第15話

「諦めるな!!」

「な・・・このフィールドの中で、まだ動ける機体があるというの!?」

ノアが、驚愕に目を見開く。

「!!」

「まさか・・・!」

「この声・・・タクトか!?」

思わぬ声に、いつも冷静なユリカが珍しく驚き、ミルフィーユが口を両手で押さえ、レスターが叫ぶ。

「当たり前だろ!勝手に殺すなよ!

 ・・・ちょっとやばかったけどな。」

「相変わらず、軽い口を・・・。」

レスターにも、やっと余裕が出てきたことを確認したタクトは、続いて天使たちに呼びかける。

「みんな、諦めるな!

 ここで終わってしまえば、俺達は何のためにここまでやってきたんだ!?

 俺達は、諦めるわけにはいかないんだ!!」

その間に、第4波が襲い掛かってくる。

「――――――ちいっ!邪魔をするな!!」

タクトは舌打ちをすると、機体を駆って迎撃に向かう。

漆黒の宇宙を走る、黒き機動兵器。黒の皇子の専用機にして、自らの過去の愛機。

黒百合、ブラックサレナを。

無数、といっても物質ゆえに有限なのだが、多くのミサイルが黒い疾風に襲い掛かる。

「遅い・・・!」

タクトは少しだけスピードを落とし、かかる猛烈なGを耐え切りながら超高速でかわしていく。

そのまま一直線に敵艦に詰め寄り、

「フィールドが無ければ、木連の戦艦よりいくらでかかろうと・・・!」

サレナのフィールドを超高速のままこすり付ける。

バリアも何もない敵艦は、装甲がひしゃげて爆散していった。

「次・・・!」

レーダーに映る近くの敵艦は約9隻。そのどれもが、強力な火力とスピードを誇る高速突撃艦。

「だが・・・サレナの敵ではない!」

「諦めるな・・・。」

ミルフィーユが、動かない紋章機の中で、タクトの言っていた言葉を繰り返してみる。

「・・・そうです!諦めません!」

「当然よ!」

「ったく、忘れるとこだったよ!」

「私達は、シヴァ皇子をお護りしているんですから。」

「何か方法が・・・あるはずです。」

その時、紋章機とエルシオールが目もくらむほどのまばゆい、神々しい光に包まれた。

「な、何だ!」

「エルシオールの全システム、回復しました!」

「どういうことだ・・・?」

そして、更に紋章機には白い光の翼が現れ、ゆったりと羽ばたいていた。

「え・・・?」

「な、何これ!?」

「システムが、回復した!?」

「何かに、上書きされていますわ!」

「・・・・・・?」

「凄い・・・紋章機の出力が、格段に上がっています!」

「何がなんだかよく解らんが・・・強力になったのならちょうどいい!この機を逃すな!」

「全機・・・ゼ、タクトと一緒に敵を殲滅。」

「了解!!」

未だ増える敵艦の火線に、被弾が増えてくるサレナ。

フィールドで直撃弾は防げるのだが、負担がかかってくるのに違いは無い。

「くっ・・・ブランクが長いか?」

高機動を生かした急旋回と周りに比べた小ささを利用して敵艦の無人のブリッジにサッと回りこみ、2丁のハンドカノンを構える。

「そこだ・・・!」

ドシュドシュドシュドシュ!!

「ふっ・・・。」

サレナが離れると同時、また1つ宇宙に新しい華が咲く。

「とはいえ、1機ではキツイか・・・?

 弾も無限ではないしな・・・。」

その時、周りの戦艦が突如として爆発していく。

「何だ・・・?」

「タクトさ〜ん!」

と、後ろから、光かがやく翼を背に、5機の紋章機が再び姿を現した。

更に、

「てえいっ!!」

ボゾンジャンプしてきた夜天光零が、鎌を一閃して近くの艦を一刀両断する。

「あの光、この時代で使われているエンジンを停止させるが、旧式の夜天光のエンジンを止めることはかなわぬようだ。

 貴様のその機体が動くのも、そのせいだろう。」

「ともかく、これで全員復活!一気に行くぞ!」

「了解!」

「凄い・・・あっという間に敵艦隊が消滅していきます!」

「紋章機の攻撃力が、格段に上がっています!」

「よし、このまま黒き月を落とせ、タクト!」

「OK!みんな、あのコアに一斉射撃だ!」

「了解!」

ドシュウウウウウン・・・。

ズドォォォォォォォォォン!!

「エオニア様、黒き月の出力が下がっています!」

「ノア、何をしている!・・・まさか、ノア・・・。

 シェリー、黒き月のレーダー類はどうなっている?」

「え・・・は、はい。

 レーダー類は、むしろ出力が上がっています!」

「そうか・・・ノア、そういうことか!

 シェリー、全艦を前方に固めろ!黒き月を後退させる!」

「了解しました、エオニア様。」

「続いて第2波、行くぞ!」

「了か・・・・・・あれ?」

タクトが射撃体勢に入ろうとするが、周りの紋章機はうんともすんとも動かない。

「あれ?あれれ?」

「急に動かなくなっちゃった!」

後ろの翼も、今はなくなっていた。

「どういうことですの?」

「さしずめ、時間切れってとこかな?」

「・・・全く、作動しません・・・。」

その時、ユリカから通信が入る。

「黒き月、後退中。守りを固められてる。

 こっちは本来の目的を達成したから、撤退を勧めます。」

「そうだな・・・エルシオールに後退するぞ!

 紀柳、引っ張るのを手伝ってくれ。」

そして、エルシオールのブリッジ。

メカニック主任の女性、クレータさんを呼び出して、簡単な説明会になった。

「で、あの翼は何だったんだ?」

レスターが当然の疑問を口にする。

「・・・紋章機に眠る、力?」

「おいおい。」

ユリカの呟きに、レスターが突っ込む。

「いえ、一概には否定出来ません。」

「マジか・・・。」

ま、レスターは比較的常識人だからな。

「詳しいことはまだ解りませんが、翼の出現中、紋章機が限界値以上の能力を発揮していたというデータが取られています。

 加えて、操作系統が各機ごとに最適化されていました。」

「それで、あんなに違和感なく動かせたのね・・・。」

ランファがうんうんと頷いた。

しかし・・・イネスに慣れると、クレータさんの説明が短く聞こえるから不思議だ。

「エルシオールにも、新しくなったところはないのか?」

「出力面では変化はありませんが、追加武装があると言う場所のデータが新たに出てきました。

 場所は・・・。」

「意外と、白き月だったりしてね。」

・・・俺の発言に、周りが凍りついた。やや経って、クレータさんのセリフ。

「・・・どうして解ったんですか?マイヤーズ司令。」

「いや、さっきシヴァ皇子が『白き月と対を成す存在』って言ってたからね。

 そうかな・・・って。」

俺の発言に、シヴァ皇子が裏づけをする。

「白き月には、確かにそのような設備が奥深くにあると言うのをシャトヤーン様から聞いている。

 白き月なら、黒き月に対抗できるロストテクノロジーがあるかもしれない。」

「どうする、タクト。今の艦長は、お前だ。」

「・・・白き月に、行ってみる?」

「当然だ、レスター、ユリカ。

 本艦は、白き月に向かう!アルモ、ルフト先生に連絡を。ココ、クロノドライブの準備を。」

「「了解!!」」

「あ、クレータさん?」

「何ですか?マイヤーズ司令。」

「持って帰ってきたサレナを、かくかくしかじか・・・。」

「なるほど、解りました!」

「頼むよ。」

「あ、それから、先程黒き月から照射された黒い光で、何故同じクロノストリングエンジンを使っている敵艦が動いていたかが推測できました。」

「紀柳は、この世界で使われているエンジンに原因があるって言ってたけど、他にも?」

「はい。向こうは、あの光の効果を防ぐプログラム、もしくは装備があると思われます。

 無論、今の紋章機とエルシオールにはついているようですが。

 そして、新たにわかったことですが、どんな形の兵器でも強力に、そして汎用性を上げられる技術力も持っていると思われます。

 現に、以前より敵巡洋艦の出力、推力が60%アップしていますし、

 更に今の皇国の技術では、ああも簡単に、動くロボットは造れませんから。」

「黒き月・・・成長する、兵器工場か・・・。

 一刻も早く、白き月にたどり着く必要があるな・・・。」

それから3日。クロノドライブを繰り返し、白き月まで後1日程度の距離になった。

戦闘も散発的に起こりこそすれ、大した被害はなく、言うなればまったりとした航海となっていた。

「ゼロ・・・、暇?」

「ん?どうした、ユリカ。」

「・・・展望公園の様子がおかしい。見てきて。」

「別にいいけど・・・。」

どういう風におかしいんだろ?

「・・・行ったか?」

「・・・うん。」

タクトが出て行った後、レスターがブリッジにこそこそと入ってくる。

「まさかクールダラス副司令がこれに賛成してくれるとは思いませんでしたよ。」

「ねえ、アルモ。」

「・・・俺のこと、何だと思ってたんだ?

 それはともかく、タクトの奴は奥手だからな。仕事にかこつけて、そのくらいは協力するさ。」

「・・・ランファと、紀柳はどうするの?」

「・・・あっちは、勝手にどうにかなるだろう。」

「さて、ここが目的の公園ですが・・・いかに?」

タクトの視線の先には、相変わらず整備された野原や立ち並ぶ緑の木々、中心部に高くそびえ立つのはカフカフの木。

百年に一度花を咲かせるという木で、ファーゴにつくまでに一度咲いてひと騒動を巻き起こしたこともあるが、今は別の話。

タクトはその木の近くに、見知った人影を認めた。

「あ・・・ミルフィー。」

「あっ、タクトさん!こんにちは!」

「こんにちは。」

一通りの挨拶の後、ミルフィーユは上を向いて、やや不安を込めて言う。

「天井の投影装置、壊れてますね・・・。」

「前の戦闘で、大分やられたからね・・・。」

展望公園は、地面こそ本物だが、空は投影装置で映していた。

普段は青空に設定されているのだが、今では所々に金属の壁がそのままになっていた。

「ところで、さっきユリカさんからタクトさんが呼んでるって聞いたんですけど、何か用ですか?」

「え・・・?」

タクトはミルフィーユのセリフに疑問に思い、すぐに理由に思い当たる。

(ユリカの奴・・・。)

恐らくは、レスターもグルだろう。

「どうしたんですか?」

「・・・いや、何でもないよ。

 ちょっと、ミルフィーと一緒にいたいな〜って、思って・・・。」

タクトがミルフィーユのほうを振り向くと、顔を赤くしてジッとタクトの方を見つめていた。

「・・・本当ですか?」

「あ、ああ・・・。」

アキトとして23年、更にタクトとして数年を経験した彼は、さすがにミルフィーユが顔を赤くしている理由が風邪ではないことはわかっていた。

それだけか、と突っ込まれればおしまいなのだが、それでもこのタクトには充分な進歩である。

ただ、なぜかに関しては相変わらず理解してはいないのだが。

「・・・嬉しいです。私も、タクトさんと一緒にいられるだけで、とても幸せだから・・・。」

ミルフィーユは少しずつ近づき、タクトの目の前に止まる。視線は未だタクトの顔に固定中。

タクトはそっと両手をミルフィーユの肩に乗せ、それから何故か挙動不審者の如く周囲を見回す。

(誰も・・・いないよな・・・。

 特に紀柳。)

索敵?と言う名の気配察知をフル稼働させ、人がいないのを確認する。

それから、ミルフィーユのほうに向き直り、タクトの方から少しずつ顔を近づける。

そして、2つの影が一つに――――――

ガタァン!!

「ぬわあっ!!」

「!?」

天井付近からの突然の轟音に、飛び上がらんばかりに驚く二人。

「な、何だ・・・!?」

その時、体を持ち上げんばかりの大気の流れを感じる。辺りの石や草、花も勢い激しく舞い上がる。

「タクト!」

「レスター!?」

「いいところを邪魔して悪いが、緊急事態だ!」

「いいところって、オイ。」

タクトの突っ込みを、レスターは無視。

「そこの展望公園の天井のハッチが勝手に開いて、空気が流出しだした!!」

「何だってえ!?」

「本来なら2重構造だから、勝手に開くことは万に一つもないはずなんだが・・・。」

「やっぱり・・・そうなんだ・・・。」

ミルフィーユがレスターの通信に一人呟くが、周りに聞くものは誰もおらず。

「しばらくその公園は閉鎖する!早く逃げろよ!」

レスターが通信を切るが、タクトは逃げようとはせず、逆にハッチへと伸びるはしごの方へと飛び上がり、はしごを掴む。

はしごの上がハッチのため、結構上まで引っぱられて飛び上がれた。

「タクトさん!?」

「大丈夫、うん。ちょちょいと手動で閉めてくるよ。」

手動のスイッチは、ハッチの近くにあるのだ。

と、タクトが上り始めたとき、

「タクトさん、危ない!」

「ぬわっ!」

ガス。

風に飛ばされたダンボールがタクトに命中。

「いてて・・・何の、まだまだっ!」

更にしばらく上ると、

「タクトさん!!」

「何とおぉぉぉぉっ!!」

バコッ。

今度はゴミ箱が命中した。

「まだだ!まだ終わらんよ!」

そして、スイッチまでもう少しになったとき。

「きゃあっ!!」

そこに飛んで来たのは、大き目の金槌だった。

「何でこんなとこにっ!?」

カァ〜ン!!

金槌はタクトの脳天を直撃。

「いってえ〜!!

 ・・・運命よ、俺の邪魔をするなっ!!」

タクトは何とか、根性を入れて腕を伸ばし、スイッチを入れる。

ハッチはそれに連動し、少しずつ閉まっていく。

空気の流出が止まったことで安心していたタクトは、しかし、ミルフィーユの暗い表情には気づいてはいなかった。


コメント

・・・・・・わし書くの遅っ!!

どうしたら世間様のように早く書けるんでしょうか?

・・・謎です。

 

 

管理人の感想

ヴェルダンディさんからの投稿です。

ブラックサレナが弱いのか、敵が強いのか・・・

どちらにしろ、紋章機の強さの限界ってどんなもんなんでしょうね?

しかし、全然進展してないなアキトとミルフィーユの仲(苦笑)