The answer
翼編第七話
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ズルズルズル・・・。
居間に、麺をうまそうにすする音が聞こえる。
音の主は白髪男。隣には、笑顔を浮かべ、正座したまま男の食べっぷりを見ている観鈴がいた。
「おいしい?」
「ああ。」
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「食った食った、ご馳走様。」
「お粗末さまです。」
男が食べ終わると、観鈴はトレイにどんぶりを置いて台所へと向かった。
男はあつかましくも、勝手にテレビをつけてくつろぐ。
流行のドラマがやっていた。
「・・・つまらん。」
しばらくチャンネルを回すが、見るものがなかったので、テレビを消した。
「あの・・・。」
後ろの声に男が振り返ると、観鈴がトランプを持って立っていた。
「トランプ、しよ。」
観鈴は遊びたいようだ。
「ああ、構わんが・・・。親はまだか?」
男が時計を見ると、もう7時半だった。
「まだまだだよ。さ、やろ。」
「ん・・・その前に1つ。」
「?」
「俺の名前、好きに呼んでいいぞ。」
「分かったよ。えーと・・・。」
というと、トランプそっちのけで、一人考え込んでしまった。
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30分後・・・。
(おい・・・トランプはどうした。)
男をほっておいたまま、観鈴はまだ考えていた。
「う〜ん・・・。あっ、これにしよう!」
やっと決まったか、と男はため息をついた。
「名無しさん!」
「・・・・・・。」
そのとき、バイクの音が聞こえてきた。
「えっ!今日は早い・・・。」
「どうした?」
「名無しさん、そのままいてね。お母さんに、クラスメイトって説明してくるから。」
名無しは決定事項らしい。
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ドゴォォォォォン!!!
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「な、何だ!?」
「お母さんのバイクが、納屋に突っ込んだ音だよ。お母さん、お酒飲んでるから。」
「おい、それは飲酒運転じゃないのか?」
観鈴は男のツッコミに答えず、玄関へ走っていった。
「お母さん、今クラスメイトが来てて、家の都合で泊めさせてほしいって。」
ズドドドドド!
その途端、豪快な足音とともに女性が居間に駆け込んできた。
男を見て女性は一言、
「却下!」と切り捨てた。
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「こんな何処の馬の骨かも分からん奴、泊められへん!」
観鈴の母親、神尾晴子はこういってのけた。というか、嘘はバレバレだった。
(・・・当然だな。)
「あんた!何もんや!」
「クラスメイトだよ。」
「観鈴、あんたには聞いてない!」
「がお・・・。」
ポカッ!
「・・・痛い。」
観鈴の助け舟を、晴子は一蹴。観鈴が視線で、クラスメイトといえと男に言っている。
「・・・ただの旅人だ。」
晴子はやっぱり嘘やったかと、観鈴は何で?といった表情になった。
「で、でも、友達になってくれたし、私のラーメンもおいしいって言ってくれたよ。」
「ホンマか?そこの男。」
「・・・後ろ2つは事実だが、友達にはまだなっていない。
最も、友達になるくらいなら、別に構わんが。」
それを聞いて、観鈴は本当に嬉しそうに、晴子も若干嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「あんた、嘘つかれへんタイプやろ?」
「・・・さあな。」
「でも、泊められへんで。」
メシも食ったし、潮時か、と男が立ち上がろうとする。
「けど、この人泊まるところないの。一晩だけでも、泊めてあげて。」
娘の懸命の頼みに、晴子は折れた。
「・・・しゃあない!泊めたるわ!」
「ありがとう、お母さん。」
が、次のセリフで観鈴は凍りつく。
「納屋な。」
「え・・・。」
「雨風凌げれば、それで構わん。礼を言う。」
母の予想外の言葉と、それをたやすく受け入れる男に観鈴はびっくりした。
「せめて、ご飯だけは一緒に食べてもいいでしょ?」
「・・・観鈴、あんたが持って行ったったらええやろ。」
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「・・・ん・・・。」
ふと、納屋で目を覚まし、男は時計を見た。
午前2時。
「・・・腹減った。」
かばんの中を探るが、あるのは僅かな小銭と、着替えが2セット、そして奇妙な石が数個。
「・・・買いだめした食糧も、最早無しか・・・。」
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「で?」
台所の冷蔵庫の前で、晴子は不審者に声をかける。少々声が酔っているが。
「何で勝手に人ん家の冷蔵庫漁ってるんや?」
「ちっ、見つかったか。」
「丁度ええ、酒につきおうてもらうで!」
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「観鈴から聞いたで。あんた、記憶喪失らしいな。」
「観鈴には、名無しって名づけられてしまった。」
「名無しねえ・・・。」
晴子は、酒の入ったコップをぐいっとあおった。
しばらく沈黙が続いた後、晴子が言う。
「別に、しばらく泊めたっても構へん。観鈴、あんたに懐いてるしな。
せやけど、条件や。」
「何だ?」
「観鈴と友達になったってや。あの子、友達あまりおれへんねん。」
「・・・それだけか?」
「もう1つ。あの子、時々がおって言うやろ。」
「ああ・・・あったな・・・。」
海辺での会話を男は思い出した。
「あれ言うたら、すぐ殴ったってな。止めさすように。」
「・・・ああ。そんなに楽でいいのか?」
男の質問に、晴子はフッと笑いを浮かべ、「まあ、じきに分かるわ。」とだけ言った。
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「名無しさん、トランプしよ!」
何日か経った日の夕方、観鈴はいつものように俺と遊ぼうとせがんでくる。
前日は法術を見せてくれと頼んできたので、見せてやった。観鈴は素直に喜び、見事なまでに大ウケしていた。
――――――この町の住人全員がこんな反応なら、簡単にこの町出られるのに。
まあ、真夏の炎天下の中、儲からない人形芸やバイトをやった後で、疲れていたりするが、
観鈴と遊ぶのは不思議と苦にはならない。いやむしろ――――――
「うっ・・・。」
観鈴の奇妙な声を聞き、俺は我に返って振り向いた。
観鈴は手の中にあったトランプを落とし、涙目になっていた。
まるで、何かに耐えているような、そんな感じだった。
「お・・・おい、観鈴?」
「だ・・・大丈夫。にはは・・・。」
観鈴は笑顔を作っていたが、どう見ても大丈夫じゃなかった。
「どうした、観鈴!」
不安になり、観鈴に手を伸ばしたが、その手は払いのけられた。
驚いたのもつかの間、観鈴は思いっきり泣き出してしまった。
「う・・・うわあああん!」
幾度となく観鈴に触れようと手を伸ばすも、全て払いのけられ、観鈴はただ泣きじゃくるのみ。
俺は、気がついたら、外に出てしまっていた。
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(・・・何か、気に障る事でも、してしまっただろうか・・・。)
俺は、ひどくヘコんだ。こんな時、記憶の戻る前ならどうしていただろうか?
今の俺は、人生の自覚がたった半年しかないから、どうすればいいのか分からない。
(・・・とりあえず、家に帰ってみるか・・・。)
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と、そのとき、この町で、パンから駄菓子、縄跳びまで売っている武田商店の前の通りの自動販売機の前に、少女がいた。
何故か体が覚えている気配の消し方を使い、そっと彼女の背後に立ち、耳元で呼んでみる。
「観鈴。」
「ひゃっ!」
観鈴は、跳びあがって驚いた。手にはどろり系ジュース。
前に1つ飲ませてもらったとき、液体にあらざる硬さでのどに詰め、売り物にあらざるマズさで危うく死にかけたいわくつきの品だ。
しかも、観鈴はそれが好物という。
世間は不思議に満ちすぎだ。
「あ・・・。」
観鈴は俺の姿を認めると、無言で家のほうに走り去ろうとする。
「まてい」
俺は観鈴の肩をつかみ、引き止める。
「何処へ行く?」
「だ、だって・・・。」
さっきとは違う意味で泣きそうな観鈴。彼女を安心させてやりたいと、俺は思った。
「さっきの事か?」
「うん・・・。」
「全く・・・俺があんなくらいで、お前を嫌いになると思ったか?」
「え・・・?」
「友達だろ、俺とお前は。」
観鈴は、安心したのか、泣き出してしまった。
傍から見れば、白髪の男がか弱い少女を泣かせたという非常に危険な図なのだが。
「さ、帰るぞ。」
「うん。にはは・・・。」
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所で、俺は、女に甘いのだろうか?最近、そんな気がしてきた・・・。
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「やっぱり、あんたでも起きたんか。」
観鈴が眠った後、毎度のごとく、俺と晴子は酒を飲んでいた。
「やっぱりとは?」
晴子は悟ったような表情で、
「いきなりあの子、泣き出したやろ?あれや。」
「ああ。手で触れようとしても、すぐに払いのけられた。」
「んで、あんたどないした?」
「ああ・・・言い方は悪いが、ほっておいた。」
晴子は、そや、と頷き、
「それしか、方法はあらへん。あの子な、昔から人と仲ようなった頃に、ああやって癇癪起こすねん。」
はあ、と晴子はため息をつく。
「けど、あたしには起こさへんねん。何でか分かるか?」
「・・・何故だ?」
「・・・ホンマの親子やないからや。」
「・・・それは、関係ないんじゃないか?」
「何やて?」
晴子の目が据わってきた。けっこう怖い。
「そのセリフ、2人が距離を置いていることの言い訳に聞こえるが?」
「あんたに何が分かんねん!」
「確かに分かりはしないさ。だが、本当の親子じゃないといっても、あいつにとっては親はお前しかいないんだ。」
晴子が黙り込む。長い沈黙。
第一、こういうことに関しては俺はうまいセリフが全く思いつかない。
だから、思ったことを言うしかなかったのだが・・・。
「・・・じゃあ、もう寝てくるわ。」
沈黙に耐え切れず、俺は納屋に戻り、眠りについた。
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「名無しさんって、何で旅してるの?」
・・・そういえば、観鈴に話すのは初めてだったか。
「翼を持った少女を、探しているんだ。
いつだったか、夢の中に言葉が浮かんできた。
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アオ
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青
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蒼
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蒼い空
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空の遥か向こう
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蒼き世界
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そこには翼を持った少女がいる
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悲しみ
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深い悲しみ中を漂い続けていた
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多分それは、俺のなくした記憶に関係しているんだ。もしそうじゃなくても、俺がその夢を見るなら、何かしようと思った。
そんなんだよ。」
「名無しさんの探してる子って、私だったりして。」
まさか・・・。
「私ね、時々思うの。この空の上に、もう一人の自分がいるような気がするの。
その子は、いつも雲の上から地上を見下ろしてるの。」
「もしそうなら、俺の旅はここで終わりになるな。」
「そうだね。」
二人、笑いあった。俺はこのとき、観鈴の言っていることを本気にとらなかった。
いや、本気にとっていても、これから起こることに対して、俺は何も出来ないでいただろうが・・・。
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コメント
まあ、今回は淡々と・・・。勘のいい人は先が読めるかも。
ちなみに感動は期待しないで下さい。
PS 発売日前にファイズの主題歌をゲットだぜ!てな感じでした。
♪今信じること疑うこと〜ジレンマは(以下省略)
感想代理 皐月
もっとましなバイトをしろと言うのは反則だろうか?
まあそれはいいとして、翼を持った少女って……ああ、鯛焼き泥棒の少女の事か。
決め台詞は「光の翼を使うっ!!」ですな。