目の前に、虹色に乱れ咲く極彩色の不思議な空間が広がっていた。


 光の万華鏡と言うべきだろうか。


 ブリッジクルーは、なんとも言えぬチューリップ内部の空間に見入っていた。





 そんな中、ルリは誰にも聞かれないくらい小さく呟く。


「さて……………………そろそろ、始めましょうか」



 ルリは眼を閉じ、全ての感覚を遮断した。
















 ルリはゆっくりと『眼』を開ける。色の無い、しかし、何色にも見える不思議な空間の中に漂っていた。


 ルリは、手を裏表と見返す。

 子供の手よりも、はるかに長い指を持つ白い繊手。


 白銀髪の長さも、ツインテールで纏めてさえ、腰まで届いていた。

 身長も122センチから150センチまで伸びている

 胸の膨らみ………………………………………………は、無視した。



 服装は『前』の7年後と同じ、連合宇宙軍中佐ナデシコ艦長時の艦長服である。




 手の中に鏡を思い浮かべると、瞬時にイメージしたコンパクトが現れた。


 その手鏡に映る容姿は、絶世の美女と呼んでも、差し支えない美貌だった。

 誰もが世界一の美女と認めるであろう。




 ランダムジャンプ前の『18歳』の姿に戻ったルリは小首を傾げた。




「イメージに美化が入っているようですね。私って結構、ナルシストだったんでしょうか?」




 ルリは自分の胸をポンポンと叩く。


「じゃあ、なんで胸は大きくならないんでしょう?…………不公平です」



「電脳空間でわざわざ、人の姿を取ることないんじゃない?」

 ルリは顔を上げた。そこには、ルリの膝ぐらいまでしか背丈のないヌイグルミのような三頭身の3Dルリ――『コルリ』が立っていた。



 コルリの揶揄に、ルリは小さく『笑み』を浮かべる。


「『あなた』はそうでしょうが、私は自分の身体があるほうが落ち着くので」



 18歳のルリの前に『コルリ』が立ち止まり、ルリを見上げニッと笑った。



 仮面(ペルソナ)プログラム『コルリ』が、一瞬にして光の粒子となり、人を形作る。



 腰まであるストレートの長い黒髪に、金の瞳、白い肌を持った12歳前後の少女が現れた。


 顔立ちは11歳のルリに似てる…………いや、そっくりといった方がよい。



 まるで、11歳時のルリの姉妹のような少女。




 ナデシコ・オペレーターのオレンジの制服を着ている少女は、鏡で自分の姿を確認し、一つ頷いた。


 130センチくらいの黒髪の少女は、ルリにひらひらと手を振る。

「は〜〜い。ルリ」

「この姿ではお互い、初めてですね。炎多瑠(ホタル)



 『ホタル』と呼ばれた少女は、18歳の『星野ルリ』をまじまじと見てからニヤッと笑う。

「それにしても…………ルリ」

「はい?」


「18歳になっても…………胸、ないねぇ」



「――――泣きますよ」



「あ、ははは。スレンダー好みの人も現れるって。…………ロリコンとか」



「首――――絞めてもいいですか?」



「って〜〜ギブギブ。じ、冗談だ〜〜って。」


 ルリの半ば本気で絞め付けてくる手から、『星野炎多瑠(ホタル)は慌てて逃げだした。




「………………人が、気にしてることを――」

 ブチブチと文句を洩らしているルリをホタルは急かす。

「ほ〜〜らっ!!アキトがジャンプ準備始めたよ。早く!!


「何か誤魔化された気が…………」

 一つ、溜め息をついたルリは、ホタルに視線を向けた。



「ホタルは、アキトさんのジャンプ・イメージに進潜して、ジャンプ先の座標地を書き換えてください。

 私は、記憶に進潜してナデシコが現れる日付と時間を書き込みます」



「そのまま、記憶に書き込むと不自然さが残るよ?」

「偶然、カレンダーを見て、その日付を覚えていたことにします」

「そ〜〜んなんで、大丈夫?」

「私には、これぐらいの細工しかできません」


「こんな時、『瑠那(ルナ)』がいれば楽なのにねぇ。…………で、ど〜〜こにアキトを飛ばすの?」


「場所はここです」

 ルリはディスクの形を取っているデータをホタルに投げ渡す。


「??…………げっ!!あそこに!?

 ラベル部分の虹色に輝くデータを読み取ったホタルは素っ頓狂な声をあげた。



「はい。そこです」


「で……でも、なんで?」



「私が予測していたよりも、はるかに歴史の修正力が強いんです。細かいところは変わってますが、大筋は、ほとんど変わってません」



「え〜〜。変わっていると思うけどな」

 艶やかな黒髪を掻くホタルに、ルリは首を振る。


「『彼女たち』を、歴史の表舞台に引っ張り出せませんでした」


「でも、『彼女ら』の実験コロニーは出〜〜てきたよ」


「あの程度では、出てきた内に入りません。
 もっとも、プロトタイプ夜天光には、さすがの私も驚きましたが」

「この時期には、夜天光のプロトタイプをハンガ〜〜アウトしてたんだねぇ。
 こ〜〜れで、『火星の後継者』の裏に『彼女ら』がいたのは、確実になったね」


「ええ。反乱当時から、おかしいとは思っていたんです。
 テツジンなどという人型戦艦を作っていた彼らが、2年間で、しかも逃亡しながら積尺気(シシキ)を大量生産にまで、こぎ着けたのですから」


「そんなにおかしいかな?」

「火星の後継者が、クリムゾンと繋がっていたのは知ってますね」

「一応、『前』の記録は見〜〜たよ」


「当時のクリムゾンのステルンクーゲルは足無し、シシキには足関節があります。
 ウリバタケさんに言わせれば、この二つは基本設計段階で水中生物と陸上動物くらいの差があるそうです」


「つまり?」


「『彼女たち』から払い下げられた『夜天光』を、火星の後継者たちが解析して、クリムゾンの部品で組み立てたのが『積尺気(シシキ)』なんです」


「な〜〜るほど、ステルンクーゲルとは根っ子が違うわけか。
 や〜〜れやれ。全ての裏に『(みやび)』の影がちらつくねぇ」





「ええ。この木連地球戦争も『本来、起きるはずのない戦争』だったくらいですから。

 それを止めるためには、普通の方法では無理です」





「だ〜〜から、一か八かの博打で、アキトに賭けるつもり?」



「はい」



「は〜〜〜〜〜。ルリは全て計算尽くで策動してると思ったんだけどな」

「私。結構、勘で動くタイプなんです」


「あははっ。『ユリカ』艦長ゆずり?そ〜〜れとも、『波月』参謀長ゆずり?」

「強いていえば、両方です」

「今のルリ見てると、よ〜〜くわかるよ。…………………………胸以外は」


「………………ホタル………………シツコイです」


 ぷるぷると拳を震わせるルリから逃げながら、ホタルは笑う。

「はははっ。んじゃ、()きますか」



「………………後で、覚えてなさい」




 ルリは電脳空間で大きく息を吸い込んだ。


「ゴースト・ハッキング――スタート……………………アクセス!!







アキトニィ!!


なっ!?

 突然、アキトの前に『コルリ』のコミュニケ画面が開く。


 ジャンプ・フィールドを張り終わったところだったアキトは慌てふためいた。


 まだ、皆にジャンプのことを知られるのは早すぎ――――――



 アキトの身体が痙攣し、意識が途絶えた。







「ゴースト・ハック、副電脳第六レベル進潜」





「素直な脳だったねぇ」


「私たち『妖精』とは違いますから」


「『プリンス・オブ・ダークネス』も脳は常人か」




「そうですね。『根性』で脳へのハッキングに抵抗できるのは、ユリカさんぐらいです」



「………………そ〜〜考えると…………つくづく、凄まじ〜〜と感じるねぇ…………ユリカ艦長って」


「ですね。さあ、早めに書き換えましょう。気づかれると厄介です」

「りょ〜〜かい」





 『前回』、木連の虫型兵器でさえ、記憶と人格を繋げられたのだ。


 マシンチャイルド、それも『妖精』級の姉妹が揃えばハッキングなど造作なかった。








「正直、ゴースト・ハッキングは嫌いです」

 書き換えを終えたルリの呟きに、ホタルも自嘲の笑い声をあげた。

「ははは。アタシも苦手だよ。『瑠那』のよ〜〜にはいかないねぇ」



「『ルナ』ならば、記憶の書き換えから、人格操作までお手の物ですから」



「『人形使い』の名は伊達じゃない。その分、敵に廻ると、これほど恐ろしい『妖精』もいない。

 アタシな〜〜んか、身に染みて思い知らされたからねぇ」




「なにか、対策をしておかなければいけませんね」

「対策………………って、ど〜〜やって?」

「それは、これから考えます」

「………………あるのは時間だけか」

「それが、あれば十分です」

「……………………だね」












 ふと、アキトは我に返った。


 今………………俺は……………………??


 目の前にジャンプ・フィールドが展開してる。



 そうだった。地球にジャンプする途中だった。


 フィールド出力は安定してる。…………後は、跳ぶだけか。



 一瞬、違和感を覚えた。が、すぐに打ち消す。

 今はそんなことにかまっている暇はない。




 今の俺には『力』が足りない。

 武力が、人脈が、資金が。


 何よりも圧倒的な『力』が必要だった。


 『ナデシコを護る』ための『力』が。



 そのためには――――。




 アキトは天井を見上げ、


「ジャンプ」

 部屋から掻き消えた。













「アキトさん。………………跳びましたね」


後は〜〜野となれ〜山となれ〜〜♪♪って感じだね」


「その言い方は、酷いです」

「そっかな?言いえて妙だと思うけど。…………次、()〜〜きますか?」



「はい。ユリカさんとイネスさんの無意識下に八ヵ月後の時間と場所を展開します」



「残りの火星避難民たちはど〜〜する?全員に細工する?」

「それは、私も考えましたが…………下手に弄らない方が良いような気がしまして。根拠は何もありませんが」

「彼らの存在だけで、か〜〜なりのイレギュラーだよね」







 『避難民』で、ふと思い出したホタルは、ルリを呼び止めた。

「そ〜〜いえば、ルリ」

「はい?」

「あの火星の少年。ほらっ、フクベ提督を殴った。ん〜〜〜、そうそう。『ムラサメ・シュウ』君。
 彼に一瞬、ハーリー君を重ねたでしょ。ブリッジで、唇を噛み切った時」



 ルリは苦い笑みを浮かべる。

「…………気づいていましたか」



「も〜〜っちろん」



「彼の慌てふためく姿に、不意にハーリー君が重なって…………危うく仮面が破れそうになりました。
 私も…………まだまだですね」

「別に、そ〜〜んなの修行しなくてもいいと思うけど」


「私には必要です」



 断言するルリに、ホタルは肩を竦めた。


「ま〜〜、いいけどね。じゃ、始めよっか。で、ど〜〜っちがどっち?」


「ユリカさんは私が。ホタル、イネスさんを頼みます」

「りょ〜〜かい」







「イ〜〜〜ネスせんせ!!」


 ウリバタケに渡されたエステバリス・カスタムの仕様書から眼を上げたイネスは、コミュニケ画面に映る『コルリ』に眼を向ける。

「どうしたの?コル――」

 ビクンッと痙攣したイネスは気を失った。










「…………カ…………ユリカ…………ユリカ!!」



!?………………あ…………ジュン君?」

 ハッと我に返ったユリカは眼を瞬いた。


「どうしたんだよ。ボーッとして」

「え?う…………うん?…………今、何か物凄く嬉しいことがあった気が――」

「…………は!?」

「あっ!!うん、別に何もないよね。おっかし〜〜な〜〜?でも、なんか――」


 ユリカの顔を見たジュンが驚きの声をあげる。

ユリカ!?


え!?


 ユリカは頬を拭った。拭った手の平が涙で濡れていた。


「あ…………あれ?…………どうして涙が?…………あれ?あれれ?あれれれ??」











 電脳空間に『妖精』の姉妹が浮かんでいた。


「オモイカネ。ジャンプイメージ演算、お願いします」

『了解』


 オモイカネの演算機能がフル回転するに従い、空間が発光し始める。



 ホタルはルリを見上げた。

「それにしても…………よ〜〜く、ユリカ艦長の脳にハッキングできたねぇ」


 火星の後継者でさえ、2年も苦労したのだ。




 金の眼に疑問を浮かべるホタルに、ルリは苦味を噛み潰したような表情を浮かべる。


「ユリカさんの無意識に、アキトさんとユリカさんの結婚式の写真を見せたら、あっさりと通してくれました」




 ホタルは美麗な顔を顰めた。

「ルリ………………それって――」

「………………はい。『火星の後継者』が使った手と…………同じものです」

「い〜〜の?」



「非常事態という詭弁を使うつもりはありません。
 エゴのために全てを利用する。私も彼らと同じ存在です」



「ユリカ艦長に後遺症は?」


「残らないように細心の注意を払いました。
 結婚式の風景を夢に思い浮かべるか………写真を見たときデジャブを感じる程度だと思います」



「『前』のよ〜〜にユリカ艦長に何かあったら、ルリの計画も狂うよ」


「…………はい。でも、それ以外の方法では、私の能力ではハッキングできないんです」



「も〜〜少し、まともな計画を立てたら?」


「まともでは……………………『彼女ら』に対抗できません」


それとこれとは、絶対に違う!!

 ………………と、ま〜〜。ここでアタシらが言い争ったって何にも解決しないから、さ〜〜っさと始めようか。
 そこまで小細工して、途中で頓挫したら笑いものだからねぇ」





「……………………はい。では、戻ります」




 電脳空間からルリの気配が消える。





 コルリ・スクリーンセーバーモードを解除した『ホタル』は、仮面(ペルソナ)プログラム『コルリ』を起動させながら、やれやれと呟いた。



「ルリも無〜〜茶するねぇ。ま〜〜、アタシとしては面白いから、それでいいけどさ。

 後で、泣きを見るのは、あんただよ。

 ………………『星野ルリ』







*








 突然、ルリがふわっと虹色に発光した。


 ナノマシンを発輝させるルリを初めて見たメグミは眼を瞬いた。

「ル…………ルリちゃ――」


「あらぁ?これってぇ?」

 ミナトも気づき、頓狂な声をあげる。



「ル、ルリちゃん。ど、ど、どうしたの?」

 メグミは狼狽えてルリに呼びかけるが、眼を閉じたルリは一切、反応しない。



「そういえばぁ、メグちゃんは見るの初めてだったけぇ?」

「な…………なんなんですか?これ?」

「ナノマシンが活性化するとぉ、こうやって輝くってぇ話しよ」


「じゃ、危険は?」

「ルリルリに訊いたところ、無いみたいよぉ」



 危険が無いと聞いて、メグミは改めてルリを眺めた。


 虹色に淡く発光するルリは普段の瀬戸物人形ぶりからは想像もできないくらい、儚げで美しかった。

 『妖精』という言葉がピタリと合う。



「は〜〜〜〜。綺麗〜〜〜」

 感嘆の声を洩らすメグミにミナトが微笑みかけた。

「ブリッジの明度を落とすとぉ、もっとぉ綺麗に見えるわ」

「へ〜〜〜。アタシも見てみたかったな〜〜」


 ルリが臨時艦長を務め、ナデシコが宇宙に出た話は人伝てに聞いていたが、にわかに信じられなかった。

 だが、この姿を見てるとなぜか信じられるような気がしてくる。



 十分ほどで、虹輝が収まり、ルリがすっと金の眼を開いた。


 二人の視線に気づいたように、ルリがミナトとメグミに目線を行き来させる。



 ミナトはルリの金の瞳を覗き込んだ。

「どうしたの?ルリルリ?ナノマシンを活性化させてぇ?」



「いえ…………別に」



 ルリがミナトから視線を逸らし、先ほどからモニターの中で暇そうに足をぶらつかせていた『コルリ』に呼びかける。


「コルリ?」

 二・三度瞬きしたコルリが、ルリに視線を向ける。

「ん〜〜〜〜〜。なに?ルリネェ」

「少し、席を外しても良いですか?」

「な〜〜に?お手洗い?」

「そういうことは、思っていても口に出さないでください」

「は〜〜〜い。イゴ気をつけま〜〜ス。まあ、危険も無さそうだしね〜〜。
 それに、ルリネェ働きすぎだよ〜〜。少し、休んだら?」

「この空間を抜けることができたら」


 肩を竦めるコルリ。



 ルリは二人に頭を下げた。

「すいません。少し、席を外します」

「あ……うん。ここは、大丈夫だから」

「ついでにぃ、食堂で一服してきたらぁ。
 ルリルリがジュース一杯ぐらい飲んできたってぇ、皆、文句なんて言わないからさぁ」



 何かを考え込んでいたルリが頭を下げる。

「では、お言葉に甘えさせていただきます」


「はいぃ。ゆっくりぃしてらっしゃい」



 艦長に会釈したルリが、ブリッジをゆっくりと出て行った。



 ルリの背後で、静かにブリッジの扉が閉まった。


 声、満ちるブリッジの音が遮断される。





 と、前方を見据えたルリは、突然、廊下を凄まじい勢いで走り始めた。





 ルリは疾走しながら、中空に叫ぶ。


オモイカネ――ナデシコの――ジャンプ予想時刻は?


『Tマイナス10分』


 ルリの横に並走しながら、ウインドゥが開いた。


 疾走するルリをコミュニケ画面のコルリも追いかけていく。




 廊下を短距離走者と同等のスピードで走り渡ると、ルリは自分の部屋に飛び込んだ。


 ベッドの上に用意してあった純白のマントを羽織り、IFS通信機つきの白の手袋を嵌めながら、コミュニケ画面のコルリとオモイカネに命令を下す。

コルリ、監視カメラ切断!!オモイカネ、ジャンプイメージ転送開始!!


「りょ〜〜かい!!」


『了解。強制転送開始』



!!…………くぅっ…………は…………は…………あっ…………」

 膨大な量の時空転移情報を副電脳に強制転送されたルリは、呻き声を洩らし、身を仰け反らせた。



 ナノマシン稼働率が急上昇し、薄暗い部屋で身体のナノマシンパターンが強く発光しはじめる。


 冷や汗を垂らし、ルリは脳内に展開される莫大なデータ群の負荷に耐えていた。






 B級ジャンパーは、演算機械の補助が得られれば、短距離ジャンプができた。

 その演算機械がオモイカネ級のハイパーコンピューターなら、その飛距離も飛躍的に伸びる。


 その理論は『前』の世界で立てられていた。

 実際にA級ジャンパーであるイネスも、戦艦一隻を跳ばすのに、オモイカネのサポートを受けている。


 単身で戦艦を跳ばせるのは、『前』の世界ではアキトを含めてほんの数人だけであった。




 ここまでは、普通のハイパーコンピューターの話である。


 オモイカネシリーズはもう一つ、他の演算機器には無い特徴があった。

 それは、オモイカネが遺跡からサルベージされた技術で製造されているという事だ。


 そのため、遺跡の模倣が可能だったのである。

 模倣といっても、物質をボース粒子にフェルミオン変換することはできない。できるのは、遺跡の入出力計算程度だった。


 これは火星出身者のジャンプ・イメージに相当するものである。



 オモイカネがそれに自ら気づいたのは、今から6年後。

 何度もチューリップゲート・ジャンプを経験したナデシコBだからこそ発見できた。



 では、B級ジャンパーでIFSさえ持っていれば、誰でもオモイカネのサポートで単独ジャンプができるのか?


 『前』に、オモイカネのサポートによる単独ジャンプを試そうとした『ハーリー』がその時空転移情報量の膨大さに発狂しかけるという事件があった。



 これは『ルリ』と『オモイカネ』がそろって、始めてできる『反則技』だった。

 もっとも、その『ルリ』でも人、独りがやっとである。


 『ラピス』と違い、戦艦までは跳ばせない。





 『炎多瑠(ホタル)』は苦笑しながら、虹色に光り輝く『ルリ』を、ペルソナ『コルリ』を通して見ていた。


 例え、身体があった時でも、自分にルリと同じことが出来ただろうか?たぶん、無理だろう。

 S級マシンチャイルド――――その名は伊達ではない。

 『オリジナル』がジャンプできるのは火星出身者だから別として、ルリと同じことが出来るとしたら『雅』と『ラピス』くらいのものだろう。


 実際、『前』の『ラピス』はアキトのイメージを使って、ユーチャリスを跳ばしている。



 『目的』の為とはいえ、な〜〜んでこんな自殺行為を好き好んでやるのかねぇ?

 手段なら他にもあるだろうに。



 強制転送の過負荷に身体を震わせるルリを見つめている『ホタル』は、『コルリ』に呆れたように肩を竦めさせ、首を振らせた。





『時空転移情報――――強制転送完了』


 荒い息を吐きながら、ルリはコルリに視線を送る。

「…………後は…………お願い…………します…………」


「りょ〜〜かい。何とか上手くやっとくよ〜〜。…………できればね」

 軽い口調で承諾するコルリに、ルリは頷いた。


「オモイカネ………………ナデシコのジャンプ演算はお任せまします」

『了解。もう一人の私によろしく』


 ルリは、白マント内のジャンプ・フィールド発生装置を起動させた。





















 薄暗い部屋で自分を包み込む淡く輝くフィールドを見つめながら、ルリは純白のバイザーを被った。


「始めましょうか、私の戦いを。…………………………ジャンプ」






 あとがき


こんにちは。ウツロです。

そして、お久しぶりです。……………………いや、マジで



さて、今回、わき役たちが主役と主人公を蹴落とす勢いで活躍しました。



それでも、数名のキャラが沈んでいます。


特に死にキャラに片足突っ込んでいるゴートとか。ゴートとか!!ゴートとかっ!!!


全員を立たせつつ、物語が破綻しない好都合な方法などないものでしょうか?




 では、次回!!





代理人の感想

 

>全員を立たせつつ、物語が破綻しない好都合な方法

 

腕。(核爆)

 

ちなみに私は出来ません(爆)

 

 

それはさておき・・・・・・・・・・・美味しいなー、ガイ(爆)。

最後の最後で思いっきりキャラを立てまくって逝ってしまいました。

馬鹿に栄光あれ。

 

さて、ルリがクールでタフな事にかけてはおそらくあらゆるナデシコSSの中でも指折りと思われる本作ですが・・・

今回はむしろアキトくんの方のクールさが目立ちましたね。

ま、それでも釈迦の掌の孫悟空なんですが(爆)。

 

>シュウ・ムラサメ

あー、武士道姉さんという単語がありましたからそうかと思ってましたが・・・。
ちなみに彼の姉と思われるのはコミック版登場のキャラ、カオル・ムラサメ。
武士道を重んじる女性パイロットで、いわゆる「カグヤガールズ」の一人です。

 

>軍人になればウクレレが弾ける

・・・・『踊る大紐育』?

 

>お久しぶりです。

 

あああ、耳が痛いっ!

 

 

それでは次回作が早めに上がる事を祈りつつ、さらば(おい)