第16話

・・・辛い。

何が辛いのかと言うと、ミルフィーが何故か俺を避けるようになった。

避けるといっても攻撃を、ではなく、俺という存在を、という意味である。

・・・ボケは置いといて。

ミルフィーのことだから何か理由はあるのだろうが、気になって夜も眠れやしない。

それで昼に寝たら、レスターに怒られた。

・・・いかん、脳内までおかしくなってる。

「おかしいのはいつもの通りであろう。」

――――――よう、最近ランファとベタベタする様子を周りに見せ付けまくって某ラジオの噛まない刑事に通報したい衝動に駆られる、

久々登場の紀柳じゃないか。

「我に悪意でもあるのか貴様」

事実だろ?

「あれは向こうからの接触だ。こちらはその意図はない。」

結果論だよ。

・・・にしても、何でだろうなあ・・・。

「蘭花に頼んで、聞いて貰ってやろうか?」

ああ、頼む・・・。

紀柳が俺の部屋を出てから半刻後、ミルフィー除くエンジェル隊の皆さんが一斉にドタバタと駆け込んできた。

「あんた、ミルフィーに何したの!?」

「避けられてるらしいねえ。」

「紀柳さんから聞きましたわ。どのような悪行を・・・。」

「・・・自白すれば、神はお許しになってくれます・・・。」

「ちょいまてやオイ」

無茶苦茶だ。俺を犯罪者にしたいのか。

「聞いた話だと、タクトがミルフィーの作ってたケーキをぶちまけたとか。」

んな勿体無いことは絶対しません。

「いやいや、私は嫌がるミルフィーに上官命令でセクハラしたって聞いたよ?」

しません。んな事したら女性陣全員から粛清受けて今此処に俺は居らず。

「あら?私はミルフィーさんを押し倒して・・・これ以上は年齢的に私には意味は解りませんわ。」

解ってるじゃねえかこんちくしょう。

「反省すれば・・・神は罰を減らしてくれます。」

0になってねえよ。さっきより悪いじゃん。

「・・・やっぱり、俺が自分で聞く。」

「やだな〜、冗談に決まってるでしょ。」

ほんまかいな。

「あんたに、ミルフィーを襲う甲斐性なんてあるはずないんだから。」

それはそれで・・・男としてはどうかなあ?

「ま、聞くのがいいだろうね。」

「応援してますわ。」

「・・・頑張ってください。」

美少女たちの声援を背に受けつつ、俺は部屋から出て行った。

エルシオールを追撃する黒い艦隊、その旗艦であるステノ級高速戦艦のブリッジで、シェリー・ブリストルがいた。

彼女は断固たる決意を持ち、今回の追撃に臨んでいた。

「エオニア様、今度こそ・・・。」

確固たる意思を含ませ、もう一度自分に言い聞かせるように叫ぶ。

「――――――今度こそ!!」

そして、一転して低く、誰にも聞こえないほどかすかな声で。

「その為ならば・・・我が命、惜しくなどありません・・・。」

そもそもシェリーの声は誰も聞き取ることのない、無人艦隊のブリッジで、シェリーは拳を握り締めていた。

「待っていろ、エルシオール・・・。

 勝つためには、何でもやってやる・・・!」

カプセルが、その艦の中にあった。

催眠洗脳装置。

人に何らかの催眠波と、各々の機体とセットに設定された思考生命制御のナノマシンを投与することにより、人に異常な運動能力を与えることが出来る。

その代わり、人としての人生には二度と戻ることは出来ず、ただ機械に操られるのみとなる。

そして、そのカプセルの中には、かつてのヘルハウンズ隊がいた。

まずは、ミルフィーのよくいく食堂のキッチンに行ってみた。

が、いるのは食堂のおばちゃんと他数人のみ。

「おや、マイヤーズ司令!どうしたんだい?

 昼食は1時間前に食べたばっかりだしねえ。」

「ええと、ミルフィー来てます?」

「今日はさっき来てたけど、今どこかへいったねえ。

 ・・・ははあ、ケンカでもしたかい?」

「そんなんじゃない・・・と思いますけどねえ。」

「仲直りは早くしたほうがいいよ。」

「・・・解りました。」

う〜む、此処にはおらんか・・・。

コンビニ。

「え〜と、ついさっき。」

格納庫。

「さっき、入れ違いに逃げるようにどこかへ行きましたよ。」

その他数々の場所へ行って、情報を総合した結果、やっぱり俺から逃げていることが判明した。

しかも、医療室のケーラさんの情報によると、

『タクトさん、私が悪いんです!だから、私を探さないで下さい!!』

って言づてを伝えられた。んなこと言われても、余計に気になるだけだって。

――――――ん!

前方、ミルフィー確認!目測による射程距離、30!動力、及びエアダッシュ異常なし!

「よし、追撃開始!」

俺はミルフィーに向かって全力疾走する。

ミルフィーも俺に気づいて、懸命に走って逃げる。

「――――――ミルフィー!!」

「わ〜ん、ついて来ないでください〜!!」

そのまま追っかけあいをすること5分、突然耳をつんざく鋭い騒音が。

警報。

「敵襲!?

 ・・・こんな時に!」

それを無視して追いかけるのを続けると、レスターからの怒声。

「こら、タクト!ミルフィーユ!!

 さっさと戦闘態勢に入れ!!」

「ミルフィーを捕まえてから、そうさせてもらうッ!!」

「タクトさんが止めたら、そうします!!」

「全く、あいつらは・・・。」

「副司令!ミサイルが、本艦に接近中です!」

「何ッ!?かわせッ!!」

「無理です!被弾します!!」

数瞬の後、敵艦から発射された数発のミサイルが、エルシオールに突き刺さる。

そして、そこはタクトたちのいた場所。

「いてて・・・何だ?」

一瞬、意識がぶっ飛びそうになったが、頭を振ってそれを持ち直す。

改めて周囲を見ると、前には倒れたミルフィー、そして周囲には・・・。

「・・・マジかよ。」

何と、通路をふさぐように、ミサイルが何発も突き刺さっていた。

一発でも爆発していたら、俺達は宇宙の塵だ。

あくまでも、ミルフィーの強運にびっくりと感謝である。

そういや、ちょいまえにランファに聞かれたな・・・。

「ねえ、タクト?」

「・・・・・・ん?」

「あんた、ミルフィーが好きなのよね?」

「あ、う、えっと・・・。」

「もう、黙ってても解るわよ。

 んで、あんた、ミルフィーの強運をうっとおしいとか思ったこと無いわけ?」

「・・・・・・何でさ。」

「だって、あの子ばっかり運がよかったり、逆に周りごと不運をまき散らしたりするのよ?」

「・・・逆に聞くが、ランファはそういうミルフィーは嫌いか?」

いかん、つい言い方がぞんざいになってしまった。

「んなわけ無いでしょ!

 確かにあの子ばっかりいい思いしたり、普段じゃ起こらない事に巻き込まれたりするけど、あたしはミルフィーの親友なんだから!」

ランファの言葉に、安心する。

ミルフィーは、いい友達を持っているんだな、と。

「そういう事さ。俺も、そういう事。

 例え、類まれない凶運で、俺が死ぬような目に遭ったとしても、俺はミルフィーのせいとは思わないさ。」

「・・・・・・。」

「・・・どした?」

「・・・やっぱり、アンタにミルフィー任せて、よかったわ。」

「・・・おいおい、保護者みたいなことを言うなあ。」

・・・・・・ふう。

ミルフィー、起こさなきゃな。

「ミルフィー・・・?」

「ん・・・・・・。あ、タクトさん・・・・・・

 キャアッ!!」

ミルフィーはすぐに目を覚ましたが、すぐさま俺から逃げようとする。

「タクトさん、離れてください!!」

「ミルフィー、何でだい?

 理由を聞かなきゃ、納得できないじゃないか?」

「・・・・・・。」

ミルフィーはしばらく黙り込むが、やがてポツポツと話し始める。

「だって・・・私の運で、タクトさんが危ない目に遭ってるんです・・・。」

「・・・・・・で?」

「今は無いけど、いつかタクトさんが、私のせいで、取り返しのつかないことになったら・・・!!」

彼女の言葉が終わらないうちに、俺は彼女の髪を手でくしゃくしゃっとかき回していた。

「ふわ・・・・・・。」

「何を悩んでるんだか。」

そして、俺とミルフィーは向き合う。

「言葉に出さないと伝わらないっていうし、今此処で言っちまおう。

 ――――――俺は、ミルフィーが好きだ!

 凶運が何だ?取り返しのつかないこと?

 ふっ・・・その程度の障害で、我が心に燃える、熱き血潮を留めることは出来んっ!!」

拳をギュッと、気合いの告白。

ミルフィーは、泣きながら笑うという、どういう風に受け取ったらいいか解らないリアクションをしていた。

「熱き血潮って・・・告白に使う言葉じゃないですよ・・・。

 ・・・・・・私も、タクトさんが大好きです!!大好きです!!

 大好きでーす!!」

ミルフィーも、非常に嬉しすぎる言葉を何回も絶叫連呼してくれる。

「ミルフィー!!」

「タクトさーん!!」

俺達は抱き合い、そして。

「・・・・・・・・。」

「・・・・・・タクトさん?」

そのまま固まったことを怪訝に思うミルフィーには悪いが、俺はミルフィーの後ろの見物者をジト目で見た。

「・・・見物は済みましたか?」

「・・・あらあら、お邪魔だったかしら?」

・・・説明すると、ミルフィーの側の刺さったミサイルは既にどけられていて、クレータさん他数人の作業班が見ていた。

というか、俺は「熱き血潮を〜」の辺りからいるのは解っていたが、それでいて告白した。

その程度で告白できんようでは、甘い、甘過ぎるっ(注・作者はとても真似できませんが)!!

「うわ・・・・・・。」

ミルフィーはトマトよりも顔を真っ赤にさせて、固まっていた。

「さ、出撃いきますか。」

「はい・・・。」

一方、シェリーの側では、とんでもないものの用意が済んでいた。

謎のカプセルにしまわれ、謎のヘッドギアをつけられていた、ヘルハウンズ隊。

「よし、ヘルハウンズ隊。出ろ!」

シェリーの言葉とともに、彼らはヘッドギアを外し、カプセルから出てくる。

「ふう・・・今日は調子がいいぜ。」

「機動部隊、出撃するぞっ!!」

「・・・・・・。」

「アン、ドゥ、トロワ・・・。」

「我がピラミッドパワー・・・見せてくれる。」

彼らは思い思いのセリフを吐いてはいたが、目は何かに操られたように虚ろだった。

「エオニア様からいただいた催眠装置・・・。

 勝つためには、エオニア様に勝利を差し上げる為には、私は何でもして見せる・・・!」

「ヘルハウンズ隊、出撃!!」

エンジェル隊は、既に全員飛び出していた。

「ミルフィー?随分お熱い抱擁してたみたいね。」

「えっ!?どうしてランファが知ってるの!?」

「クレータさんが、ビデオを紋章機に流してくれましたわよ。」

「はずかしいよお・・・。」

「全く、若いんだから気にすることは無いのに・・・

 ――――――紀柳?」

「・・・おかしい。」

「・・・何がですの?」

紀柳は、静かに前を指差す。

「ヘルハウンズも出ているようなのだが、生きている気配がしない・・・!」

「・・・・・・まさか!」

「どうしたの、ミント?」

「これは・・・ヘルハウンズ隊の方々に、生気が感じられません。

 恐らく、もしかすると・・・。」

「機械に・・・操られています。」

「勝つために何でもするってか。胸くそ悪くなるねえ!」

「・・・戦わなくちゃ、ならないんですよね?」

「・・・死なせる事しか・・・救うことが出来ません。」

そして、相手がモニターで見える距離まで近づいてくる。

「みんな、もう一息で白き月だ。

 確かに相手を殺すのは躊躇われるだろう。

 だが、俺たちにはやらなきゃならないことがある!

 俺が言う事は一つだ!みんな、生きて帰ってきてくれ!!

 ・・・・・・戦闘、開始だ!!」


コメント

・・・どう書いたらいいんでしょうねえ。

まあ、何とかなるでしょう。

――――――ああ、何て、面白そう。

オフ会。