後尾ハッチが開き、そこから誘導レーザーが放たれる。
巧みなハンドルさばきで一矢はトライパーの車体をレーザーの軸線に合わせた。
そして、アクセルを全開にしたトライパーは、舗装されていない道のギャップを利用して一気に飛び上がる!
『ジャスティーン!』
一矢の叫びと共にレーザーに導かれるようにトランザーの内部に滑り込んだトライパーは、そのままの勢いで車体内を疾走すると程なく、車輪止めにがっちりと固定される。
殺しきれない慣性によって開いたキャノピーから一矢が座った座席が打ち出されると、ガイドレールに着地し、コクピットへと移動する。
岸壁から飛び出したトランザーはバーニアをふかし、その巨体を大空へと羽ばたかせる。
『ダイモス、バトルターン!!』
そう叫んだ一矢の上半身に姿勢制御伝達用のフレキシブルアームが取り付く。この操縦システムはモビルファイターと呼ばれるコロニー製の格闘戦に特化したモビルスーツの
違いとしては、本来、搭乗者の動きをダイレクトに機体に伝えるのならば全身の動きを感知できなければならないが、これは上半身のみとなっていることだ。
こういう操縦システムになっているのには、一矢の過去の事故に原因がある。
彼は一度、宇宙飛行士の訓練中に大事故を起こし重傷を負い、全身麻痺の後遺症に苦しんだことがある。このとき、リハビリに使用したシステムが、脳波制御装置の応用で開発されたのだ。
惑星開発用の大型機動メカの制御システムとして、最初は完全な脳波コントロールのみとしたのだが、機体が大きいため、逆に細かい制御が難しくなってしまった。このことから、上半身の制御のみ機械的な補助を加えることになる。
これらのシステムは現在のGGGの前身組織に所属していた獅子王博士や、コロニー国家連合でシャイニングガンダムを開発したミカムラ博士の協力で開発されているのだ。
余談ながら、このシステムを試験してみたところ、一矢の空手の型のトレースはむしろ脳波よりも『身体で覚えた型』の方が早かった、という結果が出ている。
閑話休題。
トランザーの上部カバーが開き、シャフトを収納した駆動輪をガードするように背中側へ回る。開いた上部から畳み込まれた両腕が引き出され展開する。
後部車体が伸びて2分して両足が展開されると、バーニアの噴射炎が一段と大きくなりその巨体が大空にそびえる。
「なっ、何だあれは!?」
ガルンロールの艦長席でバルバスが目を剥く。地球には様々な機動兵器があることは斥候からの知らせで把握していたが、この機体はデータにはないものだった。
「ええいしゃらくさい、撃てぃ、撃ち落とせぃ!!」
とはいうものの、ズバンザーのレーザーでは天空高くそびえる巨体まで届かない。
頭部のフェイスガードが開き、カメラアイに火が灯る。
『ぬぅん!』
白銀の白と灼熱の赤。
『たぁっ!!』
力強く振り上げられる右の脚。
握り締められた拳が、全てのものを撃ち払う。
その機体こそ。
『ダーイモォォォォスっ!!!』
火星がその名を冠する軍神マルス。その二人の息子のうちの1人。
闘将ダイモスが今そこに具現した。
『バームのバルバス! この闘将ダイモスが、お前たちの好きにはさせない!!』
ダイモスがガルンロールを指差し、一矢がそう宣言する。
「ふふふふふ、面白い。地球の機体がどれほどのものよ! 貴様を蹴散らし、この星を我らがバームの物としてくれようぞ!!」
バルバスがモニター越しにダイモスをねめつけ、かんらと笑ってのけた。
極東は、再び戦火へと包まれていくのであった。
( See you next stage!! )
今週のスパロボトリビア。
闘将ダイモスの下半身は、
ガードダイモビックの和泉博士が
必死に動かしている。
……だってそうじゃないと上半身しか動かさない一矢の動きにダイモスが追従する理屈が通らないじゃないですかー。
ということで、ダイターンに続いてのスーパーロボット参戦です。
舞台が火星ですからね。
んでもって、一矢の友人設定は捏造ですので信じないように(^_^;)
よろしければまた、次回もお付き合いくださいませ。
「子曰く、
「うわなんだこのアフロ」
「失敬だな、ヤマダから聞いてないのか?」
「おぉ、あんたがダイモス組のアフロか」
「微妙な表現をするんじゃない。シャドウミラーのアクセルだったか?」
「その通りなんだな、これが」
「不本意なんだがな、戦争行為で宇宙に行くってのは」
「そういいなさんな。オービットベースに来れば、面白い奴が待ってるんだな、これが」
「……あいつか?」
「もしかしたらもうちょっと再会は早くなるかもしれないけどな」
おちてない。
代理人の感想
愛国暴走長官登場!(笑)
あー、そう言えばキノコとフクベ提督は乗り込んで無かったよなー、と今更ながらに思い出しました。
しかもムネタケ大佐(大佐?)、なんかまともになっちゃって。何があったんでしょうか。
三輪長官が反面教師にでもなったんでしょうか(笑)。
しかしもっと謎なのはタカマチキョウヤと名乗る謎の兄ちゃん。
とらハの人かと思ったらニュータイプじみた予知を見せてくれました。
以前ちょろっと出てきた「レーツェル」と名乗る人物も原作どおりの正体では無いようですし(黒髪だ!)、
一体彼も何者なんでしょうねー?
追伸
ダイモス組のって・・・・他にアフロが誰かいるのかなw