『やらせないよぉ! プライムローズの月ぃっ!!』
眼下の岸壁からピンクの光条が一閃。ミサイルの群をなぎ払う。
加えて、
『迎撃します。シェルブールの雨!』
ガルンロールからのミサイルにも負けない数の地対空ミサイルが撃ちもらしを完全に撃破した。
『ほぉ、新手か』
1歩引いたダリのコクピットで、ハレックはその様を見て取っていた。
純白、というよりはほのかにパールピンクがかったボディにシャフトアームに取り付けられた大きなパラボラアンテナが目立つトレーラーと。
漆黒のボディに多弾頭ミサイルランチャーを積んだトレーラーが、ガルンロールのミサイルを撃滅してのけたのだ。
『ダイモスのパイロットさーん、聞こえますかぁ?』
唐突に一矢の元に入ってきた通信は、ナナとさほど変わらない年齢の女の子の声だった。
「こちらダイモスの竜崎一矢。君が助けてくれたのか?」
『そうでーす! えへへ、すごいでしょー!』
『ちょっと
『だーいじょーぶ! この光竜ちゃんにかかれば、どんな敵だってちょちょいのちょい!』
『……』
はしゃぐ少女……光竜の通信に割り込んできたのは、それよりもやや年上、ハイティーンぐらいの少女の声だった。
『申し遅れました、GGG所属ビークルロボ、開発コードGBR-9、
『はーい! 開発コードGBR-8、光竜だよー! ヨロシクね、一矢さん!』
ダイモスのコクピットの正面モニターに、漆黒の闇竜と白桃色の光竜の
「パイロットがいない……?」
『そーだよー。光竜ちゃんと闇竜ちゃんはちょーAIを積んだビークルロボなのだ!』
『細かいことはあとで説明します。今は目の前の敵を!』
闇竜の指摘で一矢は我に返った。
ミサイルは辛うじて叩き落したものの、ダリもガルンロールも健在だ。
だが、どうやって闘うか。
無様な格好から構えなおしはしたものの、一矢は手を出しあぐねていた。
「どうやって踏み込めばいいんだ……?」
『空を落とす奴に、遠慮もためらいも必要ない。撃ち落とせ』
躊躇する一矢の元に、また知らない青年の声で通信が割り込んだ。
次の瞬間、ガルンロールの側面部に白銀の矢が突き刺さり、爆発を起こした。
「何があった! どこから攻撃された!?」
「7時の方向より未確認の機動兵器が急速接近、この機体からの遠距離砲撃と思われます!!」
「ええい次から次へとわいて出てきおって!!」
怒号を上げるバルバスは、レーダー上の急速接近する光点から、モニターに映し出されたシルエットに目を移す。
白銀の翼を広げた戦乙女。
バーム星人のシルエットに近いそれを見て、バルバスはますますヒートアップしていった。
「我らの翼を舐めるのもいいかげんにしろ! 迎撃だ、あの機体を撃ち落とせ!!」
ガルンロールの対空砲火がいっせいに火を噴くが、戦乙女……アンジュルグのキョウヤは眉1つ動かさずにかわして間合いを詰める。
「10億の命だろうが1人の命だろうが、背負った重さに違いがあるものか。命の重さだけで戦争の趨勢は決まらない。僕だって、妹を見つけ出すまでは死ねないのだから」
翼が空気をはらみ羽ばたくように、またはAMBACで巧みな空間姿勢制御をするように、キョウヤの駆るアンジュルグはその身に一切の傷を受けることなく、ガルンロールのブリッジに肉薄しようとする。だが、
『行かせんよ!』
「邪魔だ」
『闘士ではなく兵士たる者よ。その姿潔し。だが、負けてやる道理もこちらにはない!』
「僕を止められなければ、その
いち早くその間合いに割り込んだハレックのダリがアンジュルグの飛翔を止めた。
近距離ではイリュージョンアローの射撃モーションに割り込まれるのを悟ると、シャドウランサーをばら撒きながらキョウヤはアンジュルグを回り込ませる。
ところが、ハレックはガルンロールの直衛をしながら深追いはしない。ガルンロールからAI搭載のダリが3体出撃するのが見えたからだ。
『艦体上にズバンザーも出したか。まだまだやる気だな、バルバス殿』
ハレックのつぶやきどおり、ガルンロールの艦体にはズバンザーが10数体張り付いている。固定砲座の変わりにしようというのだろう。
「個々の機体は連係が取れておらん。唯一の例外はあの白と黒の車だが、地上にいるのだからそう遠くまでは届かん。射程内に踏み込まずに無視しろ! 飛び回っている小鳥を分断し、火力で圧倒するのだ!!」
バルバスの命令もいよいよもって力がこもる。
後続のダリに押し出されてダイモスと合流できないアンジュルグを見て、ハレックも決断する。
『ここが決め所だな。勝負だ、ダイモス!』
ガルンロールの直衛から離れて、ハレックのダリがダイモスを目指して疾駆する。
その場で迎撃しようとするが、ダイモスにはズバンザーを蹴散らしたときの力強さがない。
迷いある受けと迷いなき拳。
どちらが勝つかは自明の理である。
『もらった!』
「うわああああああっ!?」
『一矢!』
『お兄ちゃん!?』
とっさの十字受けごとダイモスの巨体が吹っ飛ばされてしまった。
致命傷は免れているものの、両腕にはひびが入ってスパークが見える。
「くそぉ、このぐらいで……」
『だが、その腕ではもう拳は使えまい』
両腕がまともに使えない状態では、自慢の空手も大半を封じられたことになる。
刹那の迷いがこの状況を生んだのだ。だが、一矢は未だに答えが見つけられない。むしろ、ぎりぎりのテンションの中で闘いの意義や意味など考えるほうが無理だともいえる。
『その巨体に助けられたようだが、もう一撃しのげるか、ダイモス!?』
ダリがもう一度ダイモスの至近に踏み込もうとしたそのとき、
『くらえ、烈火刃!』
振りかぶったダリの腕に5本のビーム手裏剣が突き刺さり、その動きを止めた。
『なに!? また新手か!』
振り返ったダリのカメラアイは、ビーム製の棒手裏剣……烈火刃を投げ払った姿勢の、赤いマントを翻した機動兵器、ヴァイサーガを捉えていた。
『ボルフォッグ、行け!』
『了解!』
ヴァイサーガのアキトが声をかけると、左の小脇に抱えていたパトカーが掛け声とともに飛び出して、そのまま海上を走っていく。
『あー、ボルフォッグさんだー!』
『お届け物があります、ボルフォッグさん』
『光竜殿と闇竜殿ですか。感謝します』
海上を疾駆するビークルモードのボルフォッグが飛び上がるのと同時に、光竜と闇竜の車載スペースにくくりつけられていたバイクと小型のヘリコプターが飛び出してきた。
『ガンドーベル! ガングルー!』
ガンドーベルと呼ばれたバイクと、ガングルーと呼ばれたヘリコプターは空中で1回転すると同時に人型にシステムチェンジしてボルフォッグ目掛けて一気に飛ぶ。
『
ボルフォッグの車体から折りたたまれた形の脚部が展開する。ガンドーベルとガングルーはそれぞれ右腕と左腕に変形。右腕にはバイク形態の排気口が4つ集められたガトリング砲、4000マグナム。左腕にはヘリコプター形態のローター部が用いられた必殺剣、ムラサメソード。
両腕部が合体し、都合3機のGSライドが全力稼動を始める。
GGG諜報部所属の忍者ロボは、この瞬間、驚愕無比の忍者王と成った。
『ビッグ、ボルフォーッグ!!』
ビッグボルフォッグは合体した勢いそのままにガルンロールの上空へ飛び上がり、その全身を虹色に染めた。
『参ります。必殺! 大回転魔弾!!』
ビッグボルフォッグが全身にまとったミラー粒子を高速回転することで無数の粒子弾として打ち出す、ビッグボルフォッグの必殺技が、ガルンロールの船体上のズバンザーを襲う。
広範囲に、なおかつ最適の着弾点を計算して打ち出されたミラー粒子は、ズバンザーの装甲の隙間を狙い済まして切り刻んだ。
『いい目くらましだ。この隙に……たぁっ!』
AI制御のダリもビッグボルフォッグの計算を凌駕できず、流れ弾を食らって体勢を崩した。その隙間を縫うようにキョウヤのアンジュルグが飛ぶ。
次の瞬間、抜き払われたビームレイピア……ミラージュソードの切っ先は、全てのダリを完膚なきまでに切り伏せた。
『なっ、ガルンロールが!?』
『どこを見ているっ!!』
一瞬のうちの逆転劇に目を取られてしまったハレックのダリは、背後から迫ったヴァイサーガのショルダーアタックを食らい、間合いを開かされてしまう。
その隙に、アキトは一矢に通信を送った。
『ダイモスのパイロット! 今は迷うな。生き残ってする後悔は苦しいが、生き残らなければその苦しさも味わえないんだぞ』
まだアキトの中では、その『生き残ってする後悔』に対して完全な折り合いはついていない。だが、それだって生きていればこその話だ。
諦観とともに再び感じられるようになった、生きているという実感。
命に軽重の差は存在しないのも事実。ただ、自分の中には命の
だからこそ、命のやり取りをしている戦場で迷う一矢に、アキトはそう声をかけたのだ。
「わかった……今は、生き残る!」
頭を一つ振って、一矢は無理やり自分の中の迷いをねじ伏せた。
京四郎にも、アキトにも、キョウヤにも言われたことは100%の真実ではないにしろ、真実の一面がそこにはある。
ならば、まずはこの闘い、生き残らなければならない。
ダイモスが大きく両腕を水平に広げる。
「ダブルブリザードっ!」
『何ぃっ!?』
胸部装甲が開き、大型ファンが2機せり出してくる。
ダイモスのエネルギー源、ダイモライトが全力稼動すると、対象の運動エネルギーを奪い取る強烈な冷風……ダブルブリザードが放たれる。
その冷気を伴った暴風は、ハレックのダリを翻弄し、天空へとかち上げた。
「必殺! 烈風! ダイモキーックぅっ!!」
姿勢を崩してそのまま落下してくるダリの腹部に、必殺の跳び蹴りが炸裂する。自身の落下エネルギーも相まって、ダリのボディは真っ二つに蹴り裂かれた。
『ぬうっ、やるな竜崎。だが、お前の実力は見切ったぞ。次は、負けん!』
捨てゼリフを残してハレックはダリの頭部を切り離す。直後、2分されたボディは大爆発を起こした。
「ちいっ、ハレックもやられたか。だが、このロボットどものデータは取れた。ハレックを回収後、戦場を離脱する!」
命令を出すバルバスは、苦虫を噛み潰したような表情を隠しもしない。楽勝と侮っていた地球の兵器に、ここまでの被害を与えられたのだ。必勝を期した戦いだっただけに、その怒りではらわたが煮えくり返っている。
「地球人め、竜崎一矢め、次こそは血祭りに挙げてくれようぞ!」
吼えるような言葉を残し、ガルンロールは戦場を後にした。
「……お、終わった。生きてるよな、俺……」
大きくため息をついて、一矢は周りを見回した。
最小限に食い止めたとは言うものの、破壊の爪あとは海岸線を生々しく削り取っている。
ダイモス自身も両腕にかなりの損傷を受けている。
周りにいる様々な機体の力添えがなければ、海の藻屑となっていたのはほかならぬダイモスだ。
自分の手を握り、拳を作って一矢はつぶやいた。
「強くならなきゃ、生き残れないってことか」
だが、それは何のために?
一矢の疑問に答えてくれる人は、今ここには独りもいなかった。
遠くから、ナデシコの艦影がゆっくりと近づいてくる。
バーム星人との初戦は、痛み分けの形で終結した。
( See you next stage!! )
うわっ、ダイモス弱っ!
……まぁ、うちの話の中だとリヒテルの周りにバルバスとライザとマルガレーテだけじゃなくって、ハレックとあともう1人はくっつけちゃいますので、ノーマルのダイモスだけでは厳しいかもなぁ(^_^;)
と、謎のコメントから始めました。
ども、温泉帰りのとーるです。
本当は、この話にアペンディクスをつけるつもりだったんですけど、ちと難航しまして。
しゃーないので本編のみとしました。
Aには出てなかったハレックなんですが、2次αをプレイした人はどんなキャラだか知っていると思います。
出したかったんですよぉ(^_^;)
以下、テーマについてのネタバレなので反転。
バームの侵略行為って誤解と私利によって加速したもので、やっぱそこに『悪』があると思うのです。バーム全体が悪であるとは言いません。戦争を賛美するつもりはありませんが、戦争でしか解決できないものもあるってのは真実の一面だと思うのです。
……なので、現時点での蒼穹のファフナーは大人の悪意に子供が振り回されているのを見せ付けられてて正直気分が悪いのですが(苦笑)
あと、ピンポイントのように登場した光竜と闇竜ですが、一応萌え担当なのでレギュラーです(笑) まだ合体できませんけど。
ってなところで、次回は極東でのやり取り。そしてビッグバリア突破して火星へ……早く行きたいなぁ(^_^;)
よろしければまた、次回もお付き合いくださいませ。
「……うー」
「どうしたアクセル?」
「アキトがうらやましいんだなこれが。俺にも闘わせろー!」
「まぁ、まだお前はオービットベースだからなあ」
「なんか強そうなのがまた仲間に加わってるし、敵にもいるしー」
「とはいえ、ナデシコが大気圏突破しないと合流できないぞ?」
「くっそー、暇だからギガノスでもぶっ潰してくるか」
「1人じゃ無理だって」
「ガンダムファイターのところに行ってもいいんだが……」
「が?」
「角が2本あって目が2つあってもソウルゲインはガンダムじゃないから却下って言われた」
「……行ったのかよ本当に」
どっとはらい。
代理人の感想
「ちょー」AIとか言うなー(笑)。
まぁそれはどうでもいいんですが、やはりダイモスは単体では弱いです。
45mもありますけど、多分あらゆるスーパーロボットの中でも最低ランクに近いところにいます。
アニメでも、大して強敵でもないはずの雑魚メカ戦士に毎回苦戦してます。
例えて言うなら単体のダイモスはハイパーモードのないゴッドガンダムのようなもんでして。
これは決してパイロットの腕とか、作った竜崎・和泉両博士の技術力の問題ではなく、
いやまじで。
>ハレックと後一人
えー、やっぱり「彼」かなぁ(笑)。
というか、他に出すとしたらバーム大僧正とかバルバスの弟くらいしか思いつきませんけどw
でもバルバスとライザに加えてハレックと彼が揃ったら殆ど怖いもんなしのような気も(爆)。