「タワケ共にお灸をそえた・・・と、相変わらず奥の深いことで・・・」
「何を独り言を申しておる?」
「いや〜、こちらの話ですよ。お気になさらずに・・・。
しかしヤマモト大尉ですか・・・。
連合大学を主席で卒業した逸材の割には使い物にならないモノですな。
あのハナー元中将閣下を葬り去る絶好の機会をみすみす逃してしまうとは・・・
情けない情けない」
参謀本部の司令室でフジ参謀総長が扇子を煽(あお)ぎながら
ミフネ中将と涼しげに語っていた。
「彼は関係ない、あの死に損ないが余計なことをしなければもっと上手くいった筈だ。
それよりそんな悠長なことを申してよいのか?
あの死に損ないの口から20年前の黒い噂が公になればお主こそ困ると思うのだが・・・」
と、虎鉄を手にしたミフネ中将が云う。
「私がですか?ミフネ中将閣下も冗談が上手い。
20年前といったら私など下っ端ですよ。そんな恐れ多いことなど、とてもとても
困ったことがあるとすれば先任の尻拭いに奔走されることです、いや〜困った困った」
困った素振りで扇子を煽ぐが、彼の眼は凶悪に輝いていた。
道化を演じている普段の彼からは想像もつかない、
悪戯を思いついた残忍な子供の瞳。
先任を含めた過去の事件に携わっていた者達を心底同情してしまう。
自業自得、といえばそうだが凶悪で残忍な本性を隠している
フジの毒牙にかかることを考えると、そう思わずにいられないのだ。
「しかし、どちらにせよ、痛い損失を被ったものだ。
オメガ星雲で40万に及ぶ敵の大艦隊が確認された。
そう遠くない内にオリオン座方面にまで攻め寄せるのは火を見るより明らかだ。
10万にも満たない我が艦隊では苦戦は必死であろう。
決戦前夜に士気を高めるどころか敵の工作員によって
士気は地の底まで叩き落とされてしまった。
まあ、済んでしまった事を嘆いても仕方ないことだがな」
「まだ悲観するのは早いのですよ」
扇子をパチンと勢い良く折りたたみ、手前のコンソールを素早く操作する。
そして司令室から光が消え、四方に漆黒の宇宙が浮かび上がる。
バーチャル化、
部屋の四方全体に宇宙空間が映り出された。
そしてその空間に居並ぶモノ。
「な!!」
漆黒の空間に居並ぶモノ、
その正体は戦艦だった。
とてつもなく無数の戦艦が一定の間隔で規則正しく整列している。
千や万単位の数ではない。
部屋の四方を埋め尽くさんばかりの戦艦の列が宇宙の果てまで続いている。
「数十の他惑星とその他数千のコロニー群より製造された
新生惑星連合宇宙軍の大艦隊です。
その数、100万、ラアルゴン帝国との交戦時には
この雄姿が現実となるわけです。
まあ、おかげでかなりの利権を手放す結果にはなりましたが
あなた方が稼いだ20年という年月は
決して無駄ではなかったということですよ」
ミフネ中将に告げるフジの口調は淡々としたものだった。
自慢げに話すでもない。見せびらかすでもない。
普段の彼からは遠く離れた異質な気配、
その気配に歴戦の兵さえ気圧されてしまう。
「・・・だが寄せ集めの軍艦であろう。
いざという時に指揮系統が乱れては話にならん!」
気圧された反動で放たれた、苦し紛れの言い分であったが
フジ参謀総長はそのことを真顔で受け止め真摯な口調で語りかける。
「さすがはミフネ中将閣下、痛いところをつかれましたな。
確かに烏合の衆、構成員の籍も人種も文字通りバラバラ、
しかも敵に発見されることを恐れ、ろくに演習さえしなかった雑兵です。
しかし、その問題もたった今解決したところですがね」
「たった今だと?」
「ええ、たった今閃きましたよ。
世間を虜にしたハナー提督の隠し子、ジャスティ・ウエキ・タイラー、
名将ヤマモト・マサシ殿の御子息であられるヤマモト・マコト大尉、
この二人が見せ場を用意してくれればミフネ中将閣下の悩みも晴れるでしょう」
「お主・・・まさか・・・」
「彼等の尊い犠牲は無駄にならないでしょう、
それによって惑星連合は一致団結し・・・」
「ならん!!ヤマモト大尉だけはどうしてもならん!
あの者は兎も角、ヤマモト殿の御子息を捨て駒のように・・・」
「ミフネ中将閣下、それは問題発言というものですぞ。
タイラーは良くてヤマモトはダメと・・・
まあ、そのことは聞き流しましょう。
ですが彼には是非とも引き受けてもらいますよ。
ラグーン会戦の立役者、名将ヤマモト・マサシ、
彼の者に心酔している者は銀河規模に及びその数は計り知れず、
そして亡き名将の御子息であられるヤマモト・マコト大尉、
新生惑星連合宇宙軍を一つに纏める重要な要、
御剣(みつるぎ)作戦の要は彼に置いて他にありますまい」
「御剣・・・作戦だと!?」
その一言でミフネはフジの思惑を察した。
たった今閃いたという類ではない。
恐ろしく念密に計算された計画だ。
前からフジがヤマモト大尉のことを気に入っていなかったことは知っていた。
フジはそういった者達を捨て駒のように扱い、そして最高の成果を挙げてきたのだ。
今度の作戦だってそうだ。
敵にバレようがどうだろうが今の艦隊を満足に演習させていれば
こんな茶番を仕組むまでもない。
もしかしたら双方に抑止力が働いて戦争なんぞ起きなかったのかも知れない。
しかし、そんなことをこの者は望んでいない。
ラアルゴン帝国に対する憎悪の念、
そこから突き動かされる彼の者の驚異的な行動力。
その力を買い、全面的に支えてきた・・・が。
「悪魔め・・・」
そう呟かずにはいられない。
自分は取り返しのないことをしてしまったのではないかと・・・
フジはその呟きを聞き取ったのか、
そんなミフネを見上げ囁き掛ける。
「その悪魔に魂を売ったのは・・・」
閉ざした扇子をパサッと開き口元を隠す。
「ミフネ中将閣下、あなたですよ」
扇子から覗けられる道化すら黙る凶悪な瞳の輝き。
その瞳でミフネは全てが手遅れだということを悟る。
あとがき
渡来です。お待たせしました。(待っていなかったよ、という方も^^)
1,2ページは三日で書き上げたけど3ページ目から現実逃避してずるずると・・・
リアルが忙しくなったというのもありますが本当に現実逃避してました(自分はこんな暑苦しいキャラじゃないんだよと;;)
構成その物が膨大に膨れ上がり制御不能になったもの連載が遅れた原因、
しかし、その制御不能な状況を作り出したキャラ達の一人歩きにはなんとも・・・
己の未熟を曝け出しているようで痛いです。(文体も未熟ですし^^;
バラゴムから初め、ヤマモトもハナーもアキトも、最後にフジ、お前もか!!等とひとり突っ込みをする始末。
ちゃんと狙いどおりに書けたキャラは一人もいません(涙;;)
ヤマモト、俺はアニメのような君を書きたかった。
ハナー提督、・・・あんたやり過ぎだ(汗;;)
フジ、確かに普通の悪役に書くつもりはなかったけど、こんな極悪人に書くつもりはなかったよ。
(それはそれで面白いからといって、そのまま書き上げる自分もいい根性してますがw)
最後にアキト、末永くお幸せに(ぉぃ
ちゃんとエンディングまで繋げられるかどうか心配です(恐ろしく気の遠くなる話ですが・・・)
さて、走る者上に飛ぶ者はいかがでしょうか?
元の構成から脱線しまくりですが・・・まあ、これで何とかやってみます。
結構時間が掛かると思いますけど末永く見守ってください。
では次回の予告
宇宙暦7000年まで後1日、
ヤマモト・マコト、
このまま、フジの生け贄になってしまうのか?
次回、怪我されたそよかぜ、
お楽しみに(予告変更あり)
キャラ紹介:バラゴム
小説版、真・無責任艦長タイラーで登場するラアルゴンのスパイ
1、2,3巻に登場する版権キャラです。
この男の出現が作者の思惑を狂わすことに・・・(二ヶ月間現実逃避;;)
管理人の感想
渡来さんからの投稿です。
随分と遊ばれてるなぁ、アキト(苦笑)
しかし、小説にしろアニメにしろ、全然出番がないハナー提督をココまで壊すとは!!
・・・既にオリキャラですね、このハナー提督(笑)
ちょっと気になるのが、ユリコさんがレポーターになってた事ですか。
この先、アキト(タイラー)と係わりを持つんですかね?
PS
副官(ヤマモト)が不幸な目にあうのは、最早お約束でしょう(爆笑)