どうも、皆さんお久しぶりです。連合宇宙軍中佐、ホシノ ルリです。

ただいま、警備員の格好した二人組に荷物みたいに担がれて運ばれてます。

結構なピンチの筈なんですが……、変ですね、ちっとも危機感が湧いて来ません。

私、まだ寝ぼけてるんでしょうか?

 

 

機動戦艦ナデシコ

嵐を呼ぶ乙女達

 

第四話  最強の少女

 

 

騒ぎは唐突に起こったが、首謀者たちの意図していたものとは違う形だった。

会場に仕掛けられた爆弾は特大の花火にすりかえられており、彼らにも仕掛けるのは流石に無理だったステージの演壇下で大量の発煙弾が炸裂したのだ。

幸いステージの人間に怪我は無かったが、それにタイミングを合わせて、警備室のモニターに建物に雪崩込んでくる火星の後継者の兵士達の姿が映り、非常警報が鳴り響くに至って混乱は頂点に達し、一六歳の小娘一人が会場から姿が見えなくなった事など誰も気に止める余裕は無かった。

 

 

「まったく!どっちがテロリストだか解りゃしない!」

「半年前までそのものだった人が何を言ってるんですか。」

「……それを言われると弱いな。」

廊下を走りながら話している男女の二人組の男の方の肩の上に担がれながら、ルリは混乱する頭を必死に落ち着かせようとしていた。

危機感が湧かない理由はすぐに解った。

自分を後ろ向きに担いでいる男の声を聞き間違えるはずが無かった。

この半年間ひたすら捜し求めてきた大切な人。

自分やユリカはおろか、あれだけ世話になったネルガル関係者にも生きているとの連絡一つ無かった薄情な男。

見つけ出した時どんな態度をとるか自分でも見当もつかなかった事は確かだが、今彼女の脳裏を占める一番大きな感情は、彼女自身意外に思った事に、怒りだった。

(私にあれだけ心配掛けさせておいて、いざ顔を見せたかと思ったら荷物扱いして別の女性と掛け合い漫才ですか?私だってもうじき十七なんです!綺麗になったねとか大人っぽくなったねとかほかに言う事がたくさん有るじゃないですか!!)

…………恋する乙女思考に身を任せている場合でもないと思うのだが。

(大体なんですかその女性は!私は知りませんよ!!この半年私やユリカさんを放り出して新しい女とよろしくやってたとでも言うんですか!!もしかしたらもうアキトさんはとか考えたくもない最悪の事態まで夢に見て夜中に何度飛び起きたか!!私の安眠を返してください!!大体アキトさんは…」

「いやその……ごめん。」

「今更謝られたって許しません!!そもそも……え?」

我に返るとアキトが空いた右手で頬を掻いているのが気配で判る。

「声……出てました?」

「……もうじき十七って辺りから。」

つまりほとんど聞かれたと言う事になる。

「ちなみに、別に私はアキトさんに特別な感情は無いわよ?」

たちまち顔を真っ赤にして縮こまるルリの姿に堪え切れなくなったか、蘇羅がくすくすと笑い出した。

 

 

会場から十分に離れたのでルリを降ろし、三人で小走りに走りながら簡単な事情を話す。

「はあ。つまりナノマシン目当てに私を攫おうとしている方がいるので攫われる前に攫ってしまおうと。そういうことですか?」

「まあやってる事は大して変わんないしねえ……。」

蘇羅も端的過ぎるルリの表現には苦笑するしかない。

「でも、襲撃を受けてるわりに静かですね?」

「そりゃそうよ。襲撃なんか無いんだから。」

「え?」

こんな記念式典を制圧した所で火星の後継者にメリットは無い。彼らは単に爆破テロを仕掛けただけである。

建物内のセキュリティはあらかじめ蘇羅に完全に掌握されていたのだ。

混乱は大きければ大きいほど良いという事で、警備室に偽の映像を流し、非常警報が鳴らされると同時に通信を不通にするという念の入れ様である。

「さてと、あとはこの先のテレポートゲートで船に戻って援軍を待てば……アキトさん?」

急に立ち止まったアキトに蘇羅は訝しげな声を掛けた。

「気付かないのか?囲まれてる。……結構な数だな。」

 

 

ゲートを隠して置いた地下駐車場まで後少しという所で四方の通路の気配をうかがうアキトと蘇羅。

「……やはり囲まれてる。どうする?強行突破するか?」

「いえ、ここまで仕掛けて来なかった所を見ると駐車場の出口にも何らかの罠が有るでしょう。……多分最初のハッキングに気付かれてたんだわ。向こうが一枚上手でしたね。」

「なら、別方向に行くしかないか。」

「いえ、ルリさんをかばいながら戦って勝てる連中じゃ有りません…………。」

蘇羅はアキトの言葉に答えず、じっと考え込んでいたが、やがて顔を上げるとアキトにポケットから取り出したものを渡した。

「ルリさんを連れて一旦船まで戻ってください。私はボソンジャンプに耐えられませんし、しばらくは一人でももちますから。」

「CC?どうやって手に入れた?」

「こんなのユートピアコロニー跡に幾らでも転がってますよ。帰りは船にあるのを使ってください。」

「解った。すぐ戻る。」

そう言ってルリを連れて消えるアキトを見送った後、蘇羅は一人呟いた。

「戻って来れる余裕が有れば良いんですけど……。98、あんたなら見切りはつけられるわね?」

 

 

ぶつぶつ言いながら亜空間キューブを回す蘇羅。

「カルナの船が軌道上をうろうろしてる……。いくら多聞が優秀でも月軌道なんて限られた場所で虱潰しにされればそう何時までも隠れてられない。そんな所にルリさんを一人で置いていくなんて捕まえて下さいって言ってるような物……。」

空中からごついアサルトライフルが落ちてくるのを受け止める。

「もし見付かれば多聞の武装じゃ勝負にならない。ルリさんには多聞の指揮権を設定してない以上アキトさんに戻ってこられちゃ拿捕してくれって言ってるようなものだし。速力じゃはるかに上だから逃げるのは簡単だけど、そうなれば私の命は絶望的……。アキトさんに私を見捨てられるとも思えないし。最悪、98、あんたが頼りよ。そっちの判断は任せるわ。」

『ワカッタ。出来レバソンナ決断ハシタクナインダケドネ。』

「なら、うまくいくようにでも祈ってて頂戴。」

『誰ニダイ?』

「そうね。ギャラクシーポリスのラプラスの女神にでも。」

『樹雷ノえーじぇんとガヨク言ウヨ。』

こちらが待ち伏せに気付いた事を勘付き、通路の向こうに現れた敵に銃撃を浴びせる蘇羅。

「高い装備使ってるわねえ。こいつの威力じゃ一点に三発は撃ちこまないと駄目か。」

休憩所の壁の窪みに隠れ、何でも無い事のように言い放ちながら一人、二人と撃ち倒していく。

「狙撃用は威力はともかく連射がきかないし。響美輝印のパワーライフルの採用、本気で考えなきゃ駄目かな?爆発しそうで嫌なのよね〜。」

 

 

「シカシマア、イキナリ見付カルトハ思ワナカッタナ。」

停船勧告を聞き流しながらチャフをばらまき、砲撃をかわす多聞。

「軽く言うな!!のんびりしてる暇は無いんだぞ!!」

「全くです。そんな調子で良く電子艦を名乗れますね?」

「仕方ナイダロ。普通アソコマデ派手ニぼーす粒子がバラ撒カレルナンテコトアリエナインダカラ。文句ハ響美輝ニ言ッテクレ。」

たまたま近くを敵が通っていた事も不運だった。アキトとルリが多聞にジャンプアウトした時に周囲に大量に発散したボース粒子を検知されてしまったのだ。

むろん多聞には艦の性質上、これでもかこれでもかと言うくらいのステルス装置が装備されていたが、ボソンジャンプなどという既に銀河の歴史に埋もれた過去の遺物の事まで想定されてはいなかったのである。

だからこそ妨害システムに引っかからずに艦内にジャンプ出来たとも言える訳だが……。

「なんとか逃げ切れないんですか?」

「振リ切ルダケナラ簡単ナンダガ、ソウスルトナルト星系カラ飛ビ出ス位ノ覚悟ガ要ルンダ。時間ノ余裕モ無イシ、蘇羅ヲ助ケタイナラコノ場デ撒クシカ無インダヨナ。」

理由はアキトにもルリにも解っていた。

確かにボソンジャンプに距離の制限は無い。だが、それはあくまでイメージが完全ならという条件付の事なのだ。

ある程度曖昧なイメージでもジャンプは出来る。しかし、その場合ジャンプ距離が開けば開くほど誤差が出る。

ジャンプする人間のよく知る場所に跳ぶのならば問題は無いだろうが、この場合アキトが跳ぶのは一回通っただけの特徴も無い廊下だ。

軌道上から月面までで既に相当な距離なのだ。これ以上距離を開けては最悪、壁の中にジャンプアウトしかねない。

アキトとラピスのリンクは、感覚を補うのに併せてラピスを通してダッシュにジャンプイメージの修正をさせる働きも有った。

しかし、ラピスの心の健全な成長を妨げると鷲羽によって既にリンクは切られている。全くの自力でジャンプするしかなかった。

「くそっ!何分経った!!」

「モウジキ十五分。マズイカナ、コレハ。」

焦りの声をあげるアキトと、相変わらずな口調の98。

蘇羅の戦闘能力は良くわかっている。銃の腕前は神業的なものがあるが白兵戦技はそこそこでしかない。狭い通路とはいえ数にまかせて距離を詰められてしまえばどうにもならない事は見えている。

「ア、ヤバイ。」

急に98がぼそっと呟いた。

「何だ!?」

「ろっくおんサレタ。超高速みさいるガ来ルゾ。」

言うやいなや直撃が来た。ブリッジが激しく揺れ、シートにしがみつく二人。

「くっ、被害は!」

「しーるどニ二発直撃。艦体ニ被害ハ無イケド次食ラウトマズイナ。」

「……艦載機での応戦は出来ませんか?」

それまで静かにしていたルリが口を開いた。

「五ヶ月前の話は伺っています。アキトさんがあのD-1で牽制しているうちにこちらは隠れて、敵がこの船を見失い次第アキトさんは単独でジャンプするというのはいかがですか?D-1は放棄する事になりますが……。」

「イヤ、ソンナノ響美輝ガウルサイダケダケドサ、アレハ本来船外活動ヤ突入作戦ナンカニ使ウモノデネ、チャントシタ戦艦ノしーるどヲ破レルヨウナ火力ハ無インダ。……オヤ、前方ニえねるぎー反応。モウ一隻イタノカ。」

「そんなこと軽く言うな!!」

 

 

 

「エネルギー臨界。照準固定。いつでもいけます。」

「……ん。○スターラ○チャー発射。」

 

 

 

多聞の進路を塞いだ敵艦が勝ち誇ったように停船勧告を送ってきた次の瞬間、突如飛来した眩い光弾が一撃でその艦を消し飛ばした。

それと同時に多聞のセンサーに高速で接近してくる新たな反応が捕らえられる。

「何だ?」

「フム、間ニ合ッタカ。サッキノ攻撃トイイコノすぴーどトイイ、間違イナイナ。」

 

 

「敵、主砲の射程内に入りました。」

「……LEON、主砲一斉射。多聞との間に入って。レールキャノンスタンバイ。弾種核融合榴散弾。」

「了解。」

 

 

それから先はあっけないものだった。

その高速を活かして突っ込んできたその戦艦は、多聞の楯になるやいなや主砲とレールキャノンの砲撃により瞬く間にもう一隻も沈めてしまったのだ。

「片付イタカ。」

「ご存知なんですか?」

「アア、援軍ダヨ。高速戦艦『帝釈』ダ。」

ルリの問いに軽く答える98。アキトは緊迫した声で言った。

「なら、ここはもう良いな?98、CCは何処だ?」

『……大丈夫。』

突然通信ウィンドウが開き、一六歳ほどの長い黒髪をアップでまとめた少女の顔が映る。

『……助けはもう行ってるよ。』

          み や こ
その少女、三ノ宮 美夜呼はそう言うとにこりと笑った。

 

 

(結構粘った方だと思うけど……ここまでかな)

自分の頭に突きつけられる銃口を、蘇羅はどこか人事のように眺めていた。

実際、善戦した方だろう。銃が役立たずの距離まで詰められた後も、津羽輝のやり方の見様見真似の連続テレポートによる撹乱で二人は倒したのだ。

だが、元からさほど体力がある訳でも白兵戦向きでも無い彼女にはそれが限界だった。先程弾き飛ばされた光剣の柄は手の届かない廊下の向こうに転がっている。

(なんでかな……、全然怖く無いや。)

こんな仕事をしている以上、いつかこうなる可能性の事は常に頭の隅にあった。その時には自分の性格から言って見苦しく泣き喚きながらでももう少し足掻くのではないかと思っていたのだが。

(こんなに若くて美人なんだし、多分、あれされたりこれされたりしちゃうんだろうになあ……。)

目の前の男たちが拘束の為の手錠を取り出すのをつまらなさそうに眺めながら、蘇羅が暢気に洒落にならない未来予想図を頭に思い描いていた時だった。

「間に合いましたか。」

突然、そんな声が横から割り込んできた。

「遅いわよ。」

当然のように声の主に話し掛けながら、もしかしたら自分はこれを予想していたのかも知れないと思う蘇羅。

「遅すぎはしませんでしたから。大目に見て頂けませんか?」

 

 

「あなた方の船は既に沈みました。投降してください。」

樹雷風の平服のままで、膝裏までの長い黒髪を背中に流したその一六、七程の少女は男達に告げた。

たかが女一人と見たか、蘇羅を人質に取ろうともせずに少女へと殺気を向ける男達。

「投降する気は……無いようですね。」

そう言って一つ溜め息をつくと、少女は両方の袖から一本ずつ光剣を取り出し両手に構える。

(馬鹿ねえ、その娘に勝てる訳無いのに……。)

それを眺めている蘇羅には十秒後の光景がはっきりと予想できていた。

(私達五人がかりでもその娘一人に敵いやしないのよ?はっきり言って私は一番弱いんだからね?)

                       あ や め
「三ノ宮三女、阿修羅の阿耶芽、……参ります。」

 

 

続く

 


後書き

むう、前回といい今回といい、うちのルリは少々へっぽこ気味。

ま、所詮は一六の小娘です。妄想にふける事も状況を忘れる事も有るだろうという事で。

この程度なら可愛いもんでしょ?

台詞が少ないとお怒りのあなた、申し訳有りませんが次回をお持ちください。

 

それはともかく、三ノ宮姉妹やっとこさ勢揃い。ようやく阿耶芽が書ける。

一番の気に入りが阿耶芽なのは動かないんですが、この話始めてから急に蘇羅のお気に入り度が上がってきました。

初期設定では現場指揮官として時には初音かーさんも圧倒する冷静沈着な迫力お姉さんだったんですが、すっかりキャラが砕けてしまって……。

おかげでかえって動かしやすくなったのは嬉しい誤算ですが、本人は喜んで無いだろうな。

あと、ラプラスの女神とは当然彼女の事です。(笑)

では、次回をお待ちください。それと、メールでも掲示板でも構いませんから感想ください。お願いします。


重戦闘空母『持国』

天下御免のトリガーハッピー少女、響美輝が自分の乗艦としてひたすら趣味に走って作った大型戦闘空母。

必要以上の重武装に加え、両舷側に艦軸に沿って六百m級バス○ーラン○ャーが二門装備されており惑星くらい破壊できる火力を誇る。

また、津羽輝や響美輝の乗機の他に艦の制御AIの操る四十八機のビッ○モビ○スーツを持ち、速力が犠牲になってはいるが単艦でそこらの国の正規艦隊とでも正面から渡り合える戦闘力を誇る。はっきり言って機動要塞と言った方がしっくり来る。

こんなもん何に使うつもりで作ったんだなどと言ってはいけない。この船はあくまで個人的趣味で作られた物なのだから、運用効率だの費用対効果だのは最初から考えられていないのだ。

武装   バ○ター○ンチャー×2

      主砲 反陽子砲×32

          連装プラズマショック砲×40

          ターレット式四連装レールキャノン×58

          四連装対艦ミサイルランチャー×12

          八連装多目的ミサイルランチャー×20

機動兵器五十機(+予備八機)を運用可能

制御AIはD.O.M.E..。

 

高速戦艦『帝釈』

三女 阿耶芽、四女 美夜呼の運用する非常に戦艦らしい戦艦。

とにかく趣味に走った偏りまくった設計が特徴の響美輝オリジナルメカの中では例外的にバランスの取れた性能を持つ。

とはいえ響美輝印には変わりなく、艦首に二百m級バス○ー○ンチャーを内装していたりするのだが。

特徴としてはその群を抜いたスピードであり、美夜呼のオペレートによるその高速を生かした神出鬼没の戦闘を得意とする。

                             ファントム
また、制御AIの操る超高性能無人機とワンセットになっている。

武装   ○スターランチ○ー×1

      主砲 反陽子砲×6

          連装プラズマショック砲×8

          連装レールキャノン×16

          四連装対艦ミサイルランチャー×2

          六連装多目的ミサイルランチャー×4

機動兵器三機運用可能

制御AIはLEON。

 

 

代理人の感想

ルリ、ボケキャラへフェイズシフト。

いや、「考えてることを無意識の内に口に出してしまう」なんてのは

ボケキャラ、突っ込まれ役の専売特許みたいなもんなわけで。

どこぞの激走小僧ハリレンジャーを思い出していただければ納得はできるでしょう(笑)?