第十話
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「敵艦、進撃してきます!」
「全艦、迎撃!
何としてもここを通すな!!」
漆黒の宇宙を舞台に、大小様々な大きさの華が、咲いては散り、咲いては散りを繰り返す。
ミサイルと言う名の蜂が飛び交い、グラビティブラストとレーザーという名の光が辺りに注ぐ。
人、それを戦場と呼んだ。
再び月を取り返さんとする連合軍と、木星蜥蜴が一進一退を繰り返す戦闘は、その場をいつ途切れるとも知らぬ、混沌たる空間と変えていた。
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が、その時、1つの乱入者によって、それは破られる事となる。
「艦長、我が部隊前方のチューリップから、大型重力波反応!」
「何だと!?」
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そして、チューリップから顔を出して来たのは、まず2本のブレード。
そして、全て現れたときに見せた姿は、白き戦艦。
「バカな・・・。
あれは・・・ナデシコではないか・・・!?」
殆どが同じ思いだったろうぐんじんたちを尻目に、ナデシコを出したチューリップは爆発し、その爆発は辺りの蜥蜴艦隊を一斉に巻き込んだ。
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一方、ナデシコではクルーがみんな気絶していた。
ブリッジで一人、全艦に呼びかけるルリを除いて。
「本艦、通常空間に復帰。座標、確認中。
皆さん、起きてください。」
だが、みんなはなかなか目が覚めない。ルリはまず、艦長を探した。
と、ユリカを見つけた場所は、何故か展望台。
しかも、イネスとアキトの三人で、川の字になって倒れていた。
とりあえず、ユリカに呼びかける。
「艦長、及び各員に。
起きたら直ちに、自分の持ち場に非常警戒態勢。
艦長、艦長?」
「う・・・・・・。
うわあっ!?」
ユリカが、ビックリして跳ね起きる。
それもそのはず、ルリは画面をどアップにしていたからだ。
「艦長、どうしてそんな場所に?」
「う〜ん・・・解んないけど・・・。」
ユリカは辺りを見回して、気づく。
アキトは、イネスと手をつないで寝転んでいたことに。
「だめっ!!」
ユリカは反射的に、アキトの手を解いていた。
「あ、ルリちゃん!周りの様子、見せて!!」
「はい。」
と、どアップで映されたのは、軍と蜥蜴の戦闘真っ只中のシーン。
「わあっ!グ、グラビティブラスト発射!
その後、フィールドを張りつつ後退!!」
「はい。」
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で、その結果。
「何のつもりだっ!!」
グラビティブラストはよりにもよって軍の集団の方へ。
幸いかすっただけで、これまた幸いにも死者は出ていなかったのだが、やはりというべきか、攻撃部隊の代表者からこっぴどく叱られた。
通信をようやくの思いで切ったユリカは、ハアとため息をつく。
「う〜、わざとじゃないのに・・・。」
「普通怒りますよ・・・。」
「ブリッジにいてくれれば、こんな事は起こらなかったのだが・・・。」
メグミとゴートが容赦ないツッコミを入れる。
(ほんと、何であんなとこにいたんだろう・・・。)
更に、ルリの無慈悲な報告。
「艦長、第二波来ます。」
「は、はい!
エステ隊、発進準備!」
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「アキト、さっきはどうしてあんなとこにいたの?」
発進しようとするアキトは、早速ユリカに質問されていた。
「・・・知らん。」
対するアキトはつっけんどんに返す。
「知りたいな〜?」
「戦闘中にあんなところに・・・不謹慎です!」
今度はヒカルとメグミも参戦。だが、アキトは変わらず無愛想。
「・・・解らんよ。」
実のところ、アキトはまだ悩みで頭が占められており、そんな事に構っている場合ではなかった。
「だあ〜っ!別にいいじゃねえか!何もなかったんだろ?」
「・・・ああ。」
「じゃあ問題なしだ!
俺はテンカワを信じる!!」
リョーコは見かねて助け船を出す。
「テンカワを信じるぅ〜?」
「テンカワ・・・?」
「う・・・・・・。」
『テンカワテンカワ〜?』
「うるせ〜っ!!」
しかし、ヒカルとイズミの一斉口撃に沈む。
(アキト・・・?)
気のせいか、ユリカはアキトの目に悲しさと寂しさを見て取ったような気がした。
が、それも一瞬の事。
アキトはいつもの無表情で告げる。
「テンカワアキト・・・出る!」
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「各機、状況に応じて散開!」
リョーコの指示によって、5機のエステが広がる。
と、前にバッタの群れが迫り来る。
「いただき〜!!」
ヒカルとイズミがライフルを連射するが、以前ならすぐに潰れたはずのバッタはフィールドに守られ、そう簡単にはやられない。
「うそっ、十機中3機?」
「敵もフィールドを強化したのね・・・。」
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「上等じゃねえか・・・。」
「熱き拳の前には、ちゃちな壁など意味はない!!」
格闘系のガイとリョーコはむしろ燃えたのか、片っ端からバッタを殴り飛ばしていく。
ガイに至っては、近くにあった敵艦の1つを、入射角のコツを利用して潰していた。
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しかし、いつもならよく暴れるアキトの声が、今日は聞こえない。
その事に気づいたか、リョーコはアキトに通信をつなぐ。
「おいテンカワ、どうした!」
だが、アキトはそれどころではなかった。
体が、重い。頭が、鈍い。
思考と行動が、完全に分離していた。
――――――おかしい。うまく動かない。
IFSだから、思ったとおりに動いてくれるんじゃないのか?
いや、それを言うなら、そもそもなんで俺は今戦っている?
もう、戦う理由は、火星で消えてしまったじゃないか・・・。
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「テンカワ機、完全に囲まれています。」
ルリの知らせをきっかけに、リョーコ達があせる。
「テンカワーッ!!」
「――――――行け!!」
「ヤマダ君!?」
かく言うリョーコたちの周りにも、未だ大勢の無人兵器。
「俺がこいつらを引き寄せる!お前らは早くアキトを助けてこい!
此処で助けられなきゃ、ヒーローじゃねえぜ!!」
「ヤマダ・・・頼むぜ!!」
「任せろっ!!
このゲキガンガー、そう簡単にやられはしないっ!!」
ガイをしんがりに残し、3人娘はフィールドを張って突撃していく。
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「テンカワ、待ってろ!!」
だが、その距離はあまりにも遠くて。今にも、アキトを囲むバッタは攻撃を開始しようとしていて。
「・・・・・・。」
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その時、囲みからエステを掴んで引っ張り出す、一陣の紫の風。
それは3人のエステに立ちふさがると、手を掲げて静止させた。
「此処は危ない。早く離脱したまえ。
さあ早く!」
「お、お前は・・・!?」
「そんな事はどうでもいいだろう。
さあ、行くぞ!」
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エステ部隊が離脱したすぐ後、敵部隊めがけて多数の線が走る。
「敵、20%が消滅。」
「バカな・・・。多連装の、グラビティブラストだと・・・!」
「第二波、来ます。」
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一方、エステ隊はちょっとまずい事になった。
ナデシコまでもう少しのところに来たとき、紫の機体はアキト機の体を離す。
「もう、動けるだろう。若いの。」
「ああ・・・。」
が、それは一瞬だった。そこにいた全員、油断していた。
突如、どこからか1機のバッタが飛来。それはアキト機のどてっぱらに体当たりの直撃を食らわせる。
「かはあっ・・・!」
反動でコクピットが振動する。アキトは思いっきり横に振られ、
「がっ・・・!」
不幸にも頭を打ち、その衝撃で気絶した。
バッタはエステが動かない事をいいことに、そのまま宇宙の彼方に引きずっていった。
「テンカワーッ!!」
「アキトーッ!!」
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戦いの後、ナデシコは修理の為に、ネルガルのナデシコ二番艦にしてドッグ艦のコスモスに収容された。
そして、主だったクルーが集まり、ナデシコが火星で行方をくらませてから8ヶ月が経過している事を知らされた。
「私の予想では・・・。」
「それはまた今度お願いします、ドクター。
それではこれより、艦長より発表があります。」
「はい。
これよりナデシコは、軍の指揮下に入り、極東方面軍に編入されます。」
「軍だとぉ!?」
「ネルガルと軍って、仲が悪いんじゃないのぉ?」
「それは昔の事さ。
君たちがいなかった8ヶ月間、ネルガルは軍と共同戦線を張ることになったのさ。」
「あなた、誰ぇ?」
いきなりミナトの手をとるロンゲのキザな男に尋ねると、その男はやはりキザに名乗る。
「僕はアカツキナガレ。コスモスから来た男さ。
あなたのような美しい女性が、こんな戦艦にいるなんてもったいない。」
アカツキの口説きを、しかしミナトは聞きたい事だけ聞くと、アカツキの手を振り払う。
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「そおいえば、アキト君のことはどうするの?」
「そうそれ!アキトを、助けなきゃ!!」
ユリカもやはり気になっていたようで、ミナトに同調する。
「それについて説明しましょう!」
いきなりイネスが叫び、下の表を地球と月の間の図に変える。
今ナデシコがいるのは地球軌道上、対してアキトが飛び出している予想地点は月の裏で、重力波ビームは届かない。
「と言う場所よ。アサルトピットの持つのは8時間。普通なら間に合うけど、今ナデシコは修理中。
今のナデシコのまま出て行ってもし敵に遭遇したら、危ないわね。」
「そっか・・・。
ねえ、アカツキさん?」
「何だい?」
「コスモスに、戦闘機はありますか?」
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一方、宇宙を漂流したままのアキト。
「あと、8時間か・・・。」
だが、アキトは今、どうする気にもなれなかった。
ただ、宇宙を流されるのみ。
「・・・俺は、どうしたらいい・・・?」
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その時、レーダーが何かを察知する。
「・・・・・・?」
続いて、通信機からの、何かの声。
「キャーッ!」
「この声は・・・?」
レーダーには、1機の戦闘機が数機のバッタに襲われていた。
そして、次の声。
「助けて、アキトーッ!!」
「――――――ユリカ!?」
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「ありがとう、アキト・・・。」
「いいさ・・・。」
宇宙服姿のユリカをアサルトピット内に拾い、アキトは呟く。
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何故か、助けないといけないと思った・・・。
そしたら、体が動いたんだ・・・。
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「アキト、最近元気ないよ・・・?」
「・・・そうだな。自分でも、解ってる。
このままじゃ、いけないことぐらいは・・・。」
「・・・私じゃ、助けにならない?」
「・・・本当に、熱でも出たんじゃないのか?
そっちこそ、最近おかしいぞ?」
「熱なんて出てない!
アキト、私の事どう思ってるの?」
「・・・自分の事ばっかり考える、やかましい奴。」
「あう〜・・・。」
ユリカはアキトの容赦ない指摘に、肩をそれこそ外れるんじゃないかというぐらい落とす。
だが、彼女の長所である自己精神再生(自分に都合の悪い事はすぐ忘れるとも言う)はここでも遺憾なく発揮した。
「そ、それに、アキトは私の事、昔からずっと助けてくれた!
だから、アキトが困ったときは私が助けるの!」
アキトは、ユリカのまぶしいほどの微笑みに、しばし心奪われる。
そして、大きくため息をつく。
「・・・解った。
ユリカは、戦う目的なんてのはあるのか?」
「目的?
・・・そんなに大層なものじゃないけど・・・前にも言ったけど、ナデシコを守るため、かな?
だって、戦わなきゃみんな死んじゃうもの!」
「そうか・・・そうだな。」
「もしかして、アキトはそれがないの?」
「ああ・・・。
と言うより、無くなったと言うほうが、正しいな・・・。」
「そうなんだ・・・。」
ユリカはそういうと、う〜んと首をひねって考える。
「・・・ユリカ?」
「うん、これがいいよ!」
ユリカは何か思いついたようで、手をポンと叩く。
「じゃあ、私のために戦って!」
「・・・はあ?」
いきなり何を言い出すんだこいつは、という表情をするアキト。
「・・・だめ?」
「だめ?と言われてもな・・・。」
だが、すぐにダメとも言えなくなっている自分に気づく。
(勝手なものだ・・・。)
自分に独り呟き、アキトはわざとぶっきらぼうに返す。
「・・・保留だ。」
「え?」
「その件は保留だ。
だが、ナデシコにはいい奴が多くいるからな。
ナデシコを潰させないってのも、目的としてはいいかもしれん。」
「アキトー!!」
ユリカが思い切り抱きついたとき、急にアキトは気づく。
「はっ!・・・頼むから・・・抱きつくな・・・。」
「あっ、ごめん!」
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「けど、どうするの?
ナデシコまで、空気持たないよ?」
「2人乗ってるからな。このまま流されても、とてももたんよ・・・。
・・・ん?」
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「覚えておけ、アキト。」
「・・・何を?」
「今から説明する。
宇宙では、漂流したとき、自分では思った方向に上手く動けない。」
「・・・うん。」
「そこで、近くに何か物があったとき、もしくは何かをつけていた時。
それを、行きたい方向と逆に押せ。もしくは投げろ。
反作用という力が働いて、行きたい方向に動けるようになる。
それは・・・」
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「それは、漂流時において、助かる為の最速理論の基礎か・・・。」
「・・・へ?
アキトが、壊れた・・・?」
「失礼な。」
アキトはエステのパーツを射出し、反動で加速させる。
「これで、助かりそうだな・・・。」
「やった!
やっぱりアキト、凄いね!」
「俺が凄いわけじゃない。
俺が教えられた数々の事があって、今の俺があるだけだ。」
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そして、アキト達は迎えに来ようとしていたエステに救助され、ナデシコに回収された。
しかし、剣撃フレームが無くなったので、ウリバタケに散々愚痴られたアキトだったが。
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「まあいいさ、耐艦用装備のデータは取ったし、ヒートロッドもまだあるからな。」
「ならグチるな・・・。」
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コスモスのモニタールームで、2人の人間が1人の様子を見ていた。
見られているのはアキト。火星からナデシコが飛ぶ際の、アキトの様子。
見ているのはアカツキと、後にナデシコ操舵手になるエリナキンジョウウォン。
「どうだい、彼は?」
「いいわね、彼。」
「プロス君の報告じゃ、地球でも1回したらしいよ?」
「無自覚でしょ?自覚できれば、我が社に有利になるわ。
ところで・・・。」
と、エリナは話を切り替える。と同時に、モニターも違う人間に移り変わる。
「あのプロトタイプG、調子はどうなの?」
「プロス君の報告じゃ、元が元だけに性格はアレだけど、上手くやってるみたいだよ。
この調子で行けば、いつかは・・・。」
「・・・どうでしょうね。アレは、まだ未完成よ。
それに、ばれるところにばれたら、ネルガルは終わりよ?」
「おお怖い、それは気をつけないと。」
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コメント
ふう・・・今回も終わりました。
最近精神的に弱くなってきたヴェルダンディーでした。
・・・これだけ?
管理人の感想
ヴェルダンディーさんからの投稿です。
う〜ん、TV版そのままかな?(苦笑)
ま、何故かアカツキがアキトの事を「若いの」と呼んだのが笑えましたがw
・・・初めはオリキャラで爺っぽい奴が登場するのかと、予想してたんですけどねぇ