第11話

地球に降りたナデシコ。地球に降りる間、残りの新メンバーを紹介した。

「というわけで、また乗らせてもらいます。」

黒い髪の、軍服を着た青年が一礼する。

「もう知っていると思うけど、アオイジュンです。」

ジュンが紹介すると、辺りは一瞬凍りつく。

それもつかの間、一気に『あ〜っ!!』という言葉が広がる。

「今までどこにいたの、ジュン君!」

「そぉいえば、忘れてたわねぇ。」

「存在感、無いから・・・。」

「うう・・・・・・。」

容赦無い口撃にいじけ、床にのの字を書き始めるジュン。

「ほっといて、次行くわよ。」

少しいらいらした女性が、その雰囲気を打ち切る。

「私はエリナ・キンジョウ・ウォン。ナデシコの副操舵手につきます。」

はっきりした声で、自らを示すように言う。

(ああ・・・何故、会長秘書が来るんでしょうか?)

プロスはそれを見て、一人悩んでいた。

「こら、副長。もう一人いるでしょ?」

エリナにせかされ、ジュンはハッと起き上がる。

「あ、そうだった。

 もう一人は・・・あれ?」

ジュンが辺りを見回すが、その対象人物はどこにもおらず。

「・・・・・・あれ?」

「さて、テンカワ君。」

シミュレーターで、アキトとアカツキは他愛ない世間話をしながら、激しいバトルを繰り広げていた。

「・・・なんだ?」

アキトは銃撃を岩場で受けさせつつ滑ってかわし、返答。その動きに、火星直後の不調はもはや見る影はなかった。

「君は、艦長、つまりユリカ君の事をどう思っているんだい?」

アカツキもアキトの牽制弾を、右に左に巧みにかわす。

「・・・別に。」

その声には僅かな躊躇いも引っかかりも無く。

「じゃあ、僕がユリカ君を貰ってもいいんだね?」

と、アキトの視界からアカツキ機が消滅。

(レーダーにはかからん・・・。

 となると、頼るべきは自らの感覚!)

アキトは雑念を吐き出すようにため息一つ。

全身を一つの意識に統率し、感覚の範囲を広げる。

異物は、すぐに引っかかる。

「取った・・・!」

アキトはナイフを引き抜き、手の中で半回転。

一歩踏み込み、ナイフを上にかざして飛び上がる。

グサッ・・・。ドゴッ!

空中で、アカツキが振り下ろした銃がアキト機の頭に直撃する一方、アキトが振り上げたナイフの刃がアカツキ機の顔面に突き刺さる。

そして、体勢を崩した両機は、地面に重なり合って落ちていく。

「・・・引き分け、か。」

「・・・で、質問の答えは?」

「・・・何か、聞いていたのか?」

「聞いていなかったのかい・・・。」

ぐっすんアカツキ。思いっきり肩を落としていた。

シミュレーターを終えたアキトが食堂に行くと、ちょっとした騒ぎになっていた。

『きゃ〜!!可愛い〜!!』

嬉しそうな悲鳴を上げるホウメイレンジャー。

何かやばげな雰囲気を見切ったアキトは、回れ右して撤退しようとする。

「・・・ん?」

「・・・・・・。」

しかし、何かがズボンを引っ張り、アキトは引き止められる。

アキトが視線を落とすと、年の瀬は小学低学年ほど、桃色の長いストレートヘアーに、金色の瞳の妨害者がいた。

顔は、確かに美少女の部類に入るだろう。そこまで騒ぐほどか?とアキトは思ったが。

「ねえ、その娘、可愛いよねえ!」

「どこから来たのかしら?」

「ルリちゃんより小さいわ。」

「もしかして、アキト君の子ども?」

外野から様々な声が飛んでくるが、アキトは最後だけは心の中で意図的に却下した。

んなわけあるか、と。

それらは置いといて、自分の腰ぐらいまでしかない子どもを無理に振り払う事も出来ず、アキトは仕方なく訊ねる。

「・・・何か用か?」

「おいおいテンカワ。子どもにそんな聞き方するもんじゃないよ。

 怯えるじゃないか。」

が、ホウメイの注意とは逆に、少女はアキトの脚にさらにしがみつく。

「あらま。」

「・・・俺に何を求める?」

アキトの呟きが届いたかどうかは知らないが、少女はアキトの脚を噛み出す。

勿論痛くはないが、よだれとつばで精神的にはしょんぼり。

「俺は覆面人形使いの牛ではないのだがな・・・。」

アキトがぼやくと、近くから声が飛ぶ。

「あんたのコックの服に、いいにおいがついてるからじゃないのかい?

 さっきその娘、おなか鳴らしてたからちょっと作ってあげたんだけど。」

「それを早く言ってくれ・・・。」

ぼやきながら、アキトは厨房に向かう。何故かアキトの後をついてくる少女を振り払うのを忘れずに。

「ええい、飯作ってやるから、じっと待っておれい。」

「というわけで、ナデシコの最初の任務は、島に取り残された親善大使を救助する事なんだ。」

「親善大使?」

ジュンが作戦を説明する時に、目的の場所の地域図および近くのチューリップの位置が表示される。

その島は、多くのチューリップに囲まれた、危険な場所だった。

「何故、親善大使はそんな場所に?」

「う・・・・・・。」

あらかじめ事情を聞いていたジュンは、ゴートのツッコミに、クリティカルなダメージの表情で呻く。

「・・・何か、裏がありますな。」

「教えて、ジュン君!」

昔からの友達の懇願に、ジュンは陥落する。

「実は、親善大使じゃなくて、実験機材を積んだ白熊らしいんだ。」

「熊ァ!?」

ヒーローショーで主役を呼ぶ子供のように一斉に叫ぶブリッジクルー。

視線を受けたジュンは、塩をかけられたナメクジのようにしぼむ。

「まあ、やりましょう。

 ナデシコは、これから熊さんの救出を開始します!」

ユリカの号令で、とにもかくにもナデシコは動き出した。

「・・・とまあ、こんな訳で、かくかくしかじかで、熊の救出に成功したナデシコでした。」

「ルリちゃん?今日の航海日誌それだけ?

 アキトが頑張って熊さん助けたとか、あったじゃない!」

「特に特筆すべき事もありませんでしたから・・・。

 あ、どうしてもというのなら。」

「ア〜キト!」

「おう、ユリカか・・・。」

仕事後、ユリカはアキトのいる食堂に駆け込むのが日課になっていた。

ちなみに、ユリカが仕事はちゃんと終わらせるのを聞いて、「ゆ、ユリカが壊れた!?」と叫ぶのは別の話。

「今日もいつものラーメンセット!!」

「毎度あり・・・。」

最近はいつもこの会話から始まる二人。

アキトが嫌がらなくなった様子から、漂流中に絶対何かあった、ともっぱら噂の二人である。

もっとも、ウリバタケ主催の裏賭博では、アキトが誰とくっつくかで相変わらずビリを走っている。

しょっちゅうユリカが抱きつくと、アキトが痙攣するのを見ているためである。

「あれ、アキト・・・?」

しかし、今日は様子が違った。

アキトの脚にしがみつく桃色の髪の少女に、ユリカは目が留まる。

「アキト、その子は誰?」

「プロスさん曰く、マシンチャイルドらしいんだが・・・ええい、引っ張るな。」

「♪〜」

御機嫌な様子でアキトを掴む少女。

懐くというよりは、餌付けされた小動物の様子であったが。

「その子・・・もしかして・・・。」

「・・・俺の子供じゃないからな。」

「あ、そっか・・・。」

心から安心する表情を見せるユリカ。

大体似ていないのに何故そういう考えに行き着く、とアキトはぶつくさ言う。

「ねえ、名前何て言うの?」

ユリカが屈みこんで、少女に尋ねる。

と、少女はビクッと猫のように毛を少し逆立て、アキトを壁にする。

「う・・・・・・。」

「ほら。こいつはやかましいし賑やかだが、悪い奴ではないからな。

 近づいても取って食われる訳じゃないから、安心しろ。」

アキトがせかすと、少女はおずおずと前に出る。

ユリカはその子犬的様子を見て、キャーと叫んで抱きしめる。

「可愛いな〜。

 私とアキトの子供も、こんなに可愛かったらいいのに・・・。」

これに反論したのは、話の対象たるアキト。

「ちょっと待てユリカ。そのセリフは、普通子供のいる奴が言うもんだ。」

それにその言葉はユリカの子供には失礼になるぞ、と喋ったところで、ユリカが爆弾を吐いた。

「じゃあ、この子は私の子供にする!」

『ええええええええっ!?』

辺りが騒音大合唱の中、ルリは一人トコトコとカウンターのアキトに近づき、ラーメンを注文する。

「・・・艦長に捕まったら大変ですね、ラピス。」

「・・・ホシノ、あの子供を知っているのか?」

「艦長の見ていた書類で見ただけですが。

 仮の名前はラピスラズリで、私の名が宝石なのにちなんで名づけられたそうです。」

「安易だな・・・。」

「私もそう思います。」

ラーメン一丁と、アキトが出した入れ物をルリは受け取る。

「そんな安易な名前じゃダメ!

 貴方の名前はこれからサクラね!」

「・・・うん。」

「私の事は、お母さんって呼んで?」

「そんな無茶な・・・。」

「・・・オカーサン?」

「キャ〜!!」

「・・・ラピスも、艦長に懐いたみたいですね。」

「信じられんな・・・。

 いや、子供には俺達とは別の面が見えるのかもしれんな。」

「それは、子供を見下してますか?」

「いや、俺がひねくれてるだけさ。」

「この人は、プロスさん。」

「・・・プロスサン。」

「よろしくお願いします。」

「この人はミナトさん。」

「・・・ミナトサン。」

「よろしくね、サクラちゃん!」

たどたどしい言葉ながら挨拶するサクラに、みんなは頬を緩ませる。

ユリカはサクラをかつぎ上げ、カウンターの方を指差す。

「それで・・・あそこのコックさんが、お父さん!!」

ガツンッ!!

「勝手なあっ!!」

「お父さん、痛そう・・・。」

「頭ぶつけて、痛そうだね・・・。」

「何故そこだけ言葉はっきりかあっ!?」

「・・・お父さん、怒ってる?」

「サクラが可愛いから、興奮してるだけだよ。」

二人の世界を作り出しているユリカ達。

「何を言うても無駄か・・・。」

「・・・よしよし。」

そして、伏せるアキトの頭を撫でるルリがそこにいた。

「よおし!お母さん、サクラに何でも教えてあげるからね!

 解らない事があったら、何でも聞いてね!」

「・・ウン。」

そして、1週間後。

食堂を、よく似合う桃色の服の魔法少女ルックで、手には黄金のハンマーを持った少女がスキップしていた。

「るんらら〜♪」

「・・・おい、ユリカ。」

「・・・ふにゃ?」

アキトは頭を抱えつつ、チャーハンを食べるユリカにたずねる。

「・・・どういう教えかたしたら、あんなぽんこつになるんだ?」

「それ、ミナトさんにも聞かれたけど・・・なんでかなあ?」

本気で首を傾げるユリカの後ろで、何も無いのに転んでいるサクラ。

「わ、わわ〜、ころんじゃったよ〜!

 いたいよ〜!」

「わあ!サクラ、大丈夫?」

「・・・バカばっか、です。」


作者代理のコメント

作者は三度旅に出ました。探さないで下さい。

銀糸に願いをかけないで下さい(かける人はいないと思いますが)。

まじかる☆ひよりんにもまじかる☆雪希にも、ましてやまじかる☆シンドリッタにも依頼しないで下さい。

上記の事は全て冗談です。

実は私、以前自分がMSと言いましたが、それは何かと聞かれたら?

『ジム2』です。それはなぜかと聞かれたら?

前から成長が見られない。

・・・お後がよろしいようで。

あ、それから、こんなくだらない事ばっかり言う作者を還さないで下さい。

 

 

管理人の感想

ヴェルダンディーさんからの投稿です。

 

 

 

・・・ユリカに子育ては無理かもしれないですね、ラピスの成長具合を見てみると(苦笑)

ついでにハーリーも育ててみれば、面白いかも?