――――地球 太平洋上 機動戦艦ナデシコ 艦橋――――

 

 

 

 

「まいど〜、出前で〜す」

「待ってました♪」

岡持ちを手にブリッジに入ってきたアキトにミナトは弾んだ声をかけた。

「はい、ミナトさんナデシコ定食、ルリちゃんチキンライス、メグミちゃんサンマ定食ね」

「アキト〜〜、私の火星丼はあ〜〜?」

「順番だ、ちょっと待ってろ!」

上から降ってきた声にそう怒鳴り返すと、慣れた手つきで岡持ちから料理を取り出すアキトだったが、すぐ近くから自分の手を見つめる視線に気付いてミナトに問い掛けた。

「……なんです?」

「ううん、まさかあの時はほんとに拳法の心得があるなんて思わなかったなあ〜〜ってね」

「はは……、あの頃はまだ七歳でしたから」

「ちなみに気付いたのはいくつの頃?」

「九歳です。まあやめる理由も無かったし、修行は嫌いじゃありませんでしたから」

 


機動戦艦ナデシコ

 

猛き軍神の星で

 

第三章


 

 

 

――――地球 房総半島沖合い上空 機動戦艦ナデシコ 着艦デッキ――――

 

 

 

「ウリバタケさ〜〜ん!」「お?」

中途半端な状態で発進してしまった為、当座の必要物資を急遽空輸させた搬入物資のリストとにらめっこをしているところに声を掛けられて、ナデシコ整備長 ウリバタケ セイヤは顔を上げた。

「なんだ?艦長。プロスの旦那に会長秘書さんまで一緒になってどうしたよ?」

「どうしたもこうしたも無いわよ!!」「まま、落ち着いて。穏便に穏便に……」

憤懣やる方無い風情で吐き捨てるエリナをプロスがなだめる。そんな二人とは対照的に、にこにこと嬉しそうなユリカに向かってウリバタケは尋ねた。

「一体なんだよ?」「お客様が来るんです」「はぁ?」

ユリカの言葉にますます訳がわからないという顔のウリバタケに、プロスが汗を拭き拭き説明する。

「いえ、軍からの要請でして。後で発表するつもりですが、ナデシコの目的地にある人物を同乗させて欲しいと言ってきたんですよ。目的地の事は極秘にしていた筈なのですが、おそらく軍のルートから漏れたのではないかと、はい」

「……ってえことはそいつは軍の関係者なのかい?」

「商売敵よ!!」「うわっ」

脇からエリナに噛み付くように怒鳴られて思わず引くウリバタケ。

「うちの企業戦略をぶち壊しにしてくれただけじゃ飽き足らず、今度は火星までタクシー替わり!?ふざけるんじゃないわよ!!商売人舐めてんじゃないのあの連中!!」「エ、エリナさん!その事はまだ!」

慌ててエリナの口を押さえるプロスの様子にまともな話はできそうに無いと見切りをつけ、ウリバタケはユリカのほうに向き直った。

「……で、一体誰が来るんだ?」

「はい。テスラ・ライヒ研の若手の研究員の方だそうです。なんでもナイメーヘン士官学校を次席で卒業された元軍人の方で、PTの開発にも深く関わってらしたそうですよ」

 

 

 

 

 

 

 

うおおおおおおおおお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!

 

到着したシャトルから降りてきた人物を見たとたん、整備班から重低音の歓声が上がる。

それも無理はない。

降りてきたのは一見したところではとても元軍人にも技術者にも見えそうにない、人好きのする笑みを浮かべた背の中程までの長い髪を風になびかせたスーツ姿の美しい女性だったのだから。今年二十八歳という事だが三、四歳は若く見える。

着艦デッキの床に降り立って風に舞い上がる髪を右手で軽く押さえると、その女性は戸惑ったように周囲を見回すと口を開いた。

「あら〜、わざわざ〜、お出迎えして下さらなくても〜、結構でしたのに〜」

早速噛み付こうと手ぐすね引いていたエリナだったが、その外見からは想像もつかない間延びしまくった口調に見事な先制パンチを喰らって腰砕け。

「ようこそ、ナデシコへ。艦長のミスマル ユリカです。ぶいっ♪」

「あらあら〜、これはご丁寧に〜。ではわたしも、ぶい♪」

すぐ隣りでずっとエリナの発散する殺気をまともに浴びていた筈なのに、隣りのジュンと違って全く消耗した様子の無いユリカのVサインに平然とVサインを返してその女性は自己紹介をした。

「エルファーナ〜、ナカハラと〜、申します〜。エルナって呼んでくださいね〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――火星 某所秘密ドック――――

 

 

 

「かあさま!」

そう叫んで飛びついてきた娘を少しよろめきながら受け止めて、ソフィアは相好を崩した。

「元気ですね、フィー。……少し背が伸びましたか?」

「はい」

視線を合わせて嬉しげに笑顔で抱き合う母子の姿を目を細めて見ていたレフィーナに脇から声がかけられる。

「ようこそ、艦長。乗員の慣熟訓練はこれからとしても、艦の仕上がりは自信を持って保証するわよ」

「フレサンジュ博士、お疲れ様でした。……ジガンスクードは?」

「……ごめんなさい、80%ってとこね。まあ、後は細かい調整くらいだけど。とりあえず、フィールドシールドは問題なく動かせるわよ」

「いえ。それなら充分です。まだパイロットも決まっていませんし。義妹いもうとさんもこちらにいらっしゃるそうですから、零式のノウハウを知り尽くした彼女がいれば調整くらいならたいしてかからないと思いますよ?」

「あの子来るの?……さてはビルトラプタ―やビルトシュバインが目当てね。すぐに送り出されてろくに見られなかったって愚痴ってたし」

イネス・フレサンジュ博士はそう言うと、やれやれと肩をすくめてみせる。

そんなイネスの様子に苦笑していたレフィーナだったが、不意に真面目な顔になると傍らにそびえ立つ赤い艦体を見上げた。

「……後は私たちの仕事ですね」

つられるようにイネスも同じ物を見上げる。

「そうね。私たちはこの艦で戦い、勝ち続けなくてはならない。……生き残るために。そして、この戦争の勝敗を決めるのは……」

期せずして二人の声が重なった。

 

 

「「ボソンジャンプ」」

 

 

「えっ?」「……あら」

二人はきょとんとした表情で顔を見合わせたが、次の瞬間くすりと笑みを交わした。

「考える事は皆同じ……、ですか?」

「そのようね。さて、ブリッジで副長がお待ちかねよ」

「あの人を差し置いて私なんかが中佐のうえ艦長だなんて、どうも申し訳無いのですけれど」

「言わない、言わない。士気高揚のためには髭の中年よりも若い女の子よ」

「そんな身も蓋も無い……」

「別に能力に不足がある訳でもないじゃない」

「……そうでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――木星圏 突撃優人部隊旗艦 戦艦かぐらづき 司令執務室――――

 

 

 

「……失敗か」

木連軍中将 草壁春樹は、その報告を受けてもさほど落胆は感じなかった。

もともとたいして意味のある作戦ではなかった。

地球側初の相転移炉式戦艦とはいえ、所詮はたったの一隻である。戦局に大きな影響を与えられるわけも無い。

破壊できたとしても地球側は既に実用化された相転移炉や空間歪曲場の技術を手に入れてしまっている。これから先、次々と新造艦を就航させてくるだろうし、その全てに対応できるほどの戦力は木連軍には無い。

「やはり、天魔の片割れを破壊できなかったのが大きかったな……」

地球と火星でほぼ時を同じくして現れた二体の大型機動兵器。

火星の黒い機動兵器は巨大な剣を振るってまるで葦でも刈るように無人艦隊を薙ぎ倒し、地球の青い機動兵器は三つの形態を使いこなしてこちらを翻弄した。

その二体には恐るべき被害を被っているのだが、妙にゲキガンガーを思わせるその能力に畏れに似た感情を呼び起こされる事もあり、優人部隊内では黒と青の『天魔』と呼ばれ、まみえる前から憎悪と畏怖の対象となっている。

そして、その二体の天魔の青い片割れは、無人戦艦から送られてきたセンサー反応のデータからみれば明らかに相転移炉を搭載していたのだ。

地球軍が青の天魔をテストベッドに相転移炉の運用データを集めているのは明白だったが、虫型戦闘機程度の火力では歪曲場を破るのが精一杯で本体の装甲に歯が立たず、戦艦の艦砲はそもそも機動兵器を狙うようには出来ていない。

木連とて無尽蔵の戦力を持っているわけではない。敵は天魔だけではないのだ。無闇に戦力を投入するのは戦局全体のバランスを崩すとされ、優人部隊の投入が可能になるまでは被害には目をつぶるとした判断が間違っていたとは思わないが、これからはもうこれまでのようには行かないだろう。

「まったく、どこまでも頭を悩ませてくれるものだ」

最近軍内部で囁かれている、あの二体は正義のゲキガンガーの移し身たるジンの図面を悪の地球人がどうやってか盗み出して作り上げた、悪のゲキガンガーだなどとという馬鹿げた噂を思い出して、草壁は軽くこめかみを揉み解した。

「ジンがあれほど強力なら苦労せんわ……」

木連の技術レベルははっきり言って低い。特に基礎技術の分野において地球に大きく立ち遅れている。

今のところ地球軍と良い勝負をしているように見えるが、それらの兵器は全て遺跡から得られたものをほとんどそのまま実戦に投入しているだけで、木連技術者が自ら開発した物ではない。

火星、木星という二重の放浪とその後の生活圏確保に汲々とした十数年の間に、苛酷な環境化で生きていくための遺伝子操作などの僅かな例外を除いて多くの技術が衰退し、人材の層の薄さもあってその立ち遅れを未だ取り戻す事が出来ていないのだ。

現に今進められている虫型の強化案にしても、機体上面に歪曲場発生装置を増設するという泥縄式のマイナーチェンジに過ぎず、鹵獲した地球の量産型機動兵器にしても技術の導入どころかコピーすら困難なのが現状である。早晩頭打ちになる事は明白であった。

木連系技術がその真価を発揮しだすのは戦後地球の技術との融合が図られだしてからであり、今は発展性のほとんど望めない遺跡からの借り物技術でしかない。

そんな中での自力開発に成功したジンタイプを実像以上に高く評価したい気持ちはわからないでもないが、こんな噂を地球の技術者が聞いたら憤慨するか鼻で笑うだろう。

「……やはり遺跡か」

そう呟いて草壁はインターコムのボタンを押した。

『はいはい、どなたでしょう?』

「草壁だ」

『ああ、これは草壁さんですか。今日は一体何の御用です?』

「単刀直入に聞くが、優人部隊の遺伝子処理の進捗はどうなっている?」

『ええ、順調ですよ。スケジュールの前倒しのせいで失敗が一割超えてますけどまあそれくらいはそちらも承知の上でしょう?』

「全員の処理を終えるのに後どのくらいかかる。大体で構わん」

『そうですねえ……、まあ長く見積もっても三ヶ月ってとこですか。急ぐんなら一月くらいは縮められますよ?多分失敗は二割越えるでしょうけど』

「いや、そういう事なら構わん。よろしく頼む」

『はいはい』

 

 

 

 

 

「…………とにかく、空間跳躍技術を押さえる事だ」

「その為にも、戦後の移住先の為にも、火星の住民には、何としても消えて貰わなくてはなるまいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、戦後木連内部でのGシリーズへの噂を知ったマオ社やテスラ研の技術者たちはそれこそ激怒したが、その理由は草壁の考えていたものとは大分異なった。

 

「俺たちのグルンガストをあんなパクリアニメと同列に並べやがって!!」

 

…………そう。世間に溢れる半端オタクどもとは一線を画した、ロボットアニメの黎明期からの古き良き名作の数々を知る彼ら『ロボットアニメ好きの末期症状』な人々にとっては、ゲキガンガーなどオリジナルテイストなど全く持ち合わせていない過去の名作の様々な要素の寄せ集めな噴飯物の駄作であり、軽蔑と嘲笑の対象でしかなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――地球 機動戦艦ナデシコ 艦橋――――

 

 

 

 

『ナデシコの目的地は火星よ!』

「…………火星、ですか」

コミュニケ越しにムネタケの言葉を聞きながら、あてがわれた部屋でエルナは軽く目を閉じて呟いた。

この戦争が始まって以来、火星の衛星フォボスに設置されていたニュートリノ通信施設が破壊された事により火星との連絡は極端にとりづらくなっている。

通常の電波通信も可能だが敵の通信妨害も激しく、たまに運良く繋がる事もあるので大体の戦況くらいは掴めているが、大規模なデータのやりとりなどとても不可能だった。

焦れた企業が自前で船を調達してでも火星の最新技術の回収を考えるのも理屈では無理は無いかもしれない。

ただでさえ建造が計画されているホウセンカ級空母への搭載機候補としては、エステバリスは新型エンジンへの換装によって飛躍的に増大した出力によってディストーションフィールドの展開が可能になり、慣性制御装置の改良や簡易重力波推進の装備で格段に運動性能の増したゲシュペンストMk−UタイプFに大きく水をあけられているのだ。

早急な救援が叫ばれる火星での大活躍による一発逆転の為、自社の最新技術の塊を火星に送り込むというのも素人目にはそう不自然ではないだろう。

だが、上昇志向が強い事でその筋では有名なネルガルの会長秘書までが乗り込んでまでやらなくてはならない事とも思えなかった。

この火星行き、何かネルガルには別の思惑があるような気がする。

(……まあ、私がそんな事考えたってしょうがないって言えばしょうがないんですけど)

そう考えて思考を打ち切ると、エルナは肌身離さず身に着けている胸に仕舞ったデータディスクを服の上から軽く確かめた。

(グレイ……、約束ですからね。私の知らないところで、死んだりしないって…………)

 

 

 

続く


後書き

 

やっと下準備が終わりました。これで大体キャラは出揃ったか?次回からは本格的に火星です。

「……あの。このエルナさんというのはどなたですか?」

『第四次』&『F』でのリアル系マイ主人公。顔は河野さんの熱血娘で性格は理論家。

「……なんでそんな事を?」

あんな見るからにぽわぽわした外見の娘がああいう喋りかたしても意外でも何でも無いだろうが。一見しっかりしてそうな顔して実は……という意外性が破壊力を倍増させるのだよ。ちなみにパートナーは『第四次』のほうの湖川顔ね。

「あっちの方がよりクールそうだからですか?」

うむ。名前もあっちの顔のイメージでつけたからな。オレンジの頭してグレイ・ランフォードもあるまい。

「どーでもいいですけどゲームやってない人にはわけがわかんない会話ですね」

だって、俺としては『凶鳥』の関係者から○モ疑惑が晴れたらロ○コン疑惑がかかったあいつは外せても彼女は外せんのだから仕方がない。大丈夫。よっぽどの大戦好きでなきゃこんなの読んでないって。

「自分で言いますか、そーゆー事。……にしてもあのネルガルがよく同乗認めましたね?」

この世界じゃ機動兵器部門でマオ社に大きく水開けられとるし、艦船部門での同業他社への技術的リードも僅かだからな。TV版と違って軍の機嫌を損ねるわけにゃいかんよ。

「あっちじゃほぼ独占状態なのをいい事に好き放題やってましたからね〜」

 

 

 

代理人の感想

パクリアニメって・・・・えらい言われ様だな(苦笑)>ゲキガンガー

まあ、その通りといえばその通りなんですが・・・・・。

あれは元からパロディないしオマージュであるからして、あまり適当な表現ではないかなと。

 

 

 

ちなみに私は第四次&Fならやっぱパット(熱血・女)とヘクトール(ちょっと変・男)かなぁ。

リン主人公×イルム恋人やウィン主人公(冷静・男)×グレース恋人(理論家・女)も

掛け合いは非常に美味しいんですけどね。