Side Dia 『ふぇ〜〜、まさかこっちの世界のアリサさんが男の人だったなんて……』 今回の防衛戦が終わった後、あたしはそうもらした。 『そうだよね。でも……』 う〜ん、思い当たる節があるようなないような。 『多分、アリサさんがルリ姉みたいになっちゃったからだと思うけど。』 う〜〜ん、確かに。 「無駄話はそこまでにしておけ。お前達の存在は、まだ秘密なんだからな。」 あたし達の話は、このβさんの一言で中断され、ブローディアは基地に帰投していった。 明日も知らぬ僕達外伝 鈍色の龍騎兵 第参話 その英知は誰の為に Side β 「グラシス中将は、既に故人……か。 俺と北斗は、少し前の新聞を見て唸っている。 「それにしても乱暴なやり方だな。当時中将がいた基地ごと消し飛ばすとは……」 まあ、考えてみれば、深遠は北辰の配下。 「この分だと、地球側のマトモなお偉いさんは、近い内に皆殺しにされるな。 「なら…………是が非でも、八雲に協力してもらうしかなさそうだな。」 その北斗の答えに、俺は首を縦に振った。 Side Yakumo 「すみません。この基地から食材の注文があったと思ったんですが。」 私は、トラックの窓から顔を出し、守衛さんに言った。 「ん? ああ、話は来てるぜ。通りな。 そういって、私はいつものように、基地の敷地内に入っていった。 Side Hokuto 「最後に、これがオオサキ少佐ご注文のリンゴ1ダースです。 βの奴と通路を歩いていると、聞き覚えのある声が、こう話しているのが聞こえてきた。 「……ええ、確認しました。全て注文通りです。 が、行ってみただけで、向こうの話が終わるのを待ってから、八雲と接触してみる事にした。 「おい、久しぶりだな八雲。」 八雲がトラックに戻ろうとした時に、俺は奴にそう話しかけてみた。 「? あなたは? 何処かでお会いしましたか?」 と聞き返してきた。 「北斗、演技という感じはしない。 とのβの耳打ちで、その考えを改める。 「何故、私の名前を?」 が、こんなに似ている同姓同名など、βとアキトのような同一存在でもなければありえない。 「とりあえず、お前と話がしたい。時間はあるか?」 場所を変える事にした。 Side Yakumo 「さて、と、八雲、何か飲むか?」 私は、男言葉で話す北斗という少女と、彼女と同程度の年齢と思しき青年に連れられて、少女が使っているという部屋に通された。 「なあ、本当に俺の事を憶えてないのか? と、ここまで言って気付く。 「なっ、記憶喪失だとでもいうのか?」 困惑気味だった彼女は、更に困惑した顔で青年の顔を見やる。 「俺は……話しておいた方が良いと思う。ショックはでかいだろうけど……」 その青年の答えを聞いた彼女は、何かを考える様に俯き、やがて意を決した様子で口を開く。 「……よし、お前の素性を教えてやる。 「なん……ですって? 木…………星? 「――――――っ!! テレジアさんはレジィさんとの赤ん坊を抱いて、こんな世の中でも家族三人で幸せになってみせるって言っていたのにっ!! 私が……その幸せを理不尽に破壊した蜥蜴の…………一員だな……ん、て……」 私は……頭を垂れ、打ち震える事しかできなかった。 Side β 「…………何か、話がとんでもない方向に行ったな。」 あの後、ある程度落ち着いてきた(といっても表面だけだろうが)八雲に、北斗もまた木星の人間であり、彼が木星にいた頃の知り合いなので、この辺りの事情に詳しいと話した所……彼はいきなり北斗に掴みかかってきた。 何故、木連側の人間である北斗がこの場にいるのか、を説明する為、北斗が俺をヤマサキラボから連れ出してからの出来事をかいつまんで話した。 枝織ちゃんの事もあって、彼の北斗に対する不信感はかなりの物のように見えたが…… これらの話を聞いた時点で、彼の頭は混乱の極みに達したらしい。 「考えてみれば当たり前な話だな。 …………正直、東八雲がああも木連を憎んでいるとは思わなかった。 ブレーン的な役割はもとより、ともすれば地球側に寄りがちな判断を下しかねない俺達にエクスキューズを投げかける存在として、味方に引き入れたかったんだが…… Side Yakumo 私は、ベッドの上で天井を見上げていた。 眠れない。 原因は判り切っている。昼間に聞かされた話だ。 「私が、蜥蜴だというなら……どんな顔をしてテレジアさん達の墓前に立てば良い? そう口にして気付く。司令官……司令官? 「は……ははは……質の悪い冗談、そうだ冗談なんだ…………」 そうだ、嘘だ。私が司令官などという立場な筈が無い。 そう思うと、心がいくらか軽くなったような気がした。 ほんの数回聞いただけの、「木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星国家間反地球共同連合体」などという長く覚え辛い名前を、今、澱みもせずにスラスラと口に出来た、その事が意味する事実に気付きもせずに…… 翌朝、居候先のテア家の人達との朝食の時に、私は何気なく昨日聞かされた話をした。 「馬鹿げているとは思いませんか? 何故、敵の司令官がこんな所に来なければならないんです? 私は、話を聞いた家長のアルドーさんの顔が険しくなっているのに気付き、それ以上言葉を続ける事ができなかった。 「お父さん、どうしたんですか?」 長女のミリアさんがそう声を上げる。妹のメティも怪訝そうだ。 アルドーさんが重々しく口を開いた時、私達は信じられない、いや信じたくない言葉を聞いてしまった。 「……恐らく、その北斗という少女の話は、大体が本当の事だよ、八雲君。」 アルドーさんは黙って席を立ち、戻ってきた時には白いガクランと金属片を持ってきた。 見ると、ガクランの胸の部分と金属片には穴が穿たれていて、ガクランは恐らく血であろう物で赤く染められていた。 「これは?」 そういって、金属片を私に差し出す。それには私の名前が書いてあり、「東」と「八」の間に穴が穿たれていた。 「それで、これがなんだというんです?」 それを聞いた瞬間、何かが体から頭に上って来た。 「んなっ、なんで話してくれなかったんですかっ!!」 そう切り返されて、言葉も出ない。 「……アレンは、私が敵だと知っていて、それで何故あんなにも良くしてくれたんです? その答えを聞いて、私はありがたさにむせび泣いた…… ミリアさんも、メティも、この話を聞いた後も「八雲さんは八雲さん。」と言って、私を受け入れてくれた。 私は……幸せ者だ。本来なら、徹底的に拒絶されて然るべき筈なのに………… ―――――――そして。 「お前から顔を出すとはな。どういう心境の変化だ?」 「是非、お願いします。」 全てを、ナデシコの目的を聞かされた私は、微力ながら協力したいと申し出、彼等はそれを受け入れてくれた。 だが、私の目的は他にある。 木連にあの恐怖を。 自分達が一体何をしたのかを判らせてやる。 例え私もまたその裁きを受ける事になるとしても。 後日、私は北斗達と行動を共にする為、アルドーさんの了承を受けた上で、基地でオペレーターとして働かせてもらう事になった。 第四話「除草屋」に続く あとがき ミリア&メティスの親父さんの名前、特に決まってないようで。とりあえずアルドーさんとしました。 で八雲さんです。記憶喪失で、かなーり木連に対して悪印象をもってます。 さて、次回からはMoonNight編です。 今度は、もう少し間隔を空けないで投稿できれば良いと思います。 |
代理人の感想
おー。
確かにこれはアリですねぇ。
地球人として暮らしていて、木星蜥蜴に反感を持たないはずがない。
ただ、もっと理性的な男だと思っていたので、あそこで簡単に激昂してしまったのはちょい違和感が。
記憶を失うとやっぱり性格も変わるんでしょうかね。