明日も知らぬ僕達
第拾話 コスモスからきた男
Side Ruri
「………結局、「過去」と同じ事態になりましたよ。」
「しょうがないよ。
玉砕覚悟で敵に突っ込もうとした連中を、黙らせるにはこれしかなかったんだから。」
「……決して「過去」の副提督の行動を、参考にしたわけではない。
そうおっしゃりたいんですか?」
「…嘘です。ルリちゃん、ごめんなさい。俺、嘘つきました。
「過去」のユリカちゃんの行動を、思いっきり参考にしました。」
「分かれば良いんですよ、艦長。」
あの火星でのチューリップを使ったジャンプの後、私達が出現したのは2ヶ月後の月付近でした。
ま、ありていに言いますと、第四次月攻略戦のど真ん中。
「過去」のナデシコが火星から帰還した時の戦闘です。
火星にいた期間が違っていても、そこから帰ってくるタイミングは変わらなかったみたいです。
クルーが皆で仲良く寝ていたのも、「過去」と一緒みたいです。
ちなみに、艦長や副提督といった火星出身者の方々とイネスさんは、何故か展望室で寝ていました。
ま、どうせこれも「過去」でもあった事でしょう。
別に船外に放り出されたワケでもありませんし、構う事はないでしょう。
で、意識を取り戻した私は、艦長に連絡をとり、指示を仰いだのですが……
グラビティブラスト広域放射ですか?
何故、「過去」の副提督が大目玉を食らったのに、わざわざ同じ行動をとったんです?
そう思って、詰め寄ってみた結果が先の会話なんですが……
ま、艦長は副提督よりも物を考えていたらしく、連合宇宙軍艦隊の鼻先を掠めるくらいの気配りはしていたみたいですが…
連合宇宙軍の被害も、「過去」よりも全然少ないですしね。
もっとも、それでも連合宇宙軍から苦情が来て、ナデシコ改だけで戦う羽目になりましたけど。
Side Ryo-ko
さてと、ひっさびさの実戦だ。
勘は鈍っているとは思わねぇ。
それどころか、あいつ等の鍛錬に巻き込まれて、かえって研ぎ澄まされている位だと思う。
「おいテンカワ、β!! お前等、ブラックサレナとブローディアは使わないのか?」
ちなみにこのブローディア、どういうワケだか知らねえが、β以外の奴だとどうやっても動かせない。
そのおかげで、ブローディアはβ専用機になっちまってる。
「ああ。ブラックサレナやブローディアの事は、軍の連中にも、もう少し秘密にしておきたいからな。」
「……ムネタケっつったっけ? ソイツが乗ってくるのに、か?」
「そのムネタケなんだけどな……どうもコウイチさん、ムネタケを味方に引き込むつもりらしいんだ。」
「……マジか? 俺、艦長の正気を疑っちまうぜ。
第一、あんなの味方にしてどうするつもりなんだ?」
「さてね。コウイチさんにはコウイチさんなりの考えって奴があるんだろ。
それよりも、俺達は俺達の仕事をこなさなくちゃな。」
「そうだな。
……スバルリョーコ、起動シーケンス完了!! 出撃する!!」
「テンカワアキト、スーパーエステバリスタカスギカスタム出る!!」
そう言って、出撃した俺とテンカワを皮切りに、ナデシコ改エステバリス隊は出撃していった。
でもよ、テンカワ。秘密にしておきたいんだったら、スーパーエステなんかもヤバイんじゃないのか?
ま、スーパーエステまで封印するとβの奴があぶれちまうんだけどよ。
「……思ってたよりも楽に落せるな。」
「バッタのパワーアップは予測済みだったし、ラピットライフルなんかも強化しておいたから、当然っていや当然だな。」
「で、前のラピットライフルだとどうなるんだ?」
「うぉ〜〜〜っ!
やられメカの分際で、このダイゴウジガイ様の攻撃をしのぐとは、やるなっ!!」
「あ〜〜なる。」
「なるほど。」
「あのバカ、何強化前のラピットライフルなんか持ち出してんだ?」
「丸腰よりはマシだろ? 前のラピットライフルでも、倒せないこた無いんだし。」
「だな。」
……妙に実感がこもっていたな。
にしても、この数!!
グラビティブラストはチャージ中、DFSはブラックサレナなんかと一緒に封印している今現在だと、結構厳しいぞ!!
と、その時、見知らぬカラーリングのエステバリスが戦場に姿を現す。
「君達、下がりたまえ!! ここは危険だ!!」
コイツがアカツキって奴か? ……ってぇ事は……
その直後、幾筋もの黒い閃光が走り、無人兵器を飲み込んでいく!!
ドゴォォォォオォォォォオッ!!
「敵、2割方消滅しました。」
「ヒュゥ、やるな。」
「第二波感知。」
これがナデシコ二番艦「コスモス」の、多連装グラビティブラストの威力か……
その後、俺達の出番はなく、コスモスの多連装グラビティブラストの前に無人兵器軍は壊滅していった。
Side Akito
さてさて、アカツキの登場か……βの奴、自制できればいいんだけどな。
まあ、あの4ヶ月間、悪いのはネルガル前会長と社長派の連中だって、口を酸っぱくして言っておいたけど…
アカツキは、まあ悪い奴じゃないし、それにこれから先、必要になってくる人材だ。
だから、ここでβにどつかれてご臨終、ってのは避けたい。
「やあ、はじめましてナデシコの諸君……で良いんだよね?
なんか艦の形が出航時と違うけど……」
あ、そういやそうだったな。
「ええ、この艦はナデシコで良いんですよ。」
「いや、今のこの艦の名はナデシコ改だっ!!」
「ナデシコ改?」
まぬけ面で聞き返すアカツキ。
「火星で洒落にならない強敵に襲われてな、大破しちまったナデシコを改造強化したんだ。」
「へぇ。だからナデシコ改……ねえ。
でもどこで改造してたの?」
「火星にあるドッグだ。」
……嘘は言ってないぞ、嘘は。
「ふ〜〜ん。まあいいや。これ以上聞いても教えてくれなさそうだし。
あ、そうそう、自己紹介がまだ途中だったね。
僕の名前はアカツキナガレ。コスモスから来た男さ。」
無意味に歯を光らせるアカツキ。
歯が光る原理がちょっと気になるけど……
ま、それはそれとして、お前の聞きたい事はいずれ教えてやるよ。
お前が充分に、ナデシコに馴染んだらな。
Side Kouiti
さてと、今後の対策……か。
俺達にとってはもう半年近く前の議題で、既に結論が出ちまってるんだけどな……
と、言うわけで、「過去」や「二度目」とは比べ物にならないほどすんなりと、俺達の軍編入は決定した。
「過去」と同じく皆をブリッジに集めたのは、アカツキ等の新顔に不審がられない為と、最終確認の為だ。
それにしてもアカツキ…お前さん、ミナトさんはまだ良いとしても、北斗を口説くとは肝の座った奴だな。
ちなみに、結果は勿論轟沈。その直後、アカツキをどつこうとした北斗は、アキトに抑えられた。
助かったなアカツキ。どつかれてたら、死んでたぞ。
Side β
「アカツキ……ナガレ………何の用だ?」
あの4ヶ月の間に、俺はアキトから「過去」の事を聞いた。
勿論、俺(正確には「プリンス オブ ダークネス」)の両親が、ネルガルによって殺された事も。
そのネルガルのトップが、今、俺の目の前にいる。
アキトからコイツ自体はそう悪い奴ではない、だから殺すな、と釘を刺されている為、手を出すつもりはない。
そうは言っても、殺気を抑えるつもりにもなれず……
「や、やあ。あ、あは、あは、はははは。」
この程度の殺気で、そこまでビビるか……お前、本当にネルガルのトップか?
話が進まないので、とりあえず殺気を抑える。
大体この殺気自体、草壁一派への殺意に比べると全然弱い代物だ。
簡単に抑えられる。
「はぁはぁ……こ、こわいね君。」
「悪い、少し殺気立ってたからな。で、何の用なんだ。」
「い、いやね。
ナデシコのクルーに、ナデシコが軍に編入される事について、どう思ってるのか聞きたくてね。
特に君は、聞けば火星からの難民だって言うじゃないか。」
軍……か。俺にとって軍なんて奴は、嫌悪の対象でしか……なかった。
が、ジュンから聞かされた「二度目」の出来事は……別に軍は、俺の嫌いな人種ばかりで構成されているワケではない、と思い知らせた。
フクベ提督なんかが良い例だ。この人の性根が腐り果てているなら、そもそも贖罪など考えもしないだろう。
それに、考えてみれば、ミスマルのおじさんだって軍人なワケだし。
お上の腐り方が尋常でないのは大問題だが、だからといって軍自体を嫌ってしまっては、腐っていない軍人達に失礼という物だろう。
「……火星を見捨てたのは軍だが、一人でも多くの民間人を救おうとした軍人もいる。
俺は「軍」だから、って理由で嫌う事は止めたよ……納得するのに、随分時間を食ったがな。」
実際のところは、まだ納得しきれてはいない。
だが、ここでナデシコを降りれば、草壁達に復讐する術を放り出す事になる。
それを考えれば、軍への編入なんか問題じゃない。
「へぇ……思ってたより冷静なんだね。」
「狂気と憎悪は、他に回さないといけないんでね。」
「…………僕に向けないでね。その狂気と憎悪。」
「お前が敵にならなければ、な。」
と、コミュニケが開く。
「β、ロンゲ、迎撃戦だ!! はやく格納庫に来いっ!!」
それを聞いた俺は、
「どちらにしろ、今を生き延びる必要がある。行くぞ。」
と、アカツキに告げ、格納庫へと向かっていった。
「ああ、そうだね……」
Side Akatuki
いや〜〜、三途の川って本当にあるんだね。
さっき見えたよ。 対岸で母さんと兄さんが手を振ってたっけ……
β君って言ったっけ。 僕は、彼の殺気だけで死にかけたよ……
この歳でネルガルの会長なんかやってるから、肝は座っている方だと思ってたんだけどね。
はぁ〜〜〜、自信なくすな……
ところで……
「ねぇ、あの機体は使わないの?」
「え? ああ、ありゃ「秘密兵器」だからな。
そうおいそれとは使えねぇんだよ。」
「ふぅ〜〜〜ん。」
「それに、両方共個人の私物な物でして……」
「私物……? 機動兵器が?」
どういう私物なんだい、それって。
「黒い方が俺の。鈍い銀色の方はβの持ち物だ。
勝手に調べようとすんなよ。」
「そ、そうなんだ……でも、どこで手に入れたんだい?
個人で機動兵器………しかも見た事のないタイプを所有しているなんて、普通じゃないよ?」
……あれ? なんで皆驚いた顔をしてるんだ?
「見た事のないタイプ」で、一斉に驚いていたけど………
「アカツキ。鈍色の方に見覚えは?」
「? ないよ。」
「じゃ、じゃあ、木星蜥蜴のエステバリスタイプってのは、聞いた事ないか?」
「ないけど……どうしたんだい?」
「い、いやなんでもないよ。」
「気になるなぁ〜〜〜。」
「ま、後で話してやるよ。ところで、出撃準備はできてるだろうな?
まだ出撃してないのは、お前とβだけだぞ。」
「え、ああ、もうできてるよ。
β君も出たみたいだし、それじゃあ僕も出撃させてもらうよ。」
うわぁ〜〜〜、みんな動き良いねぇ〜〜〜。
これだけのパイロットを集めてくるだなんて、流石プロス君、良い仕事してるよ。
特に、テンカワ君、β君、センドウ君。
どういう腕してるのかねぇ、全く。
まさか、僕が一番弱いとは思わなかったよ。
Side Kouiti
「過去」や「二度目」と違って、はぐれたパイロットはいないようだな。
βがバッタ恐怖症で動きが鈍くなった場面はあったけど、「過去」みたくそのまま流されたりはしなかったし。
さてと、次は……
「は〜い、皆さんお久しぶりね〜」
コイツだ。
「過去」でも「二度目」でも憎まれ役で、「過去」に至ってはガイを殺した奴だが、別に死ぬ必要がある程悪い奴じゃないだろう。
それぞれの死因を考えるに、根っこの方からの悪人でもなさそうだし……
連合宇宙軍の正義を信じすぎた為に、その暗部に耐えきれなかった憐れな男。
ひょっとしたら「過去二回」のコイツは、腐った上層部の典型的な被害者だったのかも知れない。
なら、やるべき事はただ一つ。死に逝くさだめから助けてやる事だ。
この「3度目」の世界では、ガイは生きているのだから。
その為には、色々とヤバめな手札を見せてやる必要があるかもしれないが、それを知ってしまったら、俺達と一蓮托生だ。だから、この際関係ないよな。
「誰ですか、あなたは?」
……こらルリちゃん。
「あ、相変らずねホシノルリ。
アタシは今度からナデシコの提督になった、ムネタケサダアキよ!!
今後はビシバシと、このナデシコを鍛えていくからね!!」
コイツ、階級の割にフットワークが軽いんだよな。
ま、軽く見られてる証拠でもあるんだけど……
でも、そのフットワークと高い階級を併せ持っているのは、結構強力な武器だ。
味方に引き込む価値は充分ある。
ま、今の金切り声で、「助けるのどうしようかな〜〜」と、ちらって思ったのは俺だけの秘密として。
ムネタケの隣にいた女性が、自己紹介を始める。
「はじめまして、ナデシコの皆さん。
私の名前はエリナ・キンジョウ・ウォンです。
これからは副操舵士として、ナデシコに乗らせてもらいます。」
……俺やユリカちゃん、アキトにカズキなんかを品定めする様に見るエリナ嬢。
そういえばアキトの奴、A級ジャンパーの事、もう話しちまったって言ってたっけな。
ま、彼女の方は、今日のところは放っておくか。 とりあえず、今回はムネタケだ。
「どうして会長秘書が直接乗り込んで来るんです?」
打ち合わせ通りのプロスさんの一言。
半分以上本音が入っているだけに、打ち合わせしたセリフだと見破るのは困難だろう。
ましてや、言っているのはプロスさんだしな。
とりあえず、アカツキやエリナ嬢には「過去」や「二度目」の事は伏せておこう、という事になっている。
ま、いずれは話す事になるけどな。
これには、プロスさんやゴートさんの了解も取り付けてあるから、彼等からアカツキ達に漏れる事はないはずだ。
この後は概ね和やかに解散となった。
「ちょっと提督、お時間戴けませんか?」
「え? 別にかまわないけど、何の用かしら?」
……嫌味つけて言ってくれるな。 助けたくなくなるだろうが。
ま、それはともかく、まずは不自然ではない話の振り方をしなくちゃ、な。
となると、話題は……これで、どうだ?
「いえ、ちょっとご協力していただきたい事がありまして」
「協力? 面白い事言うわね。 一体何をさせるつもりなのかしら?」
「ちょっと、軍とのパイプになってもらいたいんですけど……
勿論、タダで、とは言いませんよ。」
「まちなさい!! あんた、頼む相手を間違えてるわよ!!
そういう事をやらせたいのなら、ミスマルユリカを通じて、ミスマル提督に頼みなさいよ!!」
ああ、コンプレックス……だけじゃないか。
確かに、普通に考えれば、ミスマル提督位の大物でなければつとまらないもんなぁ。
ま、それ以前にコイツが俺達に対して、敵対心を持っているのもあるよな。
にしても……俺って交渉ヘタだよな……
プロスさんあたりにでも頼めば良かったかな………もう遅いけど。
「いえ、コイツはあなたにしか頼めないんですよ。
確かに、軍への影響力はミスマル提督の方が、あなたより格段に上でしょう。
ですが、その分身動きが取れないんですよ、あの人は。」
「……で、アタシ?
いくら手近にいるからって、アタシがあんた達の為に動くとでも思ってるの?
それに、そもそもアタシには、そんな事できっこないわ。」
「無能だから、ですか?
周りに軽く見られてるから、ですか?」
「………半分Yesで半分Noね。
「無能だから」ではなくて、「周りが、実際は優秀なアタシを、無能呼ばわりするから」よ。」
本気で助けたくなくなったぞ、オイ。
このまま放置して、「過去」や「二度目」みたいに犬死してもらおうかな……
………って、ダメだダメだ。
「そーんな事言っちゃって、自分でも分かってるんだろ?」と言いそうになる口を……
「……しっかり言っているわよ。
ハッキリ言ってくれるわね、あんた。 本気でアタシと交渉するつもり、ある?」
……………………………
「しまったぁぁぁあぁぁ―――っ!」
「で、あんた、何で自分が無能だって思っている相手に、パイプ役なんてやらせようとしたのよ?
参考までに、聞いておいてあげるわ。」
「……え? ああ、はい。 パイプ役になってもらいたい理由ですね。
あなたは、周りから軽く見られているおかげで、フットワークが非常に軽く、危険視もされていません。
だからこそ、もう一度ナデシコに戻ってこれたわけでしょう?
そして階級も、少将と結構高い。人望のなさは、これである程度カバーできるはずです。
軽いフットワークと、少将と言う地位を併せ持ち、しかも、方々からのマークが甘い。
これは、上手く活用できれば、非常に有効な武器になります。
そのあなただけの武器を、少し貸してもらいたいから、ですね。」
「アタシだけの、武器……ね。」
コイツ、コンプレックスの塊だったはずだから、「自分だけの武器」って言葉は充分な殺し文句になる筈だ。
実際、今、脈があったし。
もう一押しと行きたい所だが、ジンシリーズって物的証拠がないと、戦争の裏話しても信じてくれ無さそうだし、今回はこれが限界、かな?
ジンシリーズ登場までに「正義」って奴に関して、一度じっくり考えてもらわないと、結局コイツ死ぬけど……
ま、今日はそんな風に話を持っていけそうにないし、とりあえず……
「ま、とりあえず、気が変わってパイプ役を引きうけてくださるのなら、何時でも言ってください。」
「……そんなこと、有り得ないわね。」
今日のところはこれでおしまい、だな。
本格的に味方に欲しくなるのは優人部隊が出張って来てからだし、それまでは気長に行こう。
Side Akatuki
「あなたまで乗ってくるなんて、意外ね。」
そう、エリナ君は僕に言う。
「テンカワ君に興味があったからね。
ジャンプに関して少なくとも僕等以上に詳しく、そして……」
「そして、何よ?」
「機動兵器を個人で所有してるんだよ、彼。」
「…………………え?
でも、それだったらサクリファイス・βだって……」
「β君のブローディアって機体ね、木星蜥蜴からちょろまかした機体らしいよ。
ナデシコを大破させた強敵って、あれの同型機らしいし。」
「そ、それじゃあ、ひょっとしてナデシコクルーって……」
「プロス君に聞いてみたけど、どうやらその心配はなさそうだよ。」
「そ、そう?」
「でも、アキト君のブラックサレナはハッキリ言って出所不明だ。
本人は、昔使っていたエステバリスに追加装甲を着せた物、って言っているけど眉唾ものだね。」
「だからって、俺を叩いても、ホコリなんか出やしないぞ。」
「うわっ!!」「きゃっ!!」
「ど、何処から出てきたんだい!!」
「入口から。結構最初の方からいたんだけど……」
「「き、気付かなかった……」」
「だろうな。ところでお二人さん、もうジャンプの実験をする必要はないぞ。」
「どういう事よ。」
テンカワ君、エリナ君との付き合い方、判ってないね。
ま、今日会ったばっかりだし、その辺はしょうがないか。
「こういう事。」
そう言いながら、アキト君はコミュニケを開く。
『あら、何の用かしら、アキト君。』
「いえね、まだネルガルの方じゃ、ボソンジャンプの人体実験やっているみたいなんですよ。
ですから、貴方からこの二人に、もうその必要がないって事を詳しく説明してもらおうと思いまして。」
て、テンカワ君? 君、僕に恨みでも有るのかな?
ああ〜〜っ、地獄の蓋が、地獄の蓋が開く音がする〜〜〜っ!!
『判ったわ♪それでは、判りやすく丁寧に、かつコンパクトに説明するわね♪
あ、そうそう、二人とも逃げようとしても無駄よ。』
ああ、終わった…………
ああ、生きているって素晴らしい……
イネス君ったら、莫大な情報量を口頭と図解で延々説明してたからな……
アキト君なんか途中で避難しちゃうし………
「アカツキ君、しっかりしなさい。」
「……エリナ君、復活早いね……」
「そりゃあ、私にもそれなりの専門知識はあるから……」
「そういや、そうだったね。
それにしても凄いねぇ、テンカワ君。どこからこんな情報を手に入れたんだい?」
「お前、俺の両親の死因がなんだったか知ってるよな。
だったら、俺がこの位の情報を持っていたって、不思議じゃない筈だが?」
「……………そういう事にしておくよ。つっこむと怖そうだ。
……エリナ君、今後のボソンジャンプの実験は全面的に停止だ。
どんなに実験したところで、テンカワ君がもっている以上の成果は出せないだろうし。」
「………判ったわ。
残念ね。せっかく火星出身の旧友に協力を取り付けたところだったのに……」
「へえ、エリナ君の旧友ねぇ……」
「私の学校の先輩と、そのまた先輩。
先輩はマキムラミナミって言って……」
「……そのまた先輩はサワイマキコ?」
「……なんで知っているのかしら?」
あれ? アキト君、難しい顔してるね。
「ふ、二人ともカズキの奴の女だ……」
「「へ?」」
「エリナさん良かったですね。
実験して、それがカズキにバレたら、貴方死んじゃってましたよ。」
「そ、そんなこと……」
「いやぁ〜〜、人間キレると、本気で怖いからなぁ……」
「こ、怖いぐらいが何よっ!!」
「……助かって良かったね、エリナ君。」
「アカツキ君!!」
エリナ君は、気丈に言ってるけどね。
僕、今日β君の怖さで死にかけてるから、口が裂けても「怖いぐらいが何だ!!」って言えないんだよ。
ごめんね。
「でも良いのかい?
僕達にそんな簡単に、ボソンジャンプのデータ見せたりしちゃって。
テンカワ博士は、ネルガルにボソンジャンプのデータを渡そうとしなかったから、ああなったのに……」
「まあ、そうなんだけどよ。
この戦争をとっとと終わらせる為には、こうした方が良いって思ったからな。」
「へぇ。」
「それにボソンジャンプのデータなしに、ボソンジャンプの対抗策なんか作れやしないし、な。」
「「へ?」」
「なあアカツキ。ネルガルの方で、ボソンジャンプに対する対抗策を開発してみてくれないか?」
「ど、どういう事なのかな? なんで、ボソンジャンプの対抗策なんて、必要なんだい?」
『それについては私から話すわ。
木星蜥蜴は、物資の輸送にボソンジャンプを使っている形跡があるの。
だから、ボソンジャンプを封じる手立てができれば、その輸送路を断つ事ができるわ。』
「で、それで何のメリットがあるワケ?」
エリナ君、不満そうだね。
ま、ネルガルとしては戦後ボソンジャンプの技術を独占したいし、そうなるとボソンジャンプの対抗策って邪魔になるから、当然といえば当然の反応かな?
『まず、チューリップに対して使えれば、チューリップの口から出てくる敵の増援を断つ事ができるわ。
これだけでも、連合にとっては非常にありがたいはずよ。』
「良い商売になるぞ、アカツキ。」
そう言われると心が動くなぁ。
「参考までに聞くけど、断ったらどうなるのかな?」
『ネルガルにアキト君のデータが渡らないだけよ。
流石に今の説明、全部覚えているワケじゃないでしょ?』
「……………」
「だったら、言う事なんか聞く必要ないわね。
イネス・フレサンジュ、あなたもデータをもっているんでしょう?
それをこちらによこしなさい!! 会長秘書としての命令よ!!」
「いや、エリナ君、僕、この申し出受けるよ。」
「アカツキ君!!」
「エリナ君、僕はね、ネルガルの会長として、テンカワ君の申し出を受けるよ。
ボソンジャンプの独占だなんて、絵に描いた餅よりもよほど現実的だし、今の戦況を考えれば、上がる利益も相当な物だからね。」
「そんなっ!」
「それにオーバーテクノロジー、五年は先を行っている技術が手に入るんだ。
僕としては、現行技術でのボソンジャンプの独占なんかより、よほど魅力的に見えるけど?」
第一、やり口が強引だった父さんからの引継ぎだったからね、ボソンジャンプの独占って。
これだけの物を独占しようっていうんだ。
当然波風は立つし、テンカワ夫妻みたいな犠牲者も出てくるだろう。
だから、正直言ってあんまり気が進まないんだよ。
「重役達が、納得してくれるとでも思っているの?」
「ま、まあそうなんだけどさ、なんとかしていこうよ。」
「なんとかってね!! そんな事だから、社長派が突き上げてくるのよ!!」
「その社長派なんだけどな、消したいから殺っていいか?」
「「は?」」
そのテンカワ君の一言に、僕等の目は点になった。
テンカワ君の方を見る。
……間違いなく本気の目だ。先ほどのβ君を彷彿とさせる殺気を放っている。
……………怖い。
「ああ、え、と、ここで彼等を殺したら、君、テンカワ夫妻を殺した父さんと同じになっちゃうよ?」
「………判った。ただ、βの奴は殺りたくて殺りたくてしょうがないらしいんだが……」
「ま、まあ、説得してみるよ。彼等にだって、親もいれば子供もいるだろうし、ね。」
「甘い奴だな。だが、嫌いじゃない。」
「褒め言葉として受け取っておくよ。」
まあ、彼等のやり口に思うところがないわけじゃないけど、ねぇ。
でも、ここで「殺していいよ」って言うのは、少し違う気がする。
甘いのは判ってるんだけどね。
と、虚空にコミュニケが開く。 画面上にはホシノルリ君が映ってる。
何の用だろう?
『テンカワさん、お話終わりましたか?』
「……今、終わったところ。
ルリちゃんも、アカツキ達に話があるのかい?」
『はい。アカツキさん達に、少しお願いがあるんですけど……』
「ええと、何かな?」
『ネルガルの秘密研究所に、「ラピス・ラズリ」というマシンチャイルドがいる筈です。
彼女をナデシコ改に乗せてくれませんか? 私、妹が欲しいもので……』
「…!! ちょっとまって!!
マシンチャイルドの研究は、僕が会長になった時に止めさせた筈だ!!」
『それが、どうやら貴方に内緒で、研究している人がいるみたいなんです。
ナデシコ出航のちょっと前に、たまたま見つけたんですが………』
「………判った。調べさせてみるよ。
貴重な情報ありがとう。」
『いえいえ。それよりも……』
「ああ。君の話が本当だったら、そのラピス君をナデシコに乗せてあげるよ。」
『ありがとうございます。』
と言って、彼女はコミュニケを閉じた。
「一体誰だろうね。僕に内緒でそんな事をしていたのは?」
「社長派の誰か、じゃないのか?」
「いや、それはそうなんだけどさ……」
Side Akito
俺はアカツキ達と別れて、トレーニングルームに向かっている。
それにしても……
「ルリちゃん、イネスさん。
よくもまあ、ああもスラスラと……」
『あら、私は本当の事しか言ってないわよ?』
『私だって、妹が欲しい、っていうのは本当ですし……』
「ナデシコ出航のちょっと前にたまたま見つけた、ねえ……」
『テンカワさんが、正直で嘘をつくのがヘタなだけです。』
「そういう事にしておくよ。」
ちなみに、その後、俺は北斗にボコボコにされた。
アカツキを殴ろうとして止められたのが、気に食わなかったらしい。
第拾壱話「氷雪に閃く紅刃」に続く
あとがき
策謀してますアキト君。今回は彼の独壇場でしたね。
コウイチ君も、残り二人の主人公を差し置いて、目立ちまくりですし。
さてさて、彼のムネタケ救済&抱き込み計画、果たして上手く行くのでしょうか?
それと、リョーコ嬢やエリナ嬢といったヒロイン候補。
彼女等の活躍の場は……ひょっとしたら無いかもしれません。
肝心のアキト君に、まるっきり女っけがありませんから。
先の事は判りませんが、当初の予定ではこのアキト君、最後まで独り者にするつもりでしたから……
βは、まあ北斗がいますし、カズキに至っては論外……
ガイはヒカルちゃんで安定ですし、ヒロユキは、ちょっとヒロインとくっつくって展開には、し辛い設定にしてありますので……ラブコメって展開は無理っぽいです。
で、どうしましょうか、彼女達(汗)。
弱音を吐いちゃいけないのは判っているんですが……
で、ユリカの今後ですが……正直迷っています。
って、代理人様のご指摘がなければ、気付かずに流していた問題なんですけどね。
とりあえず、今のところ、自分の中では
本命:ジュンとくっつく
対抗1:コウイチとくっつく
対抗2:独り者←指摘される直前は、こうするつもりでした。
穴:アキトとくっつく
大穴:βを追っかけまわす←これが当初の予定でした
ってところですかね。
それでは誤字脱字の指摘、感想などをお待ちしております。
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