The answer

天使編第9話

「ふう・・・。」

司令官室の机の前で、俺ことタクトは報告書を書き終わり、肩を押さえて首をパキポキ鳴らした。

「さあて、仕事も終わったし・・・。」

そう、新任艦長として、すべき事は!

「エンジェル隊のみんなに、会いに行くぞ〜っ!」

「違うだろ!」

「わっ!」

ブリッジに響く、突然のレスターの大声に、驚く一同。

「どうかしましたか?クールダラス副司令。」

「あ、いや・・・。」

アルモの質問に、レスターは恥ずかしそうに顔を背けた。

「♪るんたった〜るんたった〜・・・・・・おや?」

鼻歌を歌いながらご機嫌で歩くタクトは、ふと、宇宙コンビニエルシオール支店で見知った人物を見つけた。

ちなみに、エルシオールは儀礼艦とはいえ戦艦でありながら、コンビニや公園、軽い娯楽施設など様々な施設がある。

「あれ?桜葉少尉?」

「あっ、マイヤーズ司令!」

レジの前にいたのは、ミルフィーユ桜葉だった。

彼女の前には俗に言うガラガラの抽選があり、その前にいる店員は悲しそうな顔をしていた。

「俺のことは、タクトでいいよ。前から、名前で呼ばれなれてるしね。

 みんなにも、そういっておいて。」

「はい!私も、ミルフィーで結構です。皆さん、そう呼んでますし。

 でも、前って何ですか?」

(――――――しまった〜!!)

ふと気づくタクト。彼の言う前とは、ナデシコ時代のときだったのだが――――――

「ああ、前の艦のことですね。」

ミルフィーユが勝手に勘違いしてくれたので、ホッとするタクト。

「ところで、今は何を?」

「お買い物して、抽選で特賞のリゾート惑星7泊8日2人組を3回当てるんです。

 今2回目の抽選なんです。」

当たるかどうかも分からないものに対して、何故か彼女が決定事項としてそれをみなしているのが引っかかった。

程なく、彼女が回した抽選器から、特賞を示す球が出てきた。

「やったあ〜、当たった〜!」

「凄いな・・・。」

前を見ると、店員が泣きながら「大当たり〜」とか言って賞品を出していた。レジに置かれた賞品は既に2つ。

って2つ!?ミ、ミルフィー・・・・・・?」

「はい?」

何か恐ろしいことを感じ、タクトは恐る恐るミルフィーユに聞いてみる。

「もしかして・・・1回目も当てた?」

「はい!」

(んなアホな!)というツッコミを、辛うじて抑えるタクト。

「あと1回ですね。行きますよ〜。」

そして、彼女は3回目も当ててしまった。

「・・・ミルフィー?もしかして、君、物凄く運がいいとか?」

タクトの質問に、ミルフィーユは微妙な表情を見せた。

「えっと・・・私は、運が物凄く『強い』んです。」

(・・・・・・強い?どういう事?)

タクトが疑問を口に出そうとしたとき、

「ミルフィー、遅いわよ。もうみんな待ってるんだから。」

入り口の方から元気な声。ミルフィーユがタクトの体越しに、その人物に返事をする。

「あ、ごめん、ランファ。今行くね。

 それじゃあタクトさん、また後で。」

「うん、じゃあね。

 ・・・・・・あとで?」

ランファとともに去っていくミルフィーユと別れの挨拶をしたが、1つの言葉に引っかかった。

「後でって・・・どういうこと?」

あの後、俺は紋章機を見たり、シヴァ皇子と話をしたり、トレーニングルームで汗を流したりしてから、司令室へと戻ってきた。

・・・・・・サンドバッグを1つ、勢いあまって壊したことは秘密である。ばれたらレスターに怒られる・・・(汗)

そのとき、艦内放送が流れる。

「マイヤーズ司令、至急公園まで来てください。」

ん!?何かあったのか!?

「どうかしたのか!」

勢いよくドアを開け、自然公園へと飛び込んだ矢先、

パン!

銃声を聞いた。

(――――――しまった!油断していたか!)

時すでに遅く、狙い撃ちされた俺の体には、銃で撃たれた傷が――――――

「・・・ない?」

「「「「「マイヤーズ司令、エルシオール艦長就任おめでとうございます!」」」」」

(・・・・・・は?)

どうやら、銃声ではなく、今のはエンジェル隊のみんなのクラッカーの音だったらしい。

銃声と間違えるとは、俺もヤキが回ったか。

「タクトさん、就任記念パーティーです!」

ミルフィーが俺の手を引っ張ってくる。

「え〜と・・・・・・。」

俺はまだ事態の変化についていけない。

「要は、みんなと仲良くやろうって事!」

「そういうことですわ。」

ランファとミントのセリフで、ようやく事態が飲み込めた。

「・・・・・・なるほど。」

目の前には、大きな木が立っていて、その下にはピクニック道具がおいてあった。

「いっただっきまーす!」

みんなで挨拶。ミルフィーが開けた弁当箱の中身、サンドイッチに向かって、俺は神速の速さで手を伸ばす!

「もらった!」

「なぬ!」

が、ランファの方が早かった。

「やるな・・・・・・。じゃあ俺はこっちだ!」

といって、俺は次のに手を伸ばす。今度は捕獲に成功し、口に運ぶことができた。

(――――――うまい!)

ミルフィーの料理は、いい仕事をしていた。恐らく、コック時代の俺よりうまいんではなかろうか。

が、楽しいときは急に終わりを告げる。

ザアアアーーーッ!!

突然雨が降ってきた。いや、艦内に雨が降るはずがない!

「スプリンクラーの故障か!?」思い当たる節はそれだった。

「あ〜っ、やっぱり〜!」

「やっぱりって、どういうこと?ランファ。」

「ミルフィーは、物凄い運の持ち主だから、不幸を呼んじゃうのよ。

 いきなりクーデター軍が攻めてきたのも、こうやってピクニックしてるとき。」

「でも、さっきコンビニで・・・。」

「それは、ミルフィーの運がいいときよ。あの子、運が強いから、幸運も凶運も持ってきちゃうのよ。」

「だから、運が強いなのか・・・。」

ふと周りを見ると、フォルテがてきぱきと後片づけをし、ミントはどこからか着ぐるみを、ヴァニラはナノマシンで傘を作っていた。

「とにかく、出よう!」

「ふーっ、大変だった・・・。」

「あ〜ん、びしょぬれ〜!」

「シャワー浴びたーい!」

そのとき、艦内がガクンと揺れる。そして、俺の勘が危機を察知する。

「みんな!エルシオールの近くに敵がいる!今すぐ出撃してくれ!」

が、みんなは俺の突拍子もないセリフにあぜんとする。

「確か、今はクロノドライブ中ですよね?」

「クロノスペースに、通常空間からは直接干渉できないわよ、タクト。」

「しっかりしてくれよ、司令官殿。」

が、次の艦内放送。

「タクト!クロノドライブが急に止まって、通常空間に出た!しかも敵の真正面だ!」

レスターのセリフに、みんながハッとなる。

「分かった、レスター!みんな、頼む!」

「り、了解!」

俺がブリッジに戻ったとき、エンジェル隊4人の活躍によって、敵はあらかた殲滅されていた。

・・・・・・4人?

「ミルフィーは?」

「ラッキースターは、エンジントラブルで動けないそうです。」

「あらま。」

「しかし、さすがは紋章機か。巡洋艦十隻相手に、一方的だ。

 いや、パイロットも含めてか。」

レスターがひどく感心していた。

「タクト、お前は乗れないのか?」

「バカ言え、もし乗れたらここにはいないよ。それに・・・。」

周りに聞こえないように、俺はレスターに耳打ちした。

「のんびり過ごす為に、わざわざ成績を下げたんだ。」

「なるほど・・・やっぱりか!お前は!」

「にょほほ〜!」

そのとき、アルモ少尉が叫んできた。

「後方に、敵巡洋艦8隻、及び新型戦艦1隻です!」

「敵の援軍か!180度回頭!」

レスターが指示を出す間に、俺はミルフィーと話をしてみる。

「ミルフィー、ラッキースターの調子はどうだい?」

「タクトさ〜ん、エンジンがさっぱり動かないんです〜!」

ミルフィーの言葉には、焦りの色が見えた。

俺は彼女を落ち着けるべく、ゆったりとした声で話しかける。

「落ち着いて、ミルフィー。焦らずに。」

「は、はい・・・。」

そのとき、敵艦から通信が入ってきた。

「繋いでくれ。」

画面に出てきたのは、ヒゲを長くはやした4〜50代のおっさんだった。

「エルシオールにつぐ!シヴァ皇子を渡せ!さすれば、命は助けてやろう!」

俺はおっさんを無視して、レスターに尋ねる。

「言うセリフが決まってる奴って、悪党の雑魚の典型だよな。」

「俺に聞くな。だが、大したことがないのは事実だ。」

レスターの珍しい暴言。

「あいつはレゾムとか言う奴で、能力がないくせに威張り散らす貴族の典型だ。」

「おい!聞いておるのか!シヴァ皇子を」

「じゃかしゃあ!」

うるさいおっさんをレスターが一喝。恐。

この艦に乗ってから、レスターが壊れてきてしまった。

「ちなみに、NOね。」俺が補足しといてやる。

「ふっ・・・この挟み撃ちの状況でも、そんなことがいえるのか?」

「・・・ヒキョウダナ・・・。」

「何とでも言え!ガッハッハ・・・。」

もちろん、俺は卑怯とは露ほども思ってはいないのだが、相手の顔がいかにも卑怯と呼んでくれ顔だったので、乗ってやっただけだ。

そのとき、

「タクトさ〜ん!動きました〜!」ミルフィーの元気な声が聞こえてきた。

すぐにおっさんの画面を閉じ、可愛いミルフィーの顔を画面に映させる。あんなおっさんをずっと映してたら、精神衛生上悪すぎる。

「じゃあ早速だけど、後ろの敵を頼めるかな?」

「はい!任せてください!」

程なく、ラッキースターが後部ハッチから飛び出していく。

「な、なんと卑怯な!紋章機を隠しておったとは!」

「お前、殴っていいか」

ボケたおっさんの通信はさっさと切って、ミルフィーの戦闘を見よ。指揮はレスターがやってくれてるし。

ミルフィーの乗るラッキースターは、紋章機のプロトタイプともいわれ、5機中最高の出力を持つ代わりに、最も扱いにくく、最もエンジンの不安定な機体らしい。

それ以外は、平均的だそうだ。

「ラッキースター、これより攻撃に移ります。」

ミルフィーの報告とともに、先制攻撃とばかりに中型ビーム砲から8条のビームが出る。光は敵艦に次々と突き刺さる。

次に、中型ミサイルを数発発射。爆発が連続して起こり、1隻を沈めた。

「敵を撃墜しました。あっ、タクトさん!こっちを見てるんですか?じゃあ、とっておきを見せちゃいますね!」

敵を一つ沈め、彼女のテンションが上がったらしい。

前にも出たが、紋章機の攻撃力及び出力はパイロットのテンションに比例される。

即ち、テンションが上がればエンジンの出力も上がり、攻撃力も上がるのだ。

「あっなたのハートに直撃よっ!」

ラッキースター下部の巨大砲から、一撃必殺の大型ビームが発射された。

光の奔流は、戦艦数隻を巻き込み、一番後方にいた旗艦までも沈めてしまった。

「お・・・おのれ・・・エンジェル隊・・・ぐわあああっ!!

ドゴォォォン!!

「敵旗艦、大破!」

「敵部隊、全滅を確認!」

アルモともう一人のオペレーター、ココの報告に、レスターが指示を出す。

「よし、エンジェル隊に、帰還命令を。後、修理班に被弾箇所の修復を要請しろ。」

「了解。」

一方、エンジェル隊は戦闘中の緊張感も抜け、のんびり会話していた。

「今回もうまく終わったね、ランファ。」

「あんたの不運も、結果オーライだったしね。」

「うっ・・・。」

「いいじゃないか、ランファ。」

「まあ、敵の司令官は、とても不運でしたけど。」

「・・・冥福を・・・お祈りします・・・。」

「ところでフォルテさん?今思い出したのですが。」

「何だい?ミント。」

「どうしてあの時、マイヤーズ司令は報告より前に敵がいるって分かったんでしょう?」

「え?そうなんですか?」

「ミルフィー・・・あんた、聞いてなかったわね?」

「まあ、そいつは本人に聞いてみようか。ねえ、ヴァニラ。」

「・・・はい。」

「・・・あんなことを言ってるぞ、タクト。」

呆れ混じりのレスターと、少々おびえ気味のタクトが少女たちの会話を聞いていた。

「・・・なあ、俺、逃げていいか?」

「ダメだ。自分でまいたタネだ。自分で何とかしろ。」

「・・・・・・はい(涙)」

タクトは滝のように涙を流していた。

ブリッジの扉が勢いよく開き、5人の少女が姿を現した。

フォルテが手に鞭を持ってずいと前に出て、

「さあて司令官殿。説明して・・・あれ?」

ブリッジにタクトの姿はなく、レスターが立つだけだった。

「副司令官殿、司令官殿はどこだい?」

「あいつなら、逃げたぞ。」

レスターの言葉を皮切りに、フォルテとランファとミントがブリッジから勢いよく飛び出していく。

が、ミルフィーユとヴァニラは動かない。

「どうした?桜葉少尉、アッシュ少尉。」

「あのう・・・そこの・・・。」

ミルフィーユは、レスターの後ろを指差す。

「クールダラス副司令の後ろ、タクトさんですよね?」

「だとさ、タクト。どうせバレると思っていたがな。」

ミルフィーユに指摘され、タクトはすごすごと、銃を突きつけられた犯人の如く両手を上げて現れる。

「はあ・・・。何でバレたんだろ?まあいいや。

 質問は分かってるよ。さっきのことだろ?」

「どうしてなんですか?」

「俺、特殊なレーダーを持ってて、それが反応したから、わかったんだ。」

とタクトは言ったが、真っ赤な嘘である。

実際は、気配を察知して、つい叫んだのがオチだが。

「そうだったんですか〜。」

ミルフィーユは疑うことなく、素直に納得する。

ここまではよかったのだが。

「ランファ〜、フォルテさ〜ん、ミント〜、タクトさんここだよ〜!」

「げっ!」

ズドドドド!

猛烈な足音が、だんだん近くなってきた。

「「「そこかあああっ!!!」」」

「ギャアアアアアッ!!」

結局、同じ理由を三人に説明し、漸くランファの人間サンドバッグとフォルテの人間射的と、

ミントの添加物てんこもりお菓子の毒味という罰ゲームから解放されたタクトであった。

「・・・こんなの、ヤダ。」

「隠し事をすぐバラすからだ。」


コメント

あっちに比べて、こっちは何というか、明るいねえ。自分で書いといてなんだけど。

4号ちゃんの声、これであってると思う・・・。

ああ・・・遅筆だ・・・。

 

感想代理 皐月

 

…………………………幸運だけ強くなって欲しい(ぼそり)<色々あるらしい