時の流れに if 〜灰色の守護者〜
第一話 「男らしく」でいこう!
……ここって何処だろうか?
「くっ……。」
風を……感じる。
草木や大地の匂いを嗅いだ。
風の音。
風に揺られる草の音。
懐かしい。
五感がほぼ無くなった俺には何年ぶりの感覚だろうか。
だが……
何故こんなにはっきりと風を感じる?
なぜ音が……匂いが……
ああ…わかった、これは夢…なんだ。
…まあいい。
夢ならばさっさと起きて状況を確認しないと…
ラピスは、ルリちゃんは、ナデシコのクルーは無事だろうか?
そして俺はろくに見えもしない目を開けた。
…そこには。
見渡す限りの草原。
風の音。
風に運ばれる草木の匂い。
全てがはっきりと感じられた。
「何故だ…何故こんなにはっきりと五感を感じるんだ!?」
夢…か?
だが、余りにもリアルすぎる。
「一体どういうことだ……」
その時。
バチバチバチッ!!
空で火花が散ったような音がした後……
「のわぁぁぁぁっ!!」
「ひゃぁぁぁぁっ!!」
「うきゃぁぁぁっ!!」
三つの悲鳴が聞こえて。
ごちっ!!
頭にハンマーで殴られたような痛みを感じ、一瞬だけ意識を失った。
いてててて……どうなってるんだ?
突然空から…人が降ってきた。
まさか…ボソンジャンプか!?
降ってきた人の方を見る。
「……な!?」
……なんだとっ!?
俺の目の前にいた者は。
俺が地球で昔コックをしていた頃の服を着た……
昔の俺だった。
「お、俺えぇぇぇっ!?」
コトの始まりは俺、那桐愁が高三になって、夏休みに入った頃だった。
母さんが突然『刻に呼ばれた』などと言い出し、
どこかへ跳んでいったらしい。
(らしい、というのは俺がその場にいなかったから)
まぁその時はすぐ帰ってくるだろうと特に気にもしていなかった。
……しかし、それから一ヵ月なんの音沙汰もなかった。
これだけ長期間家を空けるのに連絡もこなかったのは初めてだ。
心配になった俺は一日使って母さんの足跡を辿ることにした。
一ヶ月経ったとはいえ、母さんの残留魔力(ログ)から足跡を探るのは容易だった。
探索は思ったよりスムーズに進んだ……が、最後に扉の術法のログを残し、あとは何もなかった。
そして、その扉の術法の行き先は『異世界』だった。
事態を重く見た父さんに滝の涙を流されながら母さんを探してきてくれと頼まれ、探すことになってしまった。
とはいっても俺は今まで扉の術法など使ったことがないのだ。
魔力の制御……行き先の指定……どっちも俺には自信がない。
そこで紗夜と綾、二人に頼み込んで手伝って貰うことにした。
これなら大丈夫だろう、とそのときは思った。
……だが、三人掛かりでも魔力の制御に失敗してしまったのだ。
暴走した魔力は俺達を飲み込んで
どこか知らないところへ跳ばされてしまった。
でもまぁ……こんどは扉の術法の制御ができればいいんだし。
大体コツは判ったから次は失敗しないはずだ。
あ……息はできたほうがいいか。
俺は生来の楽観的思考の為こんな能天気な考えがポンポン浮かぶ。
だから、向こうでも大抵のことでは動じない……つもりだったが。
「お、俺えぇぇぇっ!?」
流石にこんなことは考えてなかった。
「えーっと……」
どういうことだ?
昔の俺が目の前にいるというのはまあ、いい。
余り考えたくないが……
ボソンジャンプで過去に戻ってしまったという事実がわかったから。
ユリカと再会し、ナデシコAに乗る前の時に。
もう一度あの頃へ、という願望は叶ったが……フッ、皮肉だな。
昔の俺が目の前にいる……つまり俺は『俺』でないのだからな。
だが……昔の俺が一目見て自分と判るのはおかしい。
俺は何時もの漆黒の戦闘服を着ていた筈、昔の俺が見て気付くはずがない……あれ?
ふとした違和感。
それは、始めから気付いておくべきだった。
俺は、俺の知らない服を着ていたんだから。
「君……名前は?」
まさか……な。
「俺? 俺は……那桐愁(なぎりしゅう)だ
まさか……じゃ、あんたは?」
「……テンカワ アキトだ」
まさか……最悪な考えが浮かんだが。
「……は? 何言ってるの、愁?」
「何でアナタが愁の名前を……?」
シュウと一緒に降ってきた二人の少女の台詞が決定打だった。
そして……
(アキト!!)
…ラピスか!?
(ん〜……誰?)
どうやら事態はかなり複雑なようだ。
シュウとリンクで繋がってしまった。
そしてシュウ達は俺とラピスが嘘八百で騙せるような相手ではなかった。
『アキトってすぐ顔に出るんだ。カマかけたらすぐボロが出たぞ』(愁談)
『うん、ホントにドンドン自爆しちゃって……見てるこっちが不憫に思えたわ』(紗夜談)
『えっと……正直なのはいい、と思うんだけど……』(綾談)
俺の過去、現在への経緯が全てばれてしまった。
その代わりに、シュウ達が『魔導師』なる職業であることを教えてもらった。
俺も聞いたときは疑ったが……実演されると信じざるをえなかった。
「ふ〜ん……つまり、アナタが言いたいのはこういうこと?
ランダムジャンプとかいうので精神だけジャンプして精神が昔の身体に戻って、
混乱してるときにわたし達が降ってきて、愁と頭からぶつかって二人の精神がお互いの身体に、
しかもラピスっていう娘との精神的リンクもごっちゃになって三人……いや、四人か……が繋がってしまったと」
「……四人?」
俺、ラピス、シュウ……繋がってるのは三人だけのはずだ。
(うむ、我のことだ)
「……!!」
(そう身構えなくて良い。我は精神体だけだからな)
「……そうか」
(初にお目にかかる……とはいっても我は何時もお前を見ているがな。
我は全ての生命を管理する者…焔。一般的にお前達が天使とかと呼ぶモノだ)
……天使だと?
(そう、我は四天の一人。『刻』『空間』『物質』『魂』……我は魂を司っている。
ところでお前は過去に戻り、この世界で何を望むのだ?)
俺……俺は……
(アキト……)
俺は! 俺の勝手な願いが!!
全てを白紙に戻したんだ!!
ならば……同じ過去を……同じ過ちを繰り返す訳にはいかない!!
(それが…我に対する冒涜だと言ってもか?)
承知の上だ……たとえそれがどれだけ深い罪であろうと! あんな過去は繰り返させない!!
(そうか……その決心、気に入ったぞテンカワアキトよ。
我はお前に協力してやりたい。構わないな、愁よ?)
(ふん……知ってて言ってるのか?
前にも言っただろう?
俺はお前、お前は俺だ、と。物心ついた頃から一緒にいたお前だ、
俺の答えは判ってるはずだ。……良いに決まってるだろ?)
(ふむ……そうだろうな。ならば『空間』と『物質』にも手伝うように頼もう)
(……聞いてたわよ)
(もちろん、私達も手伝います。
紗夜も綾も賛同してますから問題ありません。
……『刻』はどうします?
彼女もこの世界にいるようですけど)
(アレには出会うまで秘密にしておけ。
アレは悪戯好きだから未来がどうなるかわかったものではない)
(……『刻』が聞いてたら後は知りませんよ)
(よい。アレは自分が四天最高位であることの自覚が足りん! 大体…クドクド)
(あ〜ああ……焔の愚痴が始まっちゃった…ま、ほっときましょ。
あ、テンカワ君始めまして。私は『物質』のセラフィ。)
(私は『空間』のフィリアです)
あ……ああ。よろしく、セラフィさんフィリアさん。
(えっと……アキトさん……でいいか?
俺も手伝うよ……これからよろしくな)
アキトでいいよ、シュウ。
(了解。ところでフィリアさん、
母さんがこの世界にいるって本当か?)
(ええ。『刻』……いえ、由希さんはサセボドックとかいうところのナデシコ艦内にいるみたいです)
サセボドック……?
ナデシコ艦内……?
……ラピス、現在の時間は?
(えっと…2196年○月×日……)
「げっ! やばい!!
今日はナデシコ出港日じゃないか!?
しかも時間が! 急がないと!!
皆ついてきてくれ!!」
「え? なに、なに?」
とりあえず、
今回の出港は賑やかで前途多難みたいだった。
<灰色の守護者のなかがきっぽいもの>
みなさんはじめまして海です。
題名のとおりこの話は『時の流れに』準拠です。
なのでアンカーを打ち込まれて云々……という話は飛ばしちゃいました。
だってここの部分は変わらないし……(言い訳)
コピペじゃ失礼でしょう。(また言い訳)
それに面ど……ゲフンゲフン。
ちなみに「お、俺えぇぇぇっ!?」の部分は愁君(いん テンカワアキト)の台詞です……