漆黒の戦神アナザー
J・B・Bの場合
編集部注
この「漆黒の戦神 〜その軌跡 彼と関わった男達 〜」執筆にあたり
とある方に取材申し込みをした所、言下に拒否されました。が、粘り強い交渉と調査の結果
取材対象者の友人を名乗る人物の協力を得ることに成功いたしました。
この章は、協力者がインタビューした記録内容を元にして編集部で構成いたしました。
「何でお前がここにいる」
目の前にいる長身の男は、協力者の顔を見るなり低い声で唸った。
その声は渋く、そう、大戦中における木連軍の実質的な指導者
草壁春樹中将の声が最も近いであろう。
切れ長の、あえて形容するならばカミソリのような鋭い目
その目の上にはアイシャドーをつけている。白い細面と黒い長髪が見事なコントラストを作り上げ
全体的にシャープな印象を与えている。今後、彼のことは「J・B・B」と呼称する。
「なんでって、そりゃ頼まれたからだ」
「誰に!!」
「まぁそう怒るな。皺が増えるぞ、中年」
「誰が中年だ! 私はまだ27歳だ!!」
J・B・Bは協力者に対して憤慨しており、その剣幕は凄まじいの一言に尽きる。
が、慣れているのか協力者のほうには動じた様子はない。
「やめなよ、バン。その子にそんな事言ったって無駄だよ」
J・B・Bの後ろで巻き毛を大きく前にたらした少年が、J・B・Bを諌める。
「じゃぁ、話してもらおうか」
J・B・Bと少年の会話などまったく気にした様子もなく
インタビューを始めようとする協力者。
「さっさと終わらせたほうがいいと思うよ」
協力者の態度に拳を握り締めて肩を震わせるJ・B・Bを片目に
少年はさっさと面倒なことを終わらせるよう助言する。
「くっ・・・」
少年の言葉にしぶしぶながら席につくJ・B・B。そして大きくため息をついた後
懐から取り出した葉巻に火をつけ、煙を大きく吸い込む。
「何を話せばいい?」
吸い込んだ煙を協力者に向かって勢い良く吐き出しながら
J・B・Bは協力者が訪問した理由を尋ねる。
「えーと、『彼』とのなれ初めだな」
協力者がメモを見ながら発した言葉に、J・B・Bの後ろにいた少年の顔色が変わる。
「誤解を招くような言葉を使うな。このつぶれア○パン」
そういって右拳をひとつ、協力者の脳天に叩き込むJ・B・B。そして再び葉巻に口をつけ
大きく吸い込んだ後、ふーっと吐き出しながら語り始めた。
「『彼』と出会ったのは連合軍北欧方面軍指令
グラシス中将閣下が訪英される直前のことだ」
「大戦終結直後ということもあり、また連合軍のナンバー2が来るということで
厳重な警戒をすることになって、MI6も警備に駆り出されたんだ」
「警備計画立案のため、ロンドンの裏街を調べていたところ
路地に隠れている『彼』を発見したのだ」
「その時は不審な奴ということで職質したんだが
その途中で『彼』は空腹のあまり意識を失ったのだ」
そこまで言ってJ・B・Bは遠い目をしながら三度、葉巻を口にする。そして少しだけ短くなった
それを灰皿に押し付けるようにしながら消すと、続きを話し始めた。
「仕方がないので近くにあったB&Bに『彼』を運び込み簡単な食事と
暖かいシャワーをとってもらった。そして一息ついたところで『彼』の名前を聞き
その名前を聞いて驚いたんだ」
「欧州では知らぬ者のいない『漆黒の戦神』。だがその正体はほとんどが
闇に包まれており実在すら疑われていた」
「まさか目の前にいる人物がその伝説の存在だったとはな。
まさに『事実は小説より奇なり』だったよ」
「『彼』は何でも逃亡中で路銀もとうに尽き
どうにもならなくなっていたそうだ」
「仕方がないので私がB&Bの代金と当座の生活費を貸し
そのまま『彼』とは別れた。私が話せるのはここまでだ」
J・B・Bはそこまで言って協力者を見る。
「ほらもういいだろう。さっさと自分の国に帰れ」
そして協力者を追い出そうとする。その額にはなぜか一筋の汗が流れていた。
「おやぁ〜。いいのかなぁ。僕にそんな態度を取って」
背中を押され、玄関へと追いやられながらJ・B・Bにむかっていやらしく笑う協力者。
その笑顔に引きつりながらもJ・B・Bは「何のことかな」ととぼけようとする。
「待って」
その時、J・B・Bの後ろで話を黙って聞いていた巻き毛の少年が声をかけた。
「ねぇ、バン? その『彼』ってかわいい子だったの?」
「バ、バカな事を聞くな」
そう答えるJ・B・Bの額の汗は更にその量を増し、心なしか艶やかだった
長い黒髪がくすんで見える。
「そいつが美少年を見て手を出さないはずがないだろう」
「お前ー!!」
必死になってごまかそうとするJ・B・Bの努力を台無しにする一言を協力者は口にする。
J・B・Bは大声で叫び、慌てて協力者の口をふさごうとする。
「バン・・・」
そう声をかけた少年の手から、「シャキン」という擬音とともに何かが伸びる。
どうやら爪のようだ。
「正直に言ってごらんよ。怒らないからさ」
「お、おい! 怒らないといいつつ、その手は何だ!」
「で、どうなの!?」
J・B・Bに詰めよりながら、大きくてを振り上げる少年。
「わーっ! 本当に何もしていない。『彼』には眼力が効かなかったんだ!!」
取り乱したJ・B・Bは、言ってはならない一言をついもらしてしまう。
「色目をつかったんじゃないかーーー!!」
J・B・Bが漏らした一言に堪忍袋の緒が切れたのか、振り上げていた手を
勢いよく振り下ろす少年。たちまちJ・B・Bの顔に格子模様が出来上がる。
「この浮気者ーーー!!」
「ま、待て。落ち着け。お、おい、助けろ!!」
「なぜ僕がお前を助けなきゃならんのだ」
時には抓られ、ときには引っかかれながら、何とか少年の虎口から抜け出そうとするJ・B・B。
視界の端に映った協力者に助けを求めたが協力者はそう言い残すと
記録機器を回収して無情にも立ち去っていく。
「こ、この薄情者ーーーー!!」
イギリスの霧の中に、J・B・Bの悲痛な叫び声が響き渡ったのだった。
( 「漆黒の戦神 〜 その軌跡 彼と関わった男達 〜」より )
もはや何冊目になるのかわからないほど出版された「漆黒の戦神」シリーズ。
累計の販売冊数がすでに聖書のそれを越え、いまや
「歴史上最大のベストセラーシリーズ」
とまで言われている。
「アキトさん、とうとう男の人にまで・・・」
某同盟において「妖精」と呼ばれている人物は、つい昨日発売された
「漆黒の戦神」の最新刊を読み終えると、本をその発展途上の胸にかき抱くようにする。
その視線は霧に包まれた空を見ていたが、実際にははるかな虚空を見ていた。
新刊が発売される度に引き起こされてきた「お仕置き」。
もはや彼女達「某同盟」において「漆黒の戦神」シリーズは
アキトとのスキンシップに欠かせないものになっていた。
それこそ「お仕置き」をする為に新刊を待っている。手段と目的が逆転しているのだ。
しかし今回の新刊では「お仕置き」ができない。
別にアキトが(彼女達の主観において)浮気したわけでもない。「お仕置き」の口実が無いのだ。
加えて現在アキトは「逃亡中」である。「お仕置き」したくてもできないのだ。
「さて、J・B・Bさん。アキトさんが2日前、貴方のところにお金を返しに来たことは
すでに確認し、裏も取ってています。その後、アキトさんはどこに行ったんです?」
「妖精」は「三つ編」の言葉に、意識を現世に戻す。今彼女達はロンドンにいる。
逃亡した彼に直接在った人物に会う為だ。そして目の前にはその人物がいる。
暴れられないよう手錠をかけてもらい、椅子にくくりつけられてはいるが。
「僕のバンになにをする」
手錠をかけられたJ・B・Bの横では、彼をかばうかのように巻き毛の人物が覆い被さっている。
かなりの長髪の人物だが、この人物は女性ではない。若い男性だ。
本に出ていた「巻き毛の少年」とは、彼のことなのだろう。
「素直にアキト君の行き先を教えてもらえれば、手荒な事はしないわ」
そう言いながら、「裏方」が巻き毛の人物に近寄っていく。
現時点ですでに十分手荒な事なのだが、彼女たちは彼のことになると限度がなくなる。
「こんなことをしてただで済むと思っているのか! 訴えてやる」
近づく「裏方」に噛み付かんばかりの剣幕で吠える巻き毛。
「止めるんだ、マライヒ」
その声にマライヒと呼ばれた少年は呼びかけた人物、つまりJ・B・Bを詰問する。
「バン、こんなことされて黙っているなんて、あなたらしくないよ!!」
そんな二人の様子を無視して彼らに近づくと
「裏方」は手にしていた鞄から一枚の書類を取り出す。
「残念ながらただで済むのよ」
そう言い置いて、一枚の書類を見せつけるようにマライヒの目の前に差し出す。
「女王陛下直筆の許可証よ」
食い入るように書類を見るマライヒ。
その書類には次のように書いてあった。
『この許可証を持つものに、殺人以外のあらゆる権利を与える』
署名欄には確かに『エリザベスW世』と書かれている。
「こんなもの」
目の前の書類を奪い取り、引き裂こうとする巻き毛。
「止めるんだ、マライヒ」
再び、J・B・Bの口から制止の声が飛ぶ。
「私なら大丈夫だ」
そして安心させるように、マライヒに向って笑顔を向ける。
その笑顔にマライヒのほうは顔を赤し、黙ってしまう。
「私もアキトさんに笑顔を見せられると、あんなふうになるのかな?」
マライヒの変化を見ながら、「妖精」はその情景を思い出す。
思い出しただけで頬がかっと熱を持ったようになる。
「三つ編」と「裏方」も同じような事を考えたようだ。
二人とも、頬を赤く染めている。
「『彼』の行き先だが、残念ながら知らない。おそらく追っ手がかかることを
心配してのことだろう。『彼』は何も言わなかったし、私も何も聞かなかった」
J・B・Bの言葉に、三人はそろってため息を吐く。
アキトが失踪してから一週間。最近アキトの逃亡技術が上がってきたのか
容易にその尻尾をつかませなくなっている。
「知らないのであれば仕方がありません」
落胆を隠しつつ、「妖精」が持っていた鍵をマライヒへと放り投げる。
慌てながらもマライヒは鍵を上手にキャッチする。
「手錠の鍵です」
戸惑っているマライヒに、短く告げる「妖精」。
マライヒの方は急いでJ・B・Bの手錠を外しにかかる。暫くすると戒めをとかれた
J・B・Bが、痛む手首をさすりながら立ち上がった。
「ここにはもう、用はありません」
そう言い残してきびすを返す「妖精」。
彼女に続いて「三つ編」と「裏方」も立ち去っていった。
「なんだい、あいつら」
彼女達が立ち去った後、マライヒがそう言葉をこぼす。
「バン、悔しくないの? 仮にもMI6のエースにしてダブルオー要員でもある貴方が
あんな小娘達にいい様にされて」
「私はこんな程度ですんでほっとしているよ」
マライヒの焚付けに、しかしJ・B・Bは冷静に答える。
「マライヒ、聞いたことないか? 無尽蔵の財力と現在の科学水準の遥か先を行く
技術を持つ組織のことを」
「聞いたことはあるけど、それは単なるフォークロアでしょ。実在する存在じゃないよ」
「私も今の今までそう思っていた。しかしそれは実在したんだ」
「まさか」
J・B・Bの言葉に笑い飛ばそうとしたマライヒだったが
突然その笑顔を引きつらせる。
「彼女達がそうだって言うの!?」
その問いかけに応える言葉はなかった。
おまけを読みたければ、次のアドレスにhをつけてアドレスバーに直打ちしよう。
ttp://action.moon.ne.jp/tss/void/void_an_jbbo1.html
代理人の感想
・・・・・・・どう考えてもアキトは「彼」の好みではないような気もするんですけどね〜(苦笑)。
飢えの余りおかしくなったか(爆)?