機動戦艦ナデシコ

〜時の旅人〜

 

 

第7話 黒い未来

 

 

 

 

――――中破中のナデシコ

整備班の根城、格納庫にて。

 

 

先の戦闘でナデシコが傷つき、整備班の人間はその修理で慌ただしい。

格納庫周辺はあまり被害を受けておらず、通常、エステバリスの整備を担当している整備班の人達も

ナデシコの修理に駆り出されていた。

その為、ウリバタケの怒号やヤマダの叫び声でにぎやかな格納庫も、

今は不気味なくらいしんとしている。

尤も、そう感じられるのはいつもが必要以上に五月蝿いからなのかもしれないが。

「はあ……」

そんな格納庫の左の端の隅っこのベンチの上で一人、テンカワアキトは溜め息を吐いていた。

 

 

ほら、さっさとやっちゃって下さい。……は?下にいる人達?いいじゃないですか。別に。

 

 

数時間前から彼の頭の中を駆け回っている言葉だ。

……何故、彼女は顔色一つ変えずに人の命を奪う事が出来るのか?

アキトには理解できなかった。

当初、彼はミスマルユリカを「両親の真相を知っている鍵」と考え、

事と次第によっては殺してしまおうと思っていた。

「けれども……」

その考えは児戯に等しいと言う事を彼女の行動によって実感した

「……俺は、彼女に対して何かしらのコンプレックスを持っているのだろうか………?」

顔色一つ変えずに人を殺し、機動戦においては他を圧倒する

(……と言っても一回しか戦っていないのだが)程の彼女の能力(あくまでも能力のみ)に、

自分は憧れや「焦り」に似た感情を持っているのかもしれない。

(……んな分け無いじゃん)

胸中で自分で自分に突っ込みを入れながら、彼は本日何度目かの溜め息を吐いた。

 

 

一方その頃

陰謀渦巻く格納庫付近の廊下にて。

 

 

メグミ・レイナードはルンルン気分(死語)で廊下をスキップしていた。

何故彼女の気分がそこまで良いのかと言うと………

艦長はナデシコの修理の件で多忙だし、

アキトさんはこの時間帯休みだし、既成事実を作るには絶好の機会だわ。ウフフフフ)

……と、邪な考えを頭の中で展開させているからだ。

尚、彼女の考えが妙に突飛なのは、作者は恋愛描写がとりわけ苦手だからである。別に他意は無い。

え〜っと、アキトさんは……?」

彼女の作戦(作戦と呼ぶほど高尚な物ではない)も、肝心のアキトがいなければ成立しない。

そんな訳なので彼女は今、アキトを探している。

メインブリッチは勿論のこと、食堂、自室、ベッドの中、トイレ、物置、遊戯室にアキトの姿はなかった。

となると考えられうる場所は一つ、格納庫のみ。

今現在いる場所から格納庫まではそう遠くではない。

さっさと彼の所にいき、いちゃいちゃ(死語再び)しよう。

そう考え、彼女は足を早めた。

「――――――痛っ……!」

格納庫の扉に手を掛けた時だった。

彼女の首筋に蜂に刺された時のような痛みが走った。

メグミの手は、無意識に痛みが感じた部分へと運ばれる。

「ん……?」

なにかが自分の首に刺さっている……?

メグミは『自分の首筋に刺さっている何か』を慎重に抜き出し、手にとって観察する。

「これは……吹き矢の矢……!?」

何故一目見ただけで解るのだろうか?

それはさて置き、彼女は矢の先端をぺろりとなめた。

吹き矢の矢自体の殺傷能力は低い。

むしろ、それに塗られている「薬」の方が脅威だ。

「速攻で効く致死性の毒」である場合、早急に処置せねばなら無い。

「なあんだ。神経を麻痺させるだけの毒か……良かった。この程度で」

塗られていた「薬」が対した事無い事が解り、安著の溜め息を漏らす。

……それでも充分脅威だと思うのだが。

メグミは懐から一本の注射器を取り出し、慣れた手つきで左腕に刺した。

「ふう。これで一件落ちゃ……ク!?」

メグミのからだが急に痺れ始める。

解毒剤の種類は間違っておらず、薬の量も適量の筈だ。

なのに体の痺れは止まらない。むしろ酷くなってきている。

腕、足、胴体、つま先、手の先、時間が経つ毎に自分の体の自由が蝕まれていく。

何故?どうして痺れが止まらないの……!?」

何故体の痺れが止まらないのかが理解できず、メグミの顔に焦りが見え始めてきた。

「それはね、メグミちゃん。メグミちゃんがいつも携帯している注射器の中身を、

イネスさん特製の薬に摩り替えといたからなんだよ?

そう、メグミちゃんは自分から進んで「痺れ薬」を投与したんだ。

自分自身の用意周到さが仇になったんだよ?聞こえてる?フフフフ………」

仰向けの状態で床に倒れているメグミの耳に、聞き覚えのある声が入ってくる。

その声の主はミスマル・ユリカだ。

メグミはユリカの能力を侮っていた事に後悔した。

彼女は大学においてシミュレーションでは常勝無敗、学校での成績もトップクラス。

その高い能力を買われ、若干20歳で戦艦の艦長に大抜擢された。

言わばエリート。

そんな彼女がいつまでもライバルを野放しにしておく筈が無い。

彼女の能力を持ってすれば常人の半分の時間でデスクワークを終わらせる事くらい朝飯前だろう。

色恋沙汰が関っているのならば尚更だ。

「くっ……油断……した…………っ……!!」

後悔先に立たず。というやつだ。

「……元はと言えばメグミちゃんが悪いんだよ?

私の昼食に永遠に眠ってしまうほど強力な睡眠薬なんかを混入して。

やっぱり『毒味』って言うのは大切だね。毒味をさせていなかったら私が永遠に眠っちゃう所だったよ」

毒味をさせられた人間については言うまでもあるまい。

(……?)

食事?睡眠薬?

メグミにはユリカが何を言っているのかが解らなかった。

身に覚えが無いのだ。

確かにユリカの食事に何らかの薬を混入しようとたくらんではいたが、

それはまだ一回たりとてやってはいない。

(誰かが私を陥れた……?)

そうとしか考えられない。

しかし、自分を恨んでいる人物など(ユリカを除き)メグミには皆目見当がつかなかった。

「しら……ない……」

メグミは出来うる限り大きな声で、ユリカに聞こえるように呟いた。

しかし、それに対するユリカの反応は予想通り、冷たい物だった。

「嘘つくのは見苦しいよ。メグミちゃん。いかにもメグミちゃんがやりそうな手口じゃない」

『そう見せかけるように真犯人は仕掛けた』といっても、それは体の良い逃げ文句に過ぎない。

……全く、自分が知らない罪をなすりつけられ、今はまともに動く事すらままならない。

挙げ句、テンカワ・アキトには逢えそうも無い。

今日は何とも散々な日だ。

メグミ・レイナードは心底そう思った。

しかし――――――

 

 

ユリカはメグミの視界に入り、文字通りメグミを見下す。

ユリカは勝ち誇った表情でメグミを見、暫くするとその場を立ち去った。

「じゃあね。メグミちゃん。ずっとそこで寝てて良いから。

……アキトは『私』の王子様であって『メグミちゃん』の王子様じゃないの。

そこら辺、勘違いしちゃあ駄目だよ?」

「………の」

メグミは必死の思いで上半身を起こしながら、静かに呟いた。

その呟きは余りにも小さく、ユリカには聞こえなかった。

「そんなの、艦長がいっているだけじゃない!!」

麻痺して殆ど動かなくなっている足を奮い立たせ、ゆっくりと、だが確実に立ち上がっていく。

ユリカはメグミの方へと振り返り、その姿に驚愕する。

「そんなッ!!ショック死したっておかしくない量だったのにっ!!」

……殺す気だったんかい。

「……ふん!!けど、死にぞこないに何が出来るっているの!?」

何処からともなく2メートルをゆうに超えている馬鹿でかいハンマー取り出し、

臨戦態勢に移行するユリカ。

どうでも良いが、それは悪役が吐くセリフだ。

対するメグミは目をつむり、銅像のように動かない。

全神経を集中させ、一撃でケリをつける気だ。

テンカワアキトをめぐる争奪戦・二回戦は今まさに始まろうとしていた。

 

 

 

薄暗い部屋の中、豪勢な椅子に腰を掛け、ワイングラスを片手に持ち、

この部屋で唯一光を発しつづける一メートル大のモニターを見続ける

紫色の少女(一応設定的には10代なのでこう表記)の姿があった。

フフフフフ……」

モニター越しで繰り広げられている『自分が仕掛けた戦い』に満足し、不敵な笑みをこぼす。

「踊れ踊れ馬鹿者共。地獄を見せろ。この私に」

楽しそうに呟き、手に持っていた最高級のワインを口に流し込んだ。

 

 

更に廃虚になったユートピアコロニー跡地にて。

 

 

最早跡形も無く崩れ去り、木星蜥蜴の光学兵器を受けて黒く焼け焦げた大地の上で

呑気に椅子に腰を掛けながら、飲み物をすすっている二人の女性の姿があった。

一人はこんなところでも白衣を着用しているぱっと見30代前半の金髪の女性。

彼女の着用している白衣は場所が場所なので端が黒ずんでしまっている。

が、本人は全く気にせず、何らかの話題をもう一人の少女(女性)に熱弁している。

名前は……言わなくても解るだろう。

「――――彼らも可哀相よね。

彼らが機密を知っていたからこそスキャバレリプロジェクトが計画され、発動された。

……結局、計画は失敗けど、彼らは生きている。私が間一髪で一人残さず地球に移動させたからね。

彼らはこれからどうなると思う?

きっと、使役され続けるんでしょうね。「使える」人間たちの集まりだったから。

骨と皮になるまで、使えなくなるまで使役したら処分される。

機密を外部に漏らさないために。

……彼らはさっき、死んだ方が良かったのかもしれない。

その方が彼らは幸せだったのかもしれない」

「死んだ方が良い時ってあるの?生きていれば、それ自体幸せなんじゃないの?」

もう一人の女性(少女)が言った。

その少女の肌の色は病的なまでに白く、とても人間のそれとは思えないくらいだ。

そして最大の特徴は金色の瞳。

その瞳の色は通常、人間が持つ事の出来ない色。

『造られたもの』である証。

人間に使役されるために生を与えられたものの証。

「生きていれば幸せな場合があるように、死んだ方が幸せな場合だってあるのよ? ラピス・ラズリ。

貴方はどちらの方が幸せなのかしら?」

インスタントコーヒーのお代わりをカップに注ぎながら、多少挑発的な態度でラピスに質問した。

ラピスはその質問に暫く考え込み、こう答えた。

「多分、わたしには幸せとか、そういうのには縁が無いと思う。

私は人間に作られた『殺し合い、殺され合うための人形』だもの

人間たちは私達を、スーパーで売られている牛肉程度にしか思っていない」

ラピスは感情の無い声で、無表情にそう述べた。

へぇ。そう思っているのなら、何故今の状況を打開しようとしないの?

そう思うだけなら、誰にだって出来るのよ?」

「……打開しようとしない無いのは、打開する必要が無いから。

私は今の立場をとても気に入っているから」

「……全く、アキト君と言い貴方と言い、貴方達の趣味は私の理解の範疇を超えているわ」 不機嫌そうに呟き、三杯目のコーヒーをカップに注いだ。

 

 

機動戦艦ナデシコ

世間一般的にブリーフィングルームと呼ばれる空間にて

ブリーフィングルームの中心に大きな立体映像が表示されている。

表示されているのはナデシコを中心とする周辺の地図。

その地図の右下の隅に、赤く点滅している光がある。

「―――さてさて、スキャバレリプロジェクトは失敗し、ナデシコは半壊。相転移エンジンも不調。

今のままでも十分大ピンチなのですが……」

頬をつたう汗をハンカチで拭いながら、プロスペクターは冷静に話し始める。

内心、ナデシコの損害状況やら修理代やらで泣き付きたいくらいなのだが。

「……更に状況は困難を極めると言う訳だな」

ゴートがいつも通りのムスっとした表情で言う。

……と言うか、『にっこりした』表情で言われても描写に困る。

「まあ、そういう訳です。

……皆さん、この地図上で赤く点滅している光、なんだと思います?

もしも、「万が一」当たった人には食堂のタダ券一万円分プレゼントしますよ」

『万が一』と強調している辺り、誰も当てる事が出来ないと踏んでいるのだろう。

 

 

 

「救難信号?」

「秘密基地……とか?」

「ずばり!!敵の本拠地だ!!」

「ド、動物園。フフフ………ヒャーハッハッハ!!」

「おーい、誰か鎮静剤一本持ってきてくれ」

 

 

「……ハイ、全員はずれですね。答えは『救難信号です』」

「え?あの、プロスさん?俺、当たってたんスけども……」

「何故、これが大問題かと言うと……」

アキトの呟きは、露骨に無視された。

「食料が底を尽きてしまう可能性がある」

「ああ?食料だあ?んなもんどーにでもなるだろが」

ヤマダが頭に「?」マークを浮かべながら不思議そうに言った。

因みに、アキトは部屋の隅っこの方でいじけている。

「五十人分。スキャバレリプロジェクトで救出する筈だった人達の食料が残っています」

「……?そんだけあれば万々歳じゃねーか」

「もしも、それよりも人数が多ければ、我々が地球、もしくは月にたどり着く前に食料が

尽きてしまいます。これが何を意味するか、貴方にも分かるでしょう?」

「…………………」

確実に餓死してしまうだろう。

ならば、餓死しないためにはどうすれば良いか?

彼は直ぐその方法を思いついた。

つまり、『彼ら』を見捨てれば良い。そうすれば最悪の事態だけは免れる。

……ヤマダは懸命にその考えを頭から振り払った。

「何とか、彼らを助ける方法はないのかよ?」

「見捨てなければ、我々が死ぬ事になるかもしれません」

「いや、何かしらの手はある筈だ!!俺らも助かり彼らも助かる方法がッ!!」

ヤマダは叫んだ。

彼の性格上、『他人を見捨てる』と言う行為は出来なかった。

だから、彼は考える。『彼らも助かり、自分たちも助かる方法』を。

しかし、何一つ良い考えが思いつかない。

それでも彼は叫ぶ。彼らを何とかしたい思い、叫ぶ。

「何度も言わせないで下さい。見捨てなければ、我々が死ぬかもしれない。

私達に与えられた選択義は2つ。彼らと共に死ぬか、彼ら見捨て、生き残るかです。

彼らをぬか喜びさせるよりも、彼らと最初から出会わない方が彼らにとって幸せだと、私は思います。

希望の直後の絶望ほど、耐え難い物はないですからね」

「……それ以前に、ここから脱出する事が出来るかどうかが問題だ。

万が一、彼らを助ける方法が有ったとしても……

彼らの人数が五十人以下で食料に難がないにしても、ここから脱出する方法が無ければ

意味が無いからな」

 

 

「……おい、何か方法が無いのかよ?認めたくないけれど、お前なら何か打開策が

有るんじゃないのか?」

プロス、ゴート、ヤマダのやり取りを見ていたスバル・リョーコは隣にいる紫色の人物を小突いた。

……が、何の反応も返ってこない。怒るとか哭くとか、何かしらの反応が返ってきても良いのだが。

リョーコは不審(というか、彼女の存在自体かなり不審だ)に思い、紫色に目をむけた。

そいつは腕を組み、瞼を閉じたまま、眉一つピクリとも動かさずに立っていた。

(あ〜、このパターンどっかで……ああ、火星宙域の時と同じだよ……はははは、

あの時は殺されかけたっけなぁ。さて、どーしよっかな〜)

彼女は暫し考え込み、ある一つの結論に至った。

その結論とは詰まり……

 

 

殺られる前に殺れ。

 

 

である。

「ヒカル、ブラスターとサイレンサーを持てったよな。それ寄越せ」

「え?いきなりそんな事言われても……」

「良いから!!早く!!」

「え!?ああ、うん……」

ヒカルから差し出されたブラスターとサイレンサーを半ば強引に奪い取り、それの照準を

紫色の人物に合わせる。

ヒカルはその行為をリョーコの粋な冗談だと思っているが、リョーコの目は本気そのものである。

「今までの……今までの恨みーーーーーーッ!!!!」

一体彼女らの間に何があったのか。

それはまた別の機会に語られるかもしれないし、語られないかもしれない。

 

 

兎に角両手に持った二丁の銃を乱射するリョーコ。

二丁拳銃と言うのは作者の燃える展開の一つだったりするが、それはまあ、関係ない事である。

「こんのぉーーーーーーっ!!!!」

乱射、乱射、乱射。乱射に次ぐ乱射だ。

しかし、銃弾は紫色に当たる前に、見えない「壁」らしき物に弾かれてしまう。

「ディストーションフィールドだと!?ええい!!ヒカル!!44マグナムだッ!!早くッ!!」

「44マグナムって……リョーコ……」

そう言いながらも44マグナムをリョーコに差し出す。

『一体全体彼女がどうやってそんなもん取り出しているのか?』と言う突っ込みは不可である。

起こってしまった以上、それは事実であり、覆す事の出来ない『真実』なのだから。

「ええーい!!これでもかよッ!!」

44マグナムですら、展開されているディストーションフィールドに弾かれてしまう。

「はあ……・はあ……畜生、なんて頑丈なんだ……」

息も絶え絶え呟くリョーコ。

そんなリョーコに、一人の人物の声がかかる。

「どうしたんですか?そんな事して。面白すぎますよ?」

今回はかなりあっさりと起きた紫改め、タチバナ・アヤカの声だった。

「てめえ、俺が何回起そうとしてもおきなかったのに、なんで今ごろあっさりと起きやがった?」

「血と硝煙の匂いに引かれて」

クククと、リョーコに暗い笑みを見せる。

「ああ、そうだったな。お前はそう言う奴だったな。……それはまあこの際良いとしよう。

それよりもなんでお前がディストーションフィールドなんか装備してやがる」

「他人に安眠を侵されないためには、これ位の装備は必要かと。

因みに相転移エンジンの爆発にさえ耐えられる安全設計」

「ほぉ……それほどの堅さを持ったフィールドをナデシコが張れるようには出来ないのか?」

「出来ますよ。私の『明晰』な頭脳を持ってすれば造作も無いでしょう」

自分自身を『明晰』と言う人間はそうはいない。

「なら、なんでそれをナデシコに装備させなかったんだよ。

それさえ装備してりゃあ前の戦いの被害が最小で済んだんじゃねえのか?」

「はあ?何言ってるんですか?そんな事したら貴方達のもがき、苦しみ、のたうち回りながら阿鼻叫喚の悲鳴を上げて無様に死んでいく様が見れないじゃないですか」

何度も言うが、こいつの性格は人間の最底辺を突っ走っている。

「……てめえは人間を何だと思っていやがる」

「愉悦を満たすための道具。もしくはそれ以下」

「人間を塵程度にしか思ってないのな」

「……というか、塵ほどの価値が有るんですか?」

リョーコの手がわなわなと震えている。

彼女はリョーコの反応に満足し、わざとリョーコが興奮する言葉を口に出す。

……一体どこぞのいじめっ子だ。貴様は。

「てめえ……」

「俗物のはなしなんて聞く気にもなりませんね。はっ!!」

(一体、何でこいつが俺らの上司なんだろう?)

ネルガルの採用基準と言うのはどんな物なのだろうか。

 

 

リョーコとアヤカが銃撃戦をやっているにもかかわらず、

ヤマダとプロス、ゴートはそっちのけで話合っている。

サイレンサーをつけたブラスターの音は兎も角、44マグナムの音というのはとてつもない

「騒音」の筈なのだが。ましてや、密閉された空間であるのなら尚更だ。

「しかし、食料の方はどうする?もしも足りなかったのなら……」

「火星から地球間を一気に移動できる、いわゆる『ワープ』技術が有れば話は別ですが……」

『ワープ技術』、プロスには聞き覚えが有った。ネルガルが10数年前、

或いはそれよりも前から研究している技術の一つであり、いまだに一回たりとも成功した事のない、

ある意味『幻』の技術である。

(有人機を使った実験ですら成功例がないのに、こんな大きな戦艦を飛ばすのは……ね)

『ワープ技術』の「モニター」になった人間たちが、どういった結末をたどったか?

ある者は他の物質と融合し、またある者はショック死し、更には行方不明になる者もいた。

……『ワープ技術』を実行するのは簡単だ。チューリップの中に突入すれば良いのだから。

しかし、余りにもリスクが大きすぎる。実験結果からも解るように成功する確率は限り無くゼロに近い。

現時点ではむざむざと死にに行くような物なのだ。

(八方塞……か。さて、どうした物か……)

「方法なら、無い事はないわ」

ドアの開閉音と共に女性の声が聞こえてきた。

「フレサンジュ博士……?方法というのはまさか……その……」

「そう、ボソンジャンプよ」

「何だよ、プロスのおっさん、方法が有るんじゃねえかよ」

「し、しかし、『ボソンジャンプ』というのは……・その……』

「待って。説明は私に任せて頂戴」

プロスはヤマダにボソンジャンプの何たるかを教えようとしたが、

イネスの声により遮られてしまった。

「……貴方も見たでしょう?チューリップの中からバッタや戦艦がうじゃうじゃと出てくるのを。

あれはチューリップの中に入っているのではなく、別の場所から異空間を介して出てくるのよ。

それがボソンジャンプという訳ね」

「……要は、ワープするって事だな?」

ヤマダには今の話がチンプンカンプンだった。

「嫌ね。これだから学の無い人は」

「うっさい。とどのつまり、それを使えば確実に救助できるんだな?」

「ま、そういう事ね」

「しかし……成功率はゼロに等しいんですよ!?……艦長、こんな危ない橋を

渡って良いのですか!?」

艦長に意見を聞こうと思い、艦長の名を呼んだ。

しかし、返事の『へ』の字も帰ってこない。

「……艦長?」

辺りを見回しても艦長の姿はなかった。

こう言う場合、確実にいなければ行けない人物なのだが。

因みに、メグミの姿も見えない。

「ああ、艦長なら格納庫の近くの廊下でメグミちゃんと一緒にあざだらけで倒れていたから、医務室に運んでちょっと……ね」

イネスが楽しそうに言った。

何が如何『ちょっと』なのか?

それを気にしていたらこのナデシコでは命がいくつ有っても足りない。

「妙な事には首を突っ込むな」

それがこの戦艦の中で生き抜いていく術であり、暗黙のルールだ。

「そ、そうなんですか。仕方ないですね。それじゃあ誰か艦長の代わりの人に意見を……」

イネスの話を極力聞かないようにしながら、『艦長の代わりの人』に目をむける。

勿論『お前、副長やるより忍者の方が向いているんじゃねーか?』と考えてしまうほど影が薄い、

現ナデシコ副長のアオイ・ジュンではない。

「うう……みんな、もうどうでも良いからせめて僕が『この部屋に存在している』ことを認識してくれよ」

やはりその呟きは誰にも気付かれる事はなかった。

 

 

酷い……上官に銃を向けるなんて………何処か私に至らない所が有りましたか?」

言葉とは裏腹に、彼女の目は思いっきり笑っている。

「朝から晩までグーグーグーグー眠りやがって!!手前が一体何をやった!?」

リョーコの言い分は100%正しい。

「何って……料理の中に病原菌を入れたり、貴方達のI・F・Sにわざと過負荷を

かかるようにしてみたりとか……まあ、部下を思う上官として、当然の事をしているまでですよ?」

「貴様ぁ……」

リョーコは今度こそ思いっきりぶん殴ってやろうと思い、ぎゅっと拳を握る。

「歯ぁ食いしばれ!!そんな大人修正してや……!!」

リョーコの拳がアヤカの顔に接触しようとした瞬間、腹部に大きな衝撃が走った。

カウンターを受けた。そう認識したのは暫く後の事だった。

「畜……生……」

「私、天才ですから。」

「普通……自分自身で………いわねえよ……」

リョーコはアヤカに抱かれるように倒れ、気を失った。

「アヤカさん、ちょっと話が……?」

先程の事をアヤカに話そうとしたプロスが、彼女に抱かれているリョーコの存在に気づいた。

「まさか……そういう趣味ですか?」

「まさか。私は自分自身を一番愛していますから。……それで話しとは何なのですか?」

それでも多分に問題が有ると思うのだが。

「はあ、実は……」

プロスは今までの事を彼女に話した。

 

 

――――救難信号が発信されていたと思われる『地下型』コロニーにて。

 

コロニーの種類は大きく分けて3つ。

「地上型」、「ドーム型」そして、「地下型」。

『ドーム型』はコロニーが有害光線などを遮断する半球状のドームに覆われており、

火星ほど「星」その物の環境が改善されていない「月」に最も多く建設されている。

「地上型」はコロニーがそのまま、ドームに覆われていない状態で露出しており、

火星のコロニーの約90%がこれに当たる。最も、地上にそのまま露出されている分、

3タイプのコロニーの中で最も脆い。火星が木星蜥蜴の攻撃を受けた際、

このタイプの殆どが壊滅した事がそれを物語っている。ユートピアコロニーもこれに当たる。

最後に「地下型」コロニー。最近(と、言っても五年前くらいからだが)建造され始めた新造コロニーで、

地下に建造されているため敵にも発見されにくく、シェルターとしての能力も兼ね揃えているので

防御の面はかなり信頼が置ける。

地球側の軍が木星側の攻撃を予期し、

ネルガル・クリムゾンなどの巨大企業に建造を命じたようだが……

尚、クリムゾンが建造したコロニーの幾つかは最初から木連用として造られている。

今回のコロニーはその中の一つ。

しかし、テンカワアキトと愉快な仲間たちがそれを知っている筈が無い。

 

地下型コロニーに派遣されたのはアキト、ヤマダ、ゴート(HWS)、

そして一番最後に表記されるほど影が薄いジュンの、男性メンバー四人だ。

「……しかしまあ、あいつも中々融通の利く奴だったんだな。俺ぁてっきり悪の手先だと思っていたぜ」

上機嫌で言うヤマダ。『あいつ』というのはタチバナ・アヤカの事だ。

まさか彼女が難民救助を二つ返事でOKしてくれたのはヤマダ自身、予想だにしなかった。

「でも、『私は眠いし、めんどくさいから行きたくない』って断り方が有るか?人間として大いに問題あるって」

アキトはどうも、彼女が好きになれなかった。

人間の命を軽視している節が有るし、雰囲気的にも苦手だ。

能力的には尊敬できる面も有るが、その他の部分には嫌悪感すら覚える。

一言で言うなら「大嫌い」なのだ。彼女が。

「……静かに、バッタやジョロがいる可能性だって有るんだ。こんな所で囲まれたら洒落にならんぞ」

終始むっつりした顔のゴートが言い、二人は口を閉じた。

「うう……僕の出番は……?」

無い。

 

地下、と言っても常時照明がつけられているため、じめじめとした薄暗いイメージとは違い、

結構サッパリとした物だった。湿度もそれほど高くなく、温度も適温。

人間が住むにはまさに絶好の場所と言って良い。

「……なるほど、定時になると照明が消え、このコロニー全体が『夜』になるらしい」

先ほど、ちょうど言い具合に道端に落ちていたパンフに目を通すゴート

「何か、人間が『栽培』されてるって感じがするっス」

「……同感だ」

 

暫く、真っ直ぐ突き進むと、その突き当たりに一際目立つ大きな扉が現れた。

「……うわ、見るからに頑丈そうな扉……ブラスターじゃあ無理そうだ」

大きな扉を見、ボソリと呟くアキト。

「こういう時のために、これを持ってきたんだ」

背中に背負っていたバズーカを肩に固定し、照準を扉につける。

「ちょ……こんな所でバズーカなんて使ったら…………!!」

ヤマダがゴートを制止しようとするが、既にゴートは辞める気など微塵も無い。

「……ああ、こんな密閉された空間で使うんだ。効果は大だろう。

10メートル程度離れていてくれ」

「……どうなったって知らないゼ!?……ほら、アキト、100メートルくらいは離れるぞ!!」

アキトの手をグイと引っ張り、彼に逃げる様促す。

「……100メートル!?」

「10メートル離れた程度で無事に済む訳が有るかよ!!」

あっという間に視認出来ないくらい離れるアキトとヤマダ。

そしてその場に取り残されたゴート…………と、ジュン。

「え?ちょ…………」

「どうやら全員この場から退避したようだな。……良し」

バズーカのトリガーにゆっくりと手を掛ける。

「絶対にワザトでやっているだろ!?アンタ等あああああ!?」

勿論、彼の声は誰にも聞こえていない。

 

 

 

 

ドゴオオオオオオオンン!!

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、ここまでくれば大丈夫だろう……」

全力で200メートルを一気に走ったため、息も絶え絶えでヤマダが言った。

「……なあガイ、誰か忘れているような気がしないか?」

「……あん?たしかここに来たのはゴートのおっさんと俺ら二人と……誰だっけ?」

「だろ?後もう一人、どうしても思い出せないんだ」

二人とも考え込み、その間辺りはしんとする。

「ま、良いや。取り敢えず戻ってみれば解るんじゃねえのか?」

ヤマダが言った。アキトは『そうだな』と軽く頷き、二人はその場を後にした。

 

二人が戻ってきた時、扉の周辺はもうもうと煙が立ちこめていた。

「うわ〜、硝煙臭え。ゴートのおっさんとその他一名は大丈夫なのか?」

最早ジュンは『その他一名』扱いだ。

「大丈夫だ。俺は何とか生きている

……ゼロ距離射撃は体に悪いな。注意しよう」

つーかそれで良く平然と立っていられるよな。普通ならただではすまない。

……それは兎も角、辺りに立ち込めていた煙が次第に晴れてきて、

ぼんやりとだが周囲の様子が視認できるようになってくる。

「扉は全壊しているようだ。一応、武器を手に持っておくんだ。鬼が出るか蛇が出るか解らんからな」

アキト達に注意を促しながら、ゴートは扉の向こうに足を踏み入れる。

(……血の匂い…………?)

一瞬、頭の中で『嫌な予感』がよぎったが、彼は頭の中からそれを掻き消し、前に進んだ。

 

これは……!?」

「馬鹿な……一体何があったんだよ!?このコロニーで!?」

「ガイ……悪い。袋かしてくれ……思いきり吐きそうだ」

その空間は余りにも異常だった。

天井、壁、床、場所を問わずまるで赤ペンキを塗りたぐったように、

血がその部屋全体に『散乱』している。

そしてその血の『主』だと思われる者達の亡骸。

首から上が無い屍体。九分がごっそりと抜き取られている屍体。

普通では考えられない表情をし、絶命している屍体。

頭だけのもの。足だけのもの。

男も女も。老いも若きも。

皆「平等に」死んでいた。

この「異質」な空間に佇む、黒マントで体を覆い、黒色の大型バイザーを着用している

全身真っ黒ずくめの男が一人。

彼の纏っている黒色のマントや彼自身の顔の所々に血や肉片が付着しているが、

さして気にしている様子も無く、先ほど入ってきたアキト達に目を向けた。

「――――やあ。元気そうで何より。再び逢えて嬉しい限りだ。

……しかし、部屋に入ってきた時の態度は感心できないな。普通、ノックをして入ってくるものだろう?」

「再び逢えて嬉しい」と、そいつは言っているが、誰一人思い当たる節はなかった。

「お前が……こんな事をやったのか?こんな惨たらしい殺し方をしたのか!?」

「……そうだ。ガイだ。ダイゴウジガイ。本名はヤマダジロウ。

本当に懐かしい。懐かしい限りだ」

黒づくめの男は呟きながらヤマダに近づいてくる。

「お前は多少人を信頼し、疑った方が良い。だからこそこんな『ヘマ』をやらかす」

 

ベキィ

 

「ぎ…………」

黒づくめの男は表情一つかえず、特別力を込めた様子も無く、

軽々とヤマダの右肩部から指先までを引き千切った。

ヤマダは本能的に『無くなった右腕』を抱え込み、膝を地について気絶した。

「……知っているか?人間の肉は豚肉の味がするらしい。

如何だ?それなりの味付けをして食べてみては」

引き千切った右腕をポイとヤマダの方へと投げ捨てる。

「こいつ……狂っている…………!!」

今までの黒ずくめの行動に絶句していたゴートが小さく呟いた。

その声に黒ずくめは反応し、今度はゴートの方へと目を向ける。

「狂っている?……はははは。成る程。自分が肯定できない部分はそう認識するか。

図体のでかい割には案外視野が狭かったんだな。今の今迄気付かなかったよ。

俺は正気だ。老若男女差別する事無く鏖殺したのも、先ほど腕を引き千切ったのも、

全ては正気の沙汰の産物なんだよ。

……まさか、この程度の事で狂犬呼ばわりされるとは思ってもみなかったよ。

高々これしきの事を目の当たりにして『狂っている』と言う言葉を口にするとはな。

まだまだ『気が早い』ようだ」

彼はこの行為を正気だと語っているが、アキトとゴートにはとてもそうだとは思えなかった。

「こちらの質問に答えてもらおう。妙な行動は取るなよ………もし取った場合は……」

「取った場合は?」

「蜂の巣、だ。問答無用でな」

ゴートはブラスターの照準を黒ずくめの眉間に合わせる。

黒づくめはにやりと笑い。

「良いだろう。好きなだけ答えてやろう。気の済むまで応じてやろう。

――――ただ、気を付けた方が良い。ダイゴウジ・ガイが死なない内に。

せっかく生きているんだ。これからも生きたいだろう」

「……くっ、……バイザーをはずし、名前を名乗れ。

不審な行動は一切許可しない」

「……良いだろう」

ゴーこの言葉に頷き、黒づくめは自分の顔の大半を覆っているバイザーを外した。

「どうだ?これで満足か?」

「……馬鹿な!!」

「そんな………何で……なんで……」

アキトとゴートは驚愕した。何故なら、黒ずくめの素顔が、全体的な雰囲気は違うものの

「テンカワアキト」そのものだったからだ。

「そうだよ。察しの通り俺はテンカワアキトだ。つい最近まで『機動戦艦ナデシコ』の

『コック兼パイロット』だった。まあ、過去が如何であろうと今はこんなざまだがね。

滑稽なもんだろう?」

「もう一人の……俺?……俺自身が……こんな酷い事を……!?」

「そうだよ。俺は一卵性双生児の双子でもなければ、お前の心が産み出した幻でもない。

全てが現実だ。此処にいる人間を殺したのも、親友の腕を引き千切ったのも、

そして、次の殺戮も、次の次の殺戮も、次の次の次の殺戮も、

全てお前の……テンカワアキトの手で引き起こされるものなんだよ」

「嘘だ!!俺は俺、お前はお前だ!!お前は俺じゃあない!!俺はお前じゃあないッ!!」

「それがそうなんだよ。相違点を挙げるとするならば、俺が極々最近の未来から来た。

と言う事ぐらいか」

「そんな!!俺は将来、こんな人間になってしまうのか?

血も涙もない、人を殺しても平然としている人間になっちまうのか!?」

「さあ?未来と言うのは通過して初めて解るものだ。誰も断定なんて出来やしない。

お前がどうなるかなんて誰も答えられる筈が無い」

二人の「アキト」の対話は続く。

「くそ……くそ……!!」

「俺の悪癖だな。未来へ進もうとも思わず、過去を懐かしもうとも思わず、ただただ絶望するだけ。

何もしようとはしない。それでどうなる訳でもないのに、な。

あの時もそうだった。絶望が憎悪に変わり、憎悪が殺意へと変わった。

今思えば、あれほど無意味な事も無かったな。今だからこそ言える」

黒いアキトはやれやれと言った感じで呟いた。

そんな黒いアキトの前に一つのコミュニケが表示される。

「……ああ、あんたか。……何?別に素性や正体が暴かれたってどうと言う事はないさ。

……ふん。ネルガルも大変なもんだな。……ああ、概ね理解した。それじゃあ」

黒アキトは手短に通信を終え、再びアキト達に目をむける。

「どうやら俺はあまり暇ではないらしい。非常に残念だ。

次に逢える機会がある様、あらゆる神々に祈っておくよ。……………あまり宗教は信じない質だがね」

その言葉を残し、黒アキトは闇に掻き消されるように消えていった。

 

 

 

「…………!!」

テンカワアキトはべっとからガバリと起き上がった。

まるで悪夢でも見たかのように息が荒い。

「……此処は…………医療室……だよな……?」

辺りを見回し、呟いた。

棚に置かれている数十種類の薬や、この部屋全体に充満している『薬臭い』

匂いからここが医療室だと言う事は直ぐ分かったのだが、アキトが寝ているベットの右側に

白目を剥きながらぶつぶつと呟いているヤマダがいる事と、

左側のベット二つに安置されている「ミイラ」がアキトの判断を鈍らせている。

(ガイの肩がくっついている?じゃあさっきのは?)

アキトは先程の出来事を思い出そうとしたが、どうにも記憶があやふやで良く分からない。

「黒い」自分が出てきて、そいつと議論している所は鮮明に覚えているのだが。

第一、自分が何故この部屋にいるのかすら分からない。

「あら。起きたの。以外と早かったわね」

「イネスさん……?教えてくれ!!一体俺の身に何が起こった?他の人達は無事なのか?」

「まあまあ。詳しい事は後でおいおい説明してあげるから、いまはゆっくりと寝ていなさいな。

ただでさえ、貴方の体は衰弱しているのだから」

イネスの言う通り、アキトはベットから体を起こすのでせいっぱいだった。

普通に歩く事が出来ないほど、体は疲労してしまっている。

「……一つ、聞いて良いかな?」

「何かしら?」

「イネスさんは、『未来』を変えられると思う?」

「……人間はね、どんなに頑張っても『現在』で生きる事しか出来ないの。

未来と言うのは未知の世界。誰にも予測する事が不可能なのよ。

変えるも何もあったもんじゃないわ。

……それに現在ですらちゃんと生きていない貴方に、未来を心配する権利はないわ。

現在を精一杯生きなさい。全てはそれからよ」

「………………」

「さあ、うんちくが済んだ所でお注射タ〜イム。サ、腕出して」

イネスはポケットから何やら毒々しい真緑色の液体が入った注射器を取り出し、アキトに近づく。

「……それ、一体なんですか?」

「栄養剤よ。単なる。大丈夫、効果はてき面だから。ほら、横の三人を見れば解るように

天にも昇る気持ちになれるから」

天に昇ったまま、帰って来れなさそうだ。

その言葉を聞き、

ただでさえ衰弱して真っ青なアキトの顔が更に青くなった。

冷や汗だらだら。目に涙。

…………ひっ!?」

声にならない悲鳴を上げるアキト。ようやく自分の置かれている立場を理解したようだ。

しかし、悲鳴を上げたからと言ってどうなる訳でもない。

イネスはゆっくりとアキトに近づいてくる。

「ちょ、一寸待ってくれアイちゃん落ち着くんダッ!?」

「……あら、それが解るのはまだまだ先の事よ?

だから今のセリフはお互い無かった事にしましょう。ね?お兄ちゃん?」

遂にイネスの左手はアキトの右腕を掴み、そして――――――

 

 

 

プス

 

 

 

 ――――その時、俺は世界が崩壊する音を確かに聞いた。(テンカワアキトの日記・奏明編より抜粋)

 

 

 

 

設定資料。

〜お髭のあるエステバリス?(後に多くの賛否両論を引き起こした模様。無論俺は肯定派)〜

 

 

第二回・争奪(略)

●なんつーかもう良いです。

●滅茶苦茶シリアスだし。

●ギャグじゃあないし。

●最近のメグミ嬢は策士家と言うより小悪党だと思うのは僕だけですか?

 (数時間後、血やら臓物やら糞尿やらが飛び散ったパソを残し失踪。手掛かりは側に落ちていた異教徒の十字架のみ)

 

ハンマー

 

ドリルと人気を二分する、男の子憧れの武器。

●鎚。鈍器。

某白い悪魔も装備。驚愕。

●「え?あれってハンマーなの?」という意見は却下。

●ハンマーの有名どころは言うまでも無くガ●ガ

●ドリルの有名どころは…………D4

●大儀成すまで敗北できぬ(まけられぬ)

●忠義より重き物は大儀。なら大義より重き物は?(ごく少数の人にしか解らないネタ)

 

(HWS)

 

●平和より自由より正しさより君だけが望む全てだから〜♪

●逆シャア名台詞その一

●アムロ:ファンネルが敏感すぎたんだ……

 (そんな理由でギュネイの駆るヤクトドーガに握り潰されたケーラ・スゥ。北辰とギュネイの声優さんが同じだと最近知った)

●その二

●大佐はロリコンだって話だぜ!?(〜〜〜〜〜〜〜ッ!!)

●因みに作者はα外伝で∀に並々ならぬ愛を注いでいる。(フル改造済み。ハロと超合金ニューゼットを装備)

でも最近プレイしてない(4月22日現在。これを書き始めたのが二月末。ハイ、サボってました)

●アニメーションカット機能がついてるにもかかわらず、一マップクリアするのに2〜3時間掛ってしまうのは

  俺の頭が悪いからですか?

●敵を全滅させた後、大挙して敵軍が押し寄せてくるのは止めて欲しいのですが。

●そんな訳だから∀にクワトロ大尉を乗せて気分は赤髭

●月光蝶使ったらちゃんとそれ系の言葉喋るし。

●ゼロ距離ビーム砲でも。(「機体の相対距離を極限まで詰めれば、対応できまい」とか)

●後、IFSの理論を応用すればファンネルとか簡単に出来そうな気がするんですが。

●もしくはパージしたパーツを自力で戻すエステバリスとか。

 

ホシノ・ルリ

 

ドリルやらバズーカやら目からビームやらを装備しているジェノサイド系マシンチャイルド。(大嘘)

●本作品では我らが主人公、テンカワ・アキト並に出番が無い人。

●だってコイツ等絡めにくいんだもん。

労働基準法って知ってますか?明らかに違反していると思うんですけど。

●もしかしてマシンチャイルドには人権が無いのでは?

●関係ないけどメルディのしゃべり方は非常にビビアンっぽい気がする。

●更に関係ないけどこの作品は敬語(もどきも合わせて)を喋る人間が異様に多い。

 

ラピス・ラズリ

 

●寡黙な少女。

●ぱっと見良い所のお嬢さんって感じ。

●そしてアキトは良い所のお嬢さんを身の代金目的に誘拐した悪い少女趣味(単なる節操無しか?)な犯罪者。

●アキトにしろコイツにしろ、何でわざわざあんな格好で電車に乗りますか?

●コイツ等を目にも溜めないギャラリーもギャラリーだ。

●つーか、劇場版で二言三言しか喋っていない奴を一体どうしろと言うんだ。

●だからこいつはオリキャラ扱い(基本的に性格とかの詳細が分からない原作キャラはオリキャラ扱いにします。

  含む黒アキト。良くわかんねえです。こいつの性格)。詳しい性格設定は後日。

●劇場版のアフターストーリーが作られるとしたら確実に声優さんが変るだろうなあ。

●だれが良いと思います?

因みに俺は中尾隆聖。(バイキンマンとかフリーザとか。正気じゃないと思った)

破壊神としてつてに有名。

でも、パソが九割方ぶっ壊れている俺にはおおよそ関係ない話。

●パソコン立ち上げに三分掛るし、ネットに繋いでる最中突然とまるし。

●元実験体。やっぱりマシンチャイルドに人権無いんじゃない?

 

マキビ・ハリ

 

●まだ登場してないけど今回はマシンチャイルド特集。ってことで。

●不幸少年。

●何でこいつは不幸なんだろう?

●黒髪青眼。明らかにルリやラピスとは系統が違うような気がする。

●こいつは青眼です。青眼。誰がなんと言おうと青眼。俺が保証する。(そして旗色が悪くなったら速攻で逃げ出す。お約束

●金色の眼はマシンチャイルドの証ですよね?じゃあこいつは一体……?

●CVは日高のり子さんだったりする。

●だからその点も踏まえて『ハーリー苛め系SS』を読んでみるとなんかすごいギャップを感じる。

●やっぱり『奇跡は起きます!!起こしてみせます!!』とか言いながら再生しているんだろうか?

だとすると安っぽい奇跡だな。ずいぶんと。

●それはそうと皆様方、『児童虐待』の四字熟語(熟語?)知っていますか?

マシンチャイルドは人権が無いという事に決定。俺内部で。

●そもそも本当に非合法な手段で作られたマシンチャイルドに人権有るんだろうか?

 

 

 

 

 

後書き。

 

 

さて皆様。

二次創作とはどういうもの指すかご存知ですね?

二次創作と言うのはアニメなりゲームなりの作品を題材にし、

その世界観やキャラクターを用いて、新たなストーリーを小説やら漫画に描いたものを指します。

まあSSを読む・書くに当たって大前提の知識ですな。

 

取り敢えずこの作品の原作であるTV版「機動戦艦ナデシコ」鑑賞した後、

この作品をさらりと読んで見て下さいな。

そうすると、ある一つの疑問が浮かんできます。

詰まり「おい貴様、これの一体何処が二次創作なんだ?」と。

ハイ、アウト。そう思われる時点でアウト。作者がこれは二次創作なんだ。

と、主張しても読者がそう思わなければアウトです。

書くのは作者でも読むのは読者なのですから。

作者の言いたい事が読者に伝わらなければそれは単なる作者の妄想になってしまいます。

「五月蝿い、俺はそれでも良いんだ」と思っているお方、

それなら何故貴方はネット上に作品を公開していますか?

インターネットと言うのはコミュニケーションの場です。

それなのに『自分さえ良ければそれで良い』と言うのは一体どういう了見だ。

 

『二次創作』が二次創作じゃ無くなる要因は大まかに分けて二つほどあります。

 

原作キャラクターのイメージがぶっ飛んでいるか、

原作の世界観が素敵なまでにぶっ壊されているか、

のどちらか。

まず、原作キャラクターのイメージがぶっ飛んでいると言うのはタブーです。

例えば『ナデシコ』の登場人物の一人であるヤマダ・ジロウはゲキガンガーをこよなく愛する

熱血系の青年ですね。

もし、ヤマダジロウの設定が気に入らず、人の命を軽視し、とてつもなく冷徹。

という感じの設定に変えたとします。

ここで質問。これは『ヤマダ・ジロウ』であると言えますか?

。こんなのヤマダジロウじゃないです。

ヤマダジロウはゲキガンガーをこよなく愛する熱血系の青年だからこそ、ヤマダジロウなのです。

このスタンスを崩してはあかんのですよ。

ただ、その性格が一過性のものである場合は良いと思います。

例えば、「アキトが死んだ事により暫くの間、内向的な性格になってしまう」とか。

一時的にスタンスを崩すのであれば。

無論、終始一貫してスタンスを崩すのは100%駄目ですが。

後、『人を〜』と言う感じのキャラを造りたいのであれば

オリジナルキャラクターとして出せば良いだけの事です。世界観を破壊しない程度で。

 

次に世界観が壊れている場合。これも勿論タブーです。

と言うか、原作の世界観が壊れてしまっているにSSなど、果たして二次創作と呼べるでしょうかね?

んで、世界観を壊してしまう大きな要因となりうるのは『新設定』の存在です。

新設定っつーのは具体的に言うと「原作には無い新しい設定を作品に付加させる」と、

まあこんな感じですな。

つまり、「原作には全く存在にしない新しい解釈を何処かから拾ってきて取ってつける

と言う事なんですわ。

「新しい解釈」を持ってくるもんだからその解釈がへたれだった場合、

容易に世界観破壊につながります。

俺の作品に出ている『超能力』の設定がまさにそれだ。

新しい設定やキャラクターを出したからと言って、

それが必ずしもプラスになるという道理は何処にも無いんです。

たとえ成功した前例があったとしても、それは前例であり、自分も成功すると言う保証には成りません。

友人が有名な大学に入る事が出来たからと言って、自分も入れるとは限らない様に。

……新設定を造る際、良く考えて見て下さい。

『新設定を造って何をしたいのか』『何故新設定が必要なのか』

『その新設定は原作の世界観を壊すものであるかどうか』『この設定は大きなプラスになるのか』

『本当にそれは二次創作と言えるものなのか』

ネット上に公開する前にじっくりと考えてからでも遅くはないと思います。

良く考えず思いつきだけで新設定を考え、作品に付加した場合、

それこそが世界観を破壊する引鉄になってしまいます。

 

以上、自分の作品をさらっと読み直して思った事を客観的に書いてみましたん。

あ〜、こういう時に基本的な表現力が足りないと全然うまく書けないねえ。

それでも頑張って書いたのですがいかがなもんでしょう?うい、精進精進。

 

アキト:つーか自分の提唱している事にものの見事に引っかかってるじゃねーか。自分の作品

    そこら辺如何説明するつもりよ?

 

昔の俺の価値観と今の俺の価値観は違うのです。全然。

人は変っていくものだとララ●・スンが言っている。

そんな訳ですんで君の知っているU−conは死にました。

いや、一番最初から生きちゃいねえけどよ。

 

アキト:取り敢えず貴様は「私は敗北主義者です」って書かれた看板を首に掛けて、

    1000匹の吸血鬼に食い殺されろ。話はそれからだ。 

 

(1000匹の吸血鬼に食われながら)止めてぇ、止めてえ〜っ!?あたいの身包みはがさないでーっ!!

あたいは自由な小鳥さんなのよーッ!!

 

アキト:もう、何を言いたいのかさっぱりだよ。

 

 

 

……さて、突然で申し訳ありませんがこの作品、書き直そうと思っています。

プロローグから5話辺りまで。

 

アキト:何故?

 

理由なんぞ腐るほどありますが。

敢えて理由を挙げるとするならば見るに耐えないからです。

主に設定部分とか設定部分とか。後他に設定部分とか。確実に世界観破壊している奴もあるしな。

書いた自分が言うのもなんですが赤面しちゃいそうです。ぼーぼーと。

激しく後悔。鬱。つーか俺自体が時間逆行して過去の俺をぶん殴ってやりたいくらいです。

……俺もボソンジャンプしてえ。イメージング能力(妄想力)だけはA級ジャンパーを軽く超越しているのに。ちくせう。

 

アキト:後になってそういう風に後悔する作品をネット上に掲載するなよ。恥かしい奴だ。

 

少なくとも昔は後悔していなかった。最初の最初から不満の残る、失敗作だと解る作品は載せねえよ。

要するに自分は良い出来だと思って投稿していた訳だ。昔は。

と言うか、昔と言うほど昔じゃないのがヤバイ。

やっぱり、ほいほい安易な気持ちで造っちゃ駄目なんですわ。文章と言うのは。

本当にこれで良いのか。後悔しないか。そして何よりその作品の出来は満足のいくものなのか。

上にも書きましたが、じっくりと考えないと。

……つーかこんなの初歩中の初歩じゃないか。それすら出来ていねえ自分は一体何なんだ。

あ〜馬鹿馬鹿っ!!俺の馬鹿!!

 

アキト:……で、具体的にはどうするつもりなんだ? 

んー、要らない設定をばっさりと排除する。

 

アキト:ホウ、どんな設定を排除するつもりだ?

 

第一に「遺跡の管理人」

 

アキト:正気かい。

 

まあ、なんつーかこれは例えるならば、

小三くらいのがきが自由帳に先行者もどきのロボットを書いて、

「こいつの攻撃力はきゅうじゅうきゅうまんあるんだぞ〜無敵なんだぞ〜」と誇らしげに自慢しているようなものです。

さして役に立ってないし、有っても無くても同じ様なもんだから。

一事で言うなら必要ないと。だから排除するのですが。

これを排除すると、一編に『偽ユリカ』の設定と『マルス』の設定が消えるわけですが。

まあ一つで三度美味しいと。

後者の方は兎も角、前者の方は完膚ないくらい消し去ってやりたい設定なもんだから清々します。

 

アキト:しかし、幾らなんでもそれはやばくないか?

 

設定的に死んでいるからこそ、排除と言う判断を下したまでです。……死なせてるのは俺だけどさ。

次に『超能力』

……これはまあ言わなくったって解るよな。

要するに原作の世界観を破壊してしまう……原作の世界観を用いる必要性が無い設定を排除する訳で。

だから「奴」の設定も消えてしまうんです。この設定って一番原作の世界観を侵食しているから。

幸い、こいつに関する個所が少なかったから多少弄くる程度でそこら辺は何とかなりそうだ。

 

アキト:……貴様の都合なんて誰も聞いちゃいないし、この文を読んでいる皆様方は聞きたくもないと思っている。

 

 

 

……ええ、解っています。生半可な期待を抱かせてしまった皆様方、全て私の責任です。

私の技術と考え方が未熟なばかりにこのような事態を引き起こしてしまい、本当に済みませんでした。

当方は皆様方に深く謝罪させて頂きます。

本当に申し訳ありませんでした。

 

アキト:……謝って済まされる問題でも無かろうに。

 

解っています。ただ、この作品をネット上に掲載した以上、責任を持ってきっちりと完結させます。

必ず。確実に。だから皆様方、私に時間を下さい。何卒、宜しくお願いします。

 

 

 

管理人の感想

 

 

U-conさんからの投稿です!!

実に貴重な意見を後書きに書かれてますね。

確かに、頷く事が多かったですよ。

う〜ん、新設定による世界観の崩壊ですか。

確か、そんな指摘をBenもされましたね。

結構難しいもんですね、二次小説というのも。

 

それでは、U-conさん投稿有り難う御座いました!!

 

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