事の起こりは単純であった。
優人・優華部隊の旗艦シャクヤクに届けられた補給物資の中に
1つの小包が含まれていた事がその発端である。
「舞歌様。お呼びでしょうか」
そう言って優人・優華部隊指令、東 舞歌の元に出頭したのは紫苑 零夜であった。
巷(シャクヤク艦内)では「百合」ではないかと噂される彼女であるが
実際のところその気はまったく無い。
ただ彼女の幼馴染である「真紅の羅刹」こと北斗に対する献身はやや異常ではあるが。
第一、もし噂通りなら優華部隊の他の面々が引いているだろう。
(このことはナデシコにおけるイツキ カザマと相通ずるものが見られるが
あちらは他の女性クルーに警戒心を持たれているのが違いであろう)
「今日届けられた補給物資の中に、北斗殿宛ての小包があったの。
貴女、何か聞いている?」
出頭した零夜に対し、舞歌は余計な前置きを一切せず単刀直入に切り込む。
和平がなったとはいえ、地球と木連の間にある、
張り詰めた緊張自体が完全に消えてしまったわけではない。
現在では木連の指導者的立場となってしまった舞歌にそれほど余裕は無いのだ。
現に今も入ってきた零夜の方をちらりと一瞥したのみで
すぐに手元にある書類へと視線を戻している。
「いえ、何も」
零夜のほうも現在の状況は良く把握している。
出来れば小包について聞きたいところなのだが
簡潔に舞歌の質問に応えるのみだ。
「そう。じぁあ悪いけど、貴女の方で北斗殿のところまで配達してくれる?」
本来なら中身を検閲したのち届先に配達されるのだろうが、届け先が北斗である。
そういった心配もする必要は無かった。
結局のところ舞歌が零夜を呼び出したのは、誰も北斗の所へ小包を
配達したがらなかったためであり、中身云々は確認程度に過ぎないのであった。
「了解しました」
零夜もそのあたりの事情――「真紅の羅刹」は味方にすら恐れられている――を
十二分に理解している。快諾すると小包を受け取るために
舞歌の元から立ち去っていった。
「はぁ、疲れた」
北斗の部屋の前まできた零夜は、大きなため息を吐く。
小包と聞いていたので小さなものかと思ったら
ふた抱えはありそうな大きな箱だったのだ。
また中に何が入っているのか知らないが、かなりの重量があった。
手でもてるよう取っ手のようなものがついていたからまだいいが
そうでなかったら台車がいるところだ。
扉の前で一旦荷物を降ろした零夜は、軽く肩を揉み多少荒くなってしまった
呼吸を整えると、扉を軽くコンコンとノックする。
「北ちゃん、いい?」
親しき仲にも礼儀あり。零夜は北斗の居室に入るときは、必ず北斗の都合を尋ねる。
もっとも拒まれることなどほとんど無いのだが・・・。
「零夜か」
扉越しに北斗の声が聞こえる。
ただその声は心なしかくぐもって聞こえた。
「?」
怪訝に思いながらも北斗が拒否しなかったので、扉を開ける零夜。
そして扉の向こうに見えたのは床が見えないほどに山と積まれた本であった。
「ほ、北ちゃん。何なの?」
零夜は自らの視線の先にある状況が理解できず、扉を開けたままその場で固まる。
「ああ、これか」
本の塔の中で一心不乱に何かを読んでいた北斗が、零夜の呟きに顔を上げる。
そして固まったままの零夜に説明をする。
「古今東西の武術の書だ。ナデシコにいたいつもサングラスをかけていた男
そいつに頼んで送って貰った」
そう言って傍らにある本の塔をポンポンと叩く。
「そう・・・」
北斗の説明にようやく肉体の硬直が解ける零夜であった。
「北ちゃん。一体どうしたの?」
零夜は持ってきた小包を北斗に渡した後、北斗に詳しい説明を求めた。
まぁ気持ちはわからないでもない。誰だっていきなりこの状況を見せ付けられれば
説明を求めたくなるだろう。
しかも相手は北斗だ。おそらくシャクヤク艦内に彼女ほど読書というものと
縁遠い人間は居ないであろう。
しかし北斗はといえば、零夜の質問には答えずに受け取った小包の蓋を開くと
「ほぉ、これが・・・」といって中を凝視する。
その態度に零夜は質問に答えてもらえなかったことも忘れ
つられて北斗の手の中を覗き込む。
「な、なによ、これ・・・」
北斗の視線の先にあるものをみた零夜は、再び体を固まらせる。
ただ先ほどの硬直と違うのは、先のが北斗の部屋の状況に対してのものであったとするならば
今回のはそれをみて北斗が感嘆の念を出したことに対するものであった。
北斗の視線の先にあったもの、それは漫画であった。
軽く見ただけで「あした○ジョー」「リング○かけろ」「聖闘○聖矢」「魁!!○塾」「修羅○門」etc.
その他にも多くの漫画がその箱の中には入っていた。
それらは紙媒体ゆえ変色しくすんでいるが、絵自体は十分見られるものであり
現在でも十分鑑賞に耐えた。
「奴に『地球にある武術の本を送ってほしい』と頼んだんだが
先に送られてきたものはどうもピンとこなくてな。
追加で頼んだら『とっておきを送る』といっていたのだ」
確かに取って置きかもしれない。20世紀末、今から200年近く前のものだ。
完本として残っていること自体が珍しく、また程度がよいものなど数が限られる。
おそらくサングラスの男は駆けずり回ってこれらを集めたのだろう。
「何でも奴が言うには『漫画の中だから突飛な技が多いが
「昂氣」を使用すれば再現出来るかも知れない』と言うことだ」
北斗はそう言いながら一番上にあった一冊を手にとり、ぱらぱらとページを捲る。
「どうしていきなりこんな事を・・・」
零夜は呆れてしまい、開いた口がふさがらない。
その証拠、というわけではないが、零夜の硬直はいまだ解除されない。
「アキトの奴に勝つためだ」
零夜の無意識ともいえる問い掛けに
漫画に軽く目を通しながら応える北斗。
「悔しいがアキトと俺ではわずかだがアキトのほうが強い。
・・・そんな顔するな。事実だ」
零夜は北斗の言葉に反応し、「北斗の方が強い」と言うような顔をしたのだろう。
そんな零夜を北斗は軽く苦笑してなだめる。
「確かに『昂氣』に辿り着いたと言った意味では俺達は互角だ。
だがその先が違う。零夜、お前に聞くがあいつがテンカワ アキトが
俺を殺せると思うか?」
北斗の問い掛けに、びくりと体を震わせる零夜。
その事は零夜が一度ならず考えたことであった。
「昂氣」を超えるものは「昂氣」のみ。
なら「昂氣」に辿り着いた者を殺せるのも「昂氣」に辿り着いた者のみ。
現在の地球・木連を通じてアキトを、そして北斗を殺せるのは
ただ互いの存在があるのみだった。
「あいつは誰に対しても優しい。敵であった俺に対してもだ」
そのとき北斗の脳裏をよぎったのは、草壁の謀略によって舞歌が重傷を負った時の事だ。
北斗に散々痛めつけられ、重傷を負いながらも最後の最後
ぎりぎりまで北斗に手を出そうとしなかったアキトの血まみれの姿。
アキトの体はぼろぼろだったがその目は死んでいなかった。
「あの時、アキトの体が完全だったら結果は相打ちではなく、俺の負けだったろうな」
口には出さず心の中でのみ呟く北斗。
「もしあいつが俺を殺そうとしたとき、俺には殺されない自信は無い。
今俺とあいつが互角に見えるのは、あいつが俺を殺そうとしてないからだ」
先ほどの心の中での独白の替わりに零夜に向かってはそう言い
握り締めた右の拳に朱金の「昂氣」を纏わせる。
「で、でも北ちゃんは前に破壊衝動の塊になった・・・」
「あんなものは本当のあいつではない。あれはただ殺気の塊をあたりに
撒き散らすだけの、ただの獣と一緒だ」
零夜の指摘を皆まで言わせず北斗は自嘲気味に
薄く笑いはき捨てるように言葉を紡ぐ。
「アキトの奴が自らの意思で俺を殺しに来ない限り、そしてそのアキトに
勝てない限り本当の意味で奴に勝ったことにはならないのだ」
静かに、だがはっきりと言い切る北斗。
「・・・そしてあいつの隣に立つ資格もな」
最後の小さな呟きは零夜の耳には届かなかった。
「それとこの本の山はどういう関係があるの?」
直前の衝撃と、北斗の話によって混乱していた零夜がようやく
精神的再建を果たしたのは、それからしばらくしてからだった。
そして北斗に答えてもらえなかった質問をもう一度投げかける。
「だからアキトの・・・」
「アキトさんに勝つためというのは聞きました。でもそれとこの本の山
そしてその漫画とどういう関係があるの」
もう一度先ほどの話をされてはかなわない。
そう判断した零夜は北斗の応えをさえぎる。
「なに、簡単なことだ。俺が強くなって、アキトの奴が手加減できないような
状況を作り出せばいい。そのためだ」
ページを捲りながら簡単に言う北斗。
「そしてただ強くなるだけじゃだめだ。手加減無用になったアキトを打ち倒す
そんな技を身に付けなければ、俺の目的は達成されない」
「そ、そう・・・」
北斗のあまりといえばあまりの答えに、汗タジになる零夜。
そしてそのまま黙り込んでしまう。
しばらく北斗の部屋には北斗がページを捲る乾いた音だけが響いた。
「と、ところで北ちゃんの目的って?」
何とか気詰まりな空気を換えようとしたのだろう。
零夜が話の糸口を見つけようと先ほどの北斗の答えから話題になりそうな
フレーズを何とか見つけ出し北斗に尋ねる。
「目的? ああ、アキトに勝って、あいつを俺のものに・・・」
北斗はそこまで言ってから、自分の失態に気づいた。
こんな言い方をすれば零夜が変に誤解する。
そして誤解した零夜がどのような態度をとるのか。
そのことに思い当たった北斗は慌てて言葉をつなぐ。
「い、いや。ほら、アキトを俺のものにというのはだな・・・
その〜、なんだ。アキトをあいつらの手から取り上げて・・・
じゃなくてだな・・・」
「ほ〜く〜ちゃ〜ん!」
しどろもどろに取り繕おうとする北斗だが考え無しに言ったことが
零夜の感情に更なるささくれを生み出すこととなった。
俯く零夜の顔には影が差しているが
その目のところだけが無気味に光って見える。
「お、落ち着け。零夜。俺があいつを欲しがるのは
あいつが俺のことを理解してくれる・・・」
人間あせるとろくなことが無い。その一言が零夜の心に止めを刺した。
俯き、肩を震わせていた零夜だったが北斗の言葉にぴたりと震えを止める。
そして俯いていた顔を上げると北斗を正面から見据える。
だがその顔には、というよりも瞳の端には何かがたまって光っていた。
「れ、零夜?」
零夜の顔を見た北斗には、彼女の名を呼ぶことしか出来なかった。
「北ちゃんのバカ〜〜〜!!」
幼馴染であり、親友であり、そしてもっとも身近であった存在が泣いている。
その事を北斗が理解したのは零夜がその台詞とともに
北斗の部屋を飛び出していった後だった。
しばらく後――
「まったく・・・」
そう愚痴をこぼしながらシャクヤクの廊下を歩いている北斗の姿があった。
というよりも彼女は迷っていた。
零夜が部屋を飛び出した後、すぐに追いかけようとしたのだが
生憎と北斗がいた場所と扉との間には大量の本がそこかしこに
積み上げられていたのである。いかな武術の達人とて本を踏まないように
あるいは散らかさないように動くには限度がある。
結局本の山を抜け出すのに手間取った北斗の目に映ったのは
誰もいない廊下だけだった。
「とりあえず誤解だけは解いておかないと」
そう考えた北斗は零夜を追いかけようとした。
零夜の行き先はわからない。だがその気配は掴んでいる。
シャクヤクの艦内にいる限り北斗が零夜を見失う恐れは無かった。
しかしながら見失う恐れは無く、かつ気配がつかめているとはいえ
道がそこまで直線でつながっているわけではない。
その上、北斗は極度の方向音痴である。
1つ角を折れ、二つの部屋を抜けるうちに今度は自分が迷子になったのである。
「ええい、面倒な!!」
苛立ち紛れに壁を叩こうとした北斗だったが脳裏に浮かんだ
零夜の泣き顔によって寸前でその拳を止める。
「チッ」
北斗は短く舌打ちすると、今来た通路を引き返していった。
一方、探されている方はといえばシャクヤクの展望室にその姿を置いていた。
草木(の映像に)に囲まれたそこにしつらえられた切り株風の椅子に座り込み
「北ちゃんのバカ」と呟き続けていた。
一体どれだけ呟いたのだろう。もはや言っている本人にもわからない。
今の零夜の頭にあるのは今まで北斗と過ごしてきた記憶
思い出、経験といったものであり、それらを一つ一つ思い出す度に
北斗に対する呪詛の声が出てくるのだ。
「北ちゃんのバカ」
「そんなことを言うものではありませんよ」
何度目の呟きだったのだろうか?
誰も聞いていないはずの零夜の呟きに
答えるものがあった。
「舞歌様・・・」
その声に驚いて振り返った先に立っていたのは、彼女達の上司だった。
「隣、いい?」
舞歌はそう言って泣き崩れていた零夜の横を繊手で指し示す。
「は、はい」
零夜は涙にぬれた顔を慌てて手巾で拭うと
舞歌が座れるよう体をずらす。
「ごめんなさいね」
舞歌はそう言って零夜の横に腰を下ろす。
舞歌は座ってから一切の言葉を発しない。
ただ静かに周囲の風景を見ているだけだ。
「あ、あの・・・」
沈黙とその場の空気に耐え切れなくなった零夜は舞歌に声をかけようとした。
しかし舞歌はその瞬間を待っていたかのように、不意に顔を零夜のほうに向ける。
「ひっ・・・」
絶妙のタイミングで気勢をそがれた零夜は軽く悲鳴をあげてしまう。
「落ち着いた?」
舞歌は零夜の態度を気にすることなく、声をかけてくる。
その顔には慈母のような笑顔が浮かんでいた。
「は、はい・・・」
零夜のほうも舞歌の登場により北斗に向けられていた気持ちが
拡散され多少は落ち着くことが出来た。
「何があったの?」
あくまでも慈母のような表情を変えることなく、優しく問い掛ける舞歌。
その態度は妹を見守る優しき姉、あるいは子どもの成長を見守る
母親のようであった。
零夜は舞歌の問い掛けに逡巡した。
果たして北斗の部屋での出来事を話していいものかどうか
決心がつかなかったからだ。
「アキト殿、に関することね?」
だが舞歌はいきなり核心を突く質問を発する。
舞歌の「アキト殿」という言葉にびくりと体を震わせた零夜は
気が付くと堰を切ったように先ほどの出来事を舞歌に話していた。
「・・・私は北ちゃんのこと、理解していなかったの? 北ちゃんには、もう私は要らないの?」
北斗との出来事は僅かな時間のであったが、そう言って零夜が全てを話し終えたのは
舞歌が聞き始めてから小1時間ほど経ってからである。節々で零夜の
北斗に対する気持ちが暴走しかけたためである。
「そう、そんなことがあったの」
なだめすかし、話の軌道を修正しながら零夜の話を聞き終えた舞歌は
そう言って右手を軽くその細い顎に当て、考え込むような態度をとる。
その心の中では北斗と零夜、ある意味不器用な二人に対する
困惑と呆れ、そして微笑ましさがあった。
「零夜、貴女は北斗殿のどこがそんなにいいの?」
聞きようによっては異性が異性に対して拘泥する
理由を聞いているような表現である。
「それは・・・、私にとって北ちゃんは・・・」
そういったきり零夜は黙ってしまう。
北斗との関係を冷静になり、距離をおいて考えた時
そこに具体的のものが何も無いことに気づいたからだ。
北斗と幼馴染であること。それは偶然私が北斗の側に住んでいたからだ。
北斗と親友であったということ。それは幼馴染の延長だ。
そのまま北斗の世話をするうちに優華部隊に入り、そして現在にいたる。
どこにも北斗と自分をつなぐ具体的なものが無いのだ。
全ては偶然。最初に運が良かっただけ。
それがなければ北斗と何の繋がりも無かったかもしれない。
そのことに気づいた、いや気づかされた零夜は呆然となる。
「わからない。気づいたら北ちゃんはいつも私の側にいた。
北ちゃんは私がそばに居ても嫌がらなかったし
私も北ちゃんの側にいられるのが嬉しかった」
「そう。では北斗殿のほうはどうかしら?」
零夜の答えに、舞歌は別の視点で考えるよう促す。
「・・・わからない。北ちゃんは私が側にいることを
気にしていないだけかもしれない」
それは考えたことも無かった事。
北斗が自分の事をどう思っていたのか。
どう感じていたのか。
想像すらしたこと無かった。
「北斗殿にとって貴女は別に居なくてもいい存在かもしれない。
貴女の替わりはいくらでも居る」
衝撃を受け蒼然となって体を震わせる零夜に、
舞歌は静かに、しかし畳み掛けるように精神的圧力を加えていく。
「現に貴女が此処に来てから1時間ちょっと、北斗殿の部屋を飛び出してから
2時間近く経っている。にもかかわらず北斗殿は貴女を探しにも
迎えにも来ない。それが答えではなくて?」
とどめともいえる追求。零夜はもはや震えることすら出来ず
俯き加減に虚ろな視線で虚空を眺めている。
「それでいいの?」
舞歌は突然、抜け殻のような零夜の肩をがしっと掴むと
軽く揺さぶりながら零夜を叱咤する。
「北斗殿はアキト殿に何を見出しているのか、それは私にもわからない。
わからないけれどこれだけは言えるわ」
「北斗殿は北斗殿として存在するためにアキト殿を必要としているの。
そしてそのために自らを磨いているということよ」
「でも貴女はどう?
北斗殿の側にいるために、北斗殿と一緒の時間を空間を過ごすために
そして何より貴女が貴女で居るために、努力しているの?」
舞歌の言葉に顔をあげ、困惑の表情を浮かべる零夜。
「幼馴染であったという偶然。
そこから生まれた今までを唯々諾々と受け入れているだけの貴女には
自分の居場所を、自分の存在を勝ち取ろうとしている北斗殿を理解を
しているといえるのかしら?
そんな貴女が一方的に北斗殿に理解を求めてもいいの?
そして北斗殿の側にいる必要があるのかしら?」
一転、諭すような口調になる舞歌。
その言葉の意味を理解していくにつれ
虚ろだった零夜の瞳に光が戻っていく。
「北斗殿は父親であった北辰の、そしてヤマサキの道具から今抜け出した所なの。
そのために自分の居場所というものを持っていない」
「でもアキト殿によって居場所を見つけることが出来たの。
戦いという、命かけて競い合う居場所だけど
それでも北斗殿にとってそれは自らが選び
勝ち取ろうとしている居場所なの」
「零夜、貴女が今すべきなのは戦っている北斗殿の足を引っ張る事ではないはずよ。
努力し、北斗殿を支えられるようになって
そして北斗殿と一緒になって戦い、北斗殿の居場所を勝ち取ることではなくて?
それが貴女が北斗殿の横に自分の居場所を作ることになるのではないかしら?」
舞歌はそこまで言うと、すっと優雅なしぐさで
座っていた場所から立ち上がる。
「いい、零夜。貴女は貴女を信じなさい。
貴女が北斗殿を信じるのと同じぐらいに、いいえそれ以上に。
そうでなくては北斗殿の側に居続けるることなど出来はしないわ」
最後にそう言い残して立ち去っていく。
後に残された零夜であったが、その瞳にはしっかりとした
意思の光が輝いていた。
「すまん。舞歌」
そう言って展望室の入り口で出てきた舞歌を迎えたのは北斗であった。
道に迷いつづけた北斗は結局、舞歌のところに辿り着き
舞歌に零夜の所まで連れて行くよう頼んだのである。
頼まれた舞歌のほうは北斗からの事情(零夜が飛び出していった経緯)を聞くと
北斗を連れて零夜が引きこもった展望室へと足を運んだのである。
「北斗殿の為じゃないわ。零夜のためよ」
北斗の言葉に、舞歌は優しく微笑んで答える。
「あの娘も一度考える時期にきていたのかもしれない。
今回のことはいい機会よ。
北斗殿と自分の関係についてしっかりと考えてみるのも」
そういって北斗を残して行こうとする。
「お、おい。帰りは」
「零夜に送って貰いなさい。それとちゃんと謝っておくのよ」
後ろ手に軽く右の繊手を振りながら、執務室へと戻っていく舞歌。
この1時間でどれだけの書類が溜まったのかと思うと憂鬱だが
可愛い北斗と、そして零夜のためである。多少の苦労は仕方が無い。
「まったく、まだ若いのにお母さんの真似事か」
舞歌はそう呟くと書類が待っている部屋へと戻っていくのであった。
代理人の感想
う〜〜〜〜〜〜〜〜む。
どうなんでしょうねぇ?
零夜と北斗に限らず「パートナー」「相棒」としてならともかく、
友人としてあるいは恋人として隣に立つのに資格が要るんでしょうか?
もっとも、この場合は北斗を傍らで支えると言う零夜の立場が
「パートナー」の要素をかなり濃く含んでいるので舞歌の言うことは間違ってはいないと思いますが。
追伸
真面目な舞歌さんというのもこれはこれで素敵ですねぇ(笑)。