慰め
それはいつか見た記憶。
『ユリカ!! 俺が何時、諦めると言った!!
皆は地球に帰るべき場所がある。
だからこそ俺は一人で消える!!
それでも・・・!!』
『俺が帰るべき場所は・・・ナデシコだ!!
皆が揃っているナデシコだ!!
何処に跳ばされ様と、俺は絶対に帰って来る!!
例え、遥かな距離だろうと、刻を超えても―――』
そう言ってアキトが遺跡とともに虚空に消え去ってから一年余り。
それはルリが宣言をしてからの時間でもある。
「帰ってこなかったら追いかけるまでです」
「だってあの人は大切な人だから!!」
その宣言は2回目であったが――
前回の宣言の時に比べてルリは落ち着いていた。
「あの人は『帰ってくる』と約束してくれた」
そう。
それは前の時間軸ではなかったこと。
『君の知っているテンカワアキトは死んだ』
そう言いきり、姿を消した人。
火星で北辰を倒し、ユリカが助け出されたのを確認すると
何も言わずに立ち去っていった人。
『・・・俺とユリカの道が交わる事はもうありえ無い。
ルリ、君と同じ道を歩む事ももう・・・無い』
やっとの思いで追いつき、通信した私にあの人が答えた言葉。
そう言っていたあの人が、「帰ってくる」と言ってくれたのだ。
前回は2年待った。
今回はまだ1年。
後1年ぐらい十分に待てるはずだ。
――しかしそう思ってはいても、心はアキトを求めてしまう。
アキトが浮かべる笑顔を。
アキトが作る料理を。
アキトが抱える心を。
アキトが、いつも側にいてくれたアキトの存在が
――ルリに耐えようも無い飢餓感を与えてしまう。
どうして帰ってきてくれないの?
どうして戻ってきてくれないの?
どうして、どうして私の側にいてくれないの?
それは先の2年には無かったことだ。
前はシャトル事故でもう還らぬ人だと思っていたこともある。
しかしそれ以上に、アキトにまだ慣れていなかったのだ。
――自分の内にある、秘めた想いに気付かぬほどに。
刻を超え、二度と繰り返せないはずの時間をアキトと共に過ごせたことで
ルリの心にアキトが住み着いた。
彼女の心を埋め尽くしたアキトがいない。
「私の心が欠けてしまった」
その事実が、ルリを苛む。
学校で――
授業を受けているとき、友達と話しているとき。
その瞬間は飢餓感を忘れる。
家で――
ユリカとコウイチロウ、そしてラピス。
一緒に食事をし、共通の時間を過ごすことで、心を暖める。
でもそれは、忘れるだけであり、暖まるだけだ。
一人になると――喪ったものを思い出し、心は寒くなる。
幾度、眠れぬ夜を過ごしただろう。
幾度、夢に見ただろう。
幾度、――絶望しかけただろう。
運命とはかくも理不尽なものなのか。
また2年も待たなくてはいけないのか。
「何故、別々の夜を過ごさなくてはいけないのか?」
「何故、一緒に朝を迎えることが出来ないのか?」
「何故、私を哀しませるのか?」
繰り返される問い掛け。
答えるモノの無き、回答の無い疑問。
あるのはただ――アキトがいないその事実。
そしてルリは、自らを慰める。
2年だけ待つ。
それで還ってこなければ追いかける。
待つ時間が多ければ多いほど――
アキトに出会えたその刻は、きっと私にとって至福となるだろう。
いつか出会えるその刻が楽しいものになるのだと言い聞かせて。
拒絶されることの無い、望まれた再会。
その刻を夢見て、ルリは眠りに就く。
「少女」から「女」へとうつろいながら。
代理人の感想
うむうむ。
いいですねぇ。
Voidさん、大蒲鉾ウィルスの洗礼を浴びてひと皮剥けたようです(笑)。
あのウィルスにこんな効果もあったとは・・・・学会に報告しなくてはいけませんねぇ(爆)。