第七話
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ずっと、昔の事だったろうか。僕は、閉じ込められていた。
世界のどこに位置するかも解らない建物の、あまりにも多すぎる部屋の中の一室に。
招待される前は身寄りの無い子供達を保護するという建前を聞いていたが、実際は一人ずつ隔離され、満足な他人との交流さえ許されない。
最早日付の感覚すら失っている今では、2,3畳しか無い部屋が、僕の世界の全てであり、僕の自由にして束縛された空間だった。
一面白に塗られた、分厚いコンクリートの壁。
所々に蜘蛛の巣状に張られた、薄いすり鉢状のような凹みにあるひび割れ。
そこに付着した紅い塗料は、拳で何度も殴った後の出血。
部屋の中は物的にも寒々しく、薄い毛布と跳ねないベッド、そしてプラスチックの小さな椅子の残骸、天井には監視カメラ1台のみ。
窓は唯一、扉と対面の壁、高さ3mの位置に、20cm四方のが一つだけ。
部屋の道具を使っても届きはしないし、よしんば届いたとしても、マグナム銃にも耐える強化ガラスと、十字に何本も組まれた鉄格子が塞ぐ。
四捨五入して0歳になる頃から閉じ込められて、やる事といえば人体実験の繰り返し。
幼き心にも、苦しいという記憶しかない。
勿論、こんなところから出る為の努力などとうにやり尽くした。
ただ一つあった椅子を、型がつくほど脚を握り締め、壁や扉、窓に何度もぶつけた。
脚がへし折れたら別の脚を持ち、粉々に砕け散れば自らの手、足、時には体をぶつける。
拳を壁に突き立て、脚で扉を蹴飛ばし、無理をして担いだベッドを窓枠に叩きつける。
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だけど、それも無駄な努力と知ると、実験の時に呼び出される時間以外は眠りを選択するようになった。
意識がある時は悪夢だったから、意識を失って悪夢から逃げたかった。
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「助けて・・・」
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隣から、か細い女の子の声が聞こえる。それは、期待を僅かにはらんでいる声。
必ず助ける、此処から一緒に出ようと誓った相手。
けど、今はその声を聞くだけで、悲しかった。悔しかった。辛かった。絶望した。
僕は、徹底的に完璧に完全に究極に窮極に、無力だった。
約束一つ、守れなかった。誓いの一つも、果たせなかった。
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「オマエハ無力ダ・・・!」
うるさい・・・!
「オマエノセイダ・・・!」
黙れ・・・!黙れよっ・・・!
「オマエハ、所詮誰モマモレヤシナイノダ・・・!!」
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「貴様ぁぁぁぁぁっ!!
・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。」
気がついたときには、僕はいつも睡眠をしているベッドの上にいた。
毛布を親の仇とばかりにきつく握り締め、額から冷や汗が滝のように流れているのに気づく。
蚊が飛ぶ軌道のようにランダムに視線をさまよわせ、ホッと一息ついてから、思案に入る。
幸い同室の人は交代で出ているから、迷惑をかけることは無かったけれど。
「あれは・・・何だ・・・?」
何か、端的に言うと、嫌な夢だった・・・と思う。
思い出したくないことを、無理矢理見せられたような・・・そんな夢。
まるで、ボクの中に別の僕がいて、それが暴れたように疲労がたまっている。
血液が血管の中をのた打ち回るように流れ、心臓の鼓動はピンボールのように跳ね続ける。
寒気のする体を両腕で抱えながら、一歩一歩落ち着いて冷蔵庫へ向かい、飲み物を飲む。
そうすると、体はようやく静寂を取り戻してくれた。
「ハ――――ッ、ハァ――――ッ・・・!」
そうして思考が戻ってきて、ポケットの中の時計を見る。
勤務の交代の時間まで、あと三十分。
取り敢えずは夢の事を忘れ、僕は制服に着替え始めた。
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地球に戻ったナデシコは、地球脱出時にクーデター未遂を起こして逃走したきりだったムネタケを提督に迎え、軍に協力して地球各地を転戦する事になったらしい。
ムネタケが戻ってきて、ナデシコの雰囲気が微妙に変わります。
キャーキャー言うから、やっぱりみんな嫌がるのかなあ。
僕としては、『昔』に友人のガイを撃ったけど、今は撃ってないから、複雑な気分です。
ま、結局根本は違う人だけど。
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ところでテンカワさんとは、あれ以来変わりありません。
いつもの様に、距離を少しとるだけ。
代わりに、サラの様子がおかしい。僕を見ると、何かにつけて避けるようになった。
やっぱり、前の展望室の事が、引っかかってるのかな・・・。
謝りたいけど・・・。
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と思ったらある日、僕の勤務時間のときに、ハルカミナトさんが僕を訪ねてきた。
食堂には結構来るのを見かけるけど、こうして話をするのは初めての感じがする。
「少年君、サラちゃんに何かしたの?」
「何か、とは?」
僕は、首を傾げた。
ただでさえ避けられているのに、人前で泣かせるようなマネは出来るはずが無かったからだ。
それ以上に、彼女が泣いているというのを聞くだけで、胸が締め付けられて苦しい僕がいる。
だから、思わず聞いていた。
「どうか、したんですか?」
「サラちゃん、さっきバーチャルルームで一人泣いてたのを見つけたから、聞いてみたのよ。
それで落ち着かせて、話を続けていったら、貴方に関係する事しか言わないから。
だから、少年君に関係あることなんだろうな、って思って。
あ、サラダとお味噌汁、ちょうだい。」
「あ、はい。」
僕の事・・・ねえ?心当たりが無いけど、一応僕の悩みも相談してみる事にした。展望室で、あった事を。
艦内で一番精神年齢が上と噂のミナトさんなら、いい答えを返してくれると思って。
勿論、未来に関係しそうな事は抜いたが。
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「解ったわ、少年君。
取り敢えず、サラちゃんと話をして来なさい。誤解を、自分で解いてくるの。」
「・・・今からですか?」
突然の事に戸惑いつつも答えると、
「行ってきな、少年。」
何と、いつの間にか後ろにいたホウメイさんまで同調した。
この調子だと、話を始めた頃からいたんだろうなあ・・・。
「客を一人、取り戻しておいで。」
「・・・解りました。行ってきます。」
ま、いい機会だから、今のうちに謝りに行こう。
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事前にコミュニケに通信してみたが、着信拒否で弾かれた。だから、アポ無しで部屋に入る事にしてみる。
程なく、サラの部屋にたどり着いた。
「サラ・・・入っていいかい?」
それなりに大声で呼びかけてみるものの、返事はない。
扉の前に近づいてノックをしようとしたら、独りでに開いてしまった。
「不用心だなあ・・・」
思わず呟きつつ、部屋に入ってみる事にした。
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部屋の中は照明が消えていて真っ暗だが、そんなに暗くないように感じる。
むしろ、明かりのついている時と変わらないように思った。
整理整頓されているようで、足元で気をつけなければならないのは足音を立てないことだけ。
・・・泥棒みたいだ、と自嘲してみる。
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「ん・・・」
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突然聞こえた声に、げ、と軽く僕の口から小さな悲鳴が飛び出し、慌てて口を押さえる。
それから恐る恐る、音の発生源を覗き込んだ。
ベッドのような物の上で、サラが手にプレート上の何かを持ったまま、ぐっすりと眠りこけていた。
制服姿だったから、元は眠るつもりは無かったのだろうが、ふとしたうちに、と言ったところか。
(ふう・・・後でまた、来よう。)
そのまま反転し、引き下がろうとして、
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「お兄ちゃん・・・」
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(――――!!)
ビックリした。ただそれだけ。
だけど、それで十分気配が現れてしまったみたいで、サラはのそのそと起き上がり、まだ開ききらない瞳で見つめてきた。
「う〜ん・・・あ、少年?」
「あ・・・えっと・・・おはよう。起こしちゃったね。」
「・・・うん、いつの間にか寝てたみたい。」
いつの間にか、という事は、その前には何かをしていたという事になる。
昼前時からこんな暗い場所で、何をしていたんだろうか?
「ねえサラ?寝起きに悪いんだけど・・・。
こんな暗い部屋で、何してたの?」
そう問うと、彼女は僅かに逡巡する表情を見せるが、すぐにそれは掻き消える。
「・・・ま、いいかな。」
「???」
「このプレートを見てたの。」
「えっと・・・この板?」
サラが指差すのにつられてじいっと除いてみるが、鏡のような表面が僕とサラの顔を投影するだけ。
「まだだよ。ちょっと、そこのライター取ってくれる?」
何でライターを持ってるのかと思いながらも、言われるままベッド脇に落ちているライターを拾い、渡す。
彼女はそれを光が表面と平行に走るように持ち、炎で表面を照らす。
そこには――――
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「あれ?」
僕のとぼけた声に、サラは当たり前だという顔を見せる。
だけど、僕の思わずこぼした次の言葉で、それは緊張に変わる。
「・・・男の人?」
「し・・・少年?もしかして・・・見えてるの?これも?」
「これも、って?」
「・・・・・・」
答えず、彼女は唇を固く閉じるのみ。仕方なく、僕は再び人影に目を移す。
プレートの表面から空中に投影されているのは、青年男性の全身像。
暗闇ゆえに全身が黒く見えるのかと思いきや、ただ全身に着込んでいる服が黒いだけ。
ぼさぼさ黒髪の日本人顔に、上下の黒い服、体型は普通。
この映像の中では、子供のようにはにかむような笑顔を見せていた。
「ねえ・・・この人、誰?」
「・・・・・・。」
「もしかして、サラの恋人とか?」
「・・・パパ。」
「え?」
「・・・パパなの。」
そう言うサラの表情は、とても寂しそうだった。ウサギだったら、死んでるんじゃないだろうかというぐらいの寂しさ。
「サラの・・・お父さん?」
「私のパパとママ、ずっと昔に死んだの。」
「あ・・・ごめん。」
「いいよ。これは、私が物心ついたときから、持ってた。
幼心に、これがパパの映像だって、教えられたのを覚えてるの。」
この顔、何処か、つい最近見たような気がする・・・。
「このホログラムを見ることが出来たの、君で二人目なんだ。」
「へえ・・・。」
何でだろう?こんなの、すぐに見ることが出来ると思うけど。
「・・・どうして?って顔してるね。」
「え?・・・あ、うん。」
思考が思わず顔に出ていたらしい。表情が出易過ぎるのも考え物だと悩む僕に、サラは平坦な口調で話す。
他に浮かび上がる感情を、抑えるように。
「・・・解らない。
ただ言えることは、このプレートに太陽の光や、ライターで鏡の表面を照らすと、この人の姿が浮かび上がる事。
そして、それを見ることが出来るのは、今まで私だけだった・・・」
「???」
語り口調のサラが何を言わんとしているのか、僕には理解できない。
ただ、今口を挟むべきではないと、僕の奥の『ボク』が囁いていた。
そして、
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「お兄ちゃん・・・」
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「――――――――」
いつもの強気な性格からは想像も出来ない、サラの口からこぼれ出す囁き声に、僕の意識は刹那の間、完膚なきまでに吹っ飛んだ。
ええと・・・つまり・・・僕に向かって兄って言っているから・・・僕がサラの兄な訳で・・・。
そうすると・・・サラは僕の妹になるわけだから・・・テンカワアキトとサラは・・・兄妹・・・!?
「そんな・・・まさか・・・」
ありえないとは言い切れない。が、ありえるとも言い切れない。
実際問題として記憶のない僕には、事実だと認識できないから。
辺りの空気が、深く暗く沈みこむのが感じられる。
何か言おうとするが、カラカラに乾ききった口からは蚊の鳴くような音しか出なかった。
リアルには一分ほどしか経っていないだろうが、何時間にも感じられるように過ぎた頃。
彼女は張り詰めた雰囲気を吹き飛ばすかの如く、ふうと一息ついた。
「・・・冗談!冗談だよ!
やだなあ、本気にしちゃって!」
――――それは、本当は冗談じゃないんじゃないかってくらい、悲しい笑顔。
「確かに、いきなりこんな美少女が貴方の妹です、って言われたらビックリすると思うけど?」
サラの顔は作り物の笑顔で、その瞳の奥は泣いているように見えた。
「・・・・・・」
「ほら、そんな変な顔のまま固まらない!」
だから、いつもの強気な性格は、寂しさを振り払う為の幻想なのかもと、不意に感じてしまう。
しかしその感情は、続けて話すサラの言葉で、幸か不幸か一瞬にして霧散した。
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「・・・で、どうして少年、私の部屋にいるの?」
「え?えっと・・・
前の展望室の時から、サラが僕を避けるから、何か悪い事したと思って、謝りに・・・」
「なあんだ、そんな事?あれなら、もういいよ。もう、ほとんど解決したから。
――――で、どうしてこの部屋に入ってるのかな?」
やばい。
顔は天使の笑顔だけど、目が悪魔の魔眼のように見える・・・ッ!
気のせいか、後ろが黒く揺らいでいる・・・ッ!
「言い残した事は、無いかな?」
「・・・戸締りは・・・しといたほうがいいよ?」
「すぅぅぅぅぅ・・・」
あ、やばい。もう、死ぬかも。
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「こらぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ごめぇぇぇぇぇぇんっ!!」
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・・・ま、その後は元気を取り戻したみたいだから、いいか。
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地球にて、ナデシコが蜥蜴相手に暴れまわっている頃のこと。
ある日テンカワアキトは、自室にこもっていた。
一人でというわけではなく、ホシノルリとの会話の為。
「ここまでは、細かいイレギュラーはありましたけど、昔のままですね。」
「そうだね。」
「ハーリー君からの報告では、サレナの開発状況は順調との事です。
横須賀につく頃に、完成して届けてくれるそうですよ。」
「まさに順調だね。」
「・・・アキトさん?」
聞いているのかいないのか解らない口調で返すアキトに、ルリが怪訝な顔で訊ねる。
「ちゃんと話は聞いてるよ。何か、聞きたいことがあるんだろ?」
「・・・そうです。
あの昔のテンカワさん、アキトさんの言う事を断ったんですか。」
「うん。
やっぱり、すぐにはあんな話、受け止められないだろうし。」
下唇を噛むルリとは対称的に、アキトは余裕の表情を崩さない。初めから、この状況を予想していたかのように。
それを見て、ルリがかすかに憤りをぶつける。
「解ってるんですか、アキトさん!
私達は、未来を変えなきゃいけないんです!いい未来に!
私達のアキトさんが幸せにならなければいけないのは当然ですが、この時代のテンカワさんが幸せにならなかったら、不幸の繰り返しです!
そうならない為に、私達はいるんですから!」
拳を握って力説する様とは対称的に、アキトは冷めた姿で思考していた。
(果たして、そうだろうか・・・。ルリちゃんの言いたい事も解らないわけじゃないが・・・。
そもそも、ルリちゃんが助けたいのは未来の為か?それとも・・・テンカワアキトのため?)
そこまで考えて、アキトは心の中で頭を振る。
(どちらにせよ、俺にはどうでもいい事だ・・・。この戦いが終われば、俺は地獄に落ちるだろう・・・。
だが、俺はやるんだ。
例え救えるはずの多くの命を見捨ててでさえ、あいつを助けるためなら、戸惑いはしない・・・!)
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そこは研究所と呼ばれる場所。建物は山中の奥深くにあり、一般人は辿り着けない場所にあった。
加えて周りは円形の高い塀に囲まれており、二つしかない入り口には私設の警備兵が油断無く構えている。
所内は程よく広く小奇麗で、たった数人の「人間」と多くの人の形をした者達がせわしなく働いていた。
その建物の所長室らしき部屋で、所長たる一人の女性が電話をかけていた。
女性は明るい黄色のショートヘアーをし、若々しい素顔は所内最年長の素振りを全く見せない。
「・・・はい、倉成です。」
「・・・あ、倉成?ちょっと、頼まれてくれる?」
「何だよ、優?」
電話口から返る声は、若く男らしい声。何処と無くだるそうに聞こえるのは、今が早朝という時間帯だからだろうか。
「まさか、10年前みたいに、何処何処の会社のスパイが邪魔だから、ちょっと焼きいれてこいとかいわねえだろうな?」
「・・・惜しい!」
「惜しい、じゃねえ!
ったく、平凡な一般市民を電話1本で駆り出しやがって。」
「あんたの何処が平凡な一般市民よ?その辺り、小一時間ほど問い詰めたいんだけど?」
おい、という声が受話器の向こうから掠れがちにするが、女性は無視。
程なく、呆れ混じりのため息の後に倉成と呼ばれた男の声が続く。
「・・・で、何すればいいんだ?」
よくぞ聞いてくれました、とばかりに優と呼ばれた女性は上機嫌で返答した。
「実は、とある研究所に、少年少女が閉じ込められてるのよ。その子達を助けるの。
もう一つは、今私の研究所で頼まれて造ってるロボットを、その子達と一緒にヨコスカの軍基地に届けて欲しいの。」
「はあ・・・仕方ねえなあ・・・。」
「あれ?やけに聞き分けいいわね。」
「いつも聞き分け悪いのは、そっちだろ・・・。
――――で、何が目的なんだ?」
「・・・やっぱり、ばれた?」
「当たり前だ、何年付き合いあると思ってる。」
「・・・実はね、アレをまた呼び出すの。ちょっと、頼まれてね。
倉成達と、同じ境遇の人がいて、ワケありでね。」
「・・・あれって、なんとかヴ――――」
「ストーップ!」
優はいきなり血相を変えて受話器に叫ぶと、突然キョロキョロ部屋中を見回す。
だがそれが意味のない行為だと気づいたか、はあとため息ついて受話器を持ち替える。
「だめよ、倉成!名前を言っちゃ、気づかれるじゃない!」
「わ、悪い・・・。そうか・・・アレを呼ぶのか・・・。
俺にはよく解らんが、まあ頑張れ。」
「そっちもね。」
「・・・なあ、優。」
「何?」
「・・・俺達、今回は犯罪者だな。」
「・・・そうね。
やろうと思えば出来るのに、たった数人の為にたくさんの人を巻き込むんだから。」
「・・・地獄へ落ちるときは、俺も付き合うぜ。」
そう真面目に言う相手の言葉に、優は微笑みを隠さない。後ろから「私もついていくわよ」という台詞が聞こえてくるのについては、あえて無視。
「・・・じゃあね、倉成。」
「・・・ああ。」
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ガチャンと電話を切り、再びため息。
「・・・本当に、ばれてないかな・・・。
ココがいたら、何処にいるか解るんだけど・・・」
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「やけに、気を配るんですね?その何かに対して。」
その時、台詞とともに一人の青年が部屋に入る。
ノックは不要。彼に関しては、昼時には不要だと告げられているから。
手には湯呑みとラーメンの入ったどんぶりを置いた盆を持って。
「当然よ。アレが現れなきゃ、私達・・・じゃなかった、あの子の計画が全て崩れるもの。」
「俺にはよく解らないけど・・・頑張ってください。」
いたわるように青年が呟きながら、ラーメンと湯呑みを女性の前の机に置いていく。
彼女は箸を割りながら、彼の言葉にツッコミを入れた。
「こらこら、アンタも頑張るのよ、ハリ。」
「・・・やっぱり?」
「やっぱり。
あんたと私と、あの子は一蓮托生なんだから。」
そこには、かの火星の後継者事件から体格がゆうに5年は成長した、長身細身のマキビハリの姿があった。
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ボクは、余りにも多くの人を殺しすぎた。
ボクは、過剰なほどの数の世界を見捨てた。
ボクは、膨大な数の時間を止め、或いは消した。
ボクに出来る事は、じっと見る事と見ない事。
ボクは直接には、何も触れる事も出来ない。時を感じる事も無い。
だけど、少なくとも、どうにかしたいと言う想いだけは、持っていたいから。
この世界で言うずっと昔に教えられた、感情と言う物で。
何とかしたいと言う意思が今のボクにはあるから。
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だから、ボクは――――
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最近自分が下らなく、つまらなく、矮小な存在に思える今日この頃。
マグロは暫く出てこない方向になりました。期待していた人、すみません(謝
青葉さんや鷹乃やつぐみんとかに毒舌で叩かれても仕方ないほどにつまらない人間です。
書きたい事を書き続けているうちに、引きが消えてしまいました。
そんな人間でもActionに投稿させて貰っている恩は、忘れてはいません。
もうすぐデモンベインとモノクロームです。楽しみです。
管理人さん、いつも批評をくれる代理人さん、毎度ありがとうございます。
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・・・まだ、止める気はありませんが。
命か意識かやる気か感覚が続く限り、妄想を形成していきたいと思います。
こんな妄想にとらわれた病人でも、したいことがあるのですから。
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アキトにブラックサレナはやりません。やってたまるか、と言ってみます。
代理人の感想
私に理解できる形でではありませんが、ヴェルダンディさんの世界が出来つつあるように感じます。
なんというのかな、独特の味というものが出来上がってきたと言うか。
後は文章とストーリーテリング自体のレベルアップですな(笑)。
頑張ってください。