「ドワアアァ・・・」
TYPE-Dのロゴが記された耐久G測定のコンテナ形ボックス。
回転し続ける空間の中で耐え切れず悲鳴を上げてしまう。
身体検査、体力測定テスト・・・。
短い時間での強行検査に近頃、運動不足の俺は根をあげそうになる。
(人相手の面接なら楽勝なんだけどな・・・)
等と苦笑気味に嗤う。
20年間の放浪生活で身に付いたペテン術。
人の良い軍人を騙すことなど俺にとっては朝飯前だった。
もっとも全てが嘘という訳でもなかっただけに余計タチが悪い。
とりあえず・・・最後の心理テストさえ終えれば俺は・・・晴れて軍人になれる。
導かれるまま指定席に座ると、空からバーチャル機器が無造作に落ちて来た。
ゴツンと骨を直に当てての強引な装着。
その配慮無しの扱いにさすがの俺も苛立ちを覚えた。
<<ジャスティ・ウエキ・タイラー、志願者番号E−7、以上相違ないかね?>>
目の前に飛び込んでくるのは角刈りのゴリラ男、
いかにも、と言った感じの真面目な軍人を見て不愉快値数が急速に上がる。
「はあ〜、一体何が悲しくてムサ苦しい男と二人きりで話し合わなければならないかな」
「ムサイ男!?」
「ああ、頼むからアップにならないで・・・こういう時は可愛い女の子が対応するのが相場でしょう?」
別に男が嫌いという訳ではなかったが、今まで溜まり溜まったストレスをその軍人にぶつけてしまう。
吐いてしまった言葉を取り消す気もおきない。
案の定、目の前の軍人は怒りを露にする。
<<うう、志願者如きにこのような屈辱を味わったのは初めてだ。クソッたれめ!!>>
<<交替しました>>
男の捨て台詞と共に画面が切り替わる。
現れたのは可愛い女の子、そう確かに可愛い女の子だ。
腰まで届く髪を、ポニーテールで結んだ輝かしい銀髪、
人々を魅惑する黄金色の瞳に可愛らしい小さな鼻、
抱きしめれば折れてしまいそうな細長いウエストに長い脚、
唇を一文字に結んで可憐に微笑むその姿は
間違いなく超の付くほどの美少女だった。
けれど・・・この世で誰よりも見知っている俺にとっては恐怖の女王でしかない。
その恐ろしさに柄にもなく震えてしまった。
「璃都(リト)ちゃん・・・何でそこにいるの?」
惑星連合宇宙軍の軍服を着こなした彼女に向けて質問する。
<<アルバイトですよ。見てわかりませんか?>>
軽くウインクしながら可憐な微笑で応える。
1000人の内999人は間違いなく騙されるであろう魅力的な微笑み、
だが、例外の一人である俺は騙されない。
「嘘だ!!作為的なモノを感じる!!絶対嫌がらせだ!!」
<<本当に大丈夫ですよ(微笑)
私の許しも得ずに勝手に飛び出したこととか、
何の相談も無く軍隊に入ろうとしたこと等を根に持って妨害しようと思った訳ではないですから>>
「根に持っているじゃないか!
角刈りのおじさ〜ん、ごめんなさい(泣;;)
俺が悪かったから戻ってきてくれ〜〜〜
この子に比べたらあんたの方が百倍マシだよ」
<<失礼ですね。アキト様(怒)心配しなくてもテストだけはちゃんとしますよ>>
「だけなんだな?
テストだけで終わってしまうんだな?」
俺の絶望を込めた突っ込み。
それを軽く無視して彼女はテストを推し進める。
<<第一問、アキト様は無人島にいます。
アキト様の他には敵ラアルゴン兵士が一人。
双方武器は所持していません。
アキト様ならどうしますか?>>
「ラアルゴン兵士を殺して味方の救援を待つ」
軍事マニュアルの模範的な答えを持って応えるが。
<<ラアルゴン人と協力して無人島を脱出するのですね。失格です。第二問目・・・>>
あっさりと違った答えに変えて採点する。
「ちょっと待て!!!」
<<何ですか?アキト様?>>
「言葉を履き違えるな!俺はそんなことは言ってないぞ!!」
<<気のせいです>>
「気のせいで済ますな!!」
<<では第二問・・・>>
「無視するな!!!」
<<言葉に注意してください。その態度も審査の対象に入りますよ>>
「その前に審査官を代えろ!
そうでないと答えを歪曲されたと訴えてやるからな!!」
<<わかりました。
歪曲しようのない実技テストだと文句無いのですね。
はい、どうぞ>>
イメージの中で38式銃が手渡される。
拍子で受け取る俺、唐突に変わるイメージ。
廃墟な町並みの中央広場に立たされ、
見渡すと300人以上の敵歩兵が俺目掛けて射撃体勢に入っている。
<<では、始め!>>
「ちょっと待て!!」
ドドドドドドッドドッドド・・・・
呆気なくGAME OVER。
<<実技テスト終了しました。倒した敵は0、アキト様は秒殺、
惑星連合新兵200万人中でも後ろから数えてダントツ1位です。
これはある意味凄い才能ですけど、残念ながら失格です>>
「ちょっと待て!!!」
今日一日で何度目かの悲痛な叫びを上げながら呼び止める。
「こんな理不尽なテストがあってたまるか!!
こうなる事も妨害されることも充分に分かっていたけど
俺を苛めるのがそんなに楽しいか?
俺の苦しむ姿を見るのがそんなに楽しいか?」
みっともない位の号泣。
わかってはいても実際やられるとさすがに堪える。
わかってはいても訴えずにはいられなかった。
そんな俺の様子にやり過ぎたと感じ取ったのだろう。
<<わかりました。今度は真面目にいきます>>
素の表情に戻し真面目な口調で取り掛かろうとしていた。
<<第二問、アキト様は何故軍に入ろうとするのですか?>>
先ほどと打って変わった淡々な口調。
しかし、その事を告げる彼女の瞳は微かに揺れていた。
その縋るような瞳に過去から続く己の過ちを意識せずにいられなかった。
そうさせたのは紛れもなく俺なのだから・・・。
今回の件に限ってはちゃんと相談するべきだった。
「忘れ物を取りに来たんだ」
おふざけは欠片も含まない真剣な答え。
愛しい者を愛でる感じで優しく話す。
「あれから20年も経つけど心はあの頃から止まっているような感じで・・・、
もしかしたら俺の外見が大して変わらないのもそのせいかも・・・、
原因というか謎というか・・・、とにかく置いて来た何かを取り戻すために入隊したいんだ」
俺と彼女にしか分からない抽象的な言葉。
しばらく無言で見詰める彼女だったが・・・。
<<そう言えば私が認めるとでも思ったのですか?>>
唐突に黄金色の瞳をすうっと細めて軽く睨む。
未知の迫力に気圧され思わず上体を仰け反る。
<<思いつきで軍に入ろうとした人にしては上等な言い訳ですね。
仮に本当の事だとしても、そんな中途半端な気持ちで入隊されたら
一生懸命戦っている他の軍人さん達に大変迷惑です>>
一発で見抜かれているよ。
さすが長年の付き合いだけのことはある。
もし彼女が敵だったら俺の人生はその場で終わっていたな。
<<・・・という訳で結果発表です。
ジャスティ・ウエキ・タイラー、志願者番号Eー7。
軍人としての全適正は全て最低、思想的にも問題あり・・・>>
目の前で次々と押される不適合の判。
そりゃ、思いつきで軍に入ろうとしたよ。
君の心情も考えず、事前に相談しなかった俺が悪かったよ。
だけどな・・・だけどな・・・。
「世の中、力と正論だけで人が納得すると思うなよ。喰らえ!!」
装着されたバーチャル機器を勢いよく剥がし、
手持ちのコートに隠していた携帯用ハンドバズーカー取り出しては無造作に乱発する。
ドガーン、ドガ−ン、ドガ−ン・・・・
威力は乏しいが無防備に密集した精密機器を壊すには充分な威力だ。
破壊された機械から火災が発生、隣の機械を巻き込んでは炎上する。
<<アキト様が壊れた・・・>>
予想外のアクシデントに電子の中の少女は事態を呆然と見詰めていた。
ふふふ、驚いているな。
しか〜し、これで終わりじゃないぞ。
「更に・・・」
ポケットからポタン式リモートコントローラを勢いよく取り出す。
1970年代に流行ったアナログデザインの旧式コントローラだが
ボタンを押した後の反響に思わず陶酔する。
「秘密兵器、GO!!」
ポチ。
ドッガーン
先ほどの爆破テロが可愛く思えるほど大規模な爆発が参謀本部の中核を襲う。
その爆発の余波に周辺のブロックもただならぬ被害を受けて
散発的な爆発が立て続けて沸き起こる。
「ははは、見たか!!」
己のいた場所も危なくなったので爆風に巻き込まれる前に持ち前のコートを素早く拾い
その場から退散する。
<<それじゃ、ただのヤツ当たりですよ>>
勿論、璃都には欠片ほどのダメージも与えていない。
結果として何の罪も無い惑星連合の参謀本部が多大なる被害を被っただけだったのだ。
惑星連合参謀本部
「何事だ!!」
大爆発による振動によって会議室がパニックになり
その混乱を引きずったフジ参謀総長が堪らず叫ぶ。
「何者かによる破壊工作です。
メインコンピューター大破、爆風の余波で散発的な爆発が続いています。
中央ブロックを始め7つのブロックが炎上、被害は依然進行中です。
またコンピューターウイルスによって全ての回線が麻痺、
テロリストの存在を確認することが出来ません」
「うろたえるな!炎上ブロックの消火活動と共に情報回線の修復を急げ!!」
「索敵網回復、これは!!」
いち早く回復した探索網に偶然ともいえるタイミングで捉えた。
ラアルゴン帝国のドローメ級巡洋艦。
司令部の者達はテロリストをそっち除けて国境を越えてきた敵の対応に追われた。
「賊はどこだ!!」
「賊を逃がすな!!」
大通りを飛び交う罵声。
38式銃を両手で握った軍人の群れが、俺の隣を走り抜ける。
冷静になった今となって己の過ちに後悔するが後の祭り、
とにかく肝を冷やす思いで何事も無く通り過ぎようとするが、
「賊か!?」
「どわ!!」
願いも虚しく、己に向けられた38式銃。
向けられた銃口の切っ先に恐怖したが
銃の持ち主を確認すると言い訳が閃き
誤魔化すように話し掛ける。
「上等兵曹殿でがありませんか?私ですよ。タイラーですよ」
「おお!タイラーか・・・あの爆破からよく生き延びたな・・・」
面接に立ち会った上等兵曹。
彼も俺を思い出し、向けた銃口を取り下げる。
「一体どうなっているんですか?」
とりあえず何も知らない振りをして状況を聞いてみる。
すると意外な言葉を耳にすることが出来た。
「ラアルゴン工作員による破壊工作だとよ。
爆発騒ぎで混乱している所をラアルゴン戦艦が攻め寄せているそうだ。
戦艦の方は迎撃艦隊が出動してるから問題ないがこちらの方は未確認だ。
我々は内部に潜むラアルゴンの工作員を倒しに行く所なんだ」
「ありゃ〜、そうですか・・・でも私は一体どうなるんでしょう?」
恐ろしく都合のいい展開だ。
指名手配されないだけマシといえる。
「な〜に言っているんだ。
合格だ!ラアルゴンが攻めてきたんだ。試験も何もないだろう・・・
手続きは全て済ませておいた。
明日からは晴れて惑星連合宇宙軍の一員だ。
じゃ俺はいくからな、お前も頑張れよ!」
嵐のように去って行く上等兵曹。
その後ろ姿を見詰め消えたことを確認すると五感を閉ざし、
ある人物との交信にのみにイメージの全てを降り注ぐ。
イメージの中の少女は不機嫌そうな表情を浮かべていた。
<<仕方ないじゃないですか、
アキト様をこのまま犯罪者にさせる訳には参りませんでしたし・・・>>
頬を微かに紅葉色に染めソッポを向くその仕草がなんとも可愛らしい。
俺の波長から自分のことで笑っていることに気付いた彼女が突然不機嫌になる。
<<そのかわり私の言うことは何でも聞いて貰いますからね。
拒否権は認めませんから・・・そのつもりでいてください>>
頬を真っ赤にして怒るその顔がなんだが照れ隠しのように思えたわけで・・・
(ありがとう)
イメージの中の彼女を真っ直ぐ見据えながら綺麗な笑顔を浮かべる。
澄み切った微笑を直に当てられた彼女が顔中を真っ赤にし貌を横に背ける。
長年の付き合いから、からかい過ぎると痛い目をみると分かっていたので
彼女の仕草に突っ込まず、そのまま繋がりを断ち、五感を回復させる。
<<アキト様の忘れ物・・・見つかるといいですね>>
断ち際に放った彼女の言葉に嬉しくなる。
何事も上手くいくような予感、
「よし、行ってみようか〜〜♪」
次々と火の手が上がる参謀本部を後にして清々しく去っていく。
あとがき
突然20年先まで話を飛ばしてしまいました(汗;)
過去の話を期待してくださった皆様、早速裏切ってしまってごめんなさい。
私にはあれ以上の話を続けることが出来ませんでした。
ボソンジャンプで20年先の未来に直接飛ばされたことにしてもよかったのですけど
数々の御都合主義を有効にするためにあえて歳を取らせました。
それでも外見は変わらず(20歳だと言い切っても通用する若い容姿)
しかし、璃都ちゃんがいなかったらアキトは間違いなくテロリストとして指名手配されていましたね。
いや、下手すると現行犯として捕らえられ刑務所に直行すること間違い無しです(主人公なのに;;)
次はハナー提督とのOO、
正直、どんな気持ちで立ち会うか未だ迷っています。
その気持ち次第で今後の展開がガラリと変わってしまいますから・・・。
今回のハイライト人物
☆テンカワ・アキト
ボソンジャンプの事故で無責任の世界に迷い込んだ元テロリスト、
20年間、ラアルゴン帝国、惑星連合・・・等様々な土地を彷徨い
その度に璃都の手を借りて名を変え続けている。
現在の名はジャスティ・ウエキ・タイラー
遺伝子操作の後遺症か不老の特性が付いている。
他にも色んな問題がありそうだが現在の所未確認。
代理人の感想
んー、基本設定は全く変わってないようですが・・・それでも先が楽しみではあります。
やっぱり私は話より文章で読むタイプなのかなぁ(苦笑)。