願 い 


 

 私の心には目に見えない、檻のようなものがある。

 

 押さえつけ――

 

 閉じ込め――

 

 束縛し、同時に護るモノ。

 

 それが生まれた時期は、はっきりしている。

 

 それは私がまだ闇を知らない、普通の少女だったときの出来事だった。

 

 

 

 ・・・気が付いたときには、私は裸で大の字になっていた。

 手足を動かそうにも、何かが邪魔をして動かせない。

 

 「・・・あれ、私は何でこんな格好しているんだろう?」

 

 私は思考を妨げる頭の痛みを堪えながら、今日の出来事を思い出そうとした。

 

 

 

 確か今日はいつもどおりに家を出て、学校へ行ってきた。

 学校で友達とたわいのない話をして、勉強して、部活して――

 そしていつもの時間に家に帰って来たんだ。

 

 「ただいま〜」

 

 私は玄関を開け、元気良く帰宅の挨拶をする。

 

 「・・・?」

 

 いつもなら「おかえりなさい」と声を返してくれる母親の声がなかった。

 

 「お買い物かな?」

 

 怪訝に思いながらも靴を脱ごうとするが、ふと視線を落とすと見慣れぬ靴があるのに気付いた。

 

 「お客さんか」

 

 それならば返事がないのもわかる。

 そう思って、静かに2階にある自分の部屋にいこうとしたんだ。

 そして2階へと上る階段に足をかけたところで、変な声を聞いた。

 声の出所は――居間?

 なんだろうと思い居間を覗こうとした私は、覗き込んだ瞬間に後頭部に衝撃を受け、意識を喪った。

 

 

 

 

 

 

 「・・・ああっ! あっ!! あんっ!!」

 

 何か切羽詰ったような、それでいて喜んでいるような。

 そんな声がはっきりとしだした私の耳に響いてきた。

 

 「・・・意識を喪う前に聞いた声もこんなのだったな」

 

 そこまで考えた私は、ぼんやりと視線を声の聞こえてきた方に向ける。

 焦点の定まらない視界に入ってきたのは、絡み合う人の姿。

 1つの影が手を、躯を、腰を動かすたびに、何か柔らかいものがぶつかる音が聞こえ

 その音にやや遅れてあの「声」が聞こえてくる。

 その声をぼんやりと聞くうちに、だんだんと明確になってくる私の頭と心、そして視界。

 

 「・・・あぁぁあああぁぁああぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 一際大きく上げられる、艶のある声。

 その声が私の全ての焦点を合わせさせる。

 

 「・・・お母さん!!!」

 

 焦点がはっきりした私は、その光景を見て思わず声を上げてしまった。

 我に返った私の網膜に映ったもの――

 それは見知らぬ男に組み敷かれて喜悦の表情を浮かべる、母親の姿だった。

 

 

 

 「・・・目がさめたか」

 

 私が母親に呼びかけたせいで、男は私が起きたのに気付いたようだ。

 男は私のほうを一瞥すると、組み敷いていた母親からその裸体を引き離す。

 

 「あはぁあぁん・・・」

 

 ――ズルリ

 

 母親の躯から音をたてんばかりに引き抜かれるモノ。

 母親はその行動にさえ反応して声をだしている。

 躯を離し終えた男は、ゆっくりと寝ている私へと体の向きを変える。

 

 「・・・ひぃっ!」

 

 たった今まで母親を陵辱していた、濡れて無気味に光るモノを見せ付けられた私は、思わず悲鳴を上げてしまった。

 そしてすぐに声を出したことを後悔する。

 そのような行動が、こういった人たちには好まれるであろうことは想像に堅くない。

 それぐらいのことは、何も知らない私にでも想像がついた。

 

 「・・・ふん」

 

 だが男はそんな私をモノでも見るかのような、冷たい視線で舐めまわすようにするだけだった。

 

 「・・・あぁ、もっとぉ。ねぇ、もっとちょうだい」

 

 困惑する私をよそに母親が、虚ろな視線で口から涎ををこぼしながら男にすがりつく。

 

 「・・・イ、イヤ」 

 

 私は母親のその姿をみて、首をフルフルと左右に振りながら、現実を否定しようと無駄な努力をしていた。

 

 

 

 「どけ」

 

 男は縋りついてくる母親を強引に引き離すと、大の字になっている私のほうに近づいてきた。

 

 「こ、こないで!!」

 

 意識せずかすれてしまった声で、私は拒絶の意思を示すが、男は無視して近づいてくる。

 自由にならない躯を揺らしながら、私は必死の抵抗を試みる。

 

 ガチャン

 

 思い切り躯を左右に振り回したとき、頭上から耳障りな音が聞こえてきた。

 反射的に視線をそちらに向けると、自分の手首に革の手錠がはまっているのが見えた。

 そしてそこから伸びる鎖は、何処か遠いところに結ばれているようだ。

 

 「・・・何よ、コレ!!」

 

 慌てて反対側の手を見ると、そちらにも同じように手錠がつけられていた。

 慌てて視線を下に向けると発展途上の盛り上がる双丘越しに見える足首にも同じような物が見え

 私が足を動かすたびにジャラジャラと大きな音を立てていた。

 

 ピトッ!

 

 困惑する私の頬に、不意に何かが触れた。

 

 「ヒッ!!」

 

 思わず口から漏れ出す悲鳴。

 

 気が付くと、いつの間にか男がすぐ側に立っていた。

 

 私の頬に触れたのは、男の左手だった。

 

 「・・・」

 

 どこかいとおしむように触れてくる手に、私は一瞬、抵抗する動きを止めてしまう。

 

 「・・・似ている」

 

 「え?」

 

 私は男がぽつりと呟いた言葉に、思わず聞き返してしまう。

 

 「・・・」

 

 だが男は、その問い掛けには答えなかった。

 

 

 

 「きゃぁっっ!!」

 

 数瞬の空白があいた後、いきなり男は私に覆い被さってきた。

 

 漏らすまいとした悲鳴が、思わず私の口から飛び出してしまう。

 

 「・・・や、やめて」

 

 体をなでまわされる恐怖とおぞましさに私は弱々しく抵抗するが

 男はそんな微かな抵抗など意に介さずに躯中をまさぐりつづける。

 

 頬、首、肩、胸、お腹、背中、足――

 

 男はありとあらゆるところをその掌でなでまわし、舐めまわしつづける。

 

 「・・・ハァ・・・ハァン・・・」

 

 一体どれほどの時間が経過したのか――

 長い時間なでまわされつづけた私は、何時しか熱い息を吐くようになっていた。

 同時に不思議な感覚も。

 

 「もうちょっと・・・」

 

 何処かもどかしさを感じながら、具体的にそれがどのようなもどかしさかがわからない。

 そんな感覚だ。

 

 正直なところ、その当時の私は知識としては男と女の関係について知ってはいたが

 当然ながら実際の体験はなかった。

 もし知っていたら――私は我を忘れてねだっていただろう。

 そう、いつの間にか私のすぐ横に来ていた、母親のように。

 

 間近で見る母親の目は、焦点が合っていなかった。

 その表情もまるで自分の意志が無いのようだ。

 その視線と表情のまま、男の体をまさぐっている。

 そう、私が今されている事を母親は男に対して行っていたのだ。

 娘が今にも汚されそうなのに、助けもしないで。

 

 最も、そのときの私には、そんなことは気にしていなかった。

 そんな余裕などありはしなかった。

 私自身、言いようの無い高まりに押し上げられていたからだ。

 

 「・・・あっ」

 

 後、一押し。

 

 どこかでそれを望んでいた私は、男が私の体からその手を離したとき

 思わず不満そうな声を上げてしまった。

 だが男はそんな私の反応には目もくれなかった。

 まとわりついていた母親を振り払うように押しのけると

 私の大きく広げられた足の間にその痩躯を入れ込む。

 

 「いやっ・・・」

 

 その行動の意味を悟り、急に恐怖心と羞恥心を呼び覚まされた私は慌てて足を閉じようとするが

 足首から伸びる鎖に邪魔されて足を閉じることが出来ない。

 

 あがく私を無表情のまま見つめながら、にじり寄る男。

 先ほどまでの恍惚が冷めて、改めて恐怖が沸き起こってくる。

 

 「お願い、止めて。それ以上こないで・・・」

 

 私は我知らず涙を流しながら、首を弱々しく左右に振る。

 しかし男は私の懇願を無視して、私の両の腿を持って大きく割り開く。

 

 「いや・・・」

 

 私には最早、効果の無い拒絶の言葉を繰り返す以外に、出来ることは無かった。

 そして私の中心に押し付けられる、生暖かくて柔らかい、しかし恐ろしい兇器。

 

 「・・・恨むなら父親を恨むんだな」

 

 男はポツリと呟いたその言葉とともに――

 

 ズンッッッッッ!!

 

 無表情にその腰を進め、私の中に割り入って来た。

 

 「き・・・きひぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 私は体の中心から引き裂かれるような痛みに、思わず悲鳴をあげてしまった。

 

 割り込まれていく場所がメリメリと音を立てるような――

 

 そんな錯覚を覚えつつ、何時しか私の意識は激痛に負け深い昏闇へと墜ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 そこから先のことは余り覚えていない。

 

 何処かの病院に収容されたこと。

 

 そこで意識を回復した私は、両親の死を知らされた。

 

 両親を喪い、そして暴行を受けたことによって心と体を激しく傷つけた私は

 暫くの間、病院で治療を受ける事になった。

 

 幸い体のほうはそれほど時間をおかず完治した。

 怪我らしい怪我といえば股間の擦過傷と裂傷だけであったし、妊娠といったことも無かった。

 しかし心の方は――簡単ではなかった。

 

 昼となく夜となく襲い来る快楽と恐怖。

 あの男にまさぐられた感触が不意によみがえり、私に興奮を与える。

 かと思えばあの男に割りいれられた激痛が再び私を襲い、私の心を恐慌へと落とし込む。

 

 交互に襲いくる相反する感情に、私の心は治療の甲斐なく壊れていった。

 そして壊れていく私の心の片隅に、1つの思いが生まれた。

 

 「私をこんな目にあわせたあの男が憎い」

 

 恍惚に酔い、恐怖に怯えながらも少しずつ育っていくその思い。

 最初はほんの小さなものだったそれは、徐々に成長し私の心を占領していった。

 そして最終的に、私の心は復讐心によって染め上げられることになった。

 そうすることで、私は自分の心を護ろうとしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――たとえ私の心がとうに壊れ果てていたとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 ――何故いまさらあの時の事を思い出したのだろう。

 

 今の私はクリムゾンのスパイであり――

 そして憎むべきあの男は地球で瓦礫の山に埋もれてしまったのだ。

 もう、あの時を思い出す事なんて無いと思ってたのに。

 

 「・・・私は確か・・・」

 

 あの時と同じように頭の痛みを堪えながら、私は現状を把握しようとする。

 

 「う・・・あ・・・ここ・・は?」

 

 私は確かブーステッドマン達と一緒にサツキミドリに来て――

 そこでアオイさんにであったんだ。

 そしてサツキミドリが地球に落ちるというので脱出しようとしていたんだっけ。

 脱出ポッドがある場所まで辿り着いたところで私は――

 そうだ。

 いつかみたいに後頭部に痛みを感じて気を喪ったんだ。

 

 「・・・あれ、アオイさんは何処?」

 

 ようやくそこまで思い出した私は、一緒にいたアオイさんの姿を探そうとする。

 しかし私が動かせる視界の中に、その姿を見つける事は出来なかった。

 そのかわりに私が見つけたものは一緒に来たブーステッドマンの1人。

 

 「感謝しなよ、通信機はONのままだ。

 お前の始末も俺の仕事の一つだったからな・・・」

 

 「あ、貴方は・・・カエン?」

 

 カエンは私が意識を回復させたのに気付いたのか声をかけてきた。

 そしてカエンの言葉に、ようやく私の意識は覚醒する。

 

 覚醒した私は落ち着いて状況を確認しようとする。

 そして確認した結果は――最悪だった。

 

 私は何時の間にかどこかに四肢を溶接されていたのだ。

 ――そう、まるであの時のように。

 

 「くっ・・・」

 

 何とか躯を動かそうとするが、全く動かない。

 これもあの時と同じ。

 

 私が自由になろうともがいている間に、カエンとアオイさん、そしてナオという男の3人で

 通信機越しに会話を続けていたようだ。

 

 

 

 「そう言うことだ、もう直ぐ俺の力も尽きる。

 最後の最後まで、悪役を演じさせてもらうぜ。」

 

 どうやらカエンの言葉にナオという男が反論しているらしい。

 だが、通信機の関係かその言葉は私には届かない。

 

 「俺達? 違うな、俺が憎んでるのはナオ、お前だけさ。

 そして、ぶち壊したいのはこの世界そのもの!!

 知ってるか? このサツキミドリの制御装置が爆破されたのを?」

 

 そんな!!

 

 私はカエンの言葉に、驚愕し絶句する。

 最初の計画ではそこまでしないはずだった。

 制御装置が壊れたままサツキミドリが地球に向かったら――

 地表は大変なことになってしまう!!

 

 「ひゃはははははは!!

 その顔が見たかったんだよ!!

 深い絶望と恐怖に彩られたお前の顔がな!!」

 

 「地下深くに避難していたとしても勿論無駄だ!!

 お前の大切な女は助かる事は絶対に無い!! そして!!」

 

 その言葉とともに、カエンの手が私の横に伸びる。

 その先あるのは――脱出ポッドの発射スイッチ。

 その行動が何を意味するのかを悟った私は、その衝撃に言葉すら出なくなる。

 

 『やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

 通信機越しに、アオイさんの絶叫が響き渡る。

 アオイさんもカエンの意図に気付いたようだ。

 

 「言った筈だぜ坊ちゃん!! 良い旅を・・・ってな!!」

 

 しかしカエンはその叫びをあざ笑うかのようにその手を押し込む。

 

 ガゴン!!

 

 扉が開く音と同時に――

 

 ドゴン!!

 

 「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 私の悲鳴とともに脱出ポッドが虚空へと凄い勢いで吐き出された。

 

 

 

 『チハヤ!!

 大丈夫かい!!

 今すぐ、扉を開くから!!』

 

 射出の衝撃により再び朦朧としていた私の意識に、アオイさんの言葉が聞こえてきた。

 

 たった一度の出会い。

 それだけなのにアオイさんは私の心にいつの間にか住んでいた。

 

 復讐心によって黒く染められていた私の心に。

 

 復讐という檻に自ら閉じ込めていた私の心に。

 

 アオイさんはあっという間に飛び込んできた。

 

 あのピースランドでの、他愛の無い話を交わしたほんの僅かな時間。

 その僅かな時間はしかし、いつの間にかいかなる宝石よりも価値を持つようになっていた。

 ――だからこそ。

 

 「駄目よ・・・扉が開くと同時に、私の身体も切断されるわ」

 

 彼をこれ以上危険にさらしたくは無かった。

 最早何をしても私は助からない。

 なら彼は――アオイさんは助かって欲しかった。

 

 『くそっ!!

 くそっ!!!

 何か方法があるはずだ!!

 諦めたら駄目なんだよ!!』

 

 その言葉の1つ1つに、心からの心配を感じることが出来る。

 その気持ちが私の心に暖かいものをあふれさせる。

 壊れきり、闇に染まりきったはずの私の心が変わっていくのを確かに感じるのだ。

 

 「ねえ、アオイさん・・・もう直ぐ大気圏よ。

 無駄な事はせずに、突入のショックに構えないと駄目」

 

 だからなのだろう。

 死に臨む私の心は何故か凄く穏やかだった。

 

 アオイさんが助かる。

 

 私を心配してくれる人が助かる。

 

 死に行く私を覚えてくれる人が助かる。

 

 たったそれだけの事で死ぬのが恐くなくなるなんて、私にも信じられなかった。

 

 

 

 『君が好きなんだ!!』

 

 

 

 !!

 

 『だから諦めないでよ!!

 一緒にナデシコに行くって約束したじゃないか!!

 僕は頼り無い男だけど、精一杯君を守るから!!』

 

 アオイさんの突然の言葉に、私は声も無く涙を流した。

 この涙は――嬉し涙。

 

 ああ、私にも嬉し涙が流せるんだ。

 

 そう思ったら、余計に涙があふれてきた。

 にじむ視界の先に、脱出ポッドと大気の摩擦による赤い炎が見え始めた。

 

 

 

 「・・・ズルイ、そんな事言われたら、覚悟が鈍るじゃない」

 

 暫く涙を流すに任せていた私は、アオイさんに最後の言葉を伝えるべく、口を開いた。

 

 『まだ希望はあるはずだよ!

 そうさ何か手があるはずなんだ!!』

 

 アオイさんには幸せになって欲しい。

 もう私は彼の横に立つことは出来ないのだから。

 

 そう思った私は、無駄と思いつつ言葉を紡ぐ。

 

 「卑怯なのは承知で―――言わせて貰いますね。

 私は穢れているんです。

 そして、弱い女なんです・・・そんな穢れている自分が、許せ無いんです」

 

 でもこの言葉すらアオイさんは受け入れてしまうのだろう。

 あの人は悲しいまでに――真っ直ぐな人だから。

 

 『そんな事無いよ!!』

 

 ああ、やっぱり。

 やっぱりアオイさんは、私の思ったとおりの人だ。

 

 私はアオイさんの言葉に、更なる喜びを覚えた。

 でも――私にはこのこだわりを捨てることは出来ない。

 このこだわりは、私の全て。

 あの日、あの時から、私はもうこれ以外の生き方を選べなかったのだから。

 

 少しずつ、視界に入る炎の色が濃くなっていく。

 摩擦によって発生した熱は、もう宇宙服の限界に近いのだろう。

 宇宙服越しにもその熱気が伝わってくる。

 

 「有り難う、アオイさん。

 私、最後の最後で夢を見れました。

 幼い頃の夢・・・何も知らず、幸せだったあの頃の・・・」

 

 意識がなくなる前に。

 

 私は耐えがたい熱気に包まれながら、アオイさんに感謝を告げる。

 

 『夢じゃない!!

 君は僕と一緒にこれからも生きるんだ!!

 生きないと駄目だ!!

 いや!!

 生きてくれ!!!

 

 ごめんなさい。

 その願いはもう――無理なんです。

 私だってアオイさんと一緒に生きたかった。

 でも。

 

 「幾つも、貴方に残したい想いがありました。

 伝えたい言葉も・・・沢山あります。

 でも、やっぱりこれだけは伝えておきたい。

 ・・・貴方が、すきで・・・」

 

 ――もう、意識が持たない。

 

 白い光に飲まれながら、私は今まで信じてもいなかった神に願った。

 出来るならば、私をこのまま原子にまで分解して、空へ溶け込ませて欲しい。

 そうすれば私は空からアオイさんを見守りつづける事が出来る。

 

 貴方が生き

 

 戦い

 

 そして老いて滅びていくその全てを――

 

 貴方を包む大空でたゆたいながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ねぇ、アオイさん。

 

 時には私の欠片が舞う空を見上げて欲しいの。

 

 悲しいこと

 

 苦しいこと

 

 辛いこと

 

 貴方を苦しめるものは全部私が受け止めてあげるから。

 

 だから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私のようにはならないで」

 

 

 

 

 

 

 

 そして全ては――無に還った。

 

 

 

 

代理人の感想

私も昔チハヤの話を書いたことがありますが・・・・・・

ここまでダークにはならなかったな(爆)

 

・・・・・なんか、このSSの反響次第では大蒲鉾ダーク論が再燃しそうな予感(核爆)。