ての約束と、いかの再会へ

プロローグ

広大なる荒地が広がる火星の大地に、数多くの物言わぬ屍が転がっていた。

彼らは全て、口や鼻、さらには全身を真っ赤な液体で染めていた。

赤いものは例外なく、それ自らから出てきた血液。

その死体達が幾つも幾つも、地獄絵図さながら、阿鼻叫喚の様相を見せて転がっていた。

いや、只一人例外がいた。

その周囲の中に僅かに立つ、研究所らしき大型の建物の中に、一人息も絶え絶えに壁にへたり込む、青年。

「く・・・そ・・・。」

青年は壁に手をついて立ち上がろうとするものの、震える腕には力が入らず、勢いよく地面に倒れこむ。

その衝撃で顔と胸を打ち、黒いバイザーが外れた瞳は殆ど何も映さず、激しく咳き込んだ口から大量の血が壊れた蛇口のように流れ出す。

「俺は・・・死なない・・・!」

既に何度か吐いた血は周囲に池を作り出し、マントは赤に変色、量はどう見ても致死量。

咳き込むたびに、さらに増えていく血の量。

「死ぬわけには・・・いかないんだ・・・!」

それでも起き上がる意思が、気力が、彼の腕を天に引き上げる。

腕にも脚にも顔の筋肉一つすら、動かす力は無いのに――――

「あいつとの・・・約束なんだ・・・!」

だがそんな誓いも世界の中では本当に小さくて、核の炎と称される爆発的なエネルギーが火星のそこ一帯を纏めて掃除してしまう。

只一人たりとも、そこで生きる事を許さないとばかりに。

そして、火星に残された人間は一人残らず消え去った。

突然この星を襲ってきた、謎の異星人たち。

何も解らず、平和をいきなり切り裂かれ、次々と人々が黄色い機械の物体に撃たれる中、

僕たちのような生き残った人たちはシェルターに逃げ込んだ。

でも、そこも長くは持たなかった。

しばらくした後、僕たちの命を狙おうとする黄色い機械がシェルターの扉を壊し、1匹、また1匹と入り込んで機銃で蹂躙していく。

立ち込めた血のにおいに、思わず吐き気を催す。

(う・・・・・・。)

吐きそうなのに、幸いにして自分はまだ生きているけれど、次は僕も撃たれてしまうんだろうと思ってしまう自分がいる。

ほら、そこにはか弱そうな女の子がみかんを持って立っているのに。

わざわざ前の黄色い奴は、赤い瞳をこっちにギロリと向けてくるじゃないか――――

だけど、そんな心配は要らなかった。

その時、いきなり辺り一面光の洪水に流されて、黄色い機械も寝転んだ人たちも、目の前から消えていき。

まるで自分があまりにも広大なる海へ溶けていくような気がしながら、

――――僕は意識を失った。

雄大な火星をバックに二隻の船がチェイスを繰り返していた・・・

 追う者には譲れぬ想いと、忘れられえぬ思慕が・・・

 追われる者にも譲れぬ決意と、何者にも許しえぬ己の罪の意識を抱き・・

 今日もまた、お互いの想いを抱えすれ違うばかりなのだろうか。

 

 

「アキトさん!! ・・・もう直ぐユリカさんが退院されるのですよ!!

 せめて、せめて顔を出すくらい―――いいじゃないですか!!」

 

 ルリちゃんの必死な声が俺の耳に聞こえる・・・

 いや聞いた様に認識しただけだ、俺の五感が損傷著しいのは仕方が無い。

 ただ、何時までもラピスをこんな俺の呪縛に付き合わせるつもりは無いのだがな・・・

 

 ・・・未練、だな。

 

「・・・ラピス、ジャンプの準備を頼む。」

 

「・・・うん、解ったアキト。」

 

 俺の顔を暫く見た後、ラピスはダッシュにジャンプフィールドの生成を命じた。

 

「アキトさん!!」

 

「・・・俺とユリカの道が交わる事はもうありえ無い。

 そうルリ、君と同じ道を歩む事も無い。

 もし、全てが・・・

 よそう、それは言っても仕方が無い事だ。」

 

『ジャンプフィールド生成完了しました!!』

 

「アキト、ジャンプフィールドが生成終了したよ。」

 

「ああ、解った・・・何処に、行こうか。」

 

 一度、遥か遠くに行って見ようか?

 まだ誰も踏み出した事の無い領域に・・・俺には似合わないなそんな考えは。

 

 自分の突拍子の無い考えに自嘲する。

 

「よし、ジャンプ先は・・・」

 

「させません!! アキトさん!!」

 

 

ドガッッッンンン!!!!!

 

 

 突然の衝撃が、俺達の乗るユーチャリスを襲う!!

 

「くっ!! 何が起こったんだ!!」

 

『アンカーを打ち込まれたんだよ、アキト!!』

 

 強襲用のビームアンカーを打ち込んだのか!!

 このまま、ユーチャリスに乗り込んでくるつもりか、ルリちゃん?

 

 しかし、事態は俺やルリちゃんの予想を、遥かに越えた事になる。

 

「アキト!! ジャンプフィールドが暴走してる!!」

 

 ラピスが動揺をしながら、俺に報告をする。

 

 ・・・暴走、だと?

 冗談では無い、これでは本当に未知の世界に跳んでしまう!!

 

「くっ!! ジャンプフィールド緊急解除!!

 俺がブラックサレナでアンカーを絶つ!!」

 

『駄目だアキト!! フィールドの制御装置にアンカーが直撃してる!!』

 

 俺の提案はダッシュによって否定された。

 何処までも運が無いな・・・俺も!!

 

「何!! このまま、暴走するしかないのか!!」

 

「アキト・・・ナデシコが。」

 

 しまった、ナデシコとユーチャリスは繋がったままだ!!

 

「間に合うのか・・・!!

 ルリちゃん、早く逃げるかアンカーを切り離せ!!

 このままだとナデシコCも、ユーチャリスのランダムジャンプに巻き込まれるぞ!!」

 

 余りにもナデシコCとユーチャリスの距離が近過ぎる!!

 

「し、しかし、アキトさんが!!」

 

 コミュニケの画面のルリちゃんが、珍しく慌てている。

 こんな時に何だが・・・懐かしい表情だな。

 

「俺達は何とでもなる!!

 ナデシコCの乗員全員が、ジャンパーの措置を受けているのか?

 このままジャンプに巻き込まれたら、措置を受けていない者が全員死ぬぞ!!」

 

「!!!!

 ハーリー君!! 急いでアンカーを切り離して!! 

 ディストーション・フィールド緊急展開!!」

 

「はい!! 艦長!!」

 

『駄目だ!! ジャンプを開始したよ、アキト!!』

 

「くっ、フィールドは間に合わんか!! 済まんルリちゃん!! ナデシコのクルー!!」

 

 その言葉を最後に、俺の視界は虹色の光彩に包まれた・・・

無が、そこに存在する。

原初の軸。

時間とともに世界は動き出す。

対なすものを求める、刹那の存在。

やがて、ふたつはひとつになり、

世界に広がりが生まれた。

非減数的に分裂し、個は全体に。

全体は個に。有限にして無限に。

無限を超えた者は、まだいない。

その断面を見た者はいない。

まだこの世に現われていない。

それは、果たして……誰か。

――――そして、広い草原で目覚めた。


コメント

こりもせずまた長編を書いています。

どうやら学習能力が足りないようです、この作者は。

あ、時ナデのプロローグコピーしてますが、時ナデの展開になるわけではありません。

・・・だって、西欧編書く能力ないし(ヲイ