時の流れに if 〜灰色の守護者〜

 第三話 早すぎる「さよなら」……
            母さん……俺、自信無くすよ……。

 

 

 

 

「なぁ、母さん……何考えてるんだ? ……四足の草鞋履くなんて……そこかっ!!」

 ドドドドドッ!!

 

 IFS処理をした後、母さんに『模擬戦してみますか?』と聞かれた。

 現在はトレーニングルームで模擬戦の真っ最中。

 始めはちょっと手間取ったが、

 アキトとの身体の違いによる制御の誤差もさほど気にならなくなった。

 

 通信を開きながらの戦闘。

 ま、それだけ慣れてきたということだ。

 

「……整備班がメインですよ。あとコックは頼まれた時だけです。
 流石にそれじゃ過労死しますから……はい、外れです」

 

「そうだよな。……ってわぁぁぁっ!?」

 

 ガキィィィン!! ドン!ドンッ!!

 

 突然視界に表れた母さんの機体に掴まれた後、ライフルを撃ちこまれる。

 

『ピットに被弾、パイロット死亡』

 

 

「……った〜……やっぱし無理」

 

 これで……十戦十敗か。

 毎回これってもないくらい殺されて

 しかも一撃も当たってないんだよな。

 全然手加減しないあたりだ。

 

 ちなみに、

 

 一回目…背後からナイフの攻撃。脱出する暇なく、死亡。
 二回目…死角からライフル射撃。じわじわと削られて死亡。
 三回目…上から強襲。頭を踏みつけると同時にライフル。死亡。
 ・
 ・
 ・
 八回目…シミュレーターの障害物に潰され容赦なくライフルの追い討ち。死亡。
 九回目…トラップを仕掛け、油断したところにフィールドを纏った一撃。アサルトピットごと貫通して死亡。

 

 ……だ。

 容赦なし。

 血も涙も無いとはこのことだ。

 

「仕方ないですね……武器データ見てみなさい」

 

「は〜い……ん、イミディエットソード?」

 

「愁用にあつらえたソードタイプのイミディエットナイフです
 既にできあがってエステに装備してありますけど、試しに使ってみますか?」

 

「……も一回やってみるか」

 

 

 ……でも負けた。

 問答無用でライフル連射することないじゃないかぁ。

 

 

 

 ナデシコは地球防衛ラインの突破中。

 アキトの出番は第三防衛ライン。

 そこで副艦長と戦闘らしいけど……

 ……俺って副艦長と面識無いや。

 

 ドォォォォォォ……

 爆発音が微かに聞こえた。

 

「……第四防衛ライン突破ですね。
 整備班の仕事が入りますから今回はここまでです
 さ、格納庫へ行きましょう。デルフィニウムの迎撃しなくちゃね」

 

「了解……」

 

 

 

 ――格納庫

 

ザワザワザワ……

 

 ヤケに騒がしいけど……何かあったんだろうか?

 

「……どうしたんですか、ウリバタケさん?」

「ユキちゃんか。ヤマダの奴が勝手に……
 骨折ってるし、大した事はしないと思ったんだが……」

「そうですか……絶対安静と言ったのに。帰ってきたら……フフ

 

 ぞくっ!!

 

 絶対零度の瘴気に固まるウリバタケさん始め整備班の人達。

 

「愁……中身の安全はどうでもいいからヤマダ機の回収お願い
 大丈夫、出撃許可はプロスさんに強請ってでも貰っておきますから

 

 ……怒ってるな。

 ヤマダさんご愁傷様です……でも僕にもどうすることもできないんですッ!!

 

 

「……さっさと行くッ!!」

 

「はっ、はいっ!! 那桐愁、出撃します!!」

 

 ヤマダさん、アナタには人柱になってもらいます……

 ゴメン、俺も巻き添えくらいたくないから。

 

 

 

「何してるんだアキト!
 親友のピンチだぞ!! 早く助けろ!!」

 

「……俺はアキトじゃなくて愁だ」

 

「何でもいい!! 早く助けてくれ!!
 身体中が痛くて気が遠くなる〜〜〜!!」

 

「煩いな……解かった、帰還してくれヤマダさん。後は何とかする」

 

「俺の名前はダイゴウジ ガイだ!!」

 

 は?

 ……ヤマダさんと違うの?

 

 ピッ!

 

「シュウさん!」

「シュウ、大丈夫か!」

 

「アキト、イツキさん!」

 

 アキトも出撃したところか。

 じゃ、ここで遊ぶ訳にもいかないな。

 

「ヤマダさん! 機体制御しっかりな!!」

 

「ダイゴウジ ガイだ!!

 

 うっさい! アンタの意見は聞かん!!

 

「……ヤマダ機! 帰還させまぁ〜っす!!」

 

「だからダイゴウジ ガイだ!!……ってのわぁぁぁ!!」

 

 ブンッ!

 

 ちょうど近くに来たヤマダ機を引っ掴んで投げる。

 ……行ってらっしゃい。

 帰ったら整備班の人にフクロ+母さんのお仕置きが待ってるぞ。

 

 

 

 その頃ナデシコでは……

 

「ユリカ! 今ならまだ間に合う!!
 ナデシコを地球に戻すんだ!!」

 

「……駄目なのジュン君。
 ここが、ナデシコが私の居場所なの。
 ミスマル家の長女でもなく、お父様の娘でもない……
 私が、私らしくいられる場所はこのナデシコしかないの」

 

「……そんなに……
 解かった、ユリカの決心が変わらないのなら……」

 

「解かってくれたのジュン君!」

 

「あの機体をまず破壊する!!」

 

 

 ジュンの目線の先には、先程ヤマダ機を投げ飛ばしたシュウのエステがあった。

 

 

 

 

「あの機体をまず破壊する!!」

 

 ジュンという人がそう言って俺の機体に向けてミサイルを発射した。

 

「宣告してから攻撃なんて甘いんだよっ!!」

 

 ドンドンドンッ!!

 ドドドッ!!

 

 俺がミサイルを打ち落とした数と同じだけの発射音。

 結局俺が落としてしまったので無駄弾になったが。

 

「……アキトか!?」

 

「シュウ、正直お前がここまでできるとはな。
 俺はジュンの説得をする。だから……」

 

「他の奴を、ってか? 解かった、任せろ……イツキさん!!」

 

「は、はいっ!」

 

「副長以外のデルフィニウム撃墜! ……当然出来るよな?」

 

「……見縊らないで下さい、これでもパイロットなんですから!」

 

 ピッ!

 

 やる気になったところで母さんから通信が掛かってきた。

 

「愁、出来ればデルフィニウムのブースター奪っちゃってくれませんか?」

 

 Why? なんですと?

 

「エステバリスの強化プランに大型ブースターの装着、って案があったんですけど、
 パーツが足りなくて……エステのパーツ使うのはプロスさんが反対しそうですし……
 ブースター奪ったところであちらは何とか脱出できますから、気にせず奪っちゃってください」

 

 足りないなら奪う……それはある意味合理的ですが。

 今の状況で言わないで下さいお母様。

 

「あ、ノルマは二つでお願いします」

 

 うわ、こっちの都合考えてねぇし。

 

「相手は軍だろ? 奪って大丈夫なのか?」

 

「交戦中の不慮の事故……それで済みます。
 それに軍にはすでに喧嘩売ってるじゃないですか」

 

「……期待しないで待っててくれ」

 

「はい、待ってます」

 

 ピッ!

 

 

「畜生〜〜〜!!てめえら皆背中剥いでやる!!」

 

 八つ当たられデルフィニウム。

 もち俺が倒したの全部ブースターをイミディエットソードで切り離した。

 収穫は片手に一つづつでイツキさんにも手伝ってもらって四つ。

 これなら文句ないだろう。

 

 帰還途中で副長のデルフィニウムがアキトに蹴っ飛ばされてナデシコに飛んでいった。

 

 ……あ、これで五つだ。

 

 

 

 その後はアキトが第二防衛ラインのミサイルを全部破壊する芸当を披露して、
 ナデシコに着艦した直後気を失ったり。

 

 思わぬ収穫に母さんとウリバタケさんが何か企んでいたり。

 

 ヤマダさんは医務室で泡を吹いて寝ていたり。

 

 流石に俺も疲れたから自室で寝ようとして、
 次に目が覚めたら紗夜と綾が隣で寝てたり。

 

 そんな慌ただしい艦内生活。

 

 

 こんなのは……

 

 嫌いじゃない。

 

 

 

 つづく

 

 

 

 おまけ。

 

「ウリバタケさん、思ったより収穫できましたね」

 

「ああ……これでエステの改造ができる!」

 

「エステバリス追加装備ブースターユニット……製作開始ですね♪
 ……あ、ここをこうすれば出力が上がるんじゃないですか?

 

「ふむ……でもこうすれば安定性が……」

 

「いっそのこと切り離し可能にしてみたらどうです?
 ブースターを相手にぶつけたりできるようにするとか」

 

「おお、その手があるか!
 なら安定性より出力を重視した方がいいかもな」

 

「……!」

 

「……!!」

 

 企みは続くよいつまでも……なんちって

 


<灰色の守護者のあとがきっぽいもの>

 

 海です。

 愁君が実力を出してきたんですが……

 いかんせん由希様が濃い!

 と思う今日この頃。

 ……だって勝手に動くんだもん。

 

 

 読んで頂きありがとうございました。