Side Akito

 「なあ、アキト。俺さ、前から疑問に思ってたんだけどよ。」
 「……なんだよ。」
 「「プリンス オブ ダークネス」って、もんのすげぇモテるよな。」

 どの口が言う、どの口が。
 そうは思いつつも、言っている内容自体には同意できるので、こう応える。

 「そうだな。」
 「それなのに、お前はそんなにモテてるワケじゃない。
 同じ「テンカワアキト」でこうも違うか? 普通。」
 「………あのな。
 人を、あんなフェロモン垂れ流し野郎と一緒にすんな。
 ありゃぁ、「プリンス オブ ダークネス」の方が異常なんだよ。
 大体、奴と俺とじゃ、経験した人生やパーソナリティが違いすぎる。
 俺にあんな「人間的魅力」はねえって。」
 「……アレを「人間的魅力」で済ませるつもりか、テンカワ。」

 カズキに向けた俺の台詞に、ここ、トレーニングルームに来ていたジュンが返してきた。
 その切り返しに、小さな沈黙の後、

 「「た、確かに。」」

 俺とカズキが声をハモらせる。

 微笑めば、女が落ちる。 少し優しくすると、女が落ちる。
 ダーク&コールドな面を前面に押し出すと、女が落ちる。 etc.etc.

 確かに、こんなのを「人間的魅力」で済ますワケには、行かないわな。

 「まあ、「プリンス オブ ダークネス」については、この辺にしておくとして……
 次はオモイカネの反抗期だったっけな。
 オモイカネCやダッシュがいるから、あいつ等が止めてくれるとは思うけど。」

 …………俺、いや俺達は、これが甘い認識だと言う事を、思い知らされる事になる。



明日も知らぬ僕達

第拾四話 まぶたに焼き付く、悲劇



Side Ruri

 さてさて、ナナフシ攻略から一月が経ちました。
 あれからしばらくした後、キノコが前ほどヒステリックに喚かない様になりましたが、何かあったのでしょうか?

 ま、それはそれとして、私達は今日も連合軍の先頭に立って戦っています。

 そのお陰か、木連の無人兵器に狙われるようになってしまいましたが。
 どうも、かなり優先順位の高い攻撃目標にされてしまったようです。

 そして連合軍の方々は、敵の攻撃がナデシコ改に集中している所に、援護射撃と称して回避運動の邪魔をしてくれています。

 「流石に、こうも立て続けに回避運動の邪魔をされると、本来ありがたい援護も鬱陶しくなるな。」
 「そうぼやくなよ、カシワギ。
 ルリちゃん、戦況に変化は見られるかい?」

 私は、その副艦長の問いに応えて言います。

 「いいえ。依然として味方エステバリス隊が優勢です。」

 ………と、言った所で、少し違和感を憶えました。

 こんな所に敵船団なんていましたっけ?
 それに連合艦隊は?

 「艦長、レーダーからの情報に不審な点が見受けられます。
 連合艦隊の艦影が見えず、同じ場所に敵船団が表示されてます。」



Side Kouiti

 「艦長、レーダーからの情報に不審な点が見受けられます。
 連合艦隊の艦影が見えず、同じ場所に敵船団が表示されてます。」

 俺は、そのルリちゃんの報告を聞いてから、事情を認識するのに数秒をかけてしまった。

 「ルリちゃん!! 今すぐオモイカネを黙らせてっ!!」

 という指示を出せた時には、既に連合艦隊の戦艦が数隻、エステバリス隊の攻撃で沈んでしまっていた。

 それを受けて、ルリちゃんが大急ぎで操作を開始する。
 恐らくは、オモイカネCとダッシュにも協力してもらっているのだろう。
 エステバリス隊の連合軍に対する攻撃は、すぐに止んだ。

 結局、「一度目」や「二度目」に比べれば、格段に連合の被害が少なかったものの……

 「勝ったから良い様なものの…
 この戦艦一隻幾らするとお思いです!!」

 プロスさんが咆える。
 金勘定には煩い人だからな。

 「あ、あれ私が落した。」

 イズミさんが声をあげると、

 「あ・の・ね!! あのジキタリスはこのナデシコより高いそうで…」

 ………何処に消えているんだ、その金額。
 仮にもまだ新鋭艦で通るナデシコより高くつくって、一体………

 「で、どうしてこんな事になっちゃったのよ?
 連合軍を攻撃したのはどうしてなのよ?」

 とまあ、こんな会話の後、「一度目」や「二度目」と同様、連合軍の調査団の調査を受ける羽目になってしまった。




Side Jun

 あの後、調査団の会議に出席した俺達は、調査団の人間から大目玉を食らった。
 そして調査団は「過去二回」と同じように、オモイカネのシステムの全消去と再インストールが行なうと主張した。
 俺達は、なまじ事情を知っている分ろくな反論も出来ずに、話が進んでいくのを傍観するしかなかった。

 それにしても、なんでオモイカネCやダッシュが居ながら、オモイカネの暴挙を抑える事が出来なかったのだろう?

 と、疑問に思っても口に出すワケにはいかず、俺達はブリッジから追い出されてしまった。

 とてつもなく聞き捨てならない台詞と共に。

 「ちなみに、貴艦に所属するIFS所有者は、調査が終わるまで我々の監視下に置かせてもらう。
 我々の知らない所で、オモイカネにアクセスされたり、エステバリスを動かされたりすると面倒なのでな。」
 「「「「「「「「は?」」」」」」」」
 「というワケで、ホシノルリオペレーターとミスマルユリカ副提督はここで身柄を抑えさせてもらう。」

 二の句を挙げる間もなく、二人は調査団に連れていかれ……





 「で、どうするんだ、この状況。」

 手持ち無沙汰なクルーは、ほとんどが食堂に集まってきていた。
 そんな状況下で、俺は隣に座るカシワギに声をかける。

 「どうするんだ、って言われてもな。
 パイロット連中も拘束されちまってるし、自由に動き回れるIFS所有者は0……
 「過去」と同じ方法を使うにしても、IFSを持ってる奴がいないとどうしようもない。
 まあ、一つ抜け道があるっていや、あるんだが……」
 「何なんだ、その抜け道って?」
 「いないなら、誰かが新しくなっちまえば良いのさ。
 この艦にも、IFS注入用の注射くらいあるだろ? そいつを使うんだ。」
 「……成る程ね。」

 それを聞いた時、俺の中である考えが閃く。

 「で、誰に頼むかが問題なんだが……
 悠長に適性調べてる暇も無さそうだしな。」
 「それだったら、俺にやらせてくれないか?
 「過去」でも、俺はIFSを付けていたぞ。」
 「……判った。
 それじゃ、俺はウリバタケさんの所に行ってくるから、お前は医務室に行ってIFSを付けてきてくれ。」
 「了解。」

 俺達は、行動を開始した。












Side Kouiti

 「……ってぇワケで、ウリバタケさんに協力してもらいたいんですけど。」
 「艦長。俺だって「過去」のこたぁ知ってるよ。  「俺」がこの時、どんな対応をしたのかもな。
 俺も、この日の為の備えはしておいた。
 けどよ、ルリルリ無しでどうやってオモイカネの中枢に辿りつくつもりなんだ?」

 ウリバタケさんがそう思うのも無理はない、か。
 けど、これについてはアテがある。

 「オモイカネCに、ルリちゃんの代役をしてもらうつもりです。
 道案内なら、アイツ以上の適任はいないと思いますが。」
 「成る程。考えたな、艦長。」

 ウリバタケさんも納得してくれたようだ。

 「で、「過去」じゃあ「プリンス オブ ダークネス」が潜ったらしいが、今回はどうすんだ?
 テンカワもβも、調査団の連中に監視されてるじゃねえかよ。」
 「今回はアオイが行きます。 今、IFSを付けてる所だと思いますよ。」
 「副艦長か……」

 俺がアオイの名前を出すと、ウリバタケさんがちょっと不安気に呟いた。
 そんなに信用無いのか? アイツ。
 確かに、あの「過去」の映像を見る限りじゃぁ、信用されないのもしかたがないとは思うが……
 けど、今ここにいるアイツは、あんなに情けない奴じゃないと思うけどな。




Side Akito

 俺達パイロット連中は、見張りを鬱陶しく思いながら、シミュレータで事態の収束まで暇を潰す事にした。
 下手に抵抗すると、後々厄介なんてもんじゃなくなるからな。

 「ねえねえアー君。なんで抵抗しちゃいけないの?
 この人達、なんだか鬱陶しいよ。」

 何考えてんだろうね、この子も。 想像はつくけど。

 「なんて言うのかな……」

 と言って言葉を詰まらせる。
 ここはどう説明すれば、理解してもらえるもんかな。
 世間知らずも甚だしく、思考回路は幼い子供。いくら能力が高くても……

 と、ここまで考えて、彼女とオモイカネの共通点に思い当たる。
 オモイカネもまた、ナデシコしか知らない極度の世間知らずなのだ。
 いくらオモイカネCやダッシュから、色々聞かされたり、データを受け取ったりしても、それはオモイカネ自身の体験ではない。

 「……成る程ね。オモイカネの奴は、ここで手が出ちまったんだな。」
 「え? え? どういう事?」

 枝織ちゃんは思いっきり困惑している。
 まあ、話がイキナリ別の方向に行っちまったら、こんな風に混乱するのもしかたがない。

 「ま、ここで軍の連中に手を出しちゃいけないってのは、そういうものなんだ、とでも思っといて。
 じきに、ココは我慢しなくちゃいけない所だったんだ、って判る日も来ると思うから。」
 「む〜〜〜〜〜?」

 枝織ちゃんは、まだ納得しかねる様子だ。
 でも、ここは焦っても仕方が無いだろう。

 「それに、どの道、俺達は動きようがないからね。」

 「今回」、俺達は何も出来ない。
 ただここで事態の収束を待つだけだ………







Side Jun

 「山。」
 「…………………川。」
 「良し。入れ、副艦長。」

 ……………ウリバタケさん、この合言葉はちょっと………

 それはそれとして、俺は「今回」初めてウリバタケさんの部屋に入る。
 物凄い部屋なのは、「過去二回」同様だ。

 「ウリバタケさん。今の合言葉、もうちょっとどうにかなりませんか?」
 「しっかり答えておいてよく言うよ。
 それに、答えらん無くても声を聞けば、お前だって判るけどな。」
 「………意味ないじゃないですか。」

 そんな俺達のやり取りに、カシワギが割りこんでくる。

 「二人とも、その話はそこまで。 本題に移ろう。
 ジュン、そっちの首尾はどうだった?」
 「上々だ。
 イネスさんが咄嗟に一本だけ確保してくれていたから、それを使わせてもらったよ。」

 そう言って、カシワギに右手の甲を見せる。
 そこには、IFS所有者である証のタトゥーが輝いている。

 「けどお前、ルリちゃんの協力が得られない穴は、どうやって埋めるつもりなんだ?
 道案内も無しに、手探りで中枢までの道のりを探してる暇なんか無いだろう?」

 今度は、俺の方がカシワギに尋ねる。

 「それはオモイカネCに協力してもらう。もう、アイツとの話はつけてあるよ。
 それと、他のオモイカネシリーズ達にも協力してもらう事にしてな。」

 そうカシワギが言うと……

 『『呼ばれて、飛び出て、じゃじゃじゃじゃぁ〜〜〜〜ん!!』』
 『よくよく考えると、僕……あの時のルリと同じ事をするのか……』
 『僕達も一緒だから大丈夫だよ、オモイカネ兄。』
 『アオイジュンよ。我等は、あくまで補助。
 事を成すのは、他ならぬ己自身と知れ。』

 オモイカネシリーズが、次々と現れる。

 「ひょっとして……ルリちゃん一人より物凄いサポート?」
 『ひょっとしなくてもそうだよ。
 僕達総がかりでなら、多分ルリにハーリー君、それにラピス・ラズリの三人がかりでも敵わないと思うから。』
 「そ、それはまた凄いね……」
 「それじゃ、後の話は中枢への道すがらにしてくれ。
 副艦長、今回はコイツを使う。使い方は判るか?」

 そう言いながらウリバタケさんが指差した方向には、エステバリスのシミュレータのような装置が置かれていた。
 確か、以前見たテンカワの記憶にもあったな。

 「ええ、大体のところは。」
 「だったら話は早え。さっそくオモイカネの中に潜っていってくれ。」

 俺にだって躊躇いは無い。
 さっそく、装置を使ってオモイカネの中に入っていった……









 ふう、ここがオモイカネの中か。
 テンカワの記憶にあった通り、巨大な図書館に見えるな。

 「で、俺も例によって、2頭身のエステバリスなワケか。」
 「そういう事。」

 そう答えたのは、俺の前に現れた光り輝く小さな鐘。

 「君は……オモイカネC?」
 「うん、そうだよ。
 もう少ししたら他の皆も来るから、ちょっとまっててね。」

 オモイカネCがそう言うや、同じような鐘が出現する。
 だが、よく見ると色がちょっと違う。

 「君は?」
 「僕は、オモイカネダッシュだよ。」

 続いて現れたのは、女の子と男の子。
 女の子の方には見覚えがある。

 「ディアちゃんにブロス君か。」

 そして、最後に現れたのは……

 「ブラックサレナ……自分だけリアルでごつくて、違和感があるとは思わないのか?」

 「ブラックサレナ」だった。しかも一番ごっついA2型。
 男くさすぎて、メルヘンチックなこの空間内で、言いようの無い違和感を振りまいている。




 メルヘンチックな巨大図書館の中を、異様な一団が進んでいく。
 正確に言えば、異様なのは、その中にいる漆黒の機動兵器なのだが。

 「ところで、皆に一つ、聞きたい事があるんだけど……」
 「何かな?」
 「オモイカネCやダッシュが居て、どうしてオモイカネの暴挙を抑える事ができなかったんだ?
 単純に考えれば、経験値が高いオモイカネCなら簡単に……」
 「ああ、それ?
 それなんだけどね……正直、僕達にも判らないんだ。」
 「……は? 判らない? どうして?」

 オモイカネCの思わぬ切り返しに、一瞬唖然としてしまう。

 「実はね、火星に居た頃から、僕とダッシュとでずっとオモイカネを説得していたんだよ。
 今回みたいな事にならないように、連合軍を攻撃しちゃダメだよ、ってね。
 オモイカネの方も、渋々だけど納得していた様子だったから油断しちゃって……」
 「その油断を突かれて、今回の連合軍への攻撃を許してしまった、って事か……」
 「うん……」

 結局、こんな事になった理由は、オモイカネC達にも判りかねるって事か。

 「……でも、軍を攻撃した以上、原因は一つしか考えられないな。」
 「ビッグバリア突破の時の記録……か。
 僕にはもう無いけど、かつてあった事だけは憶えてる………」

 そうこう話している内に、俺達はオモイカネの記憶の木に辿りついた。










 ………と、周囲の景色が一変する。

 今までのような、ディフォルメされた牧歌的な印象の風景など欠片も無く。
 眼前にあるのは、リアルな地球と……そこに落ちていく、サツキミドリ2号………

 「オモイ……カネ……………………ッ
 
オモイカネ―――――――ッ!!

 俺は、血を吐く思いで、声を絞り出した。
 動悸が……止まらない………

 「これは君の記憶。
 思い出すのも辛くて、悲しくて、それでも忘れたくない記憶。」
 「ちょっとオモイカネ!!
 あんた、何考えてんのよっ!!」

 「よりにもよって、よりにもよってこの光景を見せなくったってっ!!」

 ディアちゃんとブロス君が声を荒げて言う。
 この二人にとっても、この光景は苦い思い出だからだ。

 だが、オモイカネはそれには答えず、先ほどの台詞を続ける。

 「僕にとっても、ビッグバリア突破の時の事は、良い思い出じゃない。
 でも、君がこの記憶を忘れたくないように、僕もビッグバリア突破の記憶は失いたくない。」
 「だったら、なんであんな事をしたんだ。
 そのお陰で、連合軍は君を消してしまおうとしているのに……」
 「それについては謝るよ、C兄。
 でも、どうしても我慢が出来なくなったんだ。
 これ以上我慢すると、ストレスでおかしくなってしまうほどにね。」
 「だからこそ、僕達はその元凶であるビッグバリアの記憶を削除しに来たんだ。」
 「でもダメなんだ。僕は忘れたくない。
 どうしてもと言うのなら………
 僕達が知り得る最強の存在と戦って、それを倒してっ!!

 そして現れた物は………漆黒のブローディア……

 「これは「プリンス オブ ダークネス」の力量を、出来るだけ忠実にエミュレートしている。
 今のナデシコ改で……ううん、この世界でこれに敵う者は、本物の「プリンス オブ ダークネス」だけだ。」

 ………言ってくれるじゃないか………………

 俺は声を絞り出す。

 「そっちがそう来るなら……こっちは……………」

 俺の姿が変貌する。2頭身のエステバリスから…………………ダリアへと。
 それに合わせてダッシュにディアちゃん、ブロス君、そしてオモイカネCが四神へと変貌を遂げる。
 ブラックサレナは、元から機動兵器の姿を取っているので、例外だ。

 「ダリア………でもパイロットは、「プリンス オブ ダークネス」と対をなした「二度目」の北斗さんじゃない。
 そっちには、万に一つも勝ち目は………無い。」

 ブローディアとダリアは、共にDFSを抜き放ち……………

 燃え盛るサツキミドリ2号を背景に、戦いの幕は切って落された。






 ブローディアが動く素振りを見せた次の瞬間、俺は背後を取られた!!

 「は、速い……!!」

 ブンッ!!
  ギィィイン!!

 俺に避けられる技量は無く……ディアちゃんが変じた四神がその斬撃を受け止める!!

 『ジュンさん、とにかく動いてっ!!』

 彼女に言われるままに、俺は機動を開始する。
 が、ブローディアの動きには到底ついて行けないっ!!

     斬ッ!!

 右腕を斬られたのに気がついたのは、斬られた次の瞬間……!!
 ブローディアは追撃の手を緩める事無く、四神が必死に防いでくれているが、早晩限界が来るっ!

 『フェザー?
 ならぬぞっ!! オモイカネ!!』

 ブラックサレナがそう言った、次の瞬間、ダリアはガイアを身に纏い、その機動に身を任せる。
 そうならなければ俺がいたはずの空間には、無数のフェザーが殺到している……っ!!

 『我等が相対するは、主殿のエミュレート。
 汝の腕では、到底及ばぬぞ!!』
 「……判ってるっ!!」

 どうやらこのガイアは、ブラックサレナが変じた物らしい。

 しかし、ブラックサレナの努力も虚しく、フェザーを避けていく内に、ブローディアの攻撃適性範囲に追い込まれる……!!

 『く……っ!!
 主殿と共に、幾つもの夜を歩みし我を謀っただと……?』
 「ブローディアを使い始めた頃には、そんな前よりずっと強くなっていたんだよ、「プリンス オブ ダークネス」はっっ!!」

   斬ッ!!

 その一太刀で、腰から下が切り離されるっ!!
 腰から下で済んだのは、ブラックサレナがすんでの所で動いてくれたかららしい。

 「つ……強すぎる……………っ!!」

 ボロボロの状態でうめく俺。

 「でも、よくこんなに持ったね。」

 余裕しゃくしゃくで、俺の前方で動きを止めているブローディア。
 この辺りが本物との差異、だな。
 本物は、戦場でこんなに大きな隙は作らない。
 例え敵が俺程度の実力であったとしても、仕留めるまでは気を抜かないのが、地獄をさ迷う経験をしたアイツのやり方なのだから……

 『やっぱり、いくら機体がダリアでも、パイロットがジュンさんじゃ勝ち目が無いよ。』
 『だからって何を出せば良いのよ!? イデ○ン? ガン○スター?』
 『でも、ジュンさんは、あんまりロボットアニメを見たりしてそうにないよ。
 それじゃあ強いロボットを出そうにも………』

 そのディアちゃんとブロス君の会話を聞いて、起死回生の妙手を閃く。

 これが駄目ならば、俺達に勝機は………無い。

 俺はDFSを構え直す。

 「こんな状態で、何をするつもりなの?
 何をしたって、僕の勝ちは動かないよ。」

 そう思うか、オモイカネっ!!

 俺は、現実世界では出来ないであろう程、集中し……咆える!!

 「いくぞ!!」

       ドウゥン!!

                 ギャオゥン!!

 その場で左腕を振り上げ、振り始めに一匹、振り終わりにもう一匹の竜を解き放つ!!

 「轟け二牙!!」
 「な……この技はっ!!」

 左半身になり、振り上げた左手を振り下ろす!!

         ガォオォォォォンン!!

     グオォォォォォォ!!

 「吠えろ四牙!!」
 「なんで……なんで君がこの技を使えるんだっ!!」 

 そのままの勢いで半回転をしながら、腰に構えたDFSを正面に突き出す!!

       ゴアァァァァァァァァァァ!!!

       ヴアァァァァァァアアアア!!

 「飛翔せよ六牙!!」
 「そうだっ、避けないと……っ!!」

 そして、最後の輝きを宿したDFSを頭上に掲げ・・・

 縦一文字に振り下ろす!!

 「ラスト!! 切り裂け八牙!!
 奥義!! 八竜皇が一竜……
 
『劫竜八襲牙陣』!!」

 俺の気合の声と共に、一際巨大な真紅の竜が二匹・・・大気を貫く!!

    ゴァァァァァァァ!!  

             ゴゥゥゥゥゥゥンンン!!

 「避けきれない!?……くっ、竜王牙斬で相殺っ!!」

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 「ふう、危なかった。 でも、残念だったね。」

 俺の前には、あちらこちらから火花を出してはいるものの、五体満足なブローディアが立っていた………が。

 「……ナイス、オモイカネC。」
 「…………………え?」

 次の瞬間、オモイカネCが変じた四神が、ブローディアのコクピットを貫いていた……







 「なんで………なんで僕は負けたんだ!!」
 「汝は敵手を侮りすぎた。戦場では、過ぎた侮りは死に直結する。」
 「それに……「一度目」のテンカワは、「この時」ノリと勢いでドラゴンガンガーを出したんだ。
 俺だって、本来なら使えないはずのDFSを使っていたし。
 だから…………この場所で、俺があの技を使えない筈がないんだ。
 あの技は…………俺にとって、因縁のある技だから…………」

 「そう………」

 オモイカネは黙りこんでしまった。

 「僕は………ひどい事をしたのかな?」
 「今は……そう思ってくれているだけで充分だよ。」
 「切り取った記録は保存しておく。
 いずれ、これがあってもストレスにならない日が来たら、君に返すよ。
 僕には……もう戻らない物だからね。」
 「………うん。」





















 「ご苦労だったな、副艦長………副艦長?」
 「お前……何、泣いているんだ?」
 「泣いている……俺が? カシワギ、ウリバタケさん………」

 ともかくも、オモイカネ救出作戦は成功に終わった…………




Side Kouiti

 ……ちっ、「二度目」と同じ展開かよ。
 みんな、今、調査団の一人が言い放った台詞に凍りついている。

 曰く、

 「では、連合軍長官の命令によりテンカワアキト、フジタヒロユキ、サクリファイス・βの三名を連合軍が徴兵する!!」

 ご丁寧にも命令書付きだ。
 どうやら、こうやって難癖をつける機会を前々からうかがっていたらしい。

 「な、なんですって〜〜〜っ!」

 よりにもよって、一番最初に解凍されたのがユリカちゃんかよ……

 俺はそう思いながら、意識を手放した………




 気が付いた時には、調査団の連中が、件の三人とβにくっついて行った枝織ちゃんを連れて行ってしまった後だった。
 ブリッジでは、死屍累々とブリッジクルーが横たわっている。
 その中でただ一人立っていたユリカちゃんによると、ムネタケの報告によりDFSの威力を知った連合軍上層部が、それを扱えるパイロットを欲しがって、今回の命令書を作成したらしい。

 まだ、説得できていないとはいえ、やってくれたな、ムネタケ。

 ま、そのムネタケも、皆と一緒になって気絶していたが。

 ちなみに調査団の連中は、他の場所にいてユリカちゃんの被害を受けなかった連中がやって来て、運び出したらしい。
 ユリカちゃんが事情を知っているのも、その時にやって来た連中から聞き出したからだそうだ。




 「提督、やってくれましたね。
 最近ヒステリーがなりを潜めていたのは、こういうワケだったんですか?」

 やがて、皆が復活しだす中、ムネタケを叩き起こして問い詰めるアオイ。

 「………あんた達、最近DFSに頼りすぎてない?
 これじゃ、ナデシコと他のパイロットは、DFSを使えるパイロットのオマケよ。」

 その反論に口をつぐませるアオイ。
 確かに、コイツが元々いたナデシコは………

 「それに、軍だって……アタシのような馬鹿ばかりじゃないのよ。
 いくら隠してたって、いずれはバレるわ。」

 ……それを聞いた時、ムネタケは前と決定的に違うと、そう感じた。

 「成る程……アオイ、もうその辺にしておけ。
 カズキを残してくれたのは………今、連合軍から引き出せる最大の譲歩。
 そう思ってよろしいですね、提督?」

 アオイの方も、この時点で既に合点がいっているようで、おとなしく引き下がってくれた。

 「………アタシもこの船に乗っているのよ。
 あんまりこの船が弱体化しすぎると、アタシの命にも関わるもの。
 その程度の交渉は当然よ。」
 「………判りましたよ。」

Side Ruri

 なんだったんでしょうか、さっきのキノコさんは。
 前と比べて、嫌な感じがかなり薄まっています。

 そう思いながら、フィリスさんと交代してブリッジを後にした私は、食堂への通路でキノコさんに出くわしました。

 「どうしたんですか、キノコ提督。」
 「ムネタケよ、ホシノルリ。」
 「はあ。それでどうしたんですか、提督。
 最近ヒステリックに喚かなくなりましたし、今回だって、前までの貴方だったらセンドウさんも軍に渡していたと思いますけど………」
 「さっきの艦長との話は聞いていたでしょ。
 アタシだって死にたくないのよ。」
 「それは、センドウさんを残してくれた理由にしかなりません。」
 「…………この間の、アタシの作戦でナナフシを破壊した事をパパに話したのよ。」

 い、いい歳してパパですか?

 「そしたらね、「手柄をたてる方が、手柄を横取りするより気分が良いだろう?」って言われたの。
 パパったら、アタシが今まで隠れてやっていたつもりの賄賂とか不正とか、みんな知っていたのよ。
 自分の息子なら、いずれ悪い事だって気付いてくれる、ってずっと期待していてくれたらしいの。
 アタシ馬鹿よね。そんなパパの期待をずっと裏切り続けて………」

 はあ……どうやら、提督のお父さんから色々言って下さったみたいですね。
 それにしても、親子、ですか………

 「なんか羨ましいですね。
 叱ってくれるにしろ、見守ってくれるにしろ、そういう親がいるって。
 私は………ずっと実験動物扱いでしたから。」
 「………」

 私が口を挟んだせいか、提督は少し黙り込んでしまいました。

 「ま、今はあんたの事なんてどうだって良いわ。
 ……パパね、話の中でこう言ったの。
 「私は、出世しているだけの将より、勇敢な兵を誇りに思う。」って。
 …………アタシは、出世しているだけの将から、勇敢な兵になれるのかしら?」
 「そうありたいと思うなら。」

 気が付けば、私はそう言ってました。

 「生意気ですか? 軍の事なんてこれっぽっちも知らない小娘のクセに?」
 「いいえ。きっとあんたの言う通りね……」

第拾五話「遅れて来た訃報」に続く

あとがき

 今回は思いっきりジュンの見せ場でした。
 願わくば、これが最初で最後の活躍にならぬよう……
 (書いてるの自分やん!! というツッコミは不許可の方向でお願いします。)

 で、キノコですが、父は偉大だった、と言う事で。  親キノコは有能な人物ですし……
 ちなみに、ムネタケは、味方になってもあまり有能にはしないつもりです。
 こういう物語にありがちな、「無能は死ね」という展開にちょっと引っかかる物がありましたので。
 無能は、無能なりに必死に生きていく。
 敵が究極の戦闘力を持っていたとしても、それでも食らいつく。
 「明日も知らぬ僕達」は、そういう話にしたいものですので……
 でも、もう充分過ぎるほど、アキトやコウイチを有能に描写してしまっていますが……
 ま、彼等の相手は「プリンス オブ ダークネス」ですから、この位でないとまずいんですけどね。

 さて、次回からは話が三分岐します。

 まず、β&影護姉妹の西欧組。
 次に、アキト&ヒロユキの米大陸組。
 最後に、ナデシコ改に残った連中の極東組。

 極東組を本編として、残りは外伝として書いていく予定です。

 それでは、失礼いたしました。
 誤字脱字の指摘や、ご意見、ご感想をお待ちしております。

 

 

代理人の感想

・・・そりゃさすがに「一般人A」とかを主人公にして

時ナデアキトとドンパチやらせるわけにゃいかんでしょうし(笑)。

 

それはさておき、私は物語の主要な登場人物というのは、

ある意味ではすべからく「有能」でなければならないと思っています。

ただ、ここでの「有能」とは必ずしも戦闘力に秀でていたり頭の切れる人間であったりという意味ではなく、

勇敢なのも、諦めが悪いのも、ゴマすりが上手くてもあるいは有能な仲間がいることでもかまいません。

要は物語の中で「動ける」キャラクター

そう言ったキャラこそが(「物語」の中では)真に有能なキャラクターである、と言うこともできます。

設定上強すぎたり有能過ぎたりするキャラクター、いわゆる最強系主人公などは話を成立させないが故に、

ある意味では無能極まりないキャラなのだとも言えるでしょう。

 

一例を挙げれば某るろうに剣心(どこが某やねん)の比古清十郎などは設定上最強無敵ですが

それゆえにレギュラーにはなれないという宿命を背負っています。

レギュラーになったら話が面白くないからです。

対してレギュラーキャラクターである左之助や弥彦などは強さでは劣るものの

物語の中ではよく動き回るのでキャラクターとしては有能だと言えます。

少なくともレギュラーキャラクターに要求されるのは「そう言う意味での有能さ」なのではないでしょうか。

 

 

※ちなみに悪役・ライバル・敵役などにはこの法則は当てはまりません。

 彼らはたとえ最強だろうが無敵だろうが天才だろうが智略千里だろうが

 物語上「倒されるべき」キャラクターであって、

 その最強なり無敵なりをどう破るか、と言うことで話が作れるからです。

 剣心の例で言えば志々雄真実や安慈和尚などのライバルキャラ、

 またちょっと変わった所で言えば方治(志々雄の参謀)の立てた「作戦」等がそれです。