真・冥王計画
第一話
『潜入』
マサトは現在木連にその身を預けていた。ボソンジャンプを完全に自分のものとしたマサキによって三年も前の木星へと飛び、今は技術開発を担当する部門においてトップの地位を築いていた。
唐突に現れたこともあって何度も警戒されたが、柔らかくも博識な頭脳で直ぐに溶け込んで木連の人工知能の性能を底上げし、時折見せる冷酷で非情なまでの顔で北辰と共に裏の人間から一目置かれる存在にもなっている。
そのマサトは今、草壁の私室へと招かれていた。
「マサキ、お前が来てくれたお陰で僕達の悲願がより早く達成出来そうだ」
「俺は俺のためにやっただけだ。感謝されるほどのものではない」
これがマサトの役割。自らを木原マサキと偽り、いずれ本物のマサキと入れ替わった時に何ら支障をきたさないように振る舞い続ける。
そのために、彼はマサキの頭脳を移植されたのだ。
「それでも早まったのは事実。木連指導者としても一人の男としても礼をさせてもらう」
マサトに対して頭を下げる草壁。とはいっても社交辞令的な意味合いが強い、ただの礼かもしれないが。
この二人、互いの目的は既に知っている。どちらも話したわけではないがそのことに気付いている。策謀の深さではマサトの方が遥かに上だが。
そんな二人がぶつかることのなかったのは利害関係が一致しているからだろう。
草壁は地球人の抹殺、マサトはマサキの真・冥王計画の障害となるナデシコの消滅、どちらも初めに向かうべき対象は似通っているのだから衝突などはするはずがなかった。
「で、俺をここに呼んだ理由はなんだ?」
「話が早くて助かる。つい先ほど悪の地球人が跳躍実験を行ったとみられる機体がこの木連に来た。だが我々はその跳躍先をすぐさま解析し、場所が特定出来た今一気攻勢に出ることを決めた」
「つまり俺に優人部隊と共に地球に降りてその施設やら何やらを破壊しろということか」
草壁は静かに頷く。
マサトにとってそれは実に好都合なことであった。彼に与えられたもう一つの任務、ナデシコへ侵入するために。
そしてより円滑に進めるようにマサトは自分の考えを草壁に話す。
「俺は地球側の最強と謳われる奴が乗る戦艦ナデシコに潜入する。そのためにもだ、優人部隊の連中に一芝居をうたせる必要がある」
「ほう、その芝居とは」
「簡単だ。奴らには俺を攻撃させる、動けなくなる程度にまで完璧にな。そうすれば情に厚い地球人は必ず俺を助ける。
何故と問われれば木連に捕まって人体実験されそうになったところを逃げ出してきた、とでも言えばな」
後は監視の目がなくなってあらかた調べ終わった時に、北辰の奴でもこっちによこせばそれでいいと最後にマサトは付け加えた。
マサトの案、それは自らの身を挺しての囮ということだった。
「なるほど。わかった、すぐにその旨を今回の作戦に参加する優人部隊の者に伝えよう。だが本当に成功するのか?」
自室の内線で二人の男を呼んだ後、草壁が不意に口を開いた。それはマサキを演じているマサトの最悪なまでの性格を思ったが故に口をついた言葉だった。
「誰にものを言っている草壁。この俺が今まで仕損じることなどあったか?」
剥き出しの殺気をぶつけられて閉口する草壁。彼とて伊達にパイロットとしてやってきたわけではないが、マサトを怒らせた者がどうなったかを知っているために何も言わなかった。
「白鳥 九十九、月臣 元一朗、参りました」
「……入りたまえ」
白鳥と月臣は一礼をし、草壁の前でぴしっと一本の糸のように真っ直ぐ立つ。
「閣下、一体どのようなご命令でしょうか?」
「ついに悪の地球人を退治する日がやってきたのですか?」
そしてビシッとした敬礼をする。マサトのことは視界に入れないように努力しているのか、決して彼の方を見ようとしない。
それもそのはず。彼らは本気でマサトのことを毛嫌いしている。曰く、ヤマサキと同じ匂いのする悪魔だと。
それは実に的を射ている言葉だろう。元々はマッドなマサキの頭脳のマサトなのだ、そんな奴が同じくマッドなヤマサキと気が合わないわけがなく、人体実験を嬉々として行う微妙な親友関係が出来上がっているとかいないとか。
「くくく……俺も嫌われたな」
それを知っているマサトはやれやれと肩をすくめ何を今更と九十九と月臣が顔をしかめる。
「今は仲間内で争っている時ではない。白鳥君、月臣君、君達を呼んだのは他でもない。この度決まった地球侵攻作戦の第一陣に君達が選ばれたからだ」
「はっ、光栄であります!」
「同じくです!」
「君達二人の任務は跳躍実験を行った施設の破壊。可能であればナデシコの破壊もだ。
そして白鳥君にはもう一つ任務がある。マサキが駆るデンジンのプロトタイプを攻撃してほしいのだ」
「攻撃……ですか?」
「詳しくはマサキから聞いてくれ。吉報を待っているよ」
「「全ては木連のために! レッツ・ゲキガイン!!」」 「行くぞ白鳥、月臣」
こういった暑苦しいのは決して好むものではなく、マサキは既に草壁の私室から出ようとしているところだった。
その後を慌てて追う九十九と月臣は部屋を出る前に再度草壁へと敬礼し、部屋を出て行った。
「――何を考えている。木原マサキ」
草壁の静かな呟きは闇へと吸い込まれ、誰の耳にも届くことはなかった。
「なぜ自分が貴方の駆るデンジンを攻撃しなければならないのですか?」
別段、医務担当というわけでもないのに慣れた様子でメスを使い、マサキは自らの手足や顔に体を傷つけては包帯を巻きつけていく。
「簡単なことだ。俺はナデシコへと潜り込む、そのために怪我の一つでもしていた方が好都合。
ついでに大怪我とはいかずともそれなりの怪我となれば向こうで取り調べされる可能性も減る。さらにナデシコの奴らは情に厚いと聞いている。そんな奴らが俺を降ろすはずなどない。そしてお涙頂戴話を加えて終わり」
視線だけでわかったかと問うマサキ。
九十九は今ひとつ釈然としないものがあったが、敵である地球人を調べるためと言い聞かせてマサキの問いにYESと頷く。
「それともう一つ質問させてよろしいでしょうか?」
「何だ?」
「なぜご自分で出撃されないのですか? 貴方ほどの技術があればこのような回りくどいことせずともナデシコを――」
九十九の問いにマサキが返した答えは、人が浮かべるものとは思えない不敵な笑みだけだった。
その笑みに九十九の身体が、心が絶対零度まで下がったかのような錯覚を覚えた。だからそれ以上突っ込んで聞きたいとは思わない、思いたくもなかった。
「手加減など必要ない。俺を敵だと思って撃て」
「はっ」
九十九の了解を背にマサトを乗せたデンジンがチューリップに飲み込まれて消える。
その後に続くテツジンとマジン。
その直後、地球にあるネルガルの研究所。
「フィールドジェネレータ破壊!!」
「チューリップ内部より巨大なディストーション・フィールド発生!!」
「ボース粒子、大量に検出!!」
「まさかこの研究所を直接潰すつもりか!!」
「…来るぞ!!」
口を無理矢理広げられたチューリップから現れたデンジンはすぐにその研究施設を飛び出す。
それに続いてテツジン、マジンも現れ、デンジンが飛び出してきた時に殆ど壊された研究施設は二機が完全に破壊していった。
「ああいい忘れていたが、仮にお前がナデシコに拿捕されても俺のことは知らぬ存ぜぬで通せ。
俺は木連で秘密裏に非道な人体実験をされていた、可哀想な少年Aという設定だ」
少年というには少し無理があるのでは? とのツッコミは心の中にしまい込んで九十九は同意する。
「いいな白鳥、ここからは一切通信はなしだ。手筈どおりにやれ」
「わかっています! それでは失礼して!」
「非常警報、そうか彼が来たんだな」
自室でこの先、最も重要な人物の一人にあたるものがこの地に到したことを示す非常警報を耳にしたアキトは人知れず呟く。
その言葉を肯定するかのようにアキトの目の前にコミニュケが開かれた。
ちなみに女装はとっくの昔に止めてある。その際に男のプライドがずたずたに引き裂かれたのは秘密にしておくべきことだろう。
『アキトさん、ヨコスカシティに木星蜥蜴が現れたんですけど……』
珍しく言葉尻を濁すルリに怪訝な表情を向けるアキト。
ルリも言うべきは言わざるべきか、しばらく逡巡してから意を決して口を開いた。
『その、仲間割れをしているんです』
仲間割れその言葉に目を見開くアキト。それもそのはず、木連軍人は見事なまでに洗脳され白鳥暗殺のことさえなければ熱血クーデターも起きなかったのかもしれないほど。
その連中が仲間割れをするということはまずありえない。ましてや、今この地に来ているのは無二の親友である白鳥と月臣であることをアキトは知っている。
なら一体誰が? その疑問を口にするよりも先にルリからの指令が飛ぶ。
『とにかく出撃してください』
「わかった、すぐに出る」
いくら考えていても埒が明かず、アキトは自分の目で確かめることを決めたのだった。
『何あれ? ゲキガンガー??』
『連合軍は全滅か』
「やっと来たよ。あの方から聞いてる限りじゃなかなか迅速な動きをするって言ってたのに」
ようやく出てきたエステバリスの集団に嘆息するマサト。彼を作ったあの方とは言わずもがな、マサキのことである。
ナデシコがチューリップの中を漂っていた空白の八ヶ月の間に彼は生まれ、時間軸を越える術を身に付けたマサキによって地球に侵攻する前の木連に送られていた。
「ユィンさん、全方位マイクへと切り替えるからよろしく。ノイズが混じるように調整してるからそれなりに雰囲気は出るはずだから」
いつの間にかマサトの座っているシートの後ろにいるユィン。彼女はボソンジャンプで現れたのだ。
「わかってる。マサキのためだから」
「それは僕も同じさ」
名前を与えられたユィンは当然ながら、マサトもマサキ至上主義である。
これはマサキがそうなるようにプログラムしたことも関係しているが、彼らは純粋に木原マサキという人物に忠誠を誓っている。
前のように天上天下唯我独尊なマサキであればそんなこともなかったのかもしれない。だが、人間として大きな成長を遂げたマサキは本当の意味で彼らの主となる人物に相応しかった。
「「全てはマサキ(あの方)のために」」
ただそれだけのために、彼はデンジンを動かし続ける。
俺の目の前には三機の大型人型兵器がいた。過去と同じテツジン、マジン。そして過去と違い存在しているデンジン。
テツジンとマジンは街を破壊しながらもデンジンを落とそうと何度も攻撃を加えている。
『敵は小型ながらグラビティ・ブラストを持っています。
それでどうしますかアキトさん』
どうしますと聞かれてもな、どうしようか。
他の皆も俺の言葉を待っているようだし、それにあのデンジンは追われているわけだ。だったら
「どういう理由で追われているかはわからないが、あれが罠かどうかはわからない。
だから攻撃している二機の方を先に攻撃する。これ以上この街を壊させないためにもな」
まだ木連が人間だとは他のパイロットの皆は知らないしな、アリサちゃんやアカツキなら俺が言いたいことわかると思うけど。
ナデシコを飛び出していく俺達。戦場に駆けつけた時に驚くべき言葉が返ってきた。
『……助け…………さい!! ……逃げ………、……で、………中で、見……って』
『うあああああ!!』
「な、なんで無人機から人の声がするんだ!?」
リョーコちゃんの驚きの声が聞こえる。リョーコちゃんだけじゃない、俺とアリサちゃん、それにアカツキ以外のパイロットは皆驚いた顔をしている。
無理もないか、今まで無人だと信じていた敵から突然人の声が聞こえればな。
それに俺だって少なからず衝撃は受けているんだ。草壁を信望し、ゲキガン命の連中が木連から逃げ出したという事実にな。
だが一緒に聞こえてきた女の子の声、まさかラピスと同じような子が乗っているのか?
なら助けないわけにはいかないだろ!!
「皆驚くのは後だ!! 助けを求めている機体はナデシコの方へと誘導! 残る二機を倒すことに専念するんだ!!」
俺の喝で皆は動き出す。デンジンもふらふらとしながらもナデシコの方へと飛んで行っている。
あそこには念のためにアリサちゃんを置いてあるから大丈夫だろう。
「テンカワ! 後でちゃんと説明しろよな!!
おりゃあああああ!!」
真っ先にリョーコちゃんがテツジンへと攻撃を仕掛けるが、その強固なフィールドは破れない。
というよりそっちのを破壊してもらったら困るんだよね。
それにこっちはカザマさんが死ぬ前に俺が戦闘不能にさせる!
「リョーコちゃん、俺がやる!」
「任せたぜテンカワ!」
テツジンから発射されたグラビティ・ブラスト。
だがブラックサレナを捕らえるにはまだまだ遅い! このまま一気に斬る!
俺はD・F・Sをテツジンの首めがけて振るう。だが俺の一撃は当たる寸前にボソンジャンプで逃げられた。
「瞬間移動だあ!?」
「こっちもだよ〜」
「ここはテンカワ君に任せるんだ!」
「あんだとこのロン髪!」
合わない役を演じさせてすまないなアカツキ。
「早く終わらせるぞ!」
俺にはパターンは既に読めている、タネの割れた手品をいつまでも見ているつもりはない!
俺はテツジンの攻撃を完全にかわし、素早く正面に取り付く。
『この、離れろ悪の地球人め!!』
やはりあの人か。多分接触回線でも開いたんだろう、規格が違うからサウンド・オンリーだが間違いない。
「ちょっと間我慢してくれよ!」
『何を!!』
彼の言葉を無視して、俺は首と胴体を二つに分断する。
そして離脱時に胸の発射口と両手足を破壊した。これでコッチは問題なし、と。
さて、アッチはどうかな?
「次、リョーコくんの後ろに三秒後!」
上空から的確に指示を出しているアカツキ。
俺が西欧に出向している間にもナデシコは木星蜥蜴から襲撃を受けたと聞いている。
その間に連携の経験もたくさん積んだんだな。なら俺は見学に徹させてもらおう。
「よし、今だ!」
アカツキの指示に応えて、皆が一斉砲火を加える。
現れた瞬間を狙われてはどうにもならないだろう、マジンが再びジャンプ体勢に入る。
「後方右30、来るよ!」
今度は完璧に捉えたか。
マジンがビルの方に寄り掛かる。さて、俺の出番だな。
「ジャンプのパターンさえ読めればこれくらいはね」
なかなかだったぞアカツキ、それに皆。
だがまだ最後の仕上げが残っている。
そして俺の考えを肯定するようにマジンから甲高い音が漏れてくる。
「な、何だあ!?」
『説明いたしましょう!!』
やっぱり出てきたなイネスさん。説明の機会を得たんだからら当然か。
『アレは初めから自爆用にプログラムされているわ。周囲の空間ごと相転移するようにね。
この街全体がキレイさっぱりなくなることは保証するわよ』
「笑顔でさらっと恐いこと言うんじゃねえええええ!!」
イネスさんの説明に思い切りリョーコちゃんが吠える。
ま、俺がこれからすることがわかってるから笑顔で言ったと思うけど。
「え〜〜〜〜〜!! じゃあどうしたらいいの?」
「まあ、何とかなるんじゃない?」
「その根拠は何だよロン髪!!」
『あら偶然ね、私も同意見よアカツキ君』
イネスさんとアカツキの視線は俺を見ていた。皆まで言わずともわかってるさ。
「テンカワ?」
「ああ、それじゃあ最後の詰めをやらせてもらうよ」
俺は自爆する準備をしているマジンの、ディストーション・フィールドに片手を当てる。
さてと、ジャンプ・フィールドを展開。
マジンのディストーション・フィールドに同調して、と。
俺とマジンの上空に突如として虹色の空間が発生する。
それに俺とマジンが吸い込まれていく。傍から見てれば俺が取り込まれているように見えるのかな?
「テンカワ!!」
「テンカワ君は大丈夫だ!! 落ち着き給えリョーコ君!!」
「離せよ!! テンカワ!! テンカワ〜〜〜!!」
大丈夫だよリョーコちゃん、必ずすぐに会えるさ。
俺は皆を残して消える気は、ない。
だが心配事と言えば、あのデンジンに誰が乗っているかだな。ま、今のナデシコにはナオさんやシュン提督もいるから大丈夫だろう。
「ジャンプ」
俺とマジンは虹色の空間へと消えた。
「嘘……だよね? ……アキト……」
「アキトさんが……」
「敵、消滅を確認しました」
「通信が入ります」
「ど、どうしてそんなにルリルリもサラちゃんも冷静なの?」
「だって、アキトならきっと大丈夫ですよ。向こうでも、何時も無事に笑って帰って来てくれました。
それに私達を置いて消えるはずはありません。だって、ほら…」
『や、元気?』
「!?」
何で幽霊見ちゃいました! みたいな顔をするんだ皆。
「ア、アキトなの?」
『当然だ、幽霊でもなけりゃ幻でもない。足だってあるぞ』
「アキトさん!」
「やっぱり無事のようね」
「お疲れ様です」
「ねね、アキトは今どこにいるの?」
『俺か? 俺は月にいる』
「月い!?」
お〜お〜皆して驚いてるよ。まあ当然か。
っと今はそれよりも聞きたいことがあったな。
『ま、そういうことだ。それより救助を求めていたデンジンからは何が出てきたんだ?』
「男性が一人と、マシンチャイルドの女の子が一人です。
男性の方は腕や肋骨にヒビが入っていたので今は医務室にいます。女の子もそれに付き添っていますよアキトさん」
報告ありがとうルリちゃん、でも後ろでセリフを取られたユリカが睨んでるぞ。
あ、ルリちゃんが睨みかえして……弱いなユリカ。
『そうか、そういえばまだ言ってなかったよな。
皆、メリークリスマス!』
そうだ俺はこの笑顔を守るために戦っているんだ。
だが俺は知らなかった。一番最悪な男の魔の手が忍び寄っていることに。
さてさて、無事に潜入に成功した僕は今、ナデシコの医務室にいるわけですが……
「ありがとうございます。えっと……」
グラマーな金髪美人に看病されるっていうのは悪くない。八卦衆にはグラマーはいても金髪っていないもんね。
……こんなこと皆に言ったら半殺し確定。心の中で留めておくべし。
ちなみに、ロクフェル>アエン=タウ>>>>>>ユィンの順番です。
「イネス、イネス・フレサンジュよ。そちらの名前は?」
「アキツ・マサトです。それでこっちがミン・ユィン、僕の妹みたいな子です」
ぺこりとユィンが一礼。見た目はまだまだ年端もいかない少女だけど、誰がこの中で一番年上だって気付くかな?
だって実年齢三桁突破しているそうだし。実際に生きて動いていた時間は一年もいってないらしいけど。
ん? 誰か来た。丸ブチ眼鏡に赤いチョッキにチョビ髭の人の良さそうな笑顔のオジサン――怪しい!!
「件の方が目覚めたそうですな〜」
「あらプロスさん、耳が早いわね」
「そういう仕事ですから」
この人がプロスペクターっていうんだ。あの方がいうには見た目でごまかされるな、奴は裏の人間だっていってたっけ?
「貴方が救助された方さんですな? 私、プロスペクターと言います」
「本名ですか?」
「いえいえペンネームみたいなものでして、それで貴方の身元を調べさせていただけませんか?
これも一応規則でして」
プロスさんがボールペンのようなものをこっちに向けてきた。あれで遺伝子を調べるんだ、へ〜
っと、ユィンが僕の後ろに隠れてうまくごまかしてと小声で囁いてきた。了解、了解、これもあの方の策謀の一つだしちゃんとやりますよー
「おや? どうしましたか?」
「すいません、僕は大丈夫なんですが天乃は先端の尖ったものが駄目なんですよ。
木連……貴方達が木星蜥蜴と呼ばれる集団で色んな人体実験をされたせいで……その、先端恐怖症のそれに近くなって」
「そこから先はおっしゃらなくていいですよ。しかし妙ですな、無人機の集団がどうして人体実験なんかを?」
「それに木連ね……これは一体どういうことかしら」
ん? この人達まだ知らないんだ。てっきりテンカワ・アキトやホシノ・ルリが言っているかと思ってたけど。
それじゃあ僕が教えてあげよっかな。
「あの……もしかして木連のことを全く知らないんですか?」
「それは一体どういう意味でしょうか」
「こちらとしても色々と情報が欲しいところだし。よかったらその木連のこと、教えてくれないかしら」
よし、食いついてきた。見ればイネスさんも僕の話に興味津々らしく、一言一句聞き漏らさないようにしている。
「わかりました。木連――正しくは星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星小惑星国家反地球共同連合体といって、木星で文明を築いている人達のことです」
やっぱり驚いているよ。まあ、今まで無人機としか認識していなかったのだから当然だろうね。
「しかしそれは妙ですな。歴史では火星までしか殖民は進んでいないのですが」
「あくまでそれは地球の歴史、ということよ。でしょ? アキツ君」
僕は頷く。
さすがはというべきかな。どちらも裏事情に詳しいだけに色々と聡い。
「木連はかつて月の独立のために戦っていた人達の末裔です。地球の一握りの権力者に住む場を奪われ、核という禁断の兵器で多くの仲間の命を奪われた彼らが辿り着いた先が木星。
そこで見つかったのがバッタ、ジョロといった無人兵器を作り出すプラントです。でも彼らはすぐに攻めなかった。過去の過ちを認め、謝罪をするならば今までのことは水に流すと何度も何度も地球にメッセージを送っていました。
ですが、今の軍の高官達はそれを握りつぶしたんですよ。そんなものは存在しない。核も知らないと白を切って。それどころか彼らは地球を滅ぼしかねないという理由で、再び核を持ち出したんです。
再三にわたって和を保とうとした彼らもついには怒り、地球に侵攻したのです。
『我らの痛み、偉人達の恨み、今こそ償え』と。
以上が、僕の知る木連の全てです。あとは地球の人間を攫って様々な実験や兵器の開発に従事させていました。僕は仲間が何とか逃げ出させてくれたんです……」
二人とも開いた口が塞がらない――か。
信じていたものが根底が崩されたんだ。仕方が無いといえば仕方が無いかな。
「では先程回収したもう一つの機動兵器にも人が乗っているということですか!?」
「はい。僕を追ってきた人が……って回収したんですか!?」
驚いたフリ驚いたフリ。
「そうなのよね。まったく新しい代物だったから調べてみようってことになってたわ」
「ふむ。しばらくこのことは口外出来ません。恐らくはテンカワさんあたりが何かしらのアクションを起こすまで、ここにいる四人だけの秘密ということで」
「それが賢明かしら」
「わかりました」
「はいです」
あ、ここに来て初めてユィンが喋った。
「ではそういうことで。さて、アキツさんのデータを〜と、アキツ・マサトさん、日本生まれで両親とも早くに死に別れ、施設を転々とする。
17歳の時に行方不明となり、事件は迷宮入りのまま今も解決されていない……」
はい!? と思わず声が出そうになったけど、どうにか声に出る一歩手前で押し留めた。
何? その設定。今の僕って確か15歳って設定なんですよ!? なのに17歳で行方不明ってなに!?
「木連にいる間に三年の年月が過ぎたです。だから今のマサトは18歳」
ユィンさん、解説どうもありがとうございました。
「そうですか……ではアキツさんは帰る家はないのですな?」
「あ、…はい」
「ではこのナデシコで働いてみませんか? 何か特技の一つか二つお持ちであればよろしいのですが」
「一応医術全般に機械関係なら。これでも機械をいじるのは得意ですから」
これはあの方の手伝いをしてたら自然と身についた。特に遺伝子関係ならここにいる誰にも負けない自信もある。
「わかりました。ではアキツさんは医務室でドクターの助手と整備班の掛け持ちということで。
よろしいですかな、ドクター?」
「ええ。人手が増えるにこしたことはないわ。他にも色々と聞きたいことが出来たしね」
「ではそういうことですので、こちらにサインの方をお願いします」
「あ、はい。そうだ、ユィンも一緒にいいですか? 多分瞳の色を見てくれればわかってもらえると思いますけど」
昔はこの人形の瞳って紫だったらしいけど、ユィンが宿った時に金色に変わったってあの方から聞いた。
それに同じマシンチャイルドならホシノ・ルリやラピス・ラズリと接触しても、何の問題も起こらない……はず。
「……ええ、勿論ですとも。ではユィンさんはこちらの方にサインを。あ、マサトさんが書いてくだされば結構ですから」
アキツ・マサト、ミン・ユィン……っと。
微妙に細かい規則とか多かったけど、どうせいつかはいなくなるから別段削除する必要もないと判断して削除しなかった。
でも男女交際が手をつなぐまでってのはどういう意味なんだろ?
「はい確かに二人のお名前確認させてもらいました。では、これから貴方たちはこのナデシコのクルーです」
プロスさんの宣言に僕は元気良く答える。さてさて、あの人の妨げになるであろうこのナデシコ、色々と見せてもらいますよ。
同時刻、火星極冠遺跡内、鉄甲龍要塞にて
「たった今、マサトとユィン殿がナデシコに潜入を果たしたと葎から報告がありました」
思ったよりも遅かったな。まあ木連でそれ相応の地位を築き上げた奴を無下に扱う気はないが。
「そうか。クリムゾンの動きはどうだ?」
「塞臥と祗鎗の報告では今のところ目立った動きはないとのことです。ですが、何かを作っている様子があると」
あの狸ジジイがまた何かやらかすか。人が折角与えてやった命を無駄にするような行いをするとはな、所詮狸如きでは冥王の膝元に収まる資格すらもない。
「八卦ロボは火、雷、地を除いた全てがロールアウトいたしました。残りの三機もあと一ヶ月と経たない内にロールアウトいたします」
思ったよりも早い。やはり俺の頭脳を一部移植したのが功を奏したといったところだな。
前回までの八卦ロボではあまりにも大きすぎてこの世界の人型兵器の8倍強にもなる。的としてはデカイだろうが、こちらの攻撃もそれだけ大きくなって当たりやすくなるということだ。蝿に向ける殺虫剤のようにな。
だがそれではつまらん。俺の作り上げた八卦ロボがこの世界の技術に劣ることがない、それを証明するために全てを縮小させた。
元の性能よりも遥かに強力な兵器となって。
「報告は終わりか」
「はい。しかし造物主様、無礼を承知で申し上げますが何も時を待たずとも、天ならば今すぐ奴らを消滅させることなど容易いのでは?」
「そんなのことか。ロクフェル、俺は常に飢えている。天を使うに値するような奴が出るのをな。そいつらを俺自身の手で滅ぼしてこそ、俺は冥王としてより高みへと上り詰める。
奴らはそのための布石、捨て駒風情にしか過ぎん。どれだけその身を磨こうともな」
何より、奴らの描く脚本など俺には無関係だ。奴らの知らぬ第三者の介入で大いに慌てふためけ、時の遡ってまでやり直しを図る愚か者ども。
お前らも所詮はただの役者にしか過ぎん。この木原マサキの描いた脚本のな。
あとがき
お久しぶりでございます。って覚えている人がいるかどうかとっても不安ですけど。
冥王と戦神――改め、真・冥王計画を読んでくださってありがとうございます。
前回はかなり? 駆け足なペースで時間を進めていたので色々と不具合というか、自分の力量の無さで失敗ばかりだったので今回のはのんびりといきながらマサキの術数権謀を書いていこうと思って改訂いたわけです。
マサキが人間的に成長したのは、その方が話が進めやすいからなんですよねー。前のままなら来た→メイオウ攻撃→しゅ〜りょ〜みたいなことになりかねないし……
それでは、これから頑張っていこうと思いますので。
P.S.
マサキが某ゲームの金ぴか王と似てると思うのは僕だけでしょうか?
自己中心的なとことか、自己チューなとことか、天上天下唯我独尊なとことか
代理人の感想
うーん・・・・・・・・・・・・・・・「人間として成長した」とあるけど、
成長した様子が見えないどころか、むしろ思考が幼稚になってません?(爆)
脳を移植された(というかマサキの脳を中身と一緒に移植したならそりゃコピーですな)マサトも余り賢そうには見えないし(苦笑)。
>金ぴかと似ている
天上天下唯我独尊なところは似ていなくもありませんが、金ぴかと違ってマサキって基本的に小物でしょう。
自分以外の全てを滅ぼしたいなんて考えるのは、逆を言えば世界と向きあっていくだけの自信が無いってことですよ。