―――???―――
『ここまでは、計画通り進んでおるな』
通信画面脇のスピーカーからフクベの声が響く。
これまでのナデシコの行動もユートピアコロニーでの大破も全て火星側の予定の範囲内であった。
ゼンガーが火星での単独行動の危険性を熟知しながらただ土産だけ受け取ってナデシコと別れたのも、当初の計画に従っての行動だった。
ネルガルという企業の体質を考えるなら、最初から素直にこちらの指揮下に入るとは考えられず、ならばある程度痛い目にあって貰おうとわざとユートピア行きを見逃したのだ。
無論、ユートピアにはヒリュウがいるとの計算あってのことであり、これがいきなり極冠に向かうなどと言い出していたならば力ずくでも止めていただろう。
それらの事情を熟知しているその人物は、しかしながらその件については軽く頷いただけで今後の困難のほうを重視する発言をした。
「ええ。でも、まだ振り出しに立ったに過ぎません。一手間違えれば致命的窮地に追い込まれかねない現状は何も変わっていませんよ」
『責任重大じゃの。この老いぼれの最後のご奉公としては、少々荷が重いような気もするのだがな』
「何をおっしゃいますか。好き好んで背負われた荷物でしょうに。最後まで、責任持って運んでいただきますよ?」
老いてなお盛んな火星の精神的支柱の老提督のらしくもない弱音に、揶揄まじりの激励が飛ぶ。
『やれやれ、きついのう。……それにしても、前から聞いてみたかったのじゃがな』
「なんです?」
『君は、なぜそうまでネルガルの利益に反する行動をとるのかね?』
その問い掛けをしたフクベに帰って来たのは、内心を表に出さないまるで仮面のような満面の笑みだった。
「何のことやら。私は、可能な限りみんなで生き延びる為に最善の手段をとっているだけですよ?」
『…………ふむ。今は、そういう事にしておくか』
椅子を回して暗くなった通信画面に背を向けると、その人物は体を伸ばして懐から出した蒼い宝石を天井の照明にかざしてみた。
「……………………」
しばらくじっとその宝石のきらめきに見入っていたが、やがてその口元に先程とはうって変わった自らを嘲る暗い笑みが浮かぶ。
「『みんなで生き延びる為』、か。……どの口で言ってるんだか」
機動戦艦ナデシコ
猛き軍神の星で
第八章
―――火星 ダイダロス基地第二ドック ヒリュウ改 会議室―――
「当面の急務は、地球との連絡の回復よ」
戦隊司令 ムネタケ サダアキ中佐は、開口一番にそう言ってレフィーナ、ショーン、ユリカ、ゴート等の集まった面々の顔を見渡した。
火星軍に一時的に軍属として編入されたナデシコは、ヒリュウ改を旗艦とする独立部隊として二隻のみの艦隊を組み、遊撃任務に就くことが決定された。
要はあちこちで使い回される便利屋扱いだが、この強力な戦力を特定の戦域に貼り付けておくような贅沢をする余裕は火星にはないのだ。
大破した艦の修復とYユニットの装着に十日かけ、訓練を兼ねて二回ほどヒリュウと共にチューリップの破壊を行っての最初の大きな作戦。それは、開戦劈頭に木連に占拠された衛星フォボスのニュートリノ通信施設奪還と復旧の為の陽動作戦だった。
「付近の敵の撃破、施設内の掃討、防衛部隊の再配置、これらを二日以内で終了させる為にも、あたし達で敵を引っ張り出して戦力を消耗させとかなくちゃならないわけ」
ムネタケの言葉が続く。
チューリップから無限に湧いて出てくるように見える敵無人艦隊だが、木連とて戦力は有限だ。
これまで局地的戦力でこちら側を圧倒できたのは、チューリップを介することで兵力集中がたやすく行え、補給線の維持や前線基地整備などの手間をかける必要がないことなど数々のアドバンテージがあったからである。
だが、恐らく何も考えずに火星、月、地球とむやみに戦域を拡大していくうちに、それでも手が回りかねてきた観がある。
開戦当初に比べれば、明らかに無人兵器の襲撃のペースが落ちてきていた。
何の根拠もないが、機動戦力はともかく少なくとも敵の艦艇の数はそれなりに消耗しているはず。
無人艦とて戦闘をこなした後には整備や補給が必要であり、簡単には動かせなくなる以上、おびき出してしばらく戦った後は逃げてしまっても数日は戦力として考える必要はなくなる。この際はそれで十分。
それが、火星軍首脳部の出した結論だった。
もちろん的外れの推測である可能性は十二分にある。
単に大作戦の前に戦力を蓄えているだけかもしれない。
あるいは温存している未知の新戦力があるかもしれない。
だが、ヒリュウ改とナデシコという新たな力を得た火星に対する戦略を敵が練り直す前にこちらも攻勢に出る必要があった。
ヒリュウとナデシコを囮に敵戦力を引き摺り出して消耗させ、その隙にフォボスを取り戻して軌道上の勢力を押し戻し、地球との連絡と補給路を確保する。
うまく行けばいいが、失敗すれば最悪の場合、ヒリュウ改とナデシコに加えエル・ドラドの予備戦力をそっくり失うと言う取り返しのつかない傷を負う事になる。
だが、現状維持を続けていても計算上では火星は後半年で立ち枯れる。
言わばこれは火星の今後の命運を賭けた大博打だった。
「あたしたちは二日後に出撃。シャンバラコロニー付近のチューリップ掃討を装って敵をおびき出すわ。チューリップの破壊は可能な限り遅らせて大量に蜥蜴共を引っ張り出さなきゃならないからね。きつい作戦になるわよ」
一同は真剣な顔で頷くと、細かい作戦の検討に入った。
―――ヤマト・ナデシコ ウリバタケ研究所ナデシコ分室―――
「あ〜〜ったく!完成度高すぎなのよ!なんでこんなに将来余地が少ないわけ!?」
「そう言うなって。火星の施設内での運用の為つったって6mサイズの実現だけでもとんでもない事なんだからよ」
暗い部屋の中で光を放つディスプレイの前で、自棄気味にわめくナツキとそれをなだめるウリバタケ。
しばらくエステのパーツの補給は望めないが、もともと各フレームのパーツはかなり共通しており、ヒリュウとの共同戦線で今後はあまり使う機会のなさそうな陸戦と砲戦のパーツの流用でだいぶ長持ちしそうだと言う見積りが出たため、前言撤回してエリナがエステバリスの継続使用を主張し、強化案の提出を求めてきたのだ。
エステバリスは当初の要求どおりのバッタやジョロ相手の邀撃機としては非常に優秀な機体なのだが、対艦攻撃を行うには少々パンチ力が足りないのである。
ナツキに言わせれば、対艦攻撃はPT隊に任せてエステは防空に専念させるのが一番なのだが、さんざん社外秘をばらした負い目もあって拒否がしづらくこうして暇を見つけてはウリバタケと二人頭を捻っているのだった。
「接近戦はウリさん考案のフィールドランサーでいけるとしても、問題は火力なのよね。慣性制御装置のパワーが全然足りない」
「パイロットへの負担は耐Gスーツである程度何とかなるが、機体そのものへの負荷がなあ」
慣性制御とは単にパイロットへのGを軽減するためだけの物ではない。
仮に慣性制御によって機体の見かけ質量が十分の一になったならば、それは機体の出力が十倍に上がるか、あるいは強度が十倍になるということなのである。
軽量化と構造の強化と出力の強化が同時に達成できてしまうのだ。
機体構造や関節にかかる負担の軽減、反応速度の上昇、見かけ質量の低下による相対的な推力の上昇、数え上げればきりがないが、現代の機動兵器の設計と言うものは全て搭載できる慣性制御装置の性能を前提に考えられているものなのである。
もし機体の実効質量をゼロにすることができるなら、トップスピードからいきなり静止し、180度方向転換して最大出力でかっ飛ばすなどと言う無茶をしてもパイロットにも機体にも何の負担もかからないのだと言えばその重要性はわかるだろう。
極端な話、慣性制御さえしっかりしているなら機体のサイズは運動性に何の影響も及ぼさないのだ。
実例を挙げれば、ゲシュペンストMk−UタイプFは増大した出力を慣性制御に注ぎ込むことで、推力はM型と大差無い機体で空戦エステにどうにか対抗できなくもない空中運動性を実現している。
エステバリスの場合、電力は十分だったが肝心の慣性制御ユニットがサイズ的に低出力のものしか搭載できず、やむを得ず機体そのものを徹底的に軽量化する事で驚異的運動性能を実現したが、それは機体そのものを脆弱にした。
機体の強度的に反動を受け止めることができず、運用できる火器に制限ができてしまったのである。
かといって構造の強化をしようにも、あまりにも完成されすぎた設計がそれを許さない。
そもそもゲシュペンストとは設計思想そのものが違うのだ。
例えて言えば、ゲシュペンストは熊である。その前足の爪の威力は絶大であり、厚い毛皮はなかなか攻撃を通さないが、敏捷性や命中率にやや難がある。
それに対してエステバリスは狼だ。動きは俊敏で狙いも確かだが、急所を狙わなければ一撃で獲物を仕留める事は難しく、毛皮の厚さも熊に比べると心細い。
同じ戦い方をしろと言うのがそもそも無茶なのだ。
「フィールドをランサーで突破してバズーカでもブチこむか?うちの連中の腕ならやってのけるだろうが……」
「パイロットの腕に頼りきりじゃ、メカニックとしては、ね」
重苦しいため息をつく二人。
「いっそ新フレームでも開発した方がいいんだけど、こんな最前線じゃできることにも限度があるし。本社の連中もこれくらいの事はわかってるだろうけど、問題は今なのよね」
胡坐の上に片肘ついてぼやくナツキ。
「当面は、間に合わせで凌いでもらうしかないのかなあ……」
その言葉でふと思い出したことがあって、ウリバタケはディスプレイから顔を上げた。
「間に合わせと言や、あんた御自慢のアレはどんな調子だ?」
「ああアレ?まあ運用データも揃ってきたし、それなりにましになってきたわね。あの愚弟でも六発は撃てるでしょ。六発目で身動き取れなくなるだろうけど」
「運用データか。ヒリュウの方でもフィーちゃんのおふくろさんがフィールドシステムのアップデートに大わらわなんだってな?」
「あの子の負担少しでも減らそうって大車輪よお。母は強しよねえ」
などと小休止して二人が話しているところに大声上げて飛び込んでくるバカ一人。
「博士!!ここか!?」
「…………またあんた?いい加減にしてくれない?」
この二週間ほどの間、毎日のように繰り返されている言葉のデッドボール。
口を開くのも億劫な態度でナツキは闖入者、ヤマダ ジロウに向き直った。
「そんな事言わないでさあ!頼むよ!俺にもゲキガンソード作ってくれよ!」
「……だから!!斬艦刀作ったのはあたしじゃないって何度も言ってるでしょうが!! 」
「またまたぁ。そんな謙遜したって俺はごまかされないぜ?皆を守る為戦場を駆ける弟!弟を技術面で支え厳しくも暖かい目で見守る姉!くぅぅぅ〜〜〜っ、燃える王道じゃねえか!!」
(…………人があんたらの生還率少しでも上げるために必死に知恵絞ってるっつーのにカッコばっか気にしてこのバカはぁ…………)
剣呑な空気を全身に纏って小刻みに肩を震わせだしたナツキの様子になど全く気付かないヤマダ。いろいろな意味で大物だ。
「やっぱ男は熱血斬りだぜ!!そう思うだろ!?なあ、頼むよ!!」
「…………い、い、か、げ、ん、に…………、しろ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「げふうっ!?」
「……………………ふう」
もはや突っ込む気力も湧かずに眼鏡を拭うと、八つ当たり気味に廊下に蹴り出したヤマダにアーチェリー・バックブリーカーをキメるナツキには構わずにディスプレイに向き直るウリバタケであった。
―――ヤマト・ナデシコ 格納庫―――
「どう?ゲシュペンストにはもう慣れた?」
「慣れるも何も、もう二回は実戦こなしてるんだけど?」
邪魔にならないように格納庫の隅に並んで座っているイツキの問い掛けに、アキトは心底疲労した返事を返した。
開発したのはネルガルの人間ということでエリナが強引にぶん取ってきたグラビトン・ランチャー。
イネスとナツキが交代した主な理由の一つにこの試作兵器の面倒を見るためというのがあったのだが、全長29mという巨大さから今のところPTでしか運用できず、誰か一人は機種転換させざるをえなかった。
というわけで最もエステの経験が浅く、まだ操縦にクセのないアキトに白羽の矢が立ったのだ。
操縦性はジャンプや接近戦もこなせる砲戦フレームといった感じで慣れるのは早かったのだが、カチーナの連日のしごきがとにかくこたえた。
「『ヒヨッコには一秒でも早く雛鳥になってもらわないとこっちの身が危ない』って私もカチーナ教官には養成所でさんざん絞られたわね……」
疲れた顔で笑いながら、元気出してとアキトの頭をなでるイツキ。
そんな二人の視界の隅を、銀髪のポニーテールの少女が肩を落として通り過ぎていくのがちらりと見えた。
「……何か御用ですか」
「ここ何日か、通信でお話しようと思っても着信拒否ばかりでしたでしょう?お忙しいのかなって、気になりまして……」
「ええ。忙しいですね。あんまり忙しくて世間話をしている暇もありません」
「…………あの、何か、お手伝いしましょうか?」
「いえ、これは私の仕事ですからお気持ちだけ頂いておきます。すみませんが、今日はお引取りいただけませんか」
「………………はい」
「……わたくし、ルリに嫌われているのでしょうか……」
アキトとイツキの間にちょこんと座り込んで、話し終えたアルフィミィは沈んだ顔で俯いた。
「「……うーん」」
その頭上で困惑した顔を見合わせる二人。
(そういえば、初めて顔あわせた時からなんかよそよそしかったよな……)
アキトは一ヶ月前のこの基地での、互いの艦のメインクルーの正式な顔合わせの時の事を思い返してみた。
――― 一ヶ月前 ダイダロス基地第四会議室―――
「というわけで、皆さんよろしくお願いしますね。ナデシコ艦長のミスマル ユリカです。ぶいっ♪」
(((((((((((…………やると思った…………)))))))))))
ナデシコ側乗組員の心がひとつになった瞬間だったが、ヒリュウ側の反応はかなりまちまちだったりした。
「は……、はい……。よろしくお願いします……」
困惑する者。
「いやいや、それにしてもそちらも美しい女性が多いですなあ。それも様々なタイプが揃って実に目に楽しい」
セクハラ発言に走る者。
「今後のフォーメーションについて相談がしたいんだが、そちらの隊長は誰だ?」
何も見なかったかのように打ち合わせに入ろうとする者。
「う〜ん、女教師としてはやっぱり投げキッスの一つも返さなくちゃいけないかしら?」
「……お願いですからやめてください」
妙な対抗心を燃やす者。
(軍人さんってのはもうちょっとちゃんとした人達だと思ってたんだけど)
多分この人々は相当特殊な例外だと思うが、状況が変わるわけでもないのでそうだとしてもルリには何の慰めにもならない。
騒ぎの中で密かにうんざりしていると、すぐ横から鈴を転がすような可愛らしい声が聞こえてきた。
「あの……、あなたが、ホシノ ルリですか?」
何の気なしに脇に目をやると、自分とほぼ同じ高さから真っ直ぐに自分の目を見つめてくる一対の金色の瞳の視線にぶつかって思わず固まる。
「………………あなたは?」
「ヒリュウ改のメインオペレーターをしています。アルフィミィ・ネートですの。……お友達に、なってくれますか?」
歳の近い相手にはじめて会うせいか、いつものゆったりした口調だがずいぶんとはしゃぎ気味でルリにあれこれ話しかけている娘の様子に苦笑しながらも、戸惑った様子のルリに冷静になる暇を与えるべくソフィアは横から助け舟を出した。
「フィー、そんなに一度に話しかけても答えられませんよ」
「かあさま」
笑顔のままこちらに振り返るアルフィミィにつられた様に視線を向けてきたルリの眼が軽く見開かれる。
「ソフィア・ネート博士?火星のナノマシン工学と人工知能開発の権威……」
小声の呟きが聞こえてくる。
「あら、御存知でしたか。まあ、一応自己紹介しますね。この子の義理の母の、ソフィア・ネートです」
笑いかけながら手を差し出すと、しばらくじっとその手を見つめた後に軽く手を握ってきてすぐに離した。
「……よろしく」
「あなた達の体調管理のことも多少はわかりますから、体の調子が悪いと思ったら連絡してくださいね。これでも医師免許は持っていますから」
「……そうですか」
どうにも反応がよそよそしいのが気になったが、初対面で指摘してもますます頑なになるだけだろう。
(……ここは子供同士のほうが良いかも知れない)
自己紹介の後は一歩下がって、話を再開する娘と硬い表情で言葉少なに答えるルリの様子を眺めていたソフィアだったが、部屋の入り口から入ってきた人物を見て表情を輝かせるアルフィミィに激しく嫌な予感に襲われた。
「始まっていたか。すまない、帰還が遅れた」
「とうさま♪」
「「「「「「「「「「「「「「「何ですと――――――――!?」」」」」」」」」」」」」」」
「もう、うちのボスとそんな関係になってたんならなんで話してくれなかったんです♪」
「……そうやってまぜ返されるからだろう」
「え、え?いえ、あの、その、あの」
アルフィミィとルリ、二人のマシンチャイルドの対面に皆がこっそり聞き耳を立てていたらしく、ちょうど出撃から帰還してきたゼンガーへの娘の一言にその場の全員が大騒ぎになって詰め寄ってきた。
そのせいで、皆に囲まれて柔らかな笑顔で話すアルフィミィを硬い表情で見つめていたルリが静かに部屋を出て行ったのに気付いたのは、ほんの数人だけだった。
―――ヤマト・ナデシコ 格納庫―――
「……どうなのかな。初めて会う自分と同じ相手に戸惑ってるとも取れるけど……」
「……そうなら、いいのですけど」
沈んだ顔で自分の膝を見つめるアルフィミィ。
アキトはそんなアルフィミィの頭にぽんと手を置くと、髪が乱れるのも構わずくしゃくしゃとかき回した。
「やん、なんですの?」
「ま、ルリちゃんがどう思ってるかはこの際関係ないさ。フィーちゃんは、どうしたいんだい?」
明るく問いかけてくるアキトに向かってアルフィミィは一瞬きょとんとした顔を見せたが、すぐに笑って答えた。
「ルリと、仲良しになりたいですの……」
「なら、やることは決まってるよね?」
「はい。あきらめないで、話しかけてみますの……」
「頑張ってね」
「はい!」
軽く微笑んで顔をのぞきこんで来るイツキに向かって元気に返事をするアルフィミィだった。
―――火星 シャンバラコロニー上空 戦艦ゆめみづき 艦橋―――
(……ひどいものだな)
市街地を見下ろして、白鳥 九十九は心の中でそう呟いた。
受領した新造艦の完熟訓練がてら火星にやってきたが、どの占領地を回っても目に入るのは眼下の風景と同じ、破壊し尽くされた廃墟のみだった。
(本国のいったい何人が、この風景を知っているのだろう)
その思いと共に、本国にいた頃は感じなかったこの戦争への疑問が湧いてくる。
そもそも、この風景を作り出して自分達はいったい何を得たのだろうか。
最初の頃は、ただ勝った勝ったと国全体が沸き立っていた。
だが、開戦から三ヶ月も過ぎたあたりから街中から物が消え始めた。
物流の統制が行われ、生産能力は軍事に傾けられ、生活物資は開戦前とは比較にならないほど欠乏している。
食料が配給制になるのも時間の問題だろう。
市民にそれだけの負担を強いて得た物は何かと言えば、眼下に広がるこの一面の廃墟のみだ。
(悪の地球を滅ぼし、我ら選ばれた民の真の正義と熱血を邪悪な地球人共に知らしめるのだ、か……)
開戦時の草壁中将の演説の文句を思い出す。
確かに、百年前の地球の行いは許せないと思う。
だが、既にこれだけの事をしでかしてしまった自分達にそれを言う資格はあるのだろうか。
かつての月独立運動強硬派への核攻撃が許されざる蛮行であり、それに対する報復が当然なら、抵抗の術を持たない民間人への無差別攻撃を行った自分達もまた断罪されるべき罪人ではないのだろうか。
火星にやってくるまで考えたことも無かったそんな事を白鳥が考えていると、背後から彼を呼ぶ声があった。
「どうした九十九?なにをぼうっとしている」
「元一朗」
この一番艦ゆめみづきを最初に続々と就役しつつある優人戦艦ゆめみづき級。
二番艦を任せられるのはおそらく秋山源八郎かこの男だろうと言われる親友、月臣元一朗だった。
「まるで心ここに在らずといった様子だったぞ?体調でも悪いのか?」
「いや。……これからの事について少し、景色を見ながら考え事をな」
重力下でのマジンの扱いに慣れておくのもいいと便乗してきた月臣が隣にやってくる。
「そうか。俺がいつも考え無しに突っ走る分お前や秋山に面倒かけるな」
長い付き合いの友人は、これからの戦いの事についてだと単純に勘違いしている。
艦橋の窓の外を眺める月臣の横顔を見て、白鳥は不意に月臣がこの眼下の景色をどう感じるか問いただしてみたくなった。
自分自身でも生まれてはじめて胸に芽生えてきた思いに戸惑っていたのかもしれない。
「…………なあ、元一朗「報告します!!」
だが、それは部下の突然の声にさえぎられた。
「どうした!?」
一瞬で優秀な艦長の顔に戻って問いただす白鳥。
「警戒領域に接近してくる移動物体を二つ確認!質量から見て戦艦クラスと思われます!」
「戦艦だと……?」
胸騒ぎを感じながら艦橋中央に戻る二人。
「哨戒機からの映像、出ます!」
その声とともに、正面モニターに紅と純白の二隻の戦艦が映し出された。
「こいつは!!」
喜色満面で拳と掌を打ち合わせる月臣。
「面白い。初陣が天魔相手でないのは残念だが、相手にとって不足は無い!九十九!!」
「ああ。本国に連絡!今動かせるありったけの増援を要請しろ!本艦も跳躍門そばまで移動する!」
「はっ!!」
打てば響くような反応できびきびと動き始める艦橋乗組員達。それを頼もしそうに見やる白鳥の横から、今にも駆け出したくてうずうずしている顔で月臣が声をかけてきた。
「九十九、俺はマジンで待機しているぞ」
「ああ。俺も後から行く」
駆け出していく月臣を見送って正面に向き直ると、哨戒の虫型が破壊されたらしく何も映さなくなった正面モニターを睨み付けて白鳥は唇を引き結んだ。
(考えるのは後だ。今は、戦うのみ!)
続く
後書き
次回はみんなで大暴れ〜♪やっとこさヤツのお披露目です。
掲示板でいろいろご意見をいただき改めて考え直してみましたが、やはりノーマルのままではエステバリスは攻撃力が足りんという結論に達しました。
『IMPACT』での単機でのあのあまりにもトホホな攻撃力や合体攻撃の使い勝手の良さと燃費の悪さから言っても、母艦の周りで集団で寄ってくる相手を迎撃してるのが一番似合うんですよ。狼は群れで狩をする生き物ですし。
なもんでエステ系の単独での派手な活躍は地球からの第二陣の到着までお預けになると思います。火星で『アレ』を作るのは現状ではちと困難。
「……なんだか私、フィーさんへの態度が冷たいんですけど」
君達がいかにして生涯のまぶだちになるかもこの話の大きな見せ場になる予定なんでな。君達の確執というか君の一方的な拒絶は結構続くぞ。
「この頃はまだ意固地ですからね、我ながら」
この時点ではまだそう簡単にはカミングアウトは望めんわな。
「……人を変質者みたいに言わないでください」
代理人の感想
そりゃ一機一機の破壊力でエステがPTと互角に遣り合えるわけありませんわな。
エステの特徴、この場合なら機動性とチームワークを活かして
どうにかPTとエステ両方に華を持たせるのがクロスオーバー書きの腕ってもんです。
まぁ若年寄さんはどうしてもPTを活躍させたいらしいのでこの問題についてはもう言いませんが。
後、別の場所でも言いましたけどこのままだとユリカ辺りは死にキャラになりかねませんね。
戦術指揮技能以外でプラス方面に目立てるところが殆どないわけですから、彼女(爆)
ちなみにカミングアウトというのは「私は少数派(表現に配慮しております)ですと宣言する」ことなので
合ってるよーな合ってないよーなw