Side Akito 「なあ、アキト。俺さ、前から疑問に思ってたんだけどよ。」 どの口が言う、どの口が。 「そうだな。」 カズキに向けた俺の台詞に、ここ、トレーニングルームに来ていたジュンが返してきた。 「「た、確かに。」」 俺とカズキが声をハモらせる。 微笑めば、女が落ちる。 少し優しくすると、女が落ちる。 確かに、こんなのを「人間的魅力」で済ますワケには、行かないわな。 「まあ、「プリンス オブ ダークネス」については、この辺にしておくとして…… …………俺、いや俺達は、これが甘い認識だと言う事を、思い知らされる事になる。 明日も知らぬ僕達 第拾四話 まぶたに焼き付く、悲劇
さてさて、ナナフシ攻略から一月が経ちました。 ま、それはそれとして、私達は今日も連合軍の先頭に立って戦っています。 そのお陰か、木連の無人兵器に狙われるようになってしまいましたが。 そして連合軍の方々は、敵の攻撃がナデシコ改に集中している所に、援護射撃と称して回避運動の邪魔をしてくれています。 「流石に、こうも立て続けに回避運動の邪魔をされると、本来ありがたい援護も鬱陶しくなるな。」 私は、その副艦長の問いに応えて言います。 「いいえ。依然として味方エステバリス隊が優勢です。」 ………と、言った所で、少し違和感を憶えました。 こんな所に敵船団なんていましたっけ? 「艦長、レーダーからの情報に不審な点が見受けられます。
「艦長、レーダーからの情報に不審な点が見受けられます。 俺は、そのルリちゃんの報告を聞いてから、事情を認識するのに数秒をかけてしまった。 「ルリちゃん!! 今すぐオモイカネを黙らせてっ!!」 という指示を出せた時には、既に連合艦隊の戦艦が数隻、エステバリス隊の攻撃で沈んでしまっていた。 それを受けて、ルリちゃんが大急ぎで操作を開始する。 結局、「一度目」や「二度目」に比べれば、格段に連合の被害が少なかったものの…… 「勝ったから良い様なものの… プロスさんが咆える。 「あ、あれ私が落した。」 イズミさんが声をあげると、 「あ・の・ね!! あのジキタリスはこのナデシコより高いそうで…」 ………何処に消えているんだ、その金額。 「で、どうしてこんな事になっちゃったのよ? とまあ、こんな会話の後、「一度目」や「二度目」と同様、連合軍の調査団の調査を受ける羽目になってしまった。
Side Jun あの後、調査団の会議に出席した俺達は、調査団の人間から大目玉を食らった。 それにしても、なんでオモイカネCやダッシュが居ながら、オモイカネの暴挙を抑える事が出来なかったのだろう? と、疑問に思っても口に出すワケにはいかず、俺達はブリッジから追い出されてしまった。 とてつもなく聞き捨てならない台詞と共に。 「ちなみに、貴艦に所属するIFS所有者は、調査が終わるまで我々の監視下に置かせてもらう。 二の句を挙げる間もなく、二人は調査団に連れていかれ……
手持ち無沙汰なクルーは、ほとんどが食堂に集まってきていた。 「どうするんだ、って言われてもな。 それを聞いた時、俺の中である考えが閃く。 「で、誰に頼むかが問題なんだが…… 俺達は、行動を開始した。
Side Kouiti 「……ってぇワケで、ウリバタケさんに協力してもらいたいんですけど。」 ウリバタケさんがそう思うのも無理はない、か。 「オモイカネCに、ルリちゃんの代役をしてもらうつもりです。 ウリバタケさんも納得してくれたようだ。 「で、「過去」じゃあ「プリンス オブ ダークネス」が潜ったらしいが、今回はどうすんだ? 俺がアオイの名前を出すと、ウリバタケさんがちょっと不安気に呟いた。
俺達パイロット連中は、見張りを鬱陶しく思いながら、シミュレータで事態の収束まで暇を潰す事にした。 「ねえねえアー君。なんで抵抗しちゃいけないの? 何考えてんだろうね、この子も。 想像はつくけど。 「なんて言うのかな……」 と言って言葉を詰まらせる。 と、ここまで考えて、彼女とオモイカネの共通点に思い当たる。 「……成る程ね。オモイカネの奴は、ここで手が出ちまったんだな。」 枝織ちゃんは思いっきり困惑している。 「ま、ここで軍の連中に手を出しちゃいけないってのは、そういうものなんだ、とでも思っといて。 枝織ちゃんは、まだ納得しかねる様子だ。 「それに、どの道、俺達は動きようがないからね。」 「今回」、俺達は何も出来ない。
Side Jun 「山。」 ……………ウリバタケさん、この合言葉はちょっと……… それはそれとして、俺は「今回」初めてウリバタケさんの部屋に入る。 「ウリバタケさん。今の合言葉、もうちょっとどうにかなりませんか?」 そんな俺達のやり取りに、カシワギが割りこんでくる。 「二人とも、その話はそこまで。 本題に移ろう。 そう言って、カシワギに右手の甲を見せる。 「けどお前、ルリちゃんの協力が得られない穴は、どうやって埋めるつもりなんだ? 今度は、俺の方がカシワギに尋ねる。 「それはオモイカネCに協力してもらう。もう、アイツとの話はつけてあるよ。 そうカシワギが言うと…… 『『呼ばれて、飛び出て、じゃじゃじゃじゃぁ〜〜〜〜ん!!』』 オモイカネシリーズが、次々と現れる。 「ひょっとして……ルリちゃん一人より物凄いサポート?」 そう言いながらウリバタケさんが指差した方向には、エステバリスのシミュレータのような装置が置かれていた。 「ええ、大体のところは。」 俺にだって躊躇いは無い。
ふう、ここがオモイカネの中か。 「で、俺も例によって、2頭身のエステバリスなワケか。」 そう答えたのは、俺の前に現れた光り輝く小さな鐘。 「君は……オモイカネC?」 オモイカネCがそう言うや、同じような鐘が出現する。 「君は?」 続いて現れたのは、女の子と男の子。 「ディアちゃんにブロス君か。」 そして、最後に現れたのは…… 「ブラックサレナ……自分だけリアルでごつくて、違和感があるとは思わないのか?」 「ブラックサレナ」だった。しかも一番ごっついA2型。
メルヘンチックな巨大図書館の中を、異様な一団が進んでいく。 「ところで、皆に一つ、聞きたい事があるんだけど……」 オモイカネCの思わぬ切り返しに、一瞬唖然としてしまう。 「実はね、火星に居た頃から、僕とダッシュとでずっとオモイカネを説得していたんだよ。 結局、こんな事になった理由は、オモイカネC達にも判りかねるって事か。 「……でも、軍を攻撃した以上、原因は一つしか考えられないな。」 そうこう話している内に、俺達はオモイカネの記憶の木に辿りついた。
今までのような、ディフォルメされた牧歌的な印象の風景など欠片も無く。 「オモイ……カネ……………………ッ 俺は、血を吐く思いで、声を絞り出した。 「これは君の記憶。 ディアちゃんとブロス君が声を荒げて言う。 だが、オモイカネはそれには答えず、先ほどの台詞を続ける。 「僕にとっても、ビッグバリア突破の時の事は、良い思い出じゃない。 そして現れた物は………漆黒のブローディア…… 「これは「プリンス オブ ダークネス」の力量を、出来るだけ忠実にエミュレートしている。 「………言ってくれるじゃないか………………」 俺は声を絞り出す。 「そっちがそう来るなら……こっちは……………」 俺の姿が変貌する。2頭身のエステバリスから…………………ダリアへと。 「ダリア………でもパイロットは、「プリンス オブ ダークネス」と対をなした「二度目」の北斗さんじゃない。 ブローディアとダリアは、共にDFSを抜き放ち…………… 燃え盛るサツキミドリ2号を背景に、戦いの幕は切って落された。
ブローディアが動く素振りを見せた次の瞬間、俺は背後を取られた!! 「は、速い……!!」 ブンッ!! 俺に避けられる技量は無く……ディアちゃんが変じた四神がその斬撃を受け止める!! 『ジュンさん、とにかく動いてっ!!』 彼女に言われるままに、俺は機動を開始する。 斬ッ!! 右腕を斬られたのに気がついたのは、斬られた次の瞬間……!! 『フェザー? ブラックサレナがそう言った、次の瞬間、ダリアはガイアを身に纏い、その機動に身を任せる。 『我等が相対するは、主殿のエミュレート。 どうやらこのガイアは、ブラックサレナが変じた物らしい。 しかし、ブラックサレナの努力も虚しく、フェザーを避けていく内に、ブローディアの攻撃適性範囲に追い込まれる……!! 『く……っ!! 斬ッ!! その一太刀で、腰から下が切り離されるっ!! 「つ……強すぎる……………っ!!」 ボロボロの状態でうめく俺。 「でも、よくこんなに持ったね。」 余裕しゃくしゃくで、俺の前方で動きを止めているブローディア。 『やっぱり、いくら機体がダリアでも、パイロットがジュンさんじゃ勝ち目が無いよ。』 そのディアちゃんとブロス君の会話を聞いて、起死回生の妙手を閃く。 これが駄目ならば、俺達に勝機は………無い。 俺はDFSを構え直す。 「こんな状態で、何をするつもりなの? そう思うか、オモイカネっ!! 俺は、現実世界では出来ないであろう程、集中し……咆える!! 「いくぞ!!」 ドウゥン!! ギャオゥン!! その場で左腕を振り上げ、振り始めに一匹、振り終わりにもう一匹の竜を解き放つ!! 「轟け二牙!!」 左半身になり、振り上げた左手を振り下ろす!! ガォオォォォォンン!! グオォォォォォォ!! 「吠えろ四牙!!」 そのままの勢いで半回転をしながら、腰に構えたDFSを正面に突き出す!! ゴアァァァァァァァァァァ!!! ヴアァァァァァァアアアア!! 「飛翔せよ六牙!!」 そして、最後の輝きを宿したDFSを頭上に掲げ・・・ 縦一文字に振り下ろす!! 「ラスト!! 切り裂け八牙!! 俺の気合の声と共に、一際巨大な真紅の竜が二匹・・・大気を貫く!! ゴァァァァァァァ!! ゴゥゥゥゥゥゥンンン!! 「避けきれない!?……くっ、竜王牙斬で相殺っ!!」 ・ 「ふう、危なかった。 でも、残念だったね。」 俺の前には、あちらこちらから火花を出してはいるものの、五体満足なブローディアが立っていた………が。 「……ナイス、オモイカネC。」 次の瞬間、オモイカネCが変じた四神が、ブローディアのコクピットを貫いていた……
「そう………」 オモイカネは黙りこんでしまった。 「僕は………ひどい事をしたのかな?」
ともかくも、オモイカネ救出作戦は成功に終わった…………
Side Kouiti ……ちっ、「二度目」と同じ展開かよ。 曰く、 「では、連合軍長官の命令によりテンカワアキト、フジタヒロユキ、サクリファイス・βの三名を連合軍が徴兵する!!」 ご丁寧にも命令書付きだ。 「な、なんですって〜〜〜っ!」 よりにもよって、一番最初に解凍されたのがユリカちゃんかよ…… 俺はそう思いながら、意識を手放した………
気が付いた時には、調査団の連中が、件の三人とβにくっついて行った枝織ちゃんを連れて行ってしまった後だった。 まだ、説得できていないとはいえ、やってくれたな、ムネタケ。 ま、そのムネタケも、皆と一緒になって気絶していたが。 ちなみに調査団の連中は、他の場所にいてユリカちゃんの被害を受けなかった連中がやって来て、運び出したらしい。
「提督、やってくれましたね。 やがて、皆が復活しだす中、ムネタケを叩き起こして問い詰めるアオイ。 「………あんた達、最近DFSに頼りすぎてない? その反論に口をつぐませるアオイ。 「それに、軍だって……アタシのような馬鹿ばかりじゃないのよ。 ……それを聞いた時、ムネタケは前と決定的に違うと、そう感じた。 「成る程……アオイ、もうその辺にしておけ。 アオイの方も、この時点で既に合点がいっているようで、おとなしく引き下がってくれた。 「………アタシもこの船に乗っているのよ。 Side Ruri なんだったんでしょうか、さっきのキノコさんは。 そう思いながら、フィリスさんと交代してブリッジを後にした私は、食堂への通路でキノコさんに出くわしました。 「どうしたんですか、キノコ提督。」 い、いい歳してパパですか? 「そしたらね、「手柄をたてる方が、手柄を横取りするより気分が良いだろう?」って言われたの。 はあ……どうやら、提督のお父さんから色々言って下さったみたいですね。 「なんか羨ましいですね。 私が口を挟んだせいか、提督は少し黙り込んでしまいました。 「ま、今はあんたの事なんてどうだって良いわ。 気が付けば、私はそう言ってました。 「生意気ですか? 軍の事なんてこれっぽっちも知らない小娘のクセに?」 第拾五話「遅れて来た訃報」に続く あとがき 今回は思いっきりジュンの見せ場でした。 で、キノコですが、父は偉大だった、と言う事で。
親キノコは有能な人物ですし…… さて、次回からは話が三分岐します。 まず、β&影護姉妹の西欧組。 極東組を本編として、残りは外伝として書いていく予定です。 それでは、失礼いたしました。 |
代理人の感想
・・・そりゃさすがに「一般人A」とかを主人公にして
時ナデアキトとドンパチやらせるわけにゃいかんでしょうし(笑)。
それはさておき、私は物語の主要な登場人物というのは、
ある意味ではすべからく「有能」でなければならないと思っています。
ただ、ここでの「有能」とは必ずしも戦闘力に秀でていたり頭の切れる人間であったりという意味ではなく、
勇敢なのも、諦めが悪いのも、ゴマすりが上手くてもあるいは有能な仲間がいることでもかまいません。
要は物語の中で「動ける」キャラクター
そう言ったキャラこそが(「物語」の中では)真に有能なキャラクターである、と言うこともできます。
設定上強すぎたり有能過ぎたりするキャラクター、いわゆる最強系主人公などは話を成立させないが故に、
ある意味では無能極まりないキャラなのだとも言えるでしょう。
一例を挙げれば某るろうに剣心(どこが某やねん)の比古清十郎などは設定上最強無敵ですが
それゆえにレギュラーにはなれないという宿命を背負っています。
レギュラーになったら話が面白くないからです。
対してレギュラーキャラクターである左之助や弥彦などは強さでは劣るものの
物語の中ではよく動き回るのでキャラクターとしては有能だと言えます。
少なくともレギュラーキャラクターに要求されるのは「そう言う意味での有能さ」なのではないでしょうか。
※ちなみに悪役・ライバル・敵役などにはこの法則は当てはまりません。
彼らはたとえ最強だろうが無敵だろうが天才だろうが智略千里だろうが
物語上「倒されるべき」キャラクターであって、
その最強なり無敵なりをどう破るか、と言うことで話が作れるからです。
剣心の例で言えば志々雄真実や安慈和尚などのライバルキャラ、
またちょっと変わった所で言えば方治(志々雄の参謀)の立てた「作戦」等がそれです。