The answer

天使編第七話

「はてさて、キリュウが来てからはや3日。普通じゃないことは、次々と起こるものだねえ。」

「全くだ。」

 ブリッジは、かつてない緊張感に包まれていた。二人の口調も、どこか重いものになっている。

 別にキリュウが来たから、というわけではない。むしろ、レスターと並んで女性陣の人気を二分している。

 本人は気にも留めず、ただいつもトレーニングルームで刀を振り回しているが。

 では、原因は何か?

 ――――――クーデター。

 突如皇国内に現れた謎の黒い艦隊が、本星や白き月、及び近衛艦隊や各地の司令部を強襲。

 白き月は星全体を覆うシールドで難を逃れたものの、本星の状況はつかめず、第一司令部や近衛艦隊は全滅との情報が入ってきていた。

 そして、タクトらの上の司令部である第二方面軍とも連絡が取れない。

「とりあえず、どこかの星に降りた方が戦いを避けられる。無闇に戦うよりは、ね。

 わざわざエオニア軍も、星に降りた残党まで潰そうとはしないだろう。」

 タクトのいつものゆるい言葉で、ブリッジの空気が少しゆるくなる。

 エオニア・トランスバール。

 元皇国の廃太子であり、5年前に一度クーデターを起こして失敗。皇国を追放された人物。

 それが、今回の一件の首謀者である。

 閑話休題。

「しかし、もしそれまでに、エオニア軍と接触したらどうする?

 向こうは近衛艦隊すら圧倒する軍備。かたやこちらは貧弱な地方艦隊。実戦経験者もほとんどいない。」

 ブリッジの士気を下げないために、小声でタクトに耳打ちするレスター。ちなみにナデシコよりブリッジは広い。

 タクトは、部下からはユルいと評される笑顔を浮かべ、友人をなだめる。

「そのときは、そのときさ。ともかく、普段どおりにしていればいい。

 普段どおりほど、心を落ち着かせるものはないからね。」

「タクト・・・。」

 いつもふざけていても、いざという時は艦長なんだな、と思った矢先、

「それに、色々考えても疲れるしね。」

「それが本音かいっ!」

 前言撤回したレスター。そのやり取りに、落ち着きを取り戻していくブリッジ。

 ヴヴーン!ヴヴーン!

 そのとき、警報の音が、ブリッジに緊張を走らせる。

「索敵手!報告を!」

 ほぼ同時に、レスターの激が飛ぶ。

「艦影確認!情報にあった、黒い艦隊だと思われます!」

「バーメル級巡洋艦3隻、スパード級駆逐艦6隻!」

「皇国軍の戦艦・・・!」

 驚きを隠せないレスター。

「しかし、なぜこんな辺境まで・・・?」

「考えている暇はなさそうだ。」

 黒い艦隊は、既に攻撃を仕掛けてきていた。敵は9対3と、明らかにこちらの不利である。

「怯むな!一つずつ攻撃を集中させろ!」

「了解!」

 レスターに戦闘指揮をまかせ、タクトは格納庫へと回線を繋いだ。

「ゼロは、まだか?」

「すいません、艦長!さっき分解したばかりなので・・・。」

「あらま・・・。」

 レスターの方を向き、

「・・・すまん。」

「・・・だな。」

 そのとき、

「後方に、未確認の機影が三機!」

「何だと!?」

「この艦に向かって、接近してきます!」

 謎の機体は、あっという間にタクト達の乗る艦に寄ってきた。

 それは、大型の戦闘機だった。3つともカラーリングや武装が違い、ピンクの機体には、下部に大型の砲が一門、

 オレンジのそれには下部に大きな爪が二つ、紫のそれには上部にキャノン砲が二門ついていた。

 程なくして、3つの戦闘機のいずれかから、回線が繋がった。モニターに映ったのは、ピンク色の髪をした少女。

「あの〜、こちらは、クリオム星系駐留艦隊でよろしいですか?」

「はい、そうですけど?」

 向こうのペースにつられたしゃべりをしてしまうタクト。

「では、ここに、マイヤーズ司令はおられますか?」

「マイヤーズは俺だけど。君は?それに、何故俺の名を?」

「あっ、それは――――――」

「敵艦の攻撃、本艦に着弾!」

 敵のミサイルの爆発の衝撃が、艦を次々と揺らす。無線の向こうからは、キャーキャーという悲鳴も聞こえる。

(ここは、敵を倒すほうが先決か・・・。)

「君!助けに来てくれたのなら、敵を倒してくれないか?はなしはそれから聞くことにするよ。」

「は、はい、分かりました!それじゃ、いっきま〜す!」

 回線を切ると同時、ピンク色の機体が前に飛び出し、続いて他の2つも追っていった。

 三機の援軍が来てから、戦局は圧倒的に変化した。

 タクトの艦隊は、レスターの指揮があったものの、一つしか落とせず、後は全て戦闘機が落としていった。

 一方、被害は、ディストーションフィールドの開発が先に済んでいた事もあり、三隻中二隻は無傷、残りも少し損傷しただけで済んだ。

「通信回線、開きます。」

 オペレーターの言葉の後、メインモニターに三人の女の子の顔が浮かんだ。

「君たちは、俺を知ってるみたいだ。だけど、俺は君達を知らない。挨拶ついでに、自己紹介してくれると助かるんだが・・・。」

 タクトは、こんなときでもマイペースに告げる。

「そうですね!」ピンク色の髪の少女が、元気な声で返す。

「私は、ミルフィーユ・桜葉です!これから、よろしくお願いします!」

「宜しく。・・・・・・これから?

 タクトの後のつぶやきは、相手には届かなかったようだ。

「アタシは、ランファ・フランボワーズよ。」

 金髪の少女がそういって、長い髪を払う。

「あんた、中々決断力あるじゃない。感心したわ。」

「そりゃ、どうも。」

 少女の誉め言葉に、少し気を良くしたタクト。

「あたしは、フォルテ・シュトーレン。エンジェル隊のリーダーをやってる。」

 紫の軍服を着た女性が、軽い口調で言う。

「さっきの戦闘指揮、見事だったよ。おかげでこっちもやり易かった。」

「ありがとう。でも、戦闘指揮はほとんど副官のレスターがやってるから。」

 俺は見てるだけ、と苦笑するタクト。

「こっちから、幾つか質問したいことがあるけど、いいかな?」

「いいけど、出来る範囲でね。あたしらが答えていい質問は、限られているから。

 それに、あたし達はお前さん達を迎えにきたのさ。ある人物に頼まれてね。」

 フォルテがにやっと笑う。

「ある人物?」

「心当たりはあるのか?タクト。」

「いや、ないね。親からは勘当状態、友人はお前だけ。婚約者とかもいやしない。」

 タクトはレスターに答え、モニターに向き直る。昔のことを棚上げしているが。

「あの艦隊、装備や形は皇国軍の船そのものだけど、攻撃力や防御力が随分上がってたね。」

「そうさ。基本的には黒で統一された無人艦だけど、ロストテクノロジーの力で性能が強化されてる。

 ホント、厄介な敵だよ・・・。」

 フォルテがため息混じりに答える。

「まだまだ聞きたいことはあるけど、後は『ある人物』のところで、かな?」

「話が早くて助かるよ。それじゃ、あたし等の後について来てくれるかい?」

「分かった。」

 通信がきれた。

「あの戦闘機に、ついていってくれ。」

「了解。」

 タクトの指示の後、艦も発進した。これから起こる時代の大きなうねりに巻き込まれることを、誰もが知らずに・・・。

「レスター、聞きたいことがあるんだが?」

「何をだ?俺だって、何でも知ってるわけじゃないぞ。」

「ああ、聞くだけだ。

 ・・・・・・『白き月』と、『エンジェル隊』、それに、『ロストテクノロジー』って、何?」

 その瞬間、レスターは漫画のようにずっこけた。彼だけでなく、ブリッジの者は全員、突っ伏したりこけたりしていた。

 いち早く復活したレスターが、「?」と言う表情のタクトに、

「まさか・・・何年も皇国軍人やってて、知らなかったとはいわんだろうな・・・・・・。」

「知らない。」

「アホかーっ!」

 レスターの怒鳴り声が、艦全体を揺らした。あくまでも比喩だが。

「今から説明してやる!」

「せ・・・説明・・・。」

 ナデシコ時代のNGワードを聞いて、少しおびえるタクトに気づかず、レスターは呆れと怒り混じりの声で言う。

「よく聞いとけよ。」

<白き月>

トランスバール皇国の象徴。

400年前に突如惑星トランスバール上空に出現し、現在の皇国の基礎を築く技術をもたらす。

白き月の象徴でもあり、皇国の国民の宗教的信仰の対象として崇められている月の聖母シャトヤーンが居住している。

<エンジェル隊>

白き月に配備された、皇国軍最強を誇る紋章機を駆る部隊。

主に白き月や皇族の護衛任務につくが、現皇王ジェラールが即位してからは、本星から皇族が出ることがなくなった為、

ロストテクノロジー関係の仕事を主任務にしている。

<ロストテクノロジー>

クロノクエイク(時空震)による影響でテクノロジーが大きく後退してしまい、

現在では失われてしまったクロノクエイク以前の時代の技術やメカを総称する言葉。

 紋章機の後について、ほぼ3時間。

 途中、クロノドライブ―――超光速空間移動のようなもの―――を行ったから、何光年かは移動している。

 今は、小惑星帯らしき所にいて、辺りに浮遊物が舞っている。

「ここに、何が?」

「さてね・・・。ん?何か、近づいてくる気配・・・。」

 タクトの言葉に反応し、レスターが指示を出す。

「レーダーに反応はないか?」

「ありませ・・・いえ!戦闘機二機、接近!」

「残りの紋章機だろうね・・・多分。」

 タクトが言うが早いか、すぐにモニターに青と緑の二機が映し出される。

「紋章機の後方に、大型艦が続いています。映像に出します。」

 モニターに出たのは、数箇所損傷のある、白い大型の船だった。

「あの船は?」

「あれは・・・エルシオール!?」

 のほほんのタクトとは対照的に、レスターが緊張を含んだ声をだす。

「エルシオールって・・・何?」

「シャトヤーン様や、皇族が乗船される儀礼艦だ。五つの紋章機を運用できる唯一の船。」

 そこで、レスターがハッという表情でタクトを見る。

「と言うことは、もしかしてシャトヤーン様がお前を名指しされているかもしれないんだぞ!?」

「まあまあ、落ち着けって。」

 興奮気味の友人をなだめるタクト。

「とにかく、あの艦に入って、ある人物とやらから、話を聞こうじゃないか。考えるのは、それからだよ。」

「あ、ああ・・・。そうだな。」

 連絡艇を用意され、格納庫へと降り立つ二人。

 そこには、先程の三人を含む、5人の女性たちがいた。

「マイヤーズ司令、長旅ご苦労様でした!」

 ミルフィーユが元気な声で言って、お辞儀をする。

「長旅って・・・半日もかかってないわよ。」

 ランファの冷ややかなツッコミがとぶ。

「エルシオールにようこそ。歓迎致しますわ、マイヤーズ司令。」

 青い髪の少女が、軽く礼をする。

「ありがとう。君の名は?」

「ミント・ブラマンシュと申します。」

 ミントは、本人の耳とは別の、ふわふわした動物のような耳をパタパタさせながら答える。

「・・・ようこそ。」

 緑の髪で、頭に白いヘッドギアを乗せた少女がポツリといって、会釈する。

「君は?」

「・・・ヴァニラ・H(アッシュ)です・・・。」

 ヴァニラ自体は殆ど動きが無く、無機質な感じを受けるが、対照的に、肩に乗るリスが、コミカルな動きをしていた。

 おそらく、歓迎してくれてるのだろう、と思うことにする。

「あの動物、ナノマシンの集合体じゃないか?」

 レスターが囁いてくる。

「ナノマシン?・・・随分技術も進歩したもんだ。」

 あくまでも彼の昔に比べれば、であるが。

 クロノクエイク以前では、ナノマシンをコントロールし、機械はおろか、生体組織まで修復する技術は一般的だったらしい。

「・・・で、誰に会わせて貰えるのかな?俺達は。」

 タクトは、リーダーのフォルテに向き直る。フォルテがニヤリとするが、

「司令官室でお待ちしておりますわ。」

 答えたのはミントだった。相変わらず耳をパタパタさせている。

 物腰は丁寧だが、何かとっつきにくい感じがする。

「――――――あら?」

 突如ミントが驚いた声を上げる。

「どうしたの?」タクトが問うが、

「いえ、何でもありませんの。」

 言ってくれそうにもない。

「・・・んじゃ、最後は例の人物かな?」

 タクトはフォルテに振り返る。

「そうなるねえ。ついて来てくれるかい?」

 タクトとレスターはフォルテの後に続き、歩いていった。ある人物の所へと・・・。

「ミント、さっきどうしたの?いきなり驚いたりして。」

 ランファが疑問をぶちまける。

「いえ、実は・・・。

 私はテレパスの能力を持っていますの。それはご存知ですね?」

「うん、それで?」

「・・・先程、マイヤーズ司令の心を読もうとしたら、ノイズがかかったようになって、読めませんでしたの。

 ――――――まるで、心と体が違う人物のように・・・。」

「まっさか〜!」

「まあ、そんなSFじみたことはないと思いますが。」

「そうそう、考えすぎよ。」

「・・・・・・そうですわね。」


コメント?

「どーも!TV版ノーマッドです!」

「どうも、ウォルコットです。」

ノ「この作者、別のバージョンも連載させたけど、関係あるんでしょうか?」

ウ「無いかもしれませんし、あるかもしれませんね。」

ノ「・・・逃げたな、作者め。」

ウ「続いて、ウォルコットの独り言。」

ノ「ラジオネタは止めなさい!」

「メアリーの、一人酒。」

ノ「あんたもかい!」

・・・・・・いくら山ちゃんとみかさんが夫婦だからといっても、キリュウ×ヴァニラとはなりません。絶対。

それとゼロ(旧アキト)がタクトの何歳の時に体に入ったかはいずれ明らかにしますので。

 

感想代理 皐月

 

近頃とみに平和と言うものを感じている皐月です。

ロストテクノロジーとかと出ていますが、原作ではなんか関係あるのかと思えるものですからねえ。
ロストテクノロジー関係なしに遊んでる(?)連中ですし……。
こちらの方でどのように出るのかは楽しみであります。

 

 

 

 

 

あ、そういえばノーマッドも一応ロストテクノロジーだったかな?