時に2199年─地球人類は、かつて無い繁栄を遂げていた。
古代火星の先住者の遺産、ボソンジャンプの登場である。
これにより人類は、永遠のテーマ:『出来るだけ短時間で、大きな物を運ぶ』を克服。
資源問題やら、相対性理論やら、とにかく多くの問題を解決した。
しかし発展に代価は付き物である。
今現在の人類は、この技術を完成させるに辺り、
A級ジャンパーと言うボソンジャンプに適した人々に対して、人体実験を行ったのである。
地球の偉い人達は、自分の家族が平穏であること、
やや先の見え始めた人類の未来への淡い希望を胸に、事実を隠蔽し続けた。
お陰で、安全かつ便利なチューリップ移動ゲートを完成させるに至ったのである。
しかし人類の新しい希望は、皮肉にも発展分に相当する大災厄に変質した。
隠蔽していた事実の当事者達が、次々に反旗を翻したのである。
機動戦艦ナデシコ〜ありふれた財宝〜
第一話「『ダークネス』な来客者」
ハラン・ヨウコウ艦長は、今日も無能な上官に無茶な任務を押し付けられた。
「全く人使いが荒いねぇ、ココは」
艦長様に付けられた専用イスに頬杖をつき、爽やかな苦笑を漏らす。
しばらくの後、コミュニケを通して、全クルーに先程言いつけられた任務を実に簡潔に説明する。
「今回の任務は、すぐ近くの敵の無人機を殲滅する。因みに、目的地までたったの五分弱だ」
この号令を境に、ナデシコBはさながら大晦日の如くの大忙しとなった。
既に準備万端のエステバリスは、たったの2機。他にも幾つかあるのだが、現在パイロットが不在である。
2機のパイロットのうち、一人は女の子にモテそうな青年、テンカワ・アキト。
もう片方は、ざんばら髪にへの字口、頬に小さな十字の傷がある少女、サガラ・キリカである。
片やなりゆきで軍属になったひよっこ、片や先祖代代軍人の筋金入りだったが、何故か馬が合う様で、
今日も余った時間をおしゃべりに費やしていた。
「『今回の作戦』とか言ってたけど、いっつもソレばっかなんだよなぁ・・・」
アキトが心底嫌そうな顔をして言うが、キリカの方はうなづかない。それどころか説教を始める。
「いや、世の中もっと難しい任務があるぞ。例えば、俺がナデシコBに乗る前の部署なぞ・・・」
「あぁ、戦闘宙域に来たみたいだし、後で聞かせて貰うよ」
額に汗をたらーっとながしながら、すこし早く戦場に出発した。
が、先行し過ぎた為にアキトの機体の周りには、無数のバッタや、トンボ等の無人機が群がる。
アキトは素早く上へ、後ろへ、縦横無尽に駆け巡り、ピンポイントな射撃を繰り返す。
が、集中力が途切れる。
後方から黒光を放つ・・・、人間型の機体がやって来た。
「まだ遠いけど油断できない」
プレッシャーと言うのだろうか?そういう何かに気圧され、アキトの動きが鈍る。
その瞬間、バッタ達がピラニアの様に殺到する。
機体が揺れる。幸いディストーション・フィールドのお陰で致命傷には至らなかったが、それ相応に修理費のかかりそうだ。
なんとか持ち直し、バッタを粉砕するも、次に黒い機体が仕掛けてきた。
有人機だったらしく、かなり手強い。思わぬ誤報に面食らったのもあるが、それを置いといてもかなりの腕前だ。
ナイフで応戦するが、楽々避けられる。それどころか体当たりを貰ってしまう。
そんな彼に救いの手を差し伸べる様に、ナデシコBからのグラビティブラストの射線上に並ぶ。
しかし、それすらも黒い機体は悠々と避けてみせる。
「何て速いんだよ。コノっ!!」
次々放たれるハンドカノンから逃れる術も無く、ただ振動に揺さぶられる。
このまま死を待つだけかと思ったら、今度はさらに面食らう。相手が通信を入れてきたのだ。
「・・・・・・」
「っつ!!誰だ!!お前は何者なんだ!?」
っと、黒バイザーに黒いパイロットスーツの男に問う。
「俺の正体を言ったら、お前は何て反応するかな?」
フィールドを突き破られ、各所に支障が出始めたアキトの機体を見ながら、自嘲気味に言った。
「な、何言ってんだ?いきなり!?」
「はははははっ、今回は俺に免じて見逃してやろう!行くが良い」
謎の問答の末、後には混乱したアキトが残される。
漆黒の彗星は、真っ直ぐに飛び去った。障害物とばかりに線上の物体を消し去りながら・・・。
アキトは思い立った様に後をふらふらと追うが後の祭り。
それどころか、何時の間にか重力波エネルギーの範囲外にいた。
引き返そうにも、漆黒の機体の後詰めとして、残していったカブトムシとクワガタが数匹出現する。
カブトムシもクワガタも、バッタよりは元に似ている。
接近戦に優れているという点でもだ。
重力波の外だからエネルギーの無駄使いは出来ない。
一気に片を付けなければ、自分の命が無い。
先程失った集中力をもう一度高めようとするが、なかなか上手くいかない。
致命傷を上手く与えられず、逆に突進攻撃により気を失う。
普通こういう状況だと、走馬灯を見るらしい。
「そういえば、まだ走馬灯が見えないんだけど、そんなに薄っぺらい人生だったのかなぁ?」
アキトは、独り言をその後も延々と続けるが、無人機の方は、方一向に止めを差す気配が無い。
機体を行動不能にするだけで、次のターゲットに移行する律義なプログラムは、またもアキトを置いて何処かへ去った。
その後、彼は、奇跡的に親友のガイに助けられた。
「へぇ、次にソイツが現れたら、俺がお前の仇討ちをしてやるぜ」
ガイが自信満々で、例の相手について返答した。
「いや、まだ死んで無いよ」
自分でバンドエイドを貼りながら答える。
ぐいぐいと彼の服を涙めの少女が引っ張る。
「アキトぉっ、ごめん。誕生日とか、座右の銘とか、ふつーのことしかわかんなかったよう」
アキトに泣き付いている少女は、ラピス・ラズリと言ってこの艦のオペレーターである。
「そっかぁ、ラピスちゃんでもわかんないのかぁ。それじゃ仕方ない」
彼は、先程の人物に関してと、何となく自分の素性をラピスに調べるように依頼したのである。自分の手料理を報酬に。
結局、接触してきた謎の人物はわからずじまい。アキトについても、自分の知っていることばかりであった。
「ぬぉーっ!!正体不明の黒ずくめのライバルかぁーっ!!羨ましいぞぉぉーっ!!!」
等と一人の世界に浸っていた。
「アキト、アキトのチキンライスが早く食べたいよぉ」
「あぁ、ごめん。忘れてた。約束したもんね」
アキトは深く考えないでおこうと決心して、その場を立ち去った。
因みに、ガイは、彼らが帰って来るまでハイテンションに絶叫し続けたという。
あとがき
ども、はじめまして?ワシ丸と申します。
はじめて小説を書いたんですが・・・、
さておき次回からはユリカやルリも登場の予定。
しかも大ボスで(笑)。
こんな小説でも応援してくれたら嬉しいです。
ではでは。
代理人の感想
・・・ほほぅ?
黄色アキトと黒アキトが同じ世界に存在してて、しかも視点は黄色アキトですか。
これは結構新鮮ですね。
続きが期待できそうです。