The answer

翼編第13話

俺とアカツキは、未だ会長室で話をしていた。

ただし、中身はちょっとした世間話に変わっている。

「アカツキ、お前の愛しい彼女からの伝言を忘れていた。」

「・・・伝言?」

アカツキは怪訝な顔をする。多分俺はにやついたまま、

「・・・たまには、寄ってください、だとさ。」

「はは・・・解ってるさ。僕だって、今すぐにでも駆けつけたいけどねえ・・・。」

といって、アカツキは遠いどこかを見る。

「前に一度抜け出して、その時のエリナ君の怖いの何のって・・・。」

「ははは・・・。」

俺は苦笑するしかない。

「空間転移で、運んでやろうか?

 俺も、最近観鈴に会ってないし、ついでに。」

「いいねえ。そろそろコスモスに乗る時期だから、会いに行こうと思ってたんだ。

 ちょっと着替えるから、待ってくれるかい?」

と言うと、アカツキは5秒で着替えを済ませた。白いTシャツに青いGジャン、下は黒いGパンと、軽い服装だった。

さすが腐っても、砂漠で虎の着ぐるみを着て赤メタルガルルモンに乗っても、

某私立正義学園にて白い詰襟を着た生徒会長をしてても(関係ない)会長は会長か。やることが早い。

・・・え?それも関係ないって?

「なんか失礼なこと考えてないかい?」

「いや、別に。」

「さて、行こうか。頼むよ、天河君。」

<シフトベント>

・・・十秒後にエリナが会長室に入ってきたとき、

「戻ってきたら・・・ブツブツ。」

とか夜叉のような顔で言ってたのは、俺だけの秘密にしておこう、うん。

「はい、駅に到着。」

「いや〜、すまないねえ。」

「じゃ、帰るときはまた呼んでくれ。」

「それじゃ、天河君。」

アカツキの方に近寄ってくる少女を一瞥しつつ、俺は自分の家に歩いて帰る。

「アカツキナガレー!覚悟ー!」

「うおっとお!・・・ん?」

ふとみちるの声がして、アカツキはとっさに回避しようとするが、何も来ないのに首をかしげる。

「・・・騙されたで賞。」

声のほうを見ると、カセットデッキを持った美凪が立っていた。

「やあ、美凪君。いつもの癖は恐ろしいねえ。体が勝手に反応するよ。」

「・・・ぽっ。」

「いや、それはよくわからないけど・・・。」

「・・・どうかしたんですか?」

「ああ、それは・・・。」

説明中。

「というわけで、しばらく会えなくなるんだよ。」

「・・・がっくり。」

「ゴメン、美凪・・・君?」

いつもと同じ反応に危うく見逃しそうになった。

アカツキはよく見てみると、美凪は自分のスカートをギュッと握り締め、俯いていた。

心なしか、震えているようにも見える。

(ああ・・・そういうことか・・・。)

アカツキは美凪の頭の上にポンと手を乗せ、それから静かに自分の胸元に抱き寄せる。

「・・・アカツキさん?」

「・・・必ず、帰ってくるよ。まあ、心配しなさんな。」

「・・・はい。」

「あーきとさーん!」

家に着いたとき、観鈴が、俺の体めがけて思いっきりアメフトもびっくりの体当たり、もとい抱きつきをかましてきた。

「観鈴・・・どうした?」

「明人さん、しばらくこっちへ帰ってこれないんだよね?かくかくしかじかで。」

・・・まだ言ってないのに、何で知ってるんだ?

「気にしない気にしない。」

「・・・そうする。

 晴子は、元気か?」

「うん、元気だよ。ところで・・・。」

観鈴がいつもの上目遣いで見上げてくる。

こいつは俗にいう萌えのポーズを天然でする、男にとっては恐ろしいやつだ。

「頼みごとがあるんだけど・・・。」

「ん?何だ?」

パチン!

俺の目の前で、観鈴が両手を叩いたとき、俺の意識は沈んでいった・・・。

観鈴に倒れ掛かった明人を見て、観鈴はにははと笑う。

「やった、催眠術成功。ぶいっ。

 さ、ちゃんと立って。」

観鈴の指示通り、明人は再び立ちの姿勢になる。目がうつろなまま。

「これ持って。」

観鈴が明人に手渡したのは、ボールペン(黒)。

「さ、これにサインして。」

「はい、はんこ押して。」

指示通り、明人は何かの紙にサインし、はんこを押す。

「やった。ぶいっ。」

観鈴は小さく両手でガッツポーズをし、家の中で玄関を少し開けて覗き見をしていた晴子に報告する。

「おかーさーん!婚姻届、サイン終わったよー!」

「よっしゃ!よーやった!!」

余談として、明人がこの事を知るのは、2週間後。その時、既に婚姻届は受理されていた。

その事を知るのは、もっと後・・・。

「・・・天河明人・・・。

 神の力を持って、歴史介入をするか・・・。」

「・・・その力、世界のバランスを崩しかねない・・・。」

「・・・過ぎたる力現れしとき、我もまた世に姿を見せん・・・。」

「・・・それもまた、宿命・・・。」

一方、ハーリーには意外な事が起ころうとしていた。

昨日と同じ草原で、ハーリーとラスティが寝転んでいるときだった。

ラスティが、空に浮かぶ不思議な赤い物体を見つけた。その漂い方から、鳥には見えなかった。

「ハーリーさん、あの赤いもの、何でしょうか?」

「さあ・・・鳥には見えないけど・・・。」

が、その赤い物体は段々と降りてきて、慌てて立ち上がったハーリー達の目の前に着地した。

それは、車のように見えた。

2つの目のような大きな窓。特徴的な赤い車体。中心で2つに分けるような、とさかのような出っ張り。

何よりも、4つのタイヤがそれを車と予想させていた。

「「・・・?」」

その時、いきなりドアが開き、着流しを着た青年が現れた。

刀を腰につけている、どう見てもこの世界の人間にはあらざるもの。

その青年は、こう言ってのけた。

「迎えに来たぞ、マキビハリ。

 さて、元の世界に帰還するぞ。」

「・・・誰ですか?」

ハーリーの疑問も尤もだった。せめて自己紹介はほしいものだった。

「我が名は榊紀柳。貴様をナデシコから迎えに来た者だ。」

「・・・お引き取りください。」

「む・・・?」

ハーリーは慌てず騒がず、丁寧に(少なくとも本人はそのつもり)断った。

「ホシノルリに、会いたくはないのか?」

「いえ、別に。」

きっぱりと否定。

(むう・・・データとは違うな・・・。)

「けど、条件次第で、戻ってもいいですよ。」

「ほう・・・。それは如何なる?」

「物事が終わったら、この世界に帰してくれること。」

「そのような事か。」

榊はハーリーの横にいるラスティを一瞥し、

「よかろう。」

「・・・で、質問ですけど・・・。」

「よかろう。大概の質問には答えてやるわ。」

「・・・その車、何ですか?」

フッ、と榊は鼻で笑い、自慢げに答える。

「聞いて驚け!

 このマシンは!地上は無論の事!空を飛び!水中を走り!宇宙をも舞う!

 最高時速は1500キロ!!」

いつの間にか叩き売りと化した榊は、机の表面をハリセンでバシバシと叩いていた。

「それならただの車と同じ!だがしかし!」

「いや既にただの車じゃないです」というハーリーのツッコミは流された。

「なんと一番のウリは次元を超えられること!」

「だから、この世界に来れたんですね・・・。」

「某仮面乗り唯一の4輪車!その名もライドロンだ!」

ハーリーの頭の中で、急に「♪WakeUp,Theヒーロー!太陽よ!愛に勇気を与えてくれ!」と歌が流れてきた。

「ハーリーさん・・・行っちゃうんですか?」

「ごめん、ラスティさん。必ず、戻ってくるから!」

「・・・はい!待ってます!」

新しい世界でできた彼女に一時の別れを告げ、ハーリーは元の世界に――――――

「浮気しちゃ、だめですよー!」

・・・戻って行った・・・。

「・・・はっ!ラスティさんも一緒に連れて行けばよかったんだ!」

「どこか抜けてるな、ハーリーよ・・・。やっぱり貴様はハーリーか。」


コメント

ハーリー君が『元の』世界に戻れないのは必然ですね。

やっぱり不幸なんでしょうか?

・・・やっとライドロン出せた・・・。ライドロンって、空飛べましたっけ?

何故榊がこっちに出てきて、何故ライドロンを持っているかは向こうのほうで。

次回からはこっちはナデシコ本編で〜す。