第21話 「ナデシコと
×シャクヤクの
×長い1日」
あれから数日後、医務室
「呆れた」
ルリとメティの検査結果を見たイネスは開口一番がそれだった。
「普通は全治二ヶ月のケガよ?
なんで1週間足らずで完璧に治っちゃってるの?」
手に持っていたペンの先をこめかみにあてて呟く。
「では、もう鍛練を再開して良いんですね?」
イネスの前のイスに腰掛けていたルリが問う。
「ええ、止める理由が無くなってしまったわ。
でもこれからも気をつけるのよ」
無駄だと思いつつも、イネスは忠告する。
「はい、善処します」
「解りました」
そう言って、席を立ち、
「「ありがとうございました」」
二人揃って挨拶し、医務室を出る。
プシュ!!
「やっとこれでまともな鍛練が出来ます」
「そうだね、流石にファミリアの訓練ばかりじゃ飽きちゃったよ」
医務室を出た後、身体を伸ばしてそう漏らす二人。
因みに今も小型ファミリアが二人の回りを浮いている。
「それにしても、貴方のファミリアの操作のレベルは凄いですね。
私も数を増やしていますが、貴方に追いつきませんでしたし、
それに精度にしたって、もう自分の手足でしょう?」
現在、ルリの操作しているファミリアの数は8機、
メティは20機だ。
・・・ちょっと邪魔だったりするが。
そして、メティのファミリアの制御は、身体を洗うのに使ったり、
着替えるのに使えたり、果ては格闘ゲームを、ファミリア数機で、コントローラーのボタンを
押せる様にすれば、一人で対戦が出来る・・・まあ意味は無いが。
「そうだね、でも、私これくらいしか取り柄ないし」
ちょっと照れながら答えるメティ。
「それは謙遜です」
あれだけ戦えれば十分だ、と思うルリ。
「そういえばさ、こうやって常に回りにビットを浮かせてると、
どこぞの魔導師や仙女さんみたいだよね」
自分たちの姿に何かを重ねたメティ。
「はあ?」
解っていないルリ。
まあ、記憶が繋がっていても、連想までは無理である。
しかし、どれもイメージが・・・
成長しても薄いだろうし、精々某忠犬ポチ付の水の魔導師あたりが妥当だろうか。
(個人的にはそっちの方がいい)↑
「・・・なんか言ってますね」
「やっちゃうよ?」
ドガ!! バキ!! ズゴ!! ベキ!!
ヒュゥゥゥン・・・バシュゥゥゥン!!
「さて、じゃあアキトさんとカイトもトレーニングルームにいるみたいだし、
私達も行きましょうか?」
「そうだね」
ゴミを片付けた私達はトレーニングルームに向かう。
その途中、私達は両手に花のジュンさんに遭遇した。
「やあルリちゃん、メティちゃん」
先日の戦闘で負傷した右腕を吊っているので、左手を上げる。
「こんにちは」
「こんにちは、ジュンさん。
ユキナさんと香織さんも」
私はジュンさんの両脇に控えている、ユキナさんと香織さんにも挨拶をする。
「こんにちは」
「あ、あの、こんにちは」
普通通りのユキナさんと、
オドオドしている香織さん。
「二人はもういいの?」
怪我のことを聞いているのだろう、ジュンさん。
「ええ、今しがた完治した事を確認しました。
ジュンさんはこれから医務室ですか?」
「ああ、僕の方が軽傷なのに治りが遅くって・・・」
落ちこむジュンさん。
「比較対象が悪いんですよ」
「そうそう、私達が異常なんだから、気にしないほうがいいよ。
ジュンさんも早い方だって」
「そうだけどね・・・」
溜息をつくジュンさん。
「さっきから何を話してるんだろう?」
「私に聞かれても・・・」
会話に付いて来れない二人が後ろでこそこ話している。
因みに私達の事、カイトも含めて、ブローディアのパイロットであったりする事は、
二人に話していない。
特に話す必要は無いからだ。
「ところで、二人ともナデシコには慣れましたか?」
私はジュンさんの後ろで話している二人に話しかける。
「え?・・・ええ、まあ。
ところで、前にも聞いたけど、何で私達こんなに自由に歩きまわれるの?」
と、かなり現状が不思議そうなユキナさん。
それはそうだろう。
これから和平を結ぼうとしていると言っても、敵の捕虜に、普通の相部屋をあてがい、
何の規制も無しに艦内を歩けるのだ。
ブリッジだろうが、格納庫だろうが、自由に歩きまわれる。
まあ、流石にブローディアシリーズ特殊呼び出しゲートには近づかないで貰ってるけど。
「では、荒縄で緊縛された上に猿轡を噛まされ、
湿っぽい石牢に投げ込まれた方がいいですか?」
それで牢番を飢えた整備員達にしておけば完璧でしょうか?
多分、ウリバタケさんに頼めば喜んで全て瞬時に揃えてくれるでしょう。
「いや、別に不満があるわけじゃないんだけど・・・」
何やら汗を垂らしながら答えるユキナさん。
香織さんなんかユキナさんの服の裾を掴んで震えていますね。
「まあ、私達はそれなりに人を見る眼に自信があるし。
それに、誤解のある地球側の和平の考えを理解してもらうと言うのがあるから。
それ以上に、ここの人達がお人好しっていうのもあるけどね」
そう説明するメティ。
ま、実際、本当に和平云々が無くても自由に歩きまわれる思いますけど。
因みに、この、和平の考えを説明するのは苦労しました。
なにせ、木連側の一部は、そう、大昔の大日本帝國がほどこした、
『鬼畜米英』並の偏見教育をしていたようなので、
前話ラストの後、格納庫の隅で香織さんを庇うように虚勢を張って抵抗するユキナさんと、
そのユキナさんに付いて、震えて半泣きの香織さんを説得するのは本当に大変でした。
ヤマダさんやゴートさんなどの奇人変人を排除し、
ミナトさんとジュンさん、シキさん、ホウメイさん、ナデシコの良識を前面にして説得し、
まあ、最後はアキトさんホウメイさんの全力の料理、餌で釣りましたが・・・
因みに、アキトさんは例の現象(アキトスマイルによる)を避ける為、
ずっと厨房にいてもらいました。
いたら、一発で終りそうな、怖いものがありましたし・・・
「まあ、確かに貴方達がいい人達で、和平の考えとかも理解したけど・・・
一応、ジュン君ってこの艦の副官だよね?
右腕ケガしてるし、それで私達がジュン君を人質に取るとか考えないの?」
おや、もうジュン君ですか?
もう尻に敷かれる準備が整ってますね。
「え?!ユキナちゃん、ジュンさんを人質に取るの?」
「例えばよ、例えば」
例え話しを真に受けて驚く香織さん。
因みに、この香織さんとユキナさんは非常に仲がいいようだ。
正反対の性格の様だけど。
まあ、それでって言うのもあるかもしれませんが。
「まあ、貴方達が自分達を庇ってケガをした人を人質に取るような人だというなら」
私はさきほどの質問に答える。
実際は、元の世界と違い、偏見教育をされていたからちょっと心配しましたが。
「それに、僕も、そう簡単には人質にはならないよ」
と、ジュンさんも笑顔で答える。
「一応私、ドベの香織はともかくとして、運動神経もいいつもりだし、
訓練も受けているから、隻腕のジュン君くらいなら勝てると思うけど?」
ジュンさんの答えに反論するユキナさん。
確かに、ユキナさんの運動神経はいい方でしょうが、それでも・・・
「ま、そうだね、気をつけよう。
あ、そろそろイネスさんに呼ばれてる時間だからいくね」
「はい、気を付けてくださいね」
「そうだね、最近真面目に治療をしてるから溜まってるかも」
医務室に向かおうとするジュンさんに忠告をしておく。
「ああ、そうか、そうだね。
じゃ」
苦笑して立ち去るジュンさん。
「あ、失礼します」
「またね。
ところで、なんで医務室行くのに気をつけないといけないんだろう?」
「解らない・・・」
ジュンさんに着いていく二人。
まあ、貴方達も慣れますよ、ユキナさんはすぐに・・・
トレーニングルーム
蒼き輝きを纏い、部屋の中央に佇むテンカワ アキト。
その両手には黒鍵が握られ、頭には、白い布で目隠しがされている。
更に、耳には耳栓らしき物もはめられている。
つまりは、視覚と聴覚が無い状態での鍛練をしているようだ。
その相手は、
スゥ
突如としてアキトの後方に現れたカイト。
カイトは、アキト同様に両手に黒鍵を持っている。
その右手に持った黒鍵を横に薙ぐ。
それをアキトは身を翻し、紙一重でかわしてカイトの方向を向き、
身を返す勢いに乗せ、左手の黒鍵をカイトに向かって突く。
それを引いてかわしたカイトは再度その姿を消す。
かれこれ、こんな攻防を2時間くらいは続けている。
アキトにとっては視覚と聴覚がないから、気配と風の流れを追うしかない。
だが、カイトはほぼ完全に気配を消し、風もまた最小限の動きで押さえている。
アキトといえども攻撃の一瞬しか捕らえられない。
また、動いた。
カイトは今度はアキトの右側面から現れ、右手の黒鍵でアキトの首を狙う。
だが、今度はアキトの反応が早かった。
黒鍵を身体を捻って避けると、その勢いを使い、裏拳の様に、
黒鍵で切りつける。
「く!!」
カイトはそれを左手の黒鍵で防ぐ。
だが、アキトに一撃はただの横薙ぎではなく、切り上げだった。
防御に回ってしまったカイトは、それを受け流せず、
少し、身体が浮いた状態で飛ばされる。
いくらカイトでも空中に押し上げられては自由が利かない。
そこに、アキトが両方の黒鍵を構え、全力で切りつける。
その時!!
アキトに纏っていた蒼の輝きの背中の部分が弾ける様に、
まるで翼が広がるかの様に放出される。
それにより加速したアキトはカイトに切りかかる。
だが、
ピキィ・・パキィィィィ!!
カイトが防御する為に前方に構えた黒鍵と衝突する直前にアキトの黒鍵が突然砕けてしまう。
それと同時に、
ピキィ・・パキィィィィ!!
カイトの黒鍵も、恐らくはアキトの黒鍵の剣圧で砕け散る。
一瞬、ほんの一瞬だけ呆気に取られて動きを止めたアキトだが、
その勢いのまま、カイトを組み伏せる。
カイトは完全に反応が遅れ、アキトに完全に動きを封じられる。
そこで勝負は着いた。
「はぁ・・・だめか・・・」
降参したカイトは、このハンデでも勝てなかった事を悔やむ。
「そう落ちこむなって」
アキトはカイトを励ましながら目隠しと耳栓を外す。
「それにしても、何で振りかぶっただけで黒鍵が砕けるんだ?」
先ほどの現象を思い返して、自分の持っている黒鍵の柄を見るカイト。
「まったくです」
と、その二人の会話に、突然他者が入りこんでくる。
「黒鍵は量産の物だけど、そう簡単に折れたりはしないんだよ。
ましてや、砕け散るなんて・・・」
会話に入って来たのはルリとメティだ。
「やあ、ルリ、メティ、気配を消すのが上手くなったな」
今まで気付かなかったアキト達だが、
それほど驚く事無く二人に挨拶する。
「それに、さっきの羽根みたいのは何ですか?
あれで加速もしてたみたいですけど」
「ああ、自分でも良く解ないんだ。
背中に昂気の翼みたいなのが展開する事があるんだ。
それも全力で攻撃しようとすると発現するらしい」
先ほどの昂気の現象は初めてではないらしい。
「取り合えず、アレが発現すると、その翼みたいなので加速できて、
攻撃力も飛躍的に上がるのは解った」
受けていたカイトが経験を語る様に説明する。
「ああ、でもアレが出る様になってからどうも疲れ易い様な気がする」
確かに、普段ならこの程度の運動は準備運動でしかないはずのアキトが、
少しばかり汗を掻いている。
「そりゃあ、昂気を大量に放出してれば疲れるでしょう」
「ま、そうだけどな」
「ところで、私達、今しが鍛練の再開許可を貰ったんですが」
「よし、じゃあやるか?」
「ええ。
でも今日は少し傾向を変えてみませんか?」
そう言ってルリは止めていたファミリアを展開する。
「なるほど、機動戦を模しての戦いか・・・
なんか普通は逆なような気がするけど、それも面白そうだな」
そう言って、アキトとカイトもファミリアを浮かべる。
「じゃあ、俺達は全員黒鍵で、メティは盾所持で行こう」
「わかりました」
「いいぞ」
「うん」
4人は一旦飛び退き距離を取り、構える。
合図は無い、もう戦いは始まっている。
数時間後
プシュ!!
トレーニングルームから出てくる4人
「はぁ〜流石に1周間近く動いてないと鈍りますね」
「いや、ちゃんと集中力とかの方が上がってるから問題無いんじゃないか?」
「久し振りに疲れた〜」
「そうだな、部屋に戻るか」
所々に切りキズやらファミリアの物だろう火傷の跡が見える4人。
だが、その顔はさわやかな物だ。
4人は揃って自室に向かう。
この4人だとアキトとカイト、ルリとメティが同室で、しかも隣同士なので部屋まで一緒に歩く。
「お、もうこんな時間か」
部屋の前に着いたとき、
ふと時計を見たアキトが呟く。
現在時間は標準時間で午後4時だ。
「マズイな、早く厨房に戻らないと」
「そうみたいだな、じゃあちょっと急ぐか」
部屋のドアを開けるカイト。
「あ、そうだ、アキトさん、私今日は夜勤ですから」
部屋に入る直前、ルリは自分のシフトを思い出して、
アキトに伝える。
夜勤の時の夜食を作ってもらう為だ。
「ああ、解った。
じゃあ、また後でな」
「はい」
「私は普通に夕飯食べに行くからね」
「ああ」
そう会話をした後、アキトとカイトは部屋に入り、傷の手当てをし汗を流す。
大体これで30分を消費し、4時半に厨房に入った。
そして、いつも通りの夕食時のピークにアキトは厨房で料理を作り、
23時ごろにルリに夜食のラーメンとおにぎりを届ける。
厨房の片付けをして、だいたい24時半、
舞歌の定期連絡及び『本日の北ちゃん情報』を聞き終えたアキトは、
あの翼の発現で疲れていたので、ちょっと早いが床つく。
勿論カイトと共に。
『本日の北ちゃん情報』とはその日の北斗、枝織の行動を、
舞歌の見解を踏まえて、一方的におくっていると言うものだ。
因みに、本日の北ちゃんは、
1日中『アキトの所にはまだ着かないのか!!』と叫んでいたそうだ。
舞歌曰く『愛しのアキト君に会えなくていらいらしてるのよ』とのことだ。
更にはそのとばっちりで『また』サブロウタがのされていたのは言うでもない。
その頃、ルリは、オペレーターの席に座り、ウィンドウボールの中にいた。
ウィンドウに映っているのは、各フロアの映像。
北辰襲撃以来、オモイカネだけでは見つけられない侵入者を見つける為に、
ルリ、カイト、アキト、メティの4人は毎晩交代で、こうやって見張っているのだ。
因みにルリは通常の夜勤の勤務をこなしながら、
アキト特製の炊きこみご飯のおにぎりと緑茶を飲みながら作業だったりする。
次ぎの日の早朝 アキトサイド
ピィ ピィ!!
甲高い音と共に寝ている俺の前にウィンドウが出現する。
ピッ!!
『おはようございます、アキトさん』
ブリッジにいるルリからだ。
俺は同じ様に起きた、いつも通り俺の上で寝ていたカイトにちょっと体位を変えてもらい、
カイトを抱く形でカイトと一緒に上半身を起こす。
「敵襲か?」
俺は時間を見る、6時ちょっと前だった。
じゃあ北斗達じゃないな、いつも舞歌さん達は標準時間のお昼前かお昼の後に来るし。
『いえ、まあ、敵には変わりないですけど・・・』
なにかはっきりしない返答をするルリ。
ルリには珍しい反応だ。
「侵入者か?」
はっきりしない返答に俺は再度問う。
『そうですね、侵入者です。
まあ、大した物・・・いえ、問題はありますね』
まだはっきりしない様だな。
「結局なんなんだ?」
今度はカイトがルリに問う。
『前の時代で、IFSを通してIFS所持者の人格というか意志が一箇所に集まって、
身体を別の人格が操った、と言う事件を覚えてますか?』
「ああ、あの事件ね。
もしかしてそのバッタ?」
『はい、断定は出来ませんが、
それらしい機能を搭載しているバッタが侵入してきています』
アレか・・・面倒だな、とっとと片付けよう。
「場所は?」
『ポイントは・・・』
俺は急いで服を着て、指定されたポイントへと急ぐ。
そして、普段は誰も入らないYユニットの独立制御室。
その間に、
(おはよ〜アキト)
(お兄ちゃん、おはよう)
T−LINKに繋がっているメンバーから朝の挨拶が入る。
(ああ、おはよう)
俺は特に今からやる仕事に支障は出ないと思い、
いつも通りの挨拶を返す。
(おはよう、アキト君)
舞歌さんからもリンクの通信が入る。
(おはようございます)
直接会えない舞歌さんはこう言う挨拶は絶対に欠かさない。
(アキト、ところで何でYユニットになんか行ってるの?)
リンクで居場所が解るので、俺がYユニットなんかにいることを聞いてくるラピス。
(ああ、バッタが一匹潜入してきたから破壊するんだよ)
(あら、バッタが?)
(そうなんだ)
(がんばってね、アキト)
俺の答えにそれぞれ反応する舞歌さん、メティ、ラピス。
(アキトさん、敵はそのままの位置にいます)
ブリッジのルリから場所の確認が入る。
(了解)
俺は目的の部屋の前に来る。
(アキト、俺は先に厨房に行ってるぞ)
(ああ)
俺はカイトの言葉に答えながら、部屋に入り、目標を捕捉する。
「悪いが、とっとと厨房にも行かないといけないんでね」
俺はそのバッタを一撃のもと粉砕すべく、
昂気を纏った拳を振り上げ、叩きつける。
バコン!!
「ギ・ギギ・・・・」
断末魔の様な音を響かせるバッタ。
俺はめり込んだ拳を引きぬき、爆発に捲きこまれない様に下がろうとした、その時
カッ!!
バッタから放たれた強烈な光が俺を包む。
「な!?」
(どうしたの?!)
(アキト!?)
(なに、これ!?)
(何かあったのか?!)
(アキト君?!)
その光を浴びた俺はそこで一度意識を失った。
代理人の感想
>ファミリア
マグみたい・・・・じゃないのか(爆)?
まぁ、マグはせいぜいが二個ですけど(笑)。
現在睡眠時間を削ってぷそ(PSO)を遊び倒す代理人でした。