明日も知らぬ僕達 第六話 火星への旅路 Side Jun 俺はあの後、フジタヒロユキのパーソナルデータを検索してみた。その結果から判断するに、思ったほど不審な人物では無さそうだ。 「プロスさんの養子だなんて、予想外だったな……」 サツキミドリを後にしたナデシコは一路火星へと向かっている。 今回の艦長であるカシワギは、ユリカに比べれば真っ当な性格をしている。 今回艦長ではないユリカはハッキリ言ってやりたい放題だ、と言いたい所なんだが…… 「ねえ、ジュン君。アキトさ、なんか違うような気がする…」 この世界では、ユリカの王子様像と現実のテンカワのギャップが激し過ぎ、ユリカがそのギャップに苦しんでいた。 確かにこちらのテンカワは俺の知っているアイツとは随分毛色が違う。 ただ、俺は今のユリカのセリフにカチンと来てしまい、少しキツイ事を言ってしまった。 「そんな事はないよ。テンカワはテンカワさ。 「ジュン君?」「アオイ?」 ユリカとカシワギが驚いたような顔をする。 「ね、ねえ…ジュン、君…だよね? 怯えた様子でそんな事を言うユリカの問いに、 「………………………俺は……違うかもしれない……」 俺は、肯定的な返事をする事ができなかった…… Side Akito さて、どうしたもんだろうな… 俺は、ヒロユキのパーソナルデータとにらめっこしながら、そう心の中で呟いた。 あの人の実力は半端な物じゃない筈なんだが…… 考えられる事は…プロスさんがヒロユキに戸籍その他のデータを「買い与えた」場合だ。これなら、データがお粗末なのにも納得がいく。 とまあ、色々と考えてはみたが、とりあえず害はなさそうなので放っておく事にした。 しかし、一番不明瞭なのが出身地なのが気になるな…… 「なんっちゅー強さだ、まったくよ。」(ヒロユキ) サツキミドリからの連中は、まだ俺の強さに圧倒されているようだが…… 「お前さ、手加減するならもっと手加減しろよな……」(カズキ) ドガッ! 出航時からの面子は、既に自分のペースを取り戻しているようだ。 ちなみに俺達パイロット連中はトレーニングルームにいる。今さっき、俺対他の面々というハンディキャップマッチをシミュレータで行い…結果は言うまでもないか。 みんなの方も、ガイ主導の下「対テンカワアキト用フォーメーション」を研究して来たのにボロ負けした為、ちょっとショックだったみたいだ。 それにしてもガイの奴がイニシアティブをとってフォーメーションの研究をするだなんて意外だよな…… 「みんな、まだちょっと歯ごたえが無さ過ぎるよ。 「「「歯ごたえが無くて悪かったな。」」」(カズキ、ヒロユキ、リョーコ) 「三人ともそう腐るなよ。 ガイ、お前いいこと言うな。論拠が物凄く間違っている気がするけど。 ……ふと、俺はちょっとした思いつきをして、それをみんなに提案してみた。 「みんなさ、一人用モードのベリーハードに6人で挑んでみる気はないか?」 「いいだろう。その挑戦、受けて立つ!!」 というワケで皆は6人でベリーハードモードに挑戦していった。 みんな対俺用のフォーメーションばかり研究していた為か、はじめの内は大量の敵機に戸惑う場面も見られたが、すぐに研究していたフォーメーションを応用、組み直して対多勢用のフォーメーションへと変化させていく。 そんな事を考えながら、今度は一人一人に注目してみる。 まずはガイだ。 で、そのガイの真逆を行くのがカズキだ。 次にリョーコちゃん。 ヒカルちゃんは……器用貧乏? さてイズミさんだが……ある意味カズキ達と同じだよな、この人。 最後にヒロユキだ。 ちなみに、こんな風にみんなを評した俺なんだが、ブラックサレナやオモイカネ、ダッシュに言わせると「能力的にはバランスがとれているが、接近戦を好む傾向がある」ってとこらしい。 う〜〜ん、接近戦主体の奴が多いよな…戦闘になったら少し後ろに引いてみようかな? そんな事を考えている俺が見守っている前で、みんなは数回のコンテニューを経てベリーハードモードをクリアした。 俺はみんなにアドバイスをする。 例の如く、カズキの奴が丸2日シミュレータから出てこなかったが…… Side Kazuki ふうやれやれ。今度は2日間かよ。 ま、そんなワケで2日ぶりになる飯を食堂で食っているんだが 「ちょっとカズキ君、目の下にクマができてない?」 ミナトさんの言葉にそこはかとなく嫌な予感がして、俺はついこう返してしまった。 「……誰に聞きました?」 …今、聞き捨てなら無い名前を聞いたような気が…… 「……ミナトさん、最後の一人をもう一回言ってみてくれませんか?」 まさか、と思った俺は、次の瞬間自分自身の予想を呪った。 「んもう、カズキ君も隅に置けないわねえ♪ 15人も待っている女性(ひと)がいるなんて♪」 うう、ミナトさん、そんな好奇心満々な眼差しで俺を見ないで…… 「ホウメイさん、ご馳走様。ミナトさん、それじゃあ、俺、寝ますね。」 そして俺は逃げた…… で、部屋に戻ってきた俺は、扉の前に立っているイズミさんにでくわした。 「あれ? イズミさん、どうしたんですか?」 この人は俺やアキトと同い年(注:この話の、この時点のカズキの年齢は18歳です。)な筈なんだが、ユウの奴より余程年上という感じがする為、どうにも敬語で話してしまう。 「ああ、カズキ君。 話し方に違和感を感じたけど、これがヒカルちゃんの言っていた「マジモード」って奴なんだろう。 「その箱がそうですか?」 見た所開封した形跡は無い。彼女に中身を聞いても無駄だろう。 俺はイズミさんから箱を受け取ると、早速開けてみた。 中身は……サングラス、いやバイザーと手紙? いや取り扱い説明書か。 「ええと、なになに……」 マイブラザーよ このバイザーは以前、我輩が同志セイヤの協力の下開発した一種のパワーリストだ。 使い方は簡単。装着するだけで良い。 同志カズキよ、とりあえずこれを装着して日常生活を送ってみろ。 我が魂の片割れ、同志カズキよ。このバイザーで強くなり、必ず生きて戻ってくるのだ!! 「…一種のパワーリスト、ねえ。」 そう呟きながらバイザーをしげしげと見つめてみる。 と、俺がそこまで考えた時、先ほどの文章に続きがあるのを見た。 PS.精神崩壊を起こしても同志ミズキや同志アヤが貴様の面倒を見ると言っている。安心して逝ってこい。 …………・硬直している俺の横で、イズミさんはこうのたまった。 「カズキ君、愛されているのね」 ……… イズミさんが、イズミさんがこんな事をいうなんてぇぇぇーーーーーっ!! と、俺がショックを受けていると通路の角から何かが倒れた音が聞こえてきた。 行ってみるとヒロユキとリョーコが仲良く倒れていた。 俺は二人の言葉に耳を傾けてみた。 「イズミが、イズミが、イズミが、イズミが……」 俺は腹の底からこの二人に同意した。ま、イズミさんがすぐ傍にいるし、心の中で思っただけだけどな。 ああ、もう今のでどっと疲れた。寝よ寝よ。 Side Akito 「ん?」 カズキとヒロユキの部屋の前を通りがかった俺は、その中で繰り広げられている会話内容に興味をそそられた。 「プロスさん、よく俺みたいな怪しさ満点の奴を養子にしてくれたものですよね。」 「まあ、あなたの「あの」話はやはりちょっと信じがたいものなのですが、あなた自身は信頼するに値すると思えたんですよ。」 「ははっ、そう言ってもらえるとありがたいですよ。 「ええ。それに、もしその「ガディム」とかいう、魔王だか破壊神だかが実在していても、この戦争の間は動かない筈です。 「勝手に生まれる悲劇や戦火を利用して、力をつけていった方が賢い、ですか? 「で、あなたは何故ナデシコに乗る事にしたのですか? 「向こうが動いてくれなくちゃあ、俺としても探りようが無いからですよ。 なら、戦争をなるべく早く終わらせて、奴が動かざるを得ない状態にしてしまえばいい。 「成る程、理にかなってますな。」 ……魔王、破壊神、「ガディム」。なんというか、古臭いRPGみたいな話だが、確かにそういった類の存在がいたとして、戦争に介入するだなんて有り得ない。 しかし……そんな奴と敵対関係のヒロユキって一体…… ま、そんな誇大妄想野郎を信用するほどプロスさんの眼鏡は甘くはないだろう。 そう思いながら俺はトレーニングルームに向かった。 「うぉぉぉーーーーっ、ホントに何もわからねえぇぇーーー!!」(カズキ) そんな叫び声がトレーニングルームから聞こえてくる。 行ってみるとカズキの奴が、「プリンス オブ ダークネス」が着けていた物と同じデザインのバイザーを着けてヨロヨロと歩いていた。 だが、その様子を愕然とした表情で見守っているガイ、リョーコちゃん、ヒカルちゃん、イズミさん。 「す、すんげ……」(ガイ) 口々に感嘆の言葉を発する四人。事情の知らない俺にはサッパリだ。 「お〜〜〜い、なんか誰か来てねえか〜〜〜〜〜!!」 そうカズキに言われてキョロキョロと周囲を見渡した四人は、ようやく俺の存在に気付く。 「「なんで分かったんだテメーーー!!」」「「なんで分かったの!?」」 ……そんなに脅威的な事をやらかしてるのか、コイツ? まあ、あの火星最大の神秘「クホンブツ タイシ」と同じ産湯に浸かったとも言われるこの男、普段はタイシのおかげで普通人に見えるがその実相当に人間離れしている。 ま、本人は全身全霊をもって「俺は普通の人間だっ!!」と主張しているが、俺に言わせればそんな寝言、ノミのクソほどの説得力も無い。 「なあみんな、何がそんなに凄いんだ?」 とはいえ、今のままじゃみんなが何に驚いているのかサッパリ分からない。 「あのバイザーって、着けてる人の五感を封印するんだって… ヒカルちゃん本気で怯えてるよ…余程バイザーを着けていた間の事が怖かったらしい。 しかし……これは俺にはチャンスなのかも知れない。 「過去」においては、今の俺とほぼ同等の力を持つ北辰が木連最強だったが、「現在」でもそうだとは限らない。 なら……何があっても、それに対応できるだけの力はあった方がいい。 だが、このバイザーを使った鍛錬ならどうだろうか? そう考えた俺は、カズキからバイザーを借りて着けてみる。 視覚…………何も見えない真っ暗闇。 凄いな。 そして、改めて「プリンス オブ ダークネス」の凄さを思い知る。 「ん、なかなか良い感じだな。気に入ったよ、このバイザー。」 俺が(多分)そういうと、みんなが呆れている気配がしてくる。 「悪いが、このバイザーは俺のだ。やるとは言ってねえぞ。」 …………そういえば、誰の持ち物か聞いてなかったな。 Side Kazuki アキトお前な、いきなり人の物を持ち逃げしようとするなよな。 それでも、アキトの奴はこのバイザーをメチャクチャ欲しがり……結局、ウリバタケさんに同じ物を作ってもらう、という線で落ち着いた。 しっかしなあ、頼みに行った時に分かった事だけど、あの説明書に書かれていた「同志セイヤ」がウリバタケさんだったとは…… で、もうすぐ火星だっていう今現在、俺はバイザーを着けた状態でなんとか日常生活が送れるくらいにはなった。 ちなみに、アキトはバイザー着けたままでガイ、ヒロユキ、リョーコ、ゴートさんの四人がかりでもお話にならないくらいに強くなっている。 あと、他のみんなもバイザーを使ってのトレーニングを積んでいるようだ。こっちはヒロユキがようやく歩けるくらいってところだ。 でもアキトの流派って一体何なんだろうな? Side Jun さてと、火星まであと一週間か。 俺がそんな事を考えながら無人のブリッジで伸びをしていると、カシワギが入ってきた。 「よう。」 カシワギの用事か……大体は察しがつく。 「アオイ、お前一体何者なんだ?」 俺は、嘘を許さないカシワギの視線を、まっすぐ見据えてそう応じる。 「だが、俺がそれで納得できると思うか?」 俺は躊躇ったが……コイツは信用できる相手だし、この事はいずれ言わなくてはならない。 「……ネルガル重工所属機動戦艦ナデシコ副艦長で同艦長ミスマル ユリカの幼馴染。 そして、俺は「あの」テンカワ達が決して言わなかった決定的な一言を口にした。 「俺はアオイ ジュンさ。 けど、お前やユリカの知っている男じゃない。」 Side Kouiti 聞かなかった方が良かったのかもしれない。 目の前にいる男はアオイを殺した男。 まるで「馬と豚のどっちが勝つ?」というナゾナゾをしているような感覚。 そして、奴はこことは違う「ユリカが艦長をしているナデシコ」から事故でここに来たと聞いた。 事故ならば奴には非はない。そんな事は分かっている。分かっているが…… 「憎んでくれても、俺は一向に構わない。」 俺の考えている事を読み取るかのようにそう言う「アオイ ジュン」。 「だが、俺達の諍いでナデシコを沈めるワケにはいかない。 それは、俺とアオイと、どちらに向けられた言葉だったのだろう…… 「お前は、全てが終わった後どうするつもりだ?」 その一言で、俺はコイツを殺す気が失せた。 だが、お前は本当にそれでいいのか? そして、お前のその暗さはなんだ? Side Ruri みなさん、どうもです。ホシノ ルリです。 艦長と副艦長の人間関係は無事修復されたようですが、どうもお二人とも暗いです。 更にいえば、そもそもの始まりである、副艦長の「俺は違うかもしれない」発言は一体何だったのでしょうか? オモイカネのデータベースをひっくり返してみても分からない事が多すぎます。 初めて見た時は単なるその他大勢な方だと思っていたのですが、意外に謎の人物です。 「ちょっとルリちゃん、趣味悪くない?」 そんな事を考えていると通信士のメグミさんがそういってきました。 「そうでしょうか?」 「やっぱりそう思いますか?」 シリアス一直線の艦長と副艦長を余所に、わたし達はそんな「バカばっか」な会話をしてました。 と、いよいよウリバタケさん達のクーデターが勃発します。 このクーデター、原因は契約書の最後にある一文なのですが、それをはじめて見た時のわたしは、 「………………………バカ?」 そう思ってしまいました。 このクーデター、敵も味方もバカばっかです。 Side Akito ああ、そうか。そういえばもうこんな時期だったっけな。 それにしてもプロスさんって凄いよな。 そんなことを考えながら、俺はアサルトピットからブリッジでの押し問答を観戦していた。 「ブリッジの騒動をゆっくり観戦したいんだよ。」 の一言でお咎めなし。 ……いいのか、本当に………… なんかユリカまでクーデターに参加しているが、俺は最近アイツの「アキトアキト攻撃」は食らっていない。 さて、「過去」ではここで木連の攻撃があったが、今回はどうだ? ドォォォン…… おお、来た来た。 それじゃ、ま、一暴れしてきますかっ!! Side Jun 「クーデターは終わりだ!! 最初の揺れが収まったのと同時に俺の口から放たれた言葉は、ブリッジに一瞬の静寂を与えた後、 「博士! 俺達の機体は整備できているか?」 ブリッジが慌しく動き始めた。 そして、既に出撃しているエステバリスが一機。 カラーリングが施されていない、透明な錆止めを乱暴に塗っただけのエステバリス。 「ブリッジへ、勝手に出撃した詫びは後でいれる。 テンカワはそういうと、近づいてくるバッタを片端から撃ち落す。 バッタ達の攻撃はナデシコにかすりもしない。 その後、クーデターに参加していなかったセンドウとイズミさんが出撃し、程なくして他の四人も出撃していく。 その後の展開は一方的だった。 前々回ナデシコを敗走させた、あれが出てくるまでは。 Side Kazuki 戦艦一隻相手にチューリップ3基ってのはちょっとはしゃぎすぎじゃないか? それに対して、こちらは火力が絶対的に足りない。 アキトの奴はさすがに強いが、この物量差はそれ以上に大きかった。 更に厳しい事に……今現在、戦場に立っているのは俺とアキト、そしてリョーコの三人のみ。 ガイはバッタに囲まれて、たこ殴りにされている所をアキトに救出されたが、その時に結構な打撃を受けて現在修理中。 ヒカルちゃんもイズミさんもまあ似たような物だ。 そしてヒロユキは……リョーコを庇ったからだ。 まあ、正直言って今現在、戦況はジリ貧。 どうすればいいんだ……? そう考えながらも敵機を潰し、敵の注意を引きつけながら戦っていると、ウリバタケさんから通信が入る。 「今はテンカワもリョーコちゃんも前に出てて、コイツを受け取れるのはお前だけか…」 「違う!! 違うんだよセンドウ!! 俺が副艦長の発案で ウリバタケさんがそういって射出した物は…エステサイズの剣のツカ? とりあえず受け取ってはみたものの、使い方がよくわからん。 「使い方は簡単。エステでバッタを殴ったりする時、ディストーションフィールドを拳に集中させたりするのを応用して、ディストーションフィールドをそのツカから伸びる刃の形に収束させる!! それだけだ!!」 簡単過ぎるよ、その説明……しかもそれだと防御力が下がらないか? とりあえずやってみる……するとそこに全長200メートル程の真紅の刃が生まれる。……収束率、低っ!! もっと収束させるか。……今度はやりすぎたらしい。 「センドウ、その黒いのを投げろ!! 早く!!」 いきなり副艦長から通信が入る。 アキトが右翼、リョーコが左翼と戦っているので、敵艦隊の中央に向けて黒い何かを投げつける。すると…… パッ!! 黒い物は射線上の全てを、敵艦隊中央部をものの見事に消滅させていった…… 「……マジか…?」 しかも、一緒にチューリップも消えてなくなっていた為、形勢逆転。 俺達は何とか勝つ事ができた。 しかし…… 「あ、危なすぎるぞ、コレ……」 第七話「火星-闇との邂逅-」に続く あとがき DFSのお披露目とか、ジュンの立場とか、ウリバタケ印のバイザーとか色々詰め込んで見た今回です。 アオイ ジュン時の流れに仕様はやっぱ暗い……とばっちりを食ったカシワギ艦長ご愁傷様でした。 あと、各パイロットのパーソナルカラーですが さて、次回ですがブラックサレナ達との合流と、とんでもない強敵との遭遇戦です。 |
代理人の感想
わかった、「黒の王子様」ですね(笑)?
理性のたがを外して狂ってしまった時ナデアキトがDFSでナデシコを破壊、クルー全滅。
ああ、なんて暗いラスト・・・・・え、違う?