憎かった。
親と共に在った妹が。
一人で生きてきた私。
だから、自分の生き方を自分で望んだ。
だから、自分の願いは自分でかなえた。
そのために、自分の思うままに行動した。
人はそれを「自由だ」と笑う。羨む。妬む。
けれど、あの人は……
あの人は、微笑む。妹と。
気づけば、私も微笑んでいた。妹と。
そして願った。
温かなまどろみと共にあったあの日々の「朝」が永遠であることを。
皆がこのような「時」を過ごすことを。
その願いは今も変わらない。
欠けてしまった今でも。
某所 格納庫
そこはたいした広さはなくとも、隣には戦艦1隻が余裕ではいるほどのドックも存在した。
その格納庫の中に2機の黒い機動兵器がわずかな人達に整備されている。
そのうちのひとつ、ブラックサレナKの前に一人の男がたたずみ、何をするでもなくその作業を眺めていた。
男はボサボサの髪、顔を半分覆い隠すバイザー、その下の強靭な肉体を隠す黒いマント。
そのような頭の天辺から指の先まで黒ずくめの格好であり、男の表情はまったく読み取れない。
ほかの者たちはその男を気にするでもなく作業に没頭していた。
と、そのときその格納庫にもう一人、黒ずくめの男が入ってくる。
もっともこちらは髪をしっかり纏めており、顔には黒い丸めがねと楽しそうにゆがんだ口元、
その下の身体を窺わすことのない多少くたびれた黒いYシャツ。こちらはまだ街中に居そうである。
先のブラックサレナKのパイロットとは正反対の雰囲気を持つ男、ブラックサレナPのパイロットである。
その男は大きな2つの荷物を台車にのせて持ってきた。鍋と釜である。
そして作業中の人たちの近くまで行くと鍋の蓋をとり、お玉で蓋を短く数回たたいた。
すると自分の仕事に区切りをつけた作業員から興味ありげに近づいてきた。
その間にそれを持ってきた男は2つの皿に釜から玄米を盛り、鍋からカレーのルーをかけ、
いまだにブラックサレナKの前にいる男に近づいて行き、一皿渡す。
「ガイの作った『カレー』だ。今回も結構うまいし、今食わんと食う時間無いかもしれんぞ」
そういってカレーを無事に食べ始める男を見て、安心して食べ始める作業員達。
だが受け取ったマントの男はそのカレーが真っ黒だったのを疑問に思い、口にしなかった。
以前ヤマダが作っていたカレーはシャーベット状の赤いものだったり、パン生地に包まれたゼリー状のものだったり、その色・形状は様々である。
今までは食べると美味かったとはいえ、今回のものは焦げている様にしか見えず、眉をひそめる。
その様子を見て黒シャツの男は聞いたことを伝えた。
「ガイが言うには『俺の熱き魂に黒く焼かれたが、焦げてるわけじゃねぇ』だそうだ。イカ墨の類は使っとらんかったぞ」
そういいながら表紙に会長宛と書かれてマル秘の判子の押された分厚い書類を渡す。
「そういう上層の思惑の詰まっているものは分からない。言いたいことがあるのなら要点だけいってくれ」
「ネルガルとクリムゾンと宇宙軍と統合軍と地球人と木星人、どの立場にとっての要点を言ってほしい?」
「それぞれの立場の、必要なことだけをまとめてから教えてくれ」
つれないねーという表情をしながら、黒シャツはカレーを食べながらしゃべり始める。
「宇宙軍はまだ平和ボケしてない。統合軍は事なかれ主義のくせにええカッコしぃー。まとめるとそんなもん」
まとめるにしてもあんまりである。
「……必要なことは?」
「宇宙軍はうちの垂れ込みで上がとっとと動いてどこかの部隊が動きそう。
統合軍は上層部の一部が急いで地上軍も含めて戦力まとめてる。宇宙ではほとんど2,3のコロニーと月に戦力を集中の方針。
ガイの休暇が潰れたのもこれだ」
「宇宙軍はどこの部隊がいつ動く?」
「書いてない」
相変わらずカレーを食いながら、相手をからかってしかいない、簡潔すぎる答えを返す相手に頭痛を感じながら再度聞きなおす黒マント。
「ネルガルやあんたらの見解で連合宇宙軍が動くのは?」
「もう動いてんじゃない?」
「はぁ?」
「この書類結構古いし。あぁ、後動くのはナデシコB。あれなら情報覗き見し放題だ」
ナデシコの単語に反応し、思わず詰め寄る黒マント。それを気にせず自分の口に手を持ってゆく黒シャツ。
その行動を黒マントはいぶかしんでいたが、その手の中に白い何かを見つける。
「今日から新しい事が始まる。恨みはとっとと晴らすべし。ラッキーカラーは赤。
困ったときは明日に進むとよい」
「……なんだ、それは」
「おみくじ肉団子…かな?あいつ、おとといおみくじクッキー食ってたし。お前のは?」
そういわれて皿の中の肉団子を先割れスプーンで崩し始める黒マント。
「探し人見つかる。明日はひょっとしたら雨、頭上注意。ラッキーカラーはお星様。
嫌なことがあったら人外にかまれたと思って俺の胸でむせび泣け…」
最後のほうは尻すぼみになりながら読み上げる。
それを聞いた黒シャツは右腕の親指をつきたて、よかったな!という顔をする。
「あー、あー、業務連絡、業務連絡。
現在『ナデシコB』がヒサゴプランネットワークにてターミナルコロニー『アマテラス』に到着。
様子を見て場合によってはこっちも動くから。
各員最終チェックよろしく。
出勤する人は動向が決まるまで飲み食いしないでねー」
その伝えている内容に対してあまりに軽い口調の放送を聴き、にわかに慌しさの増す格納庫。
そのとき、格納庫の端の入り口からピンク色の髪をした十代前半の少女が入ってくる。
その少女は2人の黒ずくめの足元にやってくるなり、ポツリポツリとしゃべる。
「おなか、へって、ねむくて、あつい」
「ラピス、エリナはどうしたんだ?一緒にいたんじゃないのか?」
「おもい、うるさい、はなしてくれない、あつい・・・べとべと」
「あいつここのところ働き詰めだったからなぁ、疲れてんだろ」
黒マントの質問に対する不機嫌な表情のラピスが発したばらばらの単語から、何があったのか大体分かった黒シャツ。
「………………」
ラピスが黒マントのマントをつかみながら黒シャツに無言の視線を送っている。
「今日はそいつに入れてもらえ。あいつは今、木星だ」
「………………………………」
「………わかった、いこう。じゃあお前はエリナを起こしてくるんだな」
「おい!ちょっと待て!! それはないんじゃないの!?」
かまわず歩いてゆく二人。しばしぼーぜんと見送る黒シャツと、作業のかたわら横目で見送る作業員達。
「そんなんだからロリコン疑惑が広まるんだぞ」
広めている本人はポツリとつぶやき、武器庫からリボルバーガンとゴム弾を失敬し、獲物のいるラピスが入ってきたほうへ歩いてゆく。
途中ダーツの矢が落ちているのを見つけ、それを的に静かに投げて格納庫を後にした。
黒の魔王と闇に染まりし騎士
第2話 『妖精』の発動
宇宙軍所属戦艦 ナデシコB
「最近ごぶたさじゃなぁい。『ツケ払えよ〜〜ゥ』」
この留守番映像サービスの利用者はナデシコB副艦長高杉三郎太。
戦う船、戦艦のブリッジの副長席のわりにそこは妙に平和だった。
「他の女といちゃいちゃしてたら、許さないんだから〜〜〜」
そして妙に爛れていた。
「モテモテですね、サブロウタさん」
「あ、見てたの?」
「見たくなくても見えるでしょう。
僕は木連の軍人さんは真面目で勇ましい方だとばかり・・・」
「あーぁ、それはどうもっ」
「高杉大尉!!」
憧れていた木連軍人に、実生活でのだらしなさを見せつけられ、怒りだすハーリー。いつも通りのことである。
「前方にターミナルコロニー『タキリ』を確認」
その知らせを聞いて今まで副官達の言い争いすら聞き流していたルリは、
今まで読んでいた童話的な表紙の本を艦長席の私物置き場に置き、ボソンジャンプの各種手続きをはじめる。
私物置場に置かれた本のタイトルは『ボウヤをおちょくる25の方法』……童話だろう……か?
「ディストーションフィールド最大!!」
「ルート確認。『タキリ』、『サヨリ』、『タギツ』を通って『アマテラス』へ!!」
先ほどまでと打って変わって真面目そうな、そして活気に満ちた雰囲気の漂うブリッジ。
オモイカネの開くさまざまな情報ウィンドウも楽しそうであり、最後には『よくできました』と出てくる。
「ジャンプ」
チューリップに入ってしばらく、ルリがつぶやくように言ったその言葉とともにジャンプするナデシコB。
『ようこそターミナルコロニー『アマテラス』へ』
すぐさまディスプレイに出てくる管制官のCG。
「これからが、大変だぁーねぇー」
「サブロウタさん!!」
すぐさま以前の雰囲気に戻るブリッジ。こちらが地なのだろう。
「航行システム、『アマテラス』へコネクト、車庫入れお願いします」
ナデシコBは誘導ポッドと統合軍所属のステルンクーゲル部隊に先導されコロニーに向かっていった。
ターミナルコロニー『アマテラス』 警備主任室
このコロニー、『アマテラス』の守備を任されていたアズマ准将はMP消費0の特殊能力「大声」を発揮しまくっていた。
「何だ貴様らは!!」
「地球連合宇宙軍少佐、ホシノルリです」
「同じく大尉、高杉三郎太」
「…同じく少尉、」
明らかに意味が分かっていた2人に続いて、一人名乗らないのは不味いかとハーリーがさらに続けようとする。
「そんなことを聞いているのではない!! 何で貴様らがそこにいる!!」
「宇宙軍が地球連合所属のコロニーに立ち入るのに問題はないはずですが?」
「ここはヒサゴプランの中枢だ!! 開発公団の許可は取ったのか!!?」
あくまで冷静に正論のみで論述するルリ。
一方のアズマは統合軍と宇宙軍という立場から、宇宙軍が動き回るのを嫌い、ただ熱くなってゆく。
このルリが表に出す宇宙軍の動く理由も本来ヒサゴプランや統合軍が影も形も無かった頃にできた法律だ。
法律であり、守るべきものとしてとしてきちんと成り立っているが故崩しにくい。
そこにアズマの感情を逆なでする一言(これも一応正論?)を、階級差を気にしない不遜な態度で三郎太が発する。
「取ったからいるんじゃん」
「何ぃ!!?」
「いぃいや、ただの横浜弁です、じゃんじゃん…………ハハッ」
三郎太の言葉を聞き咎めたアズマに言い訳にならない言い訳をするハーリー。
結果自爆的にアズマの気を引くことになる…が、
「先日の『シラヒメ』の事件において、ボソンの異常増大が確認されています。
ジャンプシステムの管理に問題がある場合、近辺の航路ならびにコロニー群に影響があります。
これはコロニー管理法の緊急査察条項が適用されますので。あしからず」
「まっ、ガス漏れ検査だと思っていてだければっ」
アズマの気がそれた瞬間に言いたいことを畳み掛けるように言うルリと、そこまで言うか的な発言を笑顔でする三郎太。
「ヒサゴプランに欠陥はない!!」
統合軍のかかわっている事業が、比喩とはいえガス漏れをしていると宇宙軍に言われ、さすがに切れるアズマ。
そこに割り込んでくる男が一人。今まで冷静の双方のやり取りを聞いていたヤマサキである。
ヒサゴプランの関係者であり、統合軍側の人物だ。
「まあまあ准将。世界の平和を守るのが、われらが宇宙軍のお仕事。
ここは使命感に燃える少佐に安心していただきましょう」
宇宙軍の行動を黙認するように勧めるヤマサキ。
一方で、もう言うことは言ったので、ヒサゴプランの広報用ポスターに描かれているヒサゴンをじっと見詰めるルリ。
目の前の暑苦しい人物から目を逸らす為もあるかもしれない。
「少佐達をご案内して下さい」
ドア付近に待機していた兵士達はヤマサキのその声に従い、ドアを開き、道を開ける。
それにおとなしく従いドアへ歩いてゆく無表情なルリと薄く笑っている三郎太、おろおろしているハーリー。
ルリはドアの付近でふと立ち止まり、口元にわずかながらニタリとした笑みを浮かべ、ボソッと声を出す。
「においますねぇ」
「ハーリーダメだぞ。こういうことは主人より先にペット犬であるお前が嗅ぎ当てなくちゃいけないんだぞ」
「何言ってんですか、高杉大尉!!」
「あっでも艦長も美しい声で歌うんですから、カナリアだと考えればやっぱいいのかな?艦長に倒れられても困るけど」
すでにゆっくり歩き出したルリについて行きながらさらに続ける三郎太。
その三郎太を呪えそうな勢いでにらみ、肩を怒らせ追いかけるハーリー。
アズマは自分が馬鹿にされたと思い爆発寸前だが、一方でヤマサキはルリの言葉に真意があるのかを静かに考えている。
その壁の広報用ポスターの裏あたりではディスプレイを見ながら、
「香水変えたほうがいいかしら」
と、匂いをかいでいる女性が居たとか居なかったとか……
ヒサゴプランの一般見学コースで宇宙軍の顔の一人であるがゆえ、あまり子供に悪印象を与えられないルリが
見学コースのガイド「私ゥマユミお姉さん」と「僕ヒサゴン!」を先導に、先の戦争の戦場が再現されている場所を通っている。
ルリとしては懐かしい場面があるも、子供達がうるさく感傷に浸るわけでもない。
自分の当時と比べてその子供達は明るくにぎやかであり、ルリのその表情は多少の嫌悪感にゆがんでいた。
もっとも司令室でちらりとその表情を見たアズマは、自分の(ヤマサキの)たくらみがうまくいったといたく機嫌をよくしていたが。
『アマテラス』ドック内 ナデシコBブリッジ
そこでは当初の予定通りナデシコBに搭載されているコンピューター、『オモイカネ』で
アマテラスを管理するコンピューターにハッキングを仕掛けていた。
オペレーターはハーリー。遊びたいお年頃である。
「領域11001までクリアー、…そろそろ行こ〜か。
データ検索、絹ごし。できたデータを順次僕に。
スピードはわんこの中級……」
「よっ!」
「うわぁぁぁあっ」
仕事は楽しみながらするほうが効率がよいとはいえ、自分の趣味丸出しのウィンドウ(ルリから椀を受け取る自分)は見られたくないし、
作業中のウィンドウから人の首がはえてきたら一種の怪談であり、誰でも叫ぶであろう。
ほかのブリッジクルーはもう慣れた事なのか、多少目を送りながらも各自の仕事を続けている。
「何驚いてんだ?お前」
「…ウィンドウボールの中に、無断で入らないでください…」
「良いじゃん、別に知らない仲じゃないんだからゥ」
「なっ、何言ってんですか、エッチー!!」
三郎太の発言からお年頃のハーリーは何を思ったか顔を真っ赤にし、ウィンドウを使って三郎太を威嚇する。
またしても起きた騒ぎに視線を送るブリッジクルー。当の三郎太は涼しい顔をしている。
「はー。でもいいんですかね」
「なんだよ、いろいろ忙しいやつだな」
「だって、………これってハッキングですよ、いくらあっちが協力してくれないとはいえ」
「しょーがねえさ、調査委員会も、統合軍も何か隠してるみたいだしな」
しかしハーリーは今も道化を演じているであろうルリのことを思いしおれる。
「でも…艦長がかわいそうじゃないですか…」
「なーにいきなりおセンチになってんだよ、この口がこの口が」
そういいながら突然ハーリーのほほを引っ張ったりし始める三郎太。
その顔がウィンドウに表示されさすがに作業の手を止め見入るクルー。
そしてハーリーの鼻に指が突っ込まれたところである者はあきれから完全に止まり、ある者は声を殺して笑い、ある者はその顔に魅入る。
やはりここは戦艦のブリッジらしくはない。
三郎太はしばらくそれを楽しんだ後、唐突に手を止めてまじめな顔になる。
「まっ、その艦長がせっかくまぬけを演じているんだ。その隙に掴めるものは掴んじまおうぜ!」
その言葉にハーリーはいまだに横に伸ばされたままの顔でうなずいた。
「以上!、超対称性やら難しい話をいたしました」
「わかったかな?」
『わかんないー』
ガイドの二人の言葉に、子供達の元気な声が響き渡る。
その返答に、当然ながら理解することを期待していなかったマユミお姉さんは最初から言えば良かった、用意されていた説明に移る。
「要するに、このチューリップを通ることによって非常〜に遠い距離、それこそ地球から火星まで一気に移動できるんです」
説明に合わせて手品で場を盛り上げるヒサゴンの着ぐるみ。
これだけで済む説明を、超対称性を絡めてどんな説明をしていたのかは、
「機動戦艦ナデシコ」TV版最終回でルリの語った大きな謎ぐらい謎である。
もっとも、子供達は手品で出てきた白いはとのほうが気になり、解りきっていた「要するに、」の説明など気にしてはいない。
「えー但しですねぇ、今の段階ではふつーの人は使えないんですね。生身の人間がこれを利用するとですね、その…体を、ですね…」
「改造しちゃうんですか?」
説明しにくそうなマユミお姉さんの言葉を、無知なゆえに誰かさんの好きそうな単語であっさり引き継ぐ子供。
「そっ、そこまで露骨なもんじゃなくて、その、DNAをですね、…え〜調整してですね、…」
DNAの操作に対する世間の見解、そして目の前にいるルリの事情を知っているため言葉を選び、詰りながらも説明しようとするマユミお姉さん。
子供達はその様子を見て、テレビで聞いた「反人道的」だのなんだの言いながらヒソヒソ話をしている。
「私のことは、気にしなくていいですよ」
その様子にルリが一言。周りの子供達も静かになる。
「今の段階では、生身の人間がボソンジャンプに耐えるにはDNAをいじらないと、だめなんです」
すまなそうに言うマユミお姉さんと、驚きの声を上げる子供達。
「少佐、改造人間?」
「ええ」
子供らしい残酷な台詞を言う少女。その少女の姉であろうか、とがめるようにその子の頭をどつく。
だがルリはそれに笑顔で答える。
「ああ、でもね、高出力のディストーションフィールドを使えば普通の人でもジャンプできますよ。戦艦とか」
その言葉を受けるように、今現在『アマテラス』守備隊増強のため、ジャンプアウトしてくる統合軍の戦艦があった。
そのジャンプアウトの情報すらすら掴んでいるハーリー。そして掴んだ情報を三郎太と一緒に見ている。
「あぁー、やっぱり。公式の設計図にはないブロックがありますね」
「お前のベッドの下と棚の裏側、あとテレビの後ろみたいなもんか? さぁっ、続けていってみよっ」
そう言いながらどこか楽しげに口元を緩ませる三郎太。
とりあえず洗面台の裏の写真の隠し場所を変えるべきか悩みながらも作業を続けるハーリー。
そしてさらに表示されてゆく情報。思わずハーリーは眉を顰める。
「ボソンジャンプの人体実験…?これ、みんな非公式ですよ」
その画面に踊る多種多様なパーソナルデータとそのすべてにつけられている『死亡』の文字。
さすがにこの情報には三郎太も驚きを隠せない。
「おい、こいつは…」
そのとき突然オモイカネからの『注意』の警告が表示される。
「ばれたか!?」
「モード解除、オモイカネ、データブロック! 進入プログラム、バイパスへ!」
すぐさま対策を取ろうとするハーリー、しかし進入は止められずにアマテラスから流れてきたデータがメインスクリーンに出る。
ハッキングがばれたにしては、相手の行動は不可解である。
「……こいつは…一体?」
ハッキングの証拠を集めるわけでもなく、ナデシコBのシステムをダウンさせるわけでもなく、ただウィンドウを開いたのみ。
何かが起きている。それしかわからない三郎太は、今はつぶやくしかできない。
『OTIKA』と表示されているだけのウィンドウを見ながら。
『ようこそ、『アマテラス』へ』
『ようこそ、『アマテラス』へ』
『ようこそ、『アマテラス』へ』
そのころアマテラス内部はナデシコよりもひどい状況であった。
何しろ今現在はウィンドウ通信のシステムだけとはいえ、完全に使用不能であるし、
またその他のシステムも部分的にデータが書き換えられている。
当初の作りこまれた管制官のCGは「O・T・I・K・A」の5文字に書き換えられ、
アマテラス内部を我が物顔で闊歩する「OTIKA」のウィンドウ。
アナウンスで危険はないと伝えようとも、異常は終わらず一度おきた混乱は静まることはなかった。
「何だこれは!! 早く何とかしろ!! 大至急だ、そう!! こんな所襲われたらどうする!!」
結果、ぶち切れるアズマ准将。現場の人間を怒鳴りつけても事態が落ち着くわけないが。
「ハーリー君、お仕置きです」
罪状認否どころか起訴もせずに死刑判決を言い渡すルリ。その目はいたって真面目である。
後ろでは何かのアトラクションと勘違いした子供達がウィンドウ相手にはしゃいでいる。
「静かにせんか、落ち着けオラァッ!!……さー並んでくださいねゥ」
子供達に対しアズマとは違った大声で子供達を一喝するマユミお姉さん。
ウィンドウの中に混じり始めている「OTIKA」以外の文字に、まだ誰も気がついていない。
「ぼっ!?、僕じゃないです!! アマテラスのコンピューター同士の喧嘩です!!」
「ケンカ?」
「そうなんです!! そうなんですよぉ!」
死刑判決の直後の動揺があるとはいえ、あいも変わらず言う事成す事言い訳がましくなってしまうハーリー。
「アマテラスには非公式なシステムが存在します。
今の騒ぎは、まるでそいつが自分の存在をみんなに教えているというか、単にクスクス笑っているというか…」
そして遂にルリの目に留まる「AKITO」のウィンドウ。驚きで目を見開くルリ。数瞬の思慮の後に走り出す。
「あぁ、艦長!?どこに行くんですか?かんちょーちょっと待ってください、かんちょぉー!
艦長、ちょっと待ってください! どこ行くんですか?」
アマテラス内部を走るルリに、必死に質問するハーリー。
「ナデシコに戻ります」
「へ?」
ルリのせっかくの返答に、いまいち状況が理解できないハーリー。
「敵が来ますよ!」
「ええ!?」
どこまで行ってもハーリーなハーリー。
いまだに「OTIKA」のウィンドウが残る司令室でルリの考えを肯定する声が響く。
「ボース粒子の増大反応!!」
ウィンドウに示されるジャンプアウトの情報。ジャンプアウトの地点は第一次ライン。
哨戒のためにステルンクーゲル部隊が近づいて行く。
「全長約10m、幅約15m!」
「識別不能、相手応答ありません!」
ジャンプアウトしてくる高機動ユニットをつけたブラックサレナP。パイロットの顔には笑みが張り付いている。
ブラックサレナのその姿は黒い戦闘機の様でもあり、死を司る黒い鳥のようにも見えた。
「さあ、派手に暴れてみようか」
「すいません! すいませーん!!」
口では謝りながらも、「安全運転?…なにそれ?」な状態で一般用通路(通常時車両通行禁止)を爆走するガイド車。
「スミマセン、わざわざ」
目を煌めかせているマユミお姉さんに、とりあえず礼を言うルリ。子供達はジェットコースター気分で楽しそうだ。
(予感は的中、敵が来た)
ハーリーを経由して知った敵の襲来に、考えをめぐらすルリ。
「OTIKA」
(あれは暗号?)
ただ逆から読むだけであの人の名前になる。
「AKITO」
(あれは偶然?)
「OTIKA」のウィンドウに混ざり、徐々に増え始めている「AKITO」のウィンドウ。
(でも、あの人は……)
ある日来なくなったメールと、木星圏にあるコロニー衛星の事故の知らせ。
出られなかった「あの人」の葬式。
(あの人たちは……)
月に向かうシャトルの事故。彼女の周り、10人近くは遺体、遺留品すら見つからなかった。
多くの参列者が来た彼女の葬儀で遺影を持った私。
ふと思い出されるテンカワアキトの表情。
最後に会ったとき、別れのときに、彼は言ってくれた。
「どうするか決まった?一緒に、来るか?」
ふと脳裏に蘇った過去の思い出に思わず目を見開くルリ。
「いくぜ、ガイ」
「来いやっ、アキトォ!!」
そう言って砂浜でビーチボール2つを構える二人。
彼に呼ばれたような気は…しなかった。
あとがき
第1話で7人な六連(?)、性格正反対・正体ばればれの黒ずくめ×2、微妙な砕け(壊れにあらず?)具合のルリ。せりふの装飾が大変なアズマ。
タイトル以降はまだ間違い探しの域を出ない 黒の魔王と闇に染まりし騎士 第2話『妖精』の発動 お読みいただきありがとうございます。
引越し前後のごたごたで、まとめていた貴重品をまとめて行方不明にしてしまい、久しぶりに半泣きした。倒立紳士です。
「前回に続き美月です。ヤマダ君、生きてるみたいですね」
うん、生きてるよ。しかも統合軍に所属しながら、ネルガルとも繋がってる。
リョーコちゃんとは立場が違うんだよ。最も登場は後半の予定。
「立場といえば、黒ずくめ二人も立場違うようだね。黒マントは黒シャツを『あんたら』呼ばわりしてるし。
正体ばればれなのに名前を明記しないの分かり辛いね」
それについて深い意味はないんだけどね。第3話にも予定されている変なルリのラストと一緒。
「戦争後アキトは木星に渡ってその上、ルリとは日常的なメールのやり取り。ユリカは置いてけぼり?」
うん、ここのアキトは大戦時あらゆる意味でユリカに興味なし。戦争の頃の話も暇があったら書きたいな〜。イツキちゃんとのラ〜ブラブゥ!?
「ルリちゃんは当初の予定では一切壊れない予定だったのにと嘆いてたけど、このまま壊れていくの?」
ルリ「だとしたら、ゆるせませんね」
ば、馬鹿な!?なぜキミが此処に?しかもその手に持っているのは劇場版ポスターのみ登場のゴッツイ銃!?
ルリ「そんなことはどうでもいいんです。このまま壊すつもりですか?
大体、先の大戦中は「多少闇を背負っていようとも仲間付き合いのいいシリアス」だったアキトさんが、なぜ…あんな…あんな……」
ま、まぁまて、君が壊れルリになることはまず無いから安心してくれ!!むしろ最後はシリアスになる!!予定だ。
だから引き金にかけた指に力をこめるな!?今その手を下ろせばもれなくキミとアキトのキスシーンが最終話の中に入る…予定だ。
ルリ「え?……そ、そういう事なら……」(ゥルリ退場)
「いいの?そんな事言っても?」
まあ大丈夫だろう。当初からその予定だったし。ここのアキト君の貞操観念、「手当りしだい」ほど酷くないけどアレだし。
「籍入れてるのに、奥さん公認の隠し子(?)居たりするもんね。名前はキララ、約1歳。
奥さんは奥さんでその子の子育て手伝ったり(クスリ)」
まっ、みんなおおらかなんだろ。
「(そういう問題か?)」
さて、第1話みたくあとがきが長くならぬうちに、次回予告!!
とうとうルリの前に現れたブラックサレナ。
さらにボソンジャンプで現れる白亜の戦艦。
2機の機動兵器と戦艦に翻弄される守備隊。
警備主任室裏にいた女性とは?
その女性がマジビビリモードになり警戒する兵器とは?
シンジョウは個性的な上官の前で自分のせりふを守れるのか?
オリジナル兵器と作者は名前しか知らないカイト(名前を借りるだけとも言う)も含めた新キャラも登場し、進む物語。
次回、黒の魔王と闇に染まりし騎士 第3話 『黒騎士』の咆哮
眠り姫を前にして黒騎士の怨嗟の声が響き渡る。
「判定!!……いまいち」
げふっ……追伸。
次回以降、様々な場所で「時の流れに」のキャラの影・実体が出てくると思います。
ピュアテキストで20kぐらい書いてるので、3月中には続きを、以降月1で送りたいな…
全10話以下を予定。
追伸の追伸。
ツールとメモ帳織り交ぜタグ打ちしてるので多少かたよりがあります。
自分のブラウザでは表示を確認していますが、
おかしな点に気がついた方はご連絡いただけるとうれしいです。
感想も含め連絡先は touritu@hotmail.com へ。
代理人の感想
・・・・なるほど、「きちくおう」なひとなんですね、この話のアキトは(爆)
後、蜥蜴戦争時のナデシコの雰囲気がいまいち掴めないので
回想シーンとか入れて頂けると嬉しいかなと。