Side ????
それは、ある日の夕食時の事、
「あー―――っ!! もうっ!!」 「まーた荒れてますね、中尉。」
僕はいつもの如く、僕の所属しているエステバリス小隊の小隊長である、中尉の愚痴に耳を傾けていた。
彼女の事を階級で呼んでいるのは、小隊で同じ階級の人物がいない為、階級で呼び合っても不自由が無ないから。 そのせいか、小隊内では階級で呼び合うのが普通になってしまっているのだ。
「貴方こそなんで怒らないのよっ! また、貴方が落したチューリップ、私が落したって事にされたのよ!? おかげで私は、身に憶えの無い大戦果で英雄扱い。全く冗談じゃないわよっ!!」 「でも、西欧の戦況って厳しいですし、上層部でも「英雄が必要だ」って……」 「だったら、最初っから素直に貴方を売り出せば良いでしょう!! 大体あたしはね、人の戦果で昇進したり、英雄になったりする為にエステに乗ってんじゃないの。判る?」 「はいはい。」 「なのに、「これはあたしの戦果じゃありません。正当に評価してください」って言ったらいきなり軍法会議よ? 幸い、二階級降格だけですんだけど。 女のあたしにはプライドなんて必要無いとでも思ってるのかしら? ふざけんじゃないわよ!!」 「はいはい。」 「……伍長、真面目に聞いてる?」 「はいはい。」 「伍長っ!!」 「うわっ、耳元で怒鳴らないで下さいよ。」 「ちゃんと聞いてない貴方が悪いのよ。」 「それに、またあの二階級降格の話ですか? 良いじゃないですか、また中尉になれたんですから。」 「……もう。 戦果を真っ当に評価したなら、今頃貴方は私の上官になっていてもおかしくはないのに……」 「まさか。僕は、この辺の階級が分相応ですよ。 大体、スタンドプレーばかりで好き勝手やってる僕が尉官になるなんて、想像しただけでもぞっとしませんね。 第一、中尉だって強いじゃないですか。」 「……伍長、それって嫌味以外の何物でもないわよ。」
などと僕と中尉が話していると、向こうから来た少尉が話しかけてきた。 彼も同じ小隊のメンバーだ。
「よう、中尉殿に伍長。また、いつもの夫婦漫才かい?」 「っな、少尉!! なな、何が夫婦漫才よ!」 「その割には赤くなってません?」 「少尉っ!!」 「あの、少尉。何かご用ですか?」 「……全く、お前は動じない奴と言うか、からかいがいのない奴と言うか。 まあ良い。 なあ伍長、お前さん、さっき司令部に行ったよな。アレって、何しに行ってたんだ?」
その少尉の言葉に、僕は一瞬声を詰まらせる。 僕にとっては、あまり気持ちの良い話ではないから……
「……ああ、あれですか? 実は先日、両親が蜥蜴にやられて亡くなってしまいまして、その葬式に行く為に休暇を貰ってきたんです。」 「……悪い。」 「良いですよ少尉。こんな世の中ですし、珍しくもありませんからね。」 「? ねぇ伍長。ご両親と一緒に住んでた、って言うお姉さんの方はどうなったの?」 「姉は救助が間に合ったそうですけど、両親は即死だったらしくて、救助も何も……」 「……そう、なんだ。」 「そういえばこの間襲われた街って、お前が住んでた街だったっけな。 ……ん? そういえば、あの街から少し行った所の基地って、確か…………」 「…………どうしたのよ、少尉。」 「いえ、確かあの近くの基地に、ナデシコのパイロットが出向してきてるって話を、小耳に挟んだような気がしたんですがね。」 「あ、それなら電話口で姉から聞きましたよ。 なんでもとても強くて、その人がいなければ、街の人達も救助に来た人達も全滅していた、って話でしたけど。」 「そうか……それなら、伍長、ちょっと頼みたい事があるんだが…………」
明日も知らぬ僕達外伝
鈍色の龍騎兵
第弐話 魔槍ブリューナク
Side β
「ん? あれは……?」 「どうしたんだ、北斗。」
今日、俺と北斗は、あの時、無人兵器に襲われた街に来ている。
あの作戦に参加した者は時期こそバラバラなものの、休暇を取ってこの街の様子を見に来ている。 誰が言い始めるでも無く、皆が自然にやり始めた事だ。
そして、俺と北斗も少し遅れてしまったが、今回休暇をとってまだあの時の傷痕が深い街にやって来ているのだ。
「いや、今知り合いを見かけた。」 「お前の知り合い? なんでそんな奴が地球にいるんだ? …………まさか、北辰や、その部下かっ!?」 「いや、そういった類の奴じゃない。 東八雲と言って、四方天の最年少で優人部隊の司令官をしている男だ。 ま、優人部隊最弱の男でもあるんだが、戦術、戦略に関しては木連で奴の右に出る者はいない。 アイツは地球と木連は互いに許し合わねばならない、と常日頃から言っていてな。 まあ、公言すれば、ヤマサキラボ送りにされかねないから、その為の行動は随分制限されていたようだが…… しかし、アイツがこんな所にいる筈がないんだがな。 それに「二度目」では、この時点で既に故人だった筈だ。 だが、他人の空似にしては似過ぎているし、気になるな、やはり。」 「いっその事、話しかけてみるか? 本人ならそれなりの反応は返ってくるだろうし、似てるだけなら「すみませんでした」と言えば良いだけの事だしな。」 「…………そうだな。行ってみるか。」
というワケで、俺達は北斗が見かけた東八雲らしき人影を追いかけてみる事にした。
「ところでβ。」 「なんだ?」 「もしあれが八雲だったら……味方に引き込んでみるか? この戦争を和平で終わらせるのに、これほど頼りになる奴もそうはいないからな。」 「そうだな……だが、まだ決まったわけじゃない。 あくまでも、本人の口から聞いてみない事にはな。」 「だな。」
そして、東八雲? は食料品店らしい店の中に入っていった。 俺はふと、その店名を見て既視感を抱く。
この店名、どこかで聞いたような……? ……俺は、この店名を、知っている?
「? どうしたんだ、β?」 「ん? いや、大した事じゃない。 ただ、この店の名前をどこかで聞いたような気がしただけだ。」
まあ、大した事じゃないだろう。 俺達はそう結論付けて、店の中へと入っていった。
そして、店内に入った時、中からこんな会話が聞こえてきた瞬間、俺は死ぬほど後悔した。
「メティ、八雲さん帰ってきたわよ。」 「ただいま、メティちゃん。」 「ああ〜〜、八雲さんおかえりなさい。」
Side Hokuto
「聞いたか、今の。どうやら人違いではなさそうだな。 何故あいつが、こんな所に居着いているのかは、判らんが……」
と、俺がβに囁いた瞬間、
「北斗、ここで彼と接触するのはマズい。 出直すぞ。」
βは、いきなり俺の肩掴んでそう言った。 ……一体どうしたっていうんだ?
「あら? お客様かしら?」
カウンターに立っていた女が、俺達にそう話しかける。 このまま黙って出ていくのも、なんだな。
「ああ、まあそんな所だ。」
俺は女にこう言うと、βの奴に耳打ちをした。
「ここで慌てて出ていくのは不自然だ。 少しこの店を冷やかしていくぞ。」 「…………判った。」
俺は戸棚の品を適当に手に取って、女に聞こえないようにβに囁く。
「おいβ、一体なんだというんだ? 店に入るなり、いきなり出て行こうだなんて、普通じゃないぞ。」
βも女を気にしてか、小声で応じる。
「…………北斗。お前も副艦長から「二度目」の話は聞いただろ?」 「? ああ。それがどうしたんだ?」 「なら、お前だって「二度目」の、この西欧で「奴」の身に何が起こったのかも知っているよな。 さっき店に入った時に、聞こえてきただろ? 「メティ」って。 ここは多分、いや十中八九、「あの店」だ。 下手をすると……いや、相当上手くたちまわれたとしても、「二度目」の「奴」の二の舞になりかねないぞ。」
「二度目」の二の舞……か。
「心配するな。要は必要以上に親しくならなければ良いんだろ?」 「それが出来るのか? 枝織ちゃんに。」
………………そういえば。 確かに、メティス テアあたりと一緒になって遊んでそうだな、アレは。
「万一そうなったとしても、ガードし切れれば問題はないだろう。」 「「二度目」の「奴」は、そう考えて足元を掬われたんだぞ。 いくら最強の力を誇っていても、それを無力にする計略って奴が世の中にはあるんだ。 暗殺者の家系のお前が、まさかそれを知らないワケじゃないよな?」 「むぅ……」
確かに、とっとと退散した方が良さそうだ。
「二度目」の「俺」は、「プリンス オブ ダークネス」に舞歌を殺されたと思った時、容易く精神のバランスを損ねてしまった。 また枝織の成り立ちからも、アキトやイネスに俺の精神的弱さを指摘された。
自分では、そこまで脆くはないと思うんが…… それでも、親しくなった誰かをなす術も無く死なせてしまうというのは、確かに相当堪えるだろう。
臆病なようだが、メティス テアには近寄らん方が無難そうだな。 ま、それは彼女に限った話ではないのだが。
しかし、そうなると…………
「八雲はどうする? あいつを引き込めば、どの道テア家とは無関係ではいられんぞ。」 「そうだな………… 彼の専門は頭脳労働なんだろ? なら、存在を隠しながら協力してもらうのは可能、だと思う。 彼の立場は、電子戦制圧に近いレベルの切り札にすれば、テア家への被害は、多分食い止められると思う。 俺はこれで行こうと思うんだが、どうだ?」 「ふぅむ……それが妥当な線、だな。 八雲は、店の外で捕まえるか。」
と、カウンターの女-恐らくミリア テア-が俺達に話しかけてくる。
「あら、仲がいいのね。 お似合いよ、お二人さん。」
ミリア? の言葉に、俺達はどういうわけだかあたふたしてしまい、
「「な、べ、別にそんなんじゃぁない。なあ。」」 「そんなに真っ赤になって否定したら、「はいそうですよ」と言っているようなものよ。 綺麗に声までハモらせちゃって。」
そんな風に言われてしまった。
…………確かに、コイツの事は、気になるといえば気になるが、別にそんなんじゃぁないぞ……
Side ????
「姉さん…………終わったね。」 「そうね……先月、お爺様が亡くなって、お父様もお母様も立ち直れなかったまま…… もう、私達しか残ってないのね。」 「……………………」
両親の葬式も終わり、その棺も今埋めたばかり。
「ねえ、貴方もうパイロット辞めてよ。ひとりぼっちは辛いの。 もう私には、貴方しかいないのよ……」
姉さんはそう言って僕に抱きつくと、そのまま嗚咽を始める。 姉さんと僕とでは身長差がないので、姉さんの頭は僕の肩の上に来る格好になる。
僕は、姉さんを軽く抱き返してやると、すぐそこにある彼女の耳にこう囁いた。
「ごめん、姉さん…………」 「どうしてよ……どうしてなのよっ!!」
確かに、姉さんは僕よりずっと参っている。 父さんと母さんが亡くなるその時まで、一緒に暮らしていたのだから当然だろう。 本当ならずっと傍にいてやるべきなのかもしれない。
けど…………
「僕、まだ伍長なんだけどさ…………皆、頼ってくれているみたいだから。 同じ小隊の中尉や少尉、それと基地の人達と一緒に、もう少しやってみたいんだ。 そうじゃないと、死んでいった皆にさ…………顔向けできないから…………」
僕だって、パイロットだ。戦友の死を幾度も経験している。
基地の装備じゃ歯が立たない、とずっと諦められていたチューリップ。 そのチューリップから後から後から出てくる敵の物量で、何人も死んでいくのを目の当たりにして、僕は躍起になってチューリップを破壊する方法を探して…………探し当てた。
それは、チューリップが艦艇を吐き出す時を狙い、艦艇がチューリップから完全に出てしまわない内に、その艦艇のエンジンに致命的なダメージを負わせる事。 エンジンが暴走、爆発を起こし、その爆発でならチューリップを破壊できる。 艦艇のディストーションフィールドなら、条件さえ揃えられればエステバリスでもなんとかなるケースが多い。 だから、このやり方でなら、エステバリスでもチューリップを落せるんだ。
でも、今までにこれを実行したのは僕だけ。 中尉や少尉は、本当かどうかは知らないけれど「怖くて無理。多分他のパイロット達もそう」って言っていた。
その言葉を信じるのなら、基地でチューリップを破壊できるのは僕一人。 自惚れた言い方だと思うけど、その僕が、今のこの戦況でパイロットを辞めるワケにはいかない。
「そんなの……そんなのって…………」
姉さんは、いつまでも嗚咽を続けていた……
「すみません、私用で基地にお邪魔してしまって。」
僕は姉さんと一緒に、街の近くの基地に来ている。 少尉に頼まれた「ナデシコのパイロット」との接触を図るためだ。 ま、頼まれ事とはいえ、僕だって「ナデシコのパイロット」には興味があるし。 後、本当なら一人で来る筈だったのだけれど、今の姉さんを一人にしておくワケにもいかず、基地に連れてきてしまっている。 基地内に入る時に面倒な事になるかな? と思ってたけど、彼女を「僕の姉だ」と説明したら、意外なほどアッサリと入れてくれた。 確かに姉さんと僕なら、一卵性双生児のレベルで似てるんだから、通してくれて当たり前なのかも知れないけど。
「そういう事なら、司令部の連中に言ってくれよ。 アポイントならとってあるんだろ? 問題ねえって。」 「俺達だったら歓迎だ。同じエステバリスライダーとして、君等の気持ちもよくわかるしね。」 「そうそう、こんなかわいい女の子だったら、いつでも歓迎だ。なっ、みんな。」 「「「「「おうよ。」」」」」
うぐっ、気にしてるのに…… ま、十数年間こればっかだから、いい加減慣れてきてるけどね。
「あの、僕は男です。 良く間違えられますけど、おっ! とっ! こっ! ですから。」
その瞬間、周りにいたパイロットの人達は一斉にフリーズした…………
もう慣れたけどね、こういうの。
Side β
あの後、俺達は店の外で東八雲が出て来るのを待ったが、しばらく待っても彼が店から出て来る事は無かった。 あまり長時間張っていても怪しいだけなので、今日の所は諦める事にし、基地に戻ると、パイロット達が人だかりを作っていた。
そこには銀髪の……少女? いや、そう見えるが、あれは男だな。 後、彼そっくりな金髪の少女がその中心に立っていた。 そして、周りの連中は……見事なまでに固まっている。
そのまま放っておいても良かったんだが、俺達はその輪の中に入ってみる事にした。
「……ここまで極端な女顔というのも珍しいな。」 「!! 僕が男だって……一目で判ってくれたんですか?」 「? ああ、かなりのテクニックが必要だったがな。」
俺の返答を聞いた次の瞬間、銀髪の男は俺に抱きついて来た
「ちょっ、離れろ!! 俺にその気はないぞっ!!」 「だって、だってこの十数年間、初対面の人には必ず女の子に間違えられて来たのに、一発で男だって分かってくれる人に会えたんだから、嬉しくて嬉しくて……」 「……難儀な人生だな…………」
そう言いながら、俺は銀髪の男を引き剥がす。 それにしても、本気で嬉しいようだな。
「ああっ、女の子呼ばわりされ続けて早十二年、 一部のとち狂った人達には「男でも良いっ!! 君の愛を俺にくれ!!」と迫られ、 おかしな趣味の女の人達には、着せ替え人形よろしく女物の服を着せられて…… やっと、やっとこの日が来たっ!! 僕を、一発で男だ、って判ってくれる人に、最初から男として扱ってくれる人に、やっと会えたんだーっ!!」
…………一体、今までどんな人生を歩んできたんだ、この男は?
横を見ると、この嵐のような展開についていけてない北斗と金髪の女の姿がある。
一方、固まっていたパイロット達も、この騒ぎで一人二人と復活して、俺達に話しかけてくる。
「? βに……今は北斗ちゃんか。帰って来てたのか?」 「いや、今戻ってきたばかりだ。……その北斗ちゃんというのは、辞めてくれ。頼む。」
話しかけられた北斗も、僅かに調子を取り戻す。
「嬢ちゃん……」 「違いますっ!!」 「……坊主? ……そいつがナデシコのパイロットだ。 名前は、サクリファイス・β。勿論これは偽名らしいんだがな。」 「…………? なんで偽名なんか使ってるんですか? 本名を名乗れば良いじゃないですか。」 「…………ナデシコに、俺に死ぬほど良く似た同姓同名の奴がいてな、そいつと俺を区別する為だ。 奴は結構な有名人だからな、外でもおいそれと本名を名乗れないんだ。」
……嘘は言っていないぞ、嘘は。
「…………誰、なんです? その有名な人って?」 「テンカワ アキト。火星の獣とも、メタルファングとも呼ばれている男だ。」 「メタル……ファング……って、あの、最強のエステバリスライダーの?」 「ああ、そういう事になっているらしいな。確かにあいつの強さは突出していた。 俺達、ナデシコの他のパイロットが、総がかりでも歯が立たなかったからな。」 「それじゃ、貴方の名前も…………」 「そういう事になるが……面倒な事になるから、βの方で憶えてくれ。」
銀髪の男は、釈然としない顔をしながらも
「……判りました。ややこしいのは確かですしね。」
俺の話を承諾してくれたようだ。
……それにしても「テンカワ アキト」か。 この世界でそう呼ばれるべき人物は勿論アキトだろうし、万が一「二度目」の世界に戻れたとしても、そこで「テンカワ アキト」と呼ばれるのは、俺ではなく「プリンス オブ ダークネス」…………
今のように、同姓同名と言う手もあるのだろうが……もう俺には名乗れない名前なんだな…………
Side Syun
「ブローディアの調査? ネルガルが?」 「はい。ブローディアは、我が社にとっても未知の機体なのです。」
素っ頓狂な声を上げる俺に、そう答えるキャリアウーマン風の女性。 彼女の名前はレイナ キンジョウ ウォン。 ブローディアの整備と……調査の為に、ネルガルから出向してきたメカニックらしい。
「あれって、君等の会社が作ったんじゃないのか? そうでなければ、いくらなんでも、エステとの共通項が多すぎるぞ。」 「私どもも、その点については驚いています。 しかし、現状、ネルガルにあんな出鱈目な機体を作る技術はありません。」 「出鱈目? …………確かに、あの強さはな……」 「しかも今のブローディアには、各部にリミッターがかけられていて、ディストーションフィールドの強度やスラスター推力その他諸々が、軒並み通常の半分以下に抑えられています。」 「……ちょっと、お嬢さん。あんた、今なんて…… アレで、本来の半分以下だと?」 「はい。 ナデシコが送ってきたブローディアの各種データから算出された、あの機体の本当の実力は、スーパーエステバリスなど比べ物にもならないのです。 それに、信じられますか? あの機体、相転移エンジンを2基積んでいるんですよ。」 「……そ、そうてんいえんじん…………」
無茶苦茶だ。なんなんだそれは。 ちょっと強力なカスタムエステだと思っていたら、とんでもない化け物じゃないか。
「……じゃ、なんでそんな物が、君等の手元にあるんだ?」 「あの機体は、ナデシコが火星から持ち帰って来たものなんです。 そのナデシコからの報告では、あの機体は、敵の捕虜になっていた元火星市民サクリファイス・βが、脱走の際に奪ってきた機体……つまり、敵性兵器だという話なのですが…………」 「……敵って、誰なんだ?」 「当然、木星蜥蜴です。」 「極秘か?」 「当たり前です。 あんな物を作れる相手と戦争していると知られたら、士気も何もあった物ではありませんから。」
つーか、既に勝ち目が全くの0になっているような気もするんだが……
「だが、だったら敵もバッタやレーザー駆逐艦ばかり使ってないで、ブローディアをいくらか投入すれば、我々なんぞすぐにでも全滅させられるだろうに。」 「その事も合わせての調査と思っていただければ。」
と、まあこんな話をしていると…………
この警報は!? 毎度お馴染みの敵襲か!!
「レイナ君、と言ったね。話はまた後で!!」
俺は司令部へと向かった。
Side Hokuto
「毎度の事ながら、歯痒いな。 俺の方が、貴様より戦士として優れているのに、後方に回らねばならんとは。」 「確かにそうだが……IFSを付けていないお前に、エステの操縦は無理だからな。 それに、生身の地上戦力が必要な場合だってある。」 「そう真面目に答えるな。
いつもの我侭を言ってみただけだ。 俺も、それが判らんほど間抜けじゃあない。」
俺は、そう言うと次々と飛び立っていく空戦エステの群と、ブローディアを見送った。
俺は、出撃命令のあった連中が大体出撃していったのを見届けると、司令部に行ってみる事にした。 ナデシコと違って、格納庫でも戦況が判るワケではないからな。
「参ったな。」
司令部に入るなり、そんなシュンの呟きが聞こえてくる。
「どうした?」 「……枝織ちゃん、じゃなかった北斗君、一応君は民間人なんだ。 司令部に入れる権限はない。」 「来てしまった物はしょうがないだろう。 それより、何かあったんじゃなかったのか?」 「…………敵のチューリップがレーダーにジャミングをかけながら無人兵器を送りつけてきている。 まあ、今の所は、そう大した事ない連中しかよこしてこないからパイロット達の負担も小さいんだが…… そういう細かい負担でも、長期戦となると流石に、塵も積もればなんとやらでな。」 「消耗戦か。」 「ああ。真っ向勝負じゃあ、ブローディアに瞬殺されておしまいだからな。 こちらを疲れさせて、戦え無くなった所を、一気に叩くつもりだろう。」
確かに、弱いが、数が多く疲れも知らない無人兵器で強敵を制するのには、有効な作戦だな。
「オマケに、どんな手品を使ってるのか、こちらに位置を特定させてくれない。 それで、どう切り崩していこうか思案しているんだがな……」
と言って数秒、
「ん? いや、ダメか。だが……」 「? 隊長、何か思いついたんですか?」 「いや、現実味の無いプランで危険過ぎるからな。没にしておく。」 「危険……ですか…………」
前回のような無茶を言い出すこの男をして、危険と言わしめる作戦とは……
「敵のいそうな辺りに、対飛行物ソナーを撒いて、ジャミングされたレーダーの変わりに使う。 ってぇ作戦なんだがな、「誰が撒きに行く」って事で没だ。」 「……βを使えば良いだろう?」 「いや、あんな目立つ奴が行ったら袋叩きにされる。 大体、こんな周到な事をやってくる相手だ。対ブローディア用の罠でも張られていたら、こっちは一気に対チューリップ戦力を失う事になる。 ……敵は、こちらが痺れを切らせるのを待っているんだ。むざむざ動くこたない。」 「なら、β以外の誰かは…………」 「カズシ。お前、ソイツに死ねって言うのか? 化け物みたいな腕前が必要になるんだぞ、この作戦には。」
そして、またシュンが指示を出しながらも、考え事を再開したので、俺は司令部から出て行く事にした。
アキトとの約束もあるが……IFS、付けてみるか? 少なくとも、今の作戦、俺ならば問題無く実行できるのだがな。
Side ????
「おや? お前達は……」 「どこ行ってたんですか? 北斗さん。」
僕達姉弟は、敵襲後、非戦闘員として基地のシェルターに避難した。 その後、非戦闘員らしい北斗さんの姿が見えず、心配していたんだけれど……
「ちょっと戦況が気になってな、司令部に行ってきた。」 「戦況……外の戦況はどうなっていたんですか?」
こんな時、いつもは僕も出撃しているのだけれど、今回は違う。 何もできないで、何も判らないで待ってるのは、僕にはちょっときついかな…………
「芳しくないな。こちらのレーダーがジャミングされ、チューリップの位置が特定できん。 敵はそれを良い事に、戦力を小出しにして消耗戦をしかけてきている。」 「痺れを切らせて、打って出ていったら……」 「十中八九、罠が待ち構えているだろうな。」
前門の虎、後門の狼……この場合、「虎」は罠、「狼」は消耗って所かな。 木星蜥蜴も、ただの物量作戦だけの連中じゃ無くなってきているって事?
「あと、作戦案が一つ聞けたな。 出た瞬間に没になったがな。」 「? 作戦って、どんなのです?」 「敵のいそうな辺りに、対飛行物ソナーを撒いて、ジャミングされたレーダーの変わりに使う。 という、作戦なんだがな、「誰が撒きに行く」って事で没だそうだ。」 「βさんは?」 「あいつは目立ちすぎる。 行った瞬間袋叩きにされる事請け合いで、対ブローディア用の罠が張られている可能性もあるんだそうだ。 奴はこの基地の生命線でもあるからな、そんなみえみえの罠に突っ込ませる気にはならないんだろう。」
確かに……ナデシコのパイロットには、それなりの警戒が必要なんだろう。
「だが、正直な話、あいつ以外にこの作戦が出来そうなパイロットはこの基地にはいない。 それで、没、なんだそうだ。」
それを聞いて僕は、行ってみる事にした。
「北斗さん。僕ならできますよ…………ソナーの設置。」 「? そういえば、お前、パイロットだったか?」 「ちょっ、貴方なに考えてるのよっ!!」 「何って、今の作戦をやりにいこうかなって。 ……僕はただ、黙って死んでしまうのが嫌だから、パイロットになったんだ。 だから、今回もここで燻っているのはちょっと……」 「だから、だから何よっ!!」
そして、姉さんはわんわんと泣き出してしまった。
「あの、北斗さん。基地の人達にかけあってみてくれませんか?」 「それはいいが……俺には何の権限もないぞ? それに、」
と、北斗さんは、僕に抱きついている姉さんを指差し
「それはどうするつもりなんだ?」 「この基地にだって、カウンセラーの人っていますよね? その人に、お願いしてみるつもりですけど。」 「そうか、判った。 先に、格納庫に行ってるぞ。確か予備のエステが余ってたはずだ。」
そして僕は、北斗さんを見送った後、姉さんをカウンセラーの人に任せて、格納庫へと向かった。
『許可できんな。』 「あ、やっぱり。」
格納庫では、整備長さんが、通信機の向こうの……確か、オオサキ少佐だっけ? と、こんなやり取りをしていた。
『あの「白銀の戦乙女」やら、「闇夜の鴉」やらといったエースパイロットがチームを組んで事にあたるってんなら、こっちから頭下げて頼みたいくらいだ。 だが、彼はただの伍長なんだろう? しかも一人。 いくらなんでも分が悪すぎる賭けだな。賭ける気は起きないな。』 「ん? ああ、嬢……坊主か。やっぱダメだってよ。」
白銀の戦乙女……中尉の二つ名だ。
「すみません。代わってもらえませんか? 自分で直接説得してみたいんですけど。」 「無理だと思うけどな、ま、やってみろや。」 『? 誰だい、お嬢さんは?』 「…………今の話聞かなかったんですか? 僕は男ですよ。 さっきの話題になっていた、ただの伍長です。」 『で、出撃させてくれ、って今度は自分の口で言うつもりか? 何度言おうと、俺の考えは変わらないぞ。 こっちも忙しいんだ。余分に時間をとらせないでくれ。』 「僕だって伊達にパイロットをしているワケではありません。 ヤバい、と思ったら作戦区域の手前からでも引き返すつもりですし、そもそもできないと思っていたらこんな事は言い出しませんよ。」 『……伍長の割に自身過剰なんだな。 そういう自身過剰な奴は、もう少し上の階級に多いと思ってたんだが。』 「この階級で燻って、少し経ってますから。 同じ頃にパイロットになった同僚は、みんな上の階級になったか、戦死してしまってます。」 『そうかいそうかい。 だが、俺には、今回の志願は、身の程知らずの戯言にしか聞こえないぞ。』 「……今少佐が名前を出した「白銀の戦乙女」、僕は彼女の小隊に所属しています。 少なくとも、トップクラスのエステバリスライダーの力を知らない、井の中の蛙ではないつもりですけど。」 『……ほう、あの「白銀の戦乙女」のね…… 確かにそうなら、絶対的戦力差からの生還、って奴も体験済みってワケか…… 判った。 ヤバい、と思ったら、もしくはこちらがヤバい、と判断したら、基地の目の前からでも引き返してくる。 そう確約するんだったら、砲戦エステでソナー設置に向かってもらおう。頼めるか?』 「了解しました。では、これより戦闘終了まで、貴官の指揮下に入ります。」
僕はそう言って、オオサキ少佐に敬礼をした。
「やるね、坊主。オオサキ少佐は、あれで頑固者で通っているからな。 それを、あそこから了解を取りつけるだなんて、なかなかできるもんじゃない。」
整備長さん達が、今戦っているエステの補給の傍ら、僕が使う砲戦の準備をしてくれている。
「たまたま、僕の小隊の小隊長が有名人だったからですよ。 彼女のネームバリューのおかげですね……と、コクピット側からの調整、終わりました。」
と、その時、基地に降りて来ていたβさんが、僕に声をかけてきた。
「おい……お前、敵陣にソナーを設置しに行くらしいな。」 「? ええ、そうですけど……それが?」 「なら……こいつを貸してやる。その任務をこなせる奴なら、これも問題無く扱えるはずだ。」
そういって、彼がブローディアを操縦して差し出した物は、エステ大の剣のツカだった。
「これは……?」 「DFS……名前と、どんな代物なのかくらいは、噂で聞いているだろう?」 「いいんですか?」 「ブローディアには、もう一本DFSが装備されている。問題は無い。 今渡した奴は、予備とでも思っておいてくれ。」 「判りました。」
DFS……か。噂じゃ、とんでもなく扱いが難しい、っていうけど…………
僕は、ありがたく貸してもらう事にした。
「さて、そろそろいかないとな。 奴等、俺が出張っていない時を見計らって、艦船もちらほらよこしてくる様になって来たからな。」
βさんはそういうと、今渡したDFSの代わりとばかりに、普通のエステ用のラピットライフルを持って戦場に向かって行った。
…………………………そして、僕の出撃準備も整った。
「指令部へ。 エステバリス重機動フレーム、ジェイド ファー ハーテッド、出撃します!!」
Side β
今の通信を聞いて、俺は少し驚いた。 アキトの性格ほど歴史への影響はないとは思うが、人一人の性別が違っているとは……
あの男……ジェイドは、恐らく「二度目」での「アリサ ファー ハーテッド」に相当する人物なんだろう。 性格が、副艦長の話にあった「アリサ」より随分温厚な印象があったが、まあ男と女では、人生の大筋が同じでも、形成される人格には大きな差異が出来てしまうだろうから、驚くには当たらない。
とはいえ、今は戦闘中。ショックを受けている暇などない。 幸い、この戦闘はザコばかりしか出て来ていないが…… いつ、敵のブローディアが出てきても不思議ではないから、気を抜けたものではない。
敵のブローディアの出現。 それは、とりもなおさず、木連でも最強クラスの実力者が出張ってくるということ……
Side Jeid
「さて、と。まだ、いけそうかな……?」
出撃してしばらく、僕はそろそろレーダーで見通せ無くなっている区域に入ってきている。 ソナーを撒くのは、そろそろ…………かな、と。
それにしても、上空を行き交う敵機は、基地への攻め手だけで、それも散発的。 いつもの物量作戦でないのが、今更ながらに不気味だ。
木々に上手く隠れながら移動できていたのか、僕はさしたる攻撃も受けずに、作戦区域に侵入できた。 そうだ。扱いの難しい武器をぶっつけ本番で使う気にはなれないから、余裕のある今の内にDFSを試しに展開させてみよう。 僕は、そう考えて、DFSにディストーションフィールドを集中展開させる。 もっとも、これで敵に見つかってしまっては、世話ないので、刃渡り1m程のナイフとして展開させる。 ……う〜ん、結構加減が難しいけど、思っていたよりは楽に展開できるみたいだ。 さて、DFSの試しはこの位にして、最初のソナーを設置しようっと。
そうして、ソナーを次々と設置していくと…………
「なんだろ? あれ。」
変な巻貝のような物が幾つも並んでいるのを見つけた。 「巻貝」の直径は、8mほどで、正面から見た厚さは6mくらい。 「巻貝」の口……と言えば良いのだろうか、とにかく本物の貝ならば中身が顔を出すのに使う「そこ」は、皆一様に中空を向いている。
あんなの、軍の装備にはなかった筈。 ……他の可能性もなくはないけど、あれは……木星蜥蜴の新兵器、かな?
僕は、そろそろなくなってきたバッテリーを、新しい物に交換すると、ずらりと並ぶ「巻貝」の一つに注意深く近寄ってみた。 すると…………
「えっ、なんだっていきなり!!」
今の今まで、僕のことを無視しているのか? とさえ思えていたバッタ達が、いきなり僕にターゲットを定めて襲ってきたのだ。 数も……一度に基地に向かっていく分より全然多い!!
「くっ!!」
僕は目くらましにミサイルをばら撒くと、機体を軽くする意味も込めてソナーを一つその場に置いて、一目散に逃げ出した。 身動きが遅い砲戦で相手をするには……いくらなんでも多すぎる!!
大体のバッタはミサイルの爆風に、吹っ飛ばされるか僕を見失うかしたみたいだけど、今度は基地の方から!? どちらかというと、火器より近接戦の方が得意なんだけど……言っている暇はない……!!
僕は敵編隊に火線を送りながら、森の中を縫うようにして、基地を目指す!!
砲戦のウリは、高い火力……もっと言えば、一度に搾り出す事のできる火力だ。 だけど、基本的にエステは軽機……そんな物に、高い火力を持たせたら、今度は弾切れが早くなる。 まして、今回の任務の為、弾薬の代わりにソナーやバッテリーを積んだのだから、この機体の継戦能力は知れている。
とかなんとか言っている内に、もうミサイルが弾切れだ。 結構落せてはいる筈なんだけれど、如何せん敵の絶対数が多すぎる!! ひょっとしたら、今まで基地に差し向けた全戦力にも匹敵するんじゃないのかな。
他のフレームに比べ、ろくな機動性を持たない砲戦は火力が命。 弾切れを起こした後の運命なんて、考えたくもない。
僕は、木々の中を基地に向かって逃げ続け、迫るバッタ達に火線を送ってけん制し…… を続けて、ようやく、最初のソナーを設置した辺りまで退却できた。 でも、残弾数が……もう凄い数値になってる……
敵は、前後左右から迫ってきていて、残りの弾薬では、ちょっと牽制できるか怪しい。 ふと、βさんから渡されたDFSの事が頭をよぎるけど、この状況下で刃渡り400mの剣なんて物が役に立ってくれるとは思えず、考えから外す。 あと、もうちょっと行ければ、敵機迎撃に出ている、基地のエステ隊に応援を頼めるけど…………重い砲戦でそこまで行ける?
ま、どの道、僕には基地まで撤退する以外に助かる道はない。 小細工なし。基地の方から来るバッタ達を正面突破する。 無論、一々敵の攻撃を貰っていたら持たないので、技量の限りを尽くして全てを避ける。
僕は、そう腹を決めて、敵部隊に突っ込んでいった…………
Side Syun
「へえ、結構順調にソナーを設置して行ってるじゃないか。」
俺はモニターを見ながら、そう素直に感嘆する。 敵機からも上手く隠れられているようだ。
しかし、その状況は、あるソナーを設置する直前から一変する。
それまでジェイド機に関係なく、今まで通り、基地への戦力の小出しを続けていた敵無人兵器が、いきなりジェイド機への総攻撃を開始したのだ。 中には、総攻撃に参加する為に、基地の上空を通過していこうとする不届き者までいる始末だ。 もっとも、そういう不届き者には、エステ隊からのキツい仕置きが待っているのだが。
一体、何をしでかしたんだ?
ソナーから送られてくるジェイド機と敵機の影。 とてもエステ1機が相手とは思えないほどの大軍団を、重い砲戦で巧みに牽制しながら着実に基地へと接近する、ジェイドの技量は、正直信じられないほどだ。 なんで、ここまでのパイロットが伍長なんかに燻っている?
と、それなりの時間はかかったようだが、彼は最初のソナーを設置した位置にまで戻って来れたようだ。が……
「隊長、この敵影の量は……」 「ああ、確かに砲戦1機でどうこうできる戦力じゃあないな。 通信士、エステ隊に取り次いでくれ。」 「了解しました。」
通信士の彼女は、そう言ってエステ隊に通信を開く。 俺はその通信を通じて、エステ隊にこう呼びかけた。
「半数を残し、残りとβは敵機が群がっている、この砲戦の救援に向かってくれ。 敵の、奴さんに対する対応が尋常じゃない。 この砲戦のパイロットが今回の攻略の鍵を見つけてきた可能性もある。 彼の命を守る為にも、必ず保護してきてくれ。」
どうやら、エステ隊の方も急に相手にされないようになって不審に思っていたようで、この命令で合点がいって、早急に部隊を再編成して救援に向かって行った。
だが、彼も敵機も救援部隊など待たずに次の一手を打つ。 彼の一手は……信じられない事に正面突破だ。 対する敵は、地上にいる砲戦に飽和射撃でも行うつもりだろうか、包囲網を縮めがから、砲戦を逃さないように陣を動かす。
「無事……でしょうか?」 「多分な。仕留めたんなら、敵さんも他の動きをするだろうからな。」 「確かにそうですけど…………砲戦ですよ、アレ。」 「……多分、あいつには、言うだけの実力があったって事なんだろうな。」
と、救援部隊が敵陣と接触、大規模な戦闘状態となり……それが終わった後、救援部隊のエステバリスから更に信じられない報告が入ってきた。
『し、指令部へ……も、目標の確保に成功。 目標は、損傷激しくも、機動に問題は見られません。』
…………あれだけ派手にやらかしといて、その程度ですんだってのか? しかも、砲戦で?
「で、その「巻貝」に近づいた途端、敵の集中攻撃にあったって?」
俺はジェイドの帰還を待たずに、通信機越しに彼から報告を聞き出した。
『はい。今にして思うと迂闊な行動でしたが……』 「だが、おかげで今回の敵の作戦の要が見えてきたな。 前にβから聞いたんだが、以前ナデシコは「ナナフシ」と呼称される敵兵器と戦っている。 その「ナナフシ」は、今回の「巻貝」よりはるかに大規模で細長かったが、大体今お前さんが言ったような特徴を持っていたらしい。」 『それで、その「ナナフシ」とは一体どんな物だったんですか?』 「詳細はよく判らなかったらしいが、長射程かつ大威力の固定砲台だったらしい。 ここからは推論でしかないが、多分お前さんが見た「巻貝」は「ナナフシ」の廉価版なんだろう。 で、俺達が痺れを切らせて、索敵の為「巻貝」の近くに行ったりすると……」 『強烈な砲火が飛んでくる、ですか……』 「ああ。あくまでも推論でしかないがな。」
これで、ますます動けなくなったが、まあ、迂闊に突ついて被害を出すよりはマシだろう。 一応、ある程度の数のソナーも設置できたし、これで少しは向こうの動向も判ってくる筈だ。
と、その時
「少佐、ソナーがチューリップらしき敵影を探知しました!」 「なに?」
その報告で、モニターに目を移すと、一番遠くのソナーが捕えているエリアを、巨大な影が、無数の影を吐き出しながら、移動しているのが見えた。 形がハッキリしているし、小さな敵影の集まりとは考え辛い……十中八九チューリップだな。 となると
「……幽霊の正体見たり、枯れ柳、ってか。 野郎、何処にいやがるんだと思っていたら、ウチの基地の周囲をうろついてやがったのか。 位置が特定できないから、どんな手品を使ってるのかと思ったら、種を明かせば単純なもんだな。 確かに、常時移動している相手の位置なんざ、特定できるワケないか。」
まだ、不充分かもしれんが、判断材料がかなり出てきた。 「巻貝」がどんな代物なのかが判らないのが不気味ではあるが、まさか誰かを犠牲にして正体を見極めるワケにもいかないだろう。
「……攻勢に打って出る前に、もう少し判断材料が欲しい。 ハーテッド伍長、悪いが、戻ってきたら、もう一度砲戦でソナーを設置しに行ってくれないか?」 『了解です。』
しかし、今チューリップが吐き出していた敵機の数は……今までとは比べ物にならない。 こりゃぁ、判断材料云々なんぞ言ってられなくなるかもな…………
Side Jeid
「は? 命令変更……ですか?」
基地に戻った僕は、砲戦から降りる間もなく、命令変更の通信を受けた。
『ああ。お前さん、DFSは使えるんだったよな?』 「はい。ソナーを設置している道中で少し試してみましたけど、思ったよりは負担が軽くて、実戦でもさほど問題なく扱えると思いますけど。」 『なら、お前さんには予備バッテリーを積んだ陸戦で、チューリップを叩きに行ってもらいたい。 ちょっと、お前さんを確保できた辺りから、敵の攻勢が激しくなってな、こちらもそれほど悠長に構えてられなくなった。 いくらβの奴が強くても、疲れないワケじゃないしな。』 「だから、僕がDFSでチューリップを叩きに行くワケですか?」 『ああ。さっきの話から察するに、「巻貝」は、ただのエステが陸路で近づく分には攻撃してこないみたいだしな。 敵の動きは、さっきソナーに映った時の移動方向や速度である程度推察できるから、出撃の時に奴さんとの予想ランデブーポイントを指示できる。 お前さんは、出撃したらそこに向かって欲しい。』 「はあ……」 『ああ、あと、今度も一人で行ってくれ。 こっちとしても護衛をつけてやりたいのは山々なんだが、少し腕が立つ程度じゃ足手まといになるのがオチだからな。』
なんでβさんを使わないのかな…… あっ、さっきの出撃の時に、「いない時を見計らって艦船を送りつけてくる」って言ってたっけ。 βさんの動向に合わせて、敵の動向も変わってくるなら、そうそう簡単には動かせないか。
「了解しました。」
そして、機体の準備の間に十分に休む事のできた僕は、標準装備の他にDFSと予備バッテリーを積んだ陸戦に乗って再度出撃した。
今回も、敵は基地に殺到していて、僕には目もくれない。 ま、前回の事を考えると、行きは良くても、帰りがかなり怖そうだ。
予想ランデブーポイントの近くまで来ると、この辺りにも「巻貝」が並んでいた。 …………ひょっとしてこの「巻貝」、基地を囲むように配置されてない?
ま、今は「巻貝」の事は置いておこう。 指令部の予想が正しければ、もうチューリップを視認できるはずだけど……あった!!
だけど、今DFSを出した所で、刃が届かない。 もう少し接近しないと、せっかくのDFSも不必要に敵を呼び寄せる撒き餌にしかならない。
僕は注意深くチューリップに接近していく。 一方のチューリップは、どうやら「巻貝」の列に沿うように、列を挟んだ向こう側を飛んでいるみたいだ。
と、前回の事を思い出す。 「巻貝」に近づいた途端、敵機が僕の機体に殺到してきたんだったっけ…… でも、チューリップに接近するには、「巻貝」の列を横断する必要があるワケで…………
ま、元々団体さん相手の戦闘覚悟の任務だし、ここはおとなしく腹をくくろう。 僕は、そう意を決してチューリップへと向かっていった。
案の定、「巻貝」の脇を通った辺りから、無数の敵機がこちらに向かって来るようになる。
さっきは、砲戦で明確な攻撃目標もなかった事もあり、一目散に逃げる事しか出来なかったけど、今回はチューリップという攻撃目標もあれば、機体も陸戦フレーム。 充分な勝算もって、ターゲットに向かって行くことができる。
敵の数は多いし、弾幕も濃密だけど、こっちは機体が前回に比べて格段に軽い!! この程度なら……抜けられる!!
僕は手近なバッタをワイヤードフィストで捕まえると、他のバッタ達が打ち出した無数のミサイルの中に放りこむ。 ミサイルは次々と誘爆し、放りこまれたバッタだけでなく、近くのバッタ達もその爆発に巻き込んでいく。 最近のバッタは賢くなって、不測の事態にも迅速に対応できるようになってきているけど、この戦法は未だに有効だし………… これで混乱状態になったバッタなら、何機いようとすり抜けるのはわけない。
後続のバッタは流石に誤魔化せないけど、これでミサイル攻撃はしてこなくなって、攻撃力を著しく低下させる筈。
バッタ達は、編隊を組んで機銃を掃射してくるけど……僕は、バッタが「編隊を組んだ」事を逆手に取る!!
一閃っ!
僕はDFSを取り出すと、ディストーションフィールドの8割強を刃に変えて、バッタの編隊に向かって一薙ぎする! すると、かなりの数のバッタが、その一振りに切り裂かれ、内蔵したミサイルで周囲の近くの味方も巻き込みながら、爆発の中に消えていく!!
もっとも、DFSをこんな混戦の中で出しっぱなしにするほどの度胸は僕にはない。 僕はそれっきりでDFSをしまうと、標準装備だけでチューリップをDFSの間合いに捕える。
僕は、再びDFSを取り出すと、さっきと同じ位の大きさの刃を作りだし、斬りつけ……あれ? …………届かない?
どうも、さっきの一振りで警戒されたのか、並み居る無人兵器をいなしながらチューリップをもう一度良く見ると、高度がDFS使用前より上がってる……
勿論、陸戦がジャンプした所でどうにもならない高度だ。
「くっ、これじゃあチューリップを叩けない!!」
DFSの刃をもっと長く伸びたり、いっそ飛ばしたりできたら………… ……そうだ!! 現状でDFSに回しているディストーションフィールドは8割強。 残りも全てDFSに回せば、なんとか届くかも知れない!!
……………ダメでした。 よくよく考えれば、向こうにはナデシコとの交戦データがあるはずなんだから、DFSの間合いくらいお見通しか。
でも、まだ諦めきれない。 さっき、ちらっと思った「DFSの刃を飛ばす」、ダメ元で試してみよう。
この「刃を飛ばす」というのは、結論から言うと僕には出来なかった。 「剣の刃が飛ぶわけない」という先入観があったからだ。 けど、それに気付けた時、「ここでチューリップを叩ける」という確固たる確信を得た。
「刃が飛ぶワケないんだったら……弾丸なら!!」
僕はDFSのディストーションフィールドを、刃と判別できない程短く収束させる。 収束にかなり集中しなければならない上に、群がる敵が鬱陶しいけど、なんとか「弾丸」の形成に成功して…………それを投げる!! 飛んだ!!
それで、やった、と思えたのは一瞬の事……
ギュォォォォ――――ンっ!!
当初は、チューリップに穴が空く程度かな? と、たかをくくっていたのに……その黒い弾丸は、チューリップを跡形もなく吹き飛ばしていた………… 今、使ったディストーションフィールドは、収束させやすいよう7割ほどに抑えていた。 ……100%使ってたら、一体どうなってたんだろう…………
何はともあれ、今ので相当数の敵機が吹き飛び、基地への帰還は、思いのほか楽にできた。
Side Syun
ジェイドがチューリップを叩いて、敵の増援がなくなり、既に展開していた敵機も完全に掃除できて、戦闘が終了した後……
「……じゃあ、あれはお前さんがDFSでぶっ放した、って言うのか?」 「はい。僕だって、まさかあんなとんでもない物が飛び出すなんて……」
戦闘中、基地の上空を飛んでいった、黒い物。 それが、チューリップを跡形もなく消し飛ばせる威力を持っていると、技術班の連中はほざきやがった。 それが……たった一機の陸戦の手によるものだなんて、こうして報告を聞きながら、件の陸戦のブラックボックスの中を見ていても信じられん…………
DFSの元の持ち主であるβが使っている所だって、見たことないしな……って
「おいβ、お前、もしかしてコレ、できるのか?」 「ん? ああ、一応な。」 「何故今まで黙ってた。」 「話すタイミングと理由がなかったからだ。 第一、あれは強力過ぎてとりまわしが難しいからな。 ナデシコと違って防衛戦の多いこの基地での戦闘では、使いでのない技だと思っていたんだ。」 「……まあ確かに、あんなもんバカスカぶっ放すワケにもいかないか。」
「隊長、「巻貝」のサンプル、回収してきたと報告がありました。」 「ん? ああ、じゃ、技術班の連中に解析させてくれ。 あと、扱いにはくれぐれも注意しとけ、って伝えておけ。」 「了解しました。」
「巻貝」か……技術班の結論が出るまでは、並んでいるのにも迂闊に手を出せないし、鬱陶しい代物だな。
「あっ、もうこんな時間? 今から間に合うかな……?」 「ん? どうしたんだ?」 「いえ、もう僕の基地に帰る時間がとっくに過ぎていて、急がないと……」 「そうか。ハーテッド伍長、今回の協力、基地を代表して感謝する。 急いでいるなら、手の空いている奴に送らせるが?」 「あ、それだったらお気遣いなく。 大体、僕の階級で普通そういう事はできませんって。」 「……そうか。 そういや、お前さんの階級、なんだってそんなに低いんだ? あれだけの腕前なら、それこそ少尉や中尉あたりになって、世間で騒がれると思うんだが。」 「さあ? 多分、命令違反やスタンドプレーが多いからじゃないですか? それじゃ、姉さんにも挨拶してから出たいんで、これで失礼します。」
……命令違反にスタンドプレーね。 それを差っ引いても、英雄に祭り上げらてしかるべき実力だと思うんだがな……
慌しく出ていく女の子にしか見えない後姿を見送りながら、俺はそう思った。
βは、俺と一緒にその後姿を見送りながら、こう呟いた。
「……魔槍ブリューナク、か。 与太だと思ってたんだが、まさか本当にいたとはな…………」 「なんだ、β? その魔槍ブリューナクってのは?」 「いや、俺もこっちに来てから聞いた話なんだが…… この西欧で最強のエステバリスライダーの噂だ。 それによると、多くのエステバリスライダーが英雄として祭り上げられている中、西欧最強のパイロットだけは無名で、低い階級に甘んじているんだそうだ。 その理由は、諸説紛々だがな。 で、その西欧最強のパイロットを、誰がそう呼び始めたのか、「魔槍ブリューナク」というらしい。 ……それにしても、あんたが知らないとはな。 パイロットとメカニックだけにしか伝わっていない噂だ、というのも本当らしいな。」 「…………魔槍ブリューナク、ねぇ……」
あれだけの腕だ。「最強」と呼ばれても不思議ではない、か。
後日。
作りが単純だった為か、「巻貝」の解析には、それほど時間はかからなかった。
その解析の結果、あれは「地対空地雷」とでも言うべき代物だ、という事が判った。
仕組みはこうだ。 センサーを使って上空の様子をうかがい、味方の識別信号を出していない一定以上の大きさの飛行物を確認すると、巻きによって高速に加速された弾丸を上空にばら撒く。 その際に形成される弾幕は飽和射撃と言って良いほど濃密で、回避はほぼ不可能。 おまけに、弾丸の威力も大きく、通常のエステなら一発かすっただけでも致命傷になる。 もっとも、「巻貝」自身が射撃の際の反動に耐えられず、一瞬弾幕を張っただけで自壊してしまう。 もっというなら、一発こっきりの使い捨て兵器なのだ。 だから、「砲」ではなく「地雷」。
それが、解析班の結論だ。
…………突っ込んでいかなくて良かった。 もしそんな事をしてたら、今頃は……
そう考えると、寒気がした。
第参話「その英知は誰の為に」に続く
あとがき
さて、アリサ、もとい、ジェイド ファー ハーテッドの登場です。 βのモノローグにもある通り、彼はこの「三度目」の世界のアリサです。 性別が男性なのと、この時点のアリサと比較して圧倒的に強いのは、アキトの性格と同じく「イレギュラー」です。 今回の大暴れで、俺キャラ最強野郎呼ばわりされそうですけど、彼がこんなに強いのには理由があります。 それは……「時の流れに」でのアリサが、二つ名を持っているキャラだ、とは信じられないほど弱いからです!! 思えば彼女は、登場1話目から「漆黒の戦神」の引きたて役として、ひたすらこき下ろされてきました。 特に初登場時! 燃費の悪い空戦で無謀に突出してエネルギー切れを起こした挙句、「漆黒の戦神」に助けられてありがとうございます? ……正直、ここまで情けない輩を二つ名で呼びたくはありません。 設定上では、リョーコと並んで、アキト&北斗の次に強いらしいですが…… 実際の作品を見る限り、シミュレータのブラックサレナを倒したガイや、北辰と相打ちになったアカツキの方が、余程強いという印象があります。 だもんで、彼には二つ名を持つに値する強さを持って登場してもらいました。
まあ、ここまでだったら、そのまんまアリサとして登場させても良いんですが…… 性転換しているのにも理由があります。
それは……この話のナデシコには、気弱な男の子がいないからです。 この事実に気付いたのは、テシニアン島あたりです。 なにかがナデシコに足りないな……と思っていたら、原作ではアキトとジュンの二人がいた、気弱な男の子がいない事に気付きました。 ナデシコ改の男達は、原作でこのカテゴリに入っていたアキトとジュンを始め、カズキ、コウイチ、ガイ、ヒロユキ、β、アカツキ、プロスペクター、ゴート、
ウリバタケなどなど、誰一人としてそんなタマはいません。 まあ、いなくてもなんとかなりはするんですが、いた方がリョーコ等、一部の女性クルーの描写が楽になると思いますので、ここらで一人登場させることにしました。 が、無闇にキャラを増やすのもどうしたものだろうと考え、行きついた結論が「アリサ性転換」だったわけです。 おかげで、サラが取り返しのつかないレベルのブラコン姉さんになってしまいましたが、それはそれとして。
ま、キャラを増やすのもどうしたものだろう、とほざいた割に、中尉と少尉という二人のオリキャラを出してしまいましたけど。 この二人、実は当初の予定では、殺す気でした。 ジェイドがいない隙に、多数のチューリップが来襲、基地は壊滅、二人は戦死……ってのが当初の予定。 ですが、ここでこう思いました。 「人を殺せば、簡単に感動が得られる。 だが、一話限りのキャラを殺して手軽に感動を得るだなんて、そんな惰弱な事を言っていてよいのか? そもそも、たとえ物語の登場人物でしかない存在でも、たったそれだけの理由で殺してしまって本当に良いのか?」 これと、キャラ増えすぎの弊害をすりあわせた結果、 「この二人は生かしておいても、死にキャラにしてしまえば問題はない。」 という結論に達し、殺すのを取り止めました……何かが間違ってますかね、この結論。
それと、かなり「再び・時の流れに」のパクリと言われそうな気がしますが、東八雲さん、ここで登場してもらいました。 言い訳をさせてもらうなら、初めて「再び・時の流れに」を読む前から、彼をここで出す事は決めていたんですが…… それはともかく、「再び・時の流れに」とは違い、八雲の素性を承知でナデシコに引きずり込もうと考えるβ達の目論みは上手くいくのでしょうか? ま、書いてる本人はもう結果を決めてしまっていて、知ってるんですけどね。
あと、気付いた方もいるでしょうけど、こちらの世界のグラシス中将、既に故人です。 これは、ある時ふと、「木連は、深遠を使えば暗殺し放題じゃん。奴さん、ボソンジャンプできるし。」という重大な事実に気が付いてしまい、地球側の「マトモなお偉いさん」を、何人か消しておかなければならない作劇場の必然ができてしまった為です。 他には、ガトル大将が深遠に暗殺されてます。
それでは、西欧編第参話は、八雲の話になりますので、ご期待……やっぱいいです。 プレッシャーに弱い質ですので。
次は、「明日も知らぬ僕達」ではなく、「極楽大作戦!!」の第二話を更新すると思います。 なので、西欧編第参話はお預けという事で、ご了承下さい。
では、誤字脱字の指摘やご意見、ご感想などを待っています。
管理人の感想 平成ウルトラマン隊員軍団(仮)さんからの投稿です。 あはははは・・・すんません、アリサの描写が弱くて(涙) うう、あれでもお気に入りのキャラなんですけどねぇ・・・死にキャラになってますよね(苦笑) ま、今後はジェイド君の活躍に期待しましょう!! それにしても、グラシス爺さんにガトルさんお亡くなりですか(汗) うわ、何か救いが無いな、連合軍・・・
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