The answer

翼編第8話

 観鈴の様子が、おかしくなった。体がだ。

 足が、動きにくくなったという。

「最近、よくあるの。大丈夫だよ。」

 と言っていたが、何かが引っかかった。言いようの知れない、不安。

 まるで、崩壊の序曲のような、そんな感じが。

「どうしたの?難しい顔して。」

「いや、ちょっと考え事があっただけだ。」

 観鈴には、不安な様子は見せたくなかった。

 大事をとって、観鈴には学校を休ませた。晴子は相変わらず仕事だ。

 家には俺と、パジャマ姿の観鈴。俺はずっとトランプをしたり、飯を作ってやったりして、一日中一緒にすごした。

 飯の作り方は、何故か体が覚えていて、観鈴には好評だった。

 昼ごろに海に行こうと観鈴が言い出したが、体調を考えて明日に伸ばした。

 不安なこととは、無論観鈴のことだった。

 夢に出てくる言葉が増えてきて、その言葉は今の観鈴の状況と合致していたのだ。

 その少女は、一人ぼっち。

 仲良くなろうとすれば、少女は蝕まれ、やがてもう一人にも移り、別れなければ死んでしまう。

 少女は足から段々と体を蝕まれ、あるはずのない痛みを感じ、大事な人のことを忘れ、死んでしまう。

 そんな意味だった。

 今、観鈴は足が動かないと言っている。

 もし、観鈴がその少女なら。そうならば、この先どうなるのか。

 そんなことは、考えたくもなかった。

「温泉旅行行ってくるわ。」

「何だと?」

 次の日、朝から晴子は手荷物を持って、こんな事を言ってのけた。

「今の観鈴は、どんな状況か知っているのか?」

「観鈴はあんたに任せるわ、居候。」

 どこか言葉が噛み合わない。

 が、晴子の目を見ると、温泉旅行に行くというのは明らかに嘘だった。晴子は、何か決意を持っている――――――

 しかし、その考えは心に隠し、俺は自分の夢の言葉と、観鈴の今の状況から起こりうることを話した。

「あんた、言うてええ事と悪いことあるで。」

 ・・・やっぱり怒られた。まあ、普通には信じがたいだろうな。

 結局、晴子は出かけてしまった。

 さらに何日か経った。

 観鈴の調子は、目に見えて悪くなっていく。体もだるそうだった。

 さらに、眠りから覚めたときはほとんど悲しい顔をしていた。

 夢を、見ていたのだという。

 山の中を歩く夢。祭りを見ている夢。大事な人をなくす夢。争いの夢。

 そして、閉じ込められる夢。

 俺は、なにもしてやれなかった。

 ただ、愛しくて、ともすれば折れてしまいそうな体を、抱きしめてやることしか。

「俺は、ずっと、お前のそばにいる。約束だ。」

 次の日、俺は体の明らかな不調に気づいた。

 体が、重い。一度臥してしまえば、二度と起き上がれないくらいに。

(夢の・・・言葉か・・・。)

 だが、観鈴には気づかれてはいけない。気づいたら、きっと心配するだろうから。

 一生懸命隠していたが、あっけなく昼にばれてしまった。

 居間でテレビを見ているとき、後ろから観鈴が声をかけてきた。

「どうしたの、名無しさん?大丈夫?」

 ・・・演技力無いな、俺。

 が、観鈴の不安はそこで止まらなかった。

「・・・私の・・・せいだよね・・・。」

「何?」

 まさか・・・観鈴・・・。

「私、わかってるの。私が近くにいるから、名無しさん、苦しいんだよね?」

「いや、違うぞ。寝不足でだるいだけだ。」

 俺は慌ててごまかしたが、観鈴の言うことは的を得ていた。

 これでも苦しさを未熟な法術で中和しているのだ。本当は、このままいけば、俺の命は十日と持たない。

「そう・・・。」

 観鈴は納得し、俺の寝てろという声に素直に従い、寝室に戻っていった。

 が、観鈴は俺の思っていた以上に思いつめていた。

 その日の夜、観鈴は俺に告げた。

「出て行って。」

 俺は、自分の耳を疑った。

 もう一度、観鈴が言い放つ。

「もう、この家から出て行って!」

 まるで、無理をしたような、怒った声。

 観鈴は、俺が近くにいれば、俺が死んでしまうことが分かっているのだ。だから、俺を追い出して、おれを追い出して、俺を生きさせようと――――――

「出て行ってよ!」

「いてっ!」

 観鈴は、手当たり次第に近くのものを投げてきた。枕が、頭に思いっきり当たった。

 俺は、何もいえず、出て行くしかなかった。

 武田商店の前の道を、一人さびしく歩く男。

「・・・俺は・・・。」

 男は、何をしていいか分からなかった。どうしていいか分からなかった。町を出るという選択肢すら、彼の頭の中には無かった。

「くっそおおおおおおおっ!!」

 ただ月が光をたたえる空に向かい、男は吼えた。

「ちっくしょおおおおおおおおおおっ!!!」

――――――俺は、また大事な人を、助けられないのか――――――

「・・・えぐっ・・・ひぐっ・・・。」

 暗闇の部屋の中、ベッドの上の少女、神尾観鈴は、一人で泣きじゃくっていた。

「・・・ごめん・・・なさい・・・。」

 涙は、彼女が泣き疲れて眠るまで、止まる事は無かった。

「お前は、何を望む?」

 ・・・おれは・・・。

「何を望む?」

 ・・・おれは・・・観鈴と一緒にいたい・・・。

「では、何故今離れている?」

 ・・・あいつが・・・俺と離れることを選んだから・・・。

「そんな理由でか?」

 そんな・・・理由だと?

「心から望んだ者ならば、どんなことがあっても一緒にいるものじゃないのか?」

 ・・・そう・・・だ・・・。俺は・・・何をしていたんだ・・・。

 俺は・・・観鈴と一緒にいたい。たとえこの身がどうなろうと、俺はあいつとともにいて、あいつを笑顔にしてやりたい!

「・・・やっと・・・決まったか・・・。」

 ・・・お前・・・誰なんだ?

「・・・大事な者なら・・・二度と離すな・・・。」

 おい!

「はっ!」

 俺は、既に廃棄された駅で目を覚ました。日は、既に高く上っていた。

「夢・・・か・・・。」

 だが、夢であろうと無かろうと、俺には関係なかった。

(観鈴、今お前のところに行く!たとえ怒鳴られてもどつかれても殺されようとも、お前とともにいるぞっ!)

「どおりゃああああああっ!!」

 俺は、一直線に走り出した。迷いは、最早なかった。

 一足飛びに玄関に駆け込み、すぐに部屋へと突撃する。ノックもせずに、乱暴に観鈴の部屋のドアを開けた。

「観鈴!」

 観鈴は、ベッドに横たわっていた。まるで死んだように、ピクリとも動かない。

 胸が軽く上下していることが救いだった。だが、それも救いになるかどうか。

「観鈴・・・。」

 俺はそっと傍により、観鈴の手を握ろうとした。

(っ!!これは―――――――!!)

 手は、とても冷たかった。もう、観鈴の命の灯火は、消えかかっていた。

「観鈴!もう一人にしないからな!頼まれたって、一人になんてしてやるものか!

 ・・・ずっと・・・一緒に・・・いて・・・やるから・・・。」

 俺の叫びは、最早涙まじりだった。

 そのとき、何処からか、声が聞こえた。

「人形を、使いなさい」

 俺は、無我夢中で、人形を使っていた。何をすればいいかは、何故か判っていた。

 昔、はるか遠い場所で、他の奴が同じことをしているのを見た――――――

 ――――――時よ、戻れ――――――

「・・・ん・・・。」

 観鈴は、目を覚ました。

 何かあったような気がして、辺りを見回す。

 が、部屋の入り口のドアが開いているだけで、観鈴のほかには誰もいなかった。

「・・・名無しさん?

 おかしいな・・・確かに話しかけられた気がするんだけど・・・。もしもう一度会えたら、謝ろうって、思ってたのに・・・。」

「・・・ハァーッ・・・。」

 山奥で、一人の男の、のどの奥に引っかかったような声が聞こえる。

「ひ・・・ひいっ・・・化け物・・・。」

 違う男が、腰を抜かして後ずさる。

 あたりは、血でぬれた地面。そして、体の一部がまるで爆発にでも巻き込まれたようにえぐれた死体の山。

「・・・ん・・・?」

 男が、逃げずさる獲物を目に捉えた。

「ひっ!」

 見つかった、と悟った獲物は、立ち上がって命がけで走り出した。

 男は、すぐには追わない。

「・・・ハァーッ・・・。」

 ため息一つつくと、物凄い跳躍を見せ、上から相手の首根っこをつかんで押し倒した。

「ギャーッ!」

「・・・質問に答えろ・・・。」

 男はあくまでも引っかかりのある声で、質問と言うより脅迫をしていた。

「貴様、どこかの兵士か・・・。

 翼のある少女か、それを知ってそうな偉い奴を教えろ・・・。」

「だ、誰が貴様なぞに!」

 あくまでも強情な兵士。が、これが彼の寿命を7秒縮めてしまった。

「そうか・・・。」

 というと、男は再び跳躍。

 くるりと宙返りし、跳び蹴りの最中に突如スピードを上げた!

<ファイナルベント>

「・・・ハァーッ・・・。」

 男は猛スピードで突撃し、立ち上がった兵士の体を何発も、空中に浮いたままコサックダンスの要領で蹴り続けた。

「ギャアアアアアアアアアアアーッ!!」

 兵士は何mも吹っ飛び、文字通り花火となった。

「・・・つまらんな・・・。」

 男は、その場を去った。翼を持つ少女を探す為に。


コメント

決して浅倉とか言わないように。

しかし・・・えらくAIRから変わったな・・・。

 

 

感想代理人 皐月

 

ファナイルベント? 龍○ですか……。

あれはイイ作品です。

なにがイイって突っ込みどころに困らない点がイイ。

もっともそれを超えてイイのが現在放映中の5○5ですが。

あれは明らかに龍○を超えています。

私なんて手に汗をかきながら応援しちゃいますから。

 

 

 

 

 

 

 

オルフェノクをな!