えりなせんせいといっしょ!第六話運命の宣託は白衣がします!






ナデシコブリッジ


「アキトはやっぱり私の王子様だぁ!」

一足先に戦場に出て周辺の雑魚敵を殲滅しているアキトを見て、ユリカちゃんは目をキラキラさせている。

が、艦長のその様子に誰も突っ込みはない。
他のパイロットの出撃サポートやナデシコ自体の防御管制に大忙しなのだ。

「んふふふ♪ アキトだ♪アキトだ♪」

艦長の仕事を忘れ、観戦モードのユリカちゃん。

「リョーコ機以下、ヒカル機、イズミ機、イツキ機出ます」
「艦首方向を敵戦艦に向けて下さい」
「了解。…ディストーションフィールドの出力減退……敵戦艦の主砲ですが?」
「両舷方向の対空ミサイル弾幕、どの程度にしますか? 艦長!艦長!」
「にまぁ〜♪ 私の為!私の為!ふふふ、アキト、もうかわいいんだからぁ♪」

真面目に仕事を遂行するクルーを尻目に未だ観戦モードのユリカちゃん。

ヒューーーーーーーーーン                ドゴン!!


突然、ユリカちゃんの顔の脇を何かが飛んで行き、壁にぶつかり轟音を立てた。

「…………なぁに?」

恐る恐る振り返ったユリカちゃんは、壁に突き刺さる銀色に光るスリッパを発見した。

「…………」

再度恐る恐る今度は、スリッパが飛んできた方向を凝視し声をかける。

……エリナさん?
「仕事をしなさい!」

エリナの座る副操舵席のコンソールには予備らしいスリッパが重ねて置いてある。

……はい……えぐえぐ(泣)

ユリカちゃんはおとなしく艦長席によじ登った。





戦闘宙域


「おーい、テンカワー!!」
「お待ちどう様〜♪」
「津軽のりんご〜」
「師匠!それは、ふじですね。ふじ……ぶじ……無事……くくく…」

先に戦闘していたアキトに合流する4機。
アキトは後二人の会話は意図的に無視した。昔は良い子だったのに…と涙しながら。



「おらおらおら!!」

リョーコが囮となり突っ込み、

「ゴオォーーー!!」

固まった敵をディストーションフィールドを纏った体当たりでヒカルが一気に殲滅する。



その背後では、

「…銀山発掘」
「つなぎ」
「……義務教育」
「くぬぎ」
「…ぎ…ぎ…銀色塗料」
「上着」
「…ぎ…ぎ……行政書士」
「市議」
「…ぎ…ぎ…ぎ…漁船大破」
「ハト麦」

シリトリをしながら、狙撃を続けるイツキとイズミ。


4人の戦いを確認し、後ろ二人をやっぱり無視してアキトはルリに通信を入れた。

「ルリちゃん、敵の戦艦は幾つ?」

『戦艦タイプは3隻確認しています。後は、護衛艦タイプが30隻ですね』

「…そう。それで、ナデシコのディストショーン・フィールドは保つかな?」

『この敵戦艦の集中攻撃に耐えられるのは、後10分という所でしょうか?
 フイールドを張るのに全力を使っていますから、グラビティ・ブラストは打てません』

「了解!敵を5分で殲滅する!!」

アキトが自信を持って、断言する。が、

『無理だよ、アキト!ダメだよ、今、ナデシコが何とかするから!!』
『そうです、アキトさん!お一人で何が出来るというのですか?』

ユリカちゃんとメグミが猛反対をする。

何故なら、この世界のアキトはロクな戦闘をしていない!

ビックバリア突破のミサイル衛星? デビルエステバリス? 何それ?

「大丈夫。俺に任せてくれ」

アキトが微笑んで、ナデシコに言った。

『『ぽーーーーーーっ』』

「ね?」

『『………はい』』

ふっ、ここは私に任せな!
師匠、お供します!

殆ど反則技で、ナデシコの了解を取ったアキトに今度はイズミとイツキが邪魔をする。
イズミはともかく、イツキはアキトの実力を良く分かっているはずだが…

「な、何を言っているんだ、二人共?」

アキトの静止の声は虚しく響き、イズミとイツキのエステバリスは敵戦艦に向かって猛烈な加速を始めた。

「止せ!くっ…」
こらっ!こっちは二人でやってるんだー!!手伝え、テンカワァ!!!」

更に追いかけようとしたアキトをリョーコが怒鳴る。
実際、数が多い無人兵器達にリョーコ、ヒカルだけで戦線を維持しろというのは無理な話だ。

「……二人共死ぬなよ!!」

アキトがシリアスに決めた時、火星宙域に二つの音が響き渡った。
























ベベン!!                      ベベベン!!

                     チリン!!




「……………………………………」
「……………………………………」























時が止まった…


全ての知性生命体の…






そして、人工知能さえも…
























『……アキトさん、アキトさん、アキトさん、アキトさん』

「はっ!ここはっ!!」

アキトが意識を取り戻した。

『アキトさん、無事ですか? 聞こえますか?』

「…ああ、ルリちゃんか一体何が…?」

『敵無人兵器は殲滅されました。ナデシコに戻って来て下さい』

「…ああ、他のみんなは?」

『これから、起こす所です』

アキトの意識がようやくはっきりし始めると、
エステバリスを曳航してナデシコに戻ろうとするイズミ、イツキ機が確認できた。

ダメだ!ダメだ!!思い出してはいけない!!

アキトは火星で待っている人に想いを馳せ、現状から逃げる事にした。


『迎えに来なかったら、ナデシコ落とすわよ(は〜と)  アイちゃん』


……これもダメだ!思い出してはいけない!!

…アキトさん!アキトさん!!アキトさん、返事をして下さい!!!』

…ああ、大丈夫だよ

短時間に憔悴し切ったアキトは何とかナデシコに帰り着いた。







ナデシコブリッジ


「グラビティ・ブラスト、スタンバイ!」

ユリカちゃんの元気な声が響いた。

「グラビティ・ブラスト発射準備完了。いつでも撃てます」
「うん♪」

ルリの反応の良い返事にご満悦のユリカちゃん。

「どうして今更グラビティ・ブラストなんか準備するの?」

ミナトが質問する。

「それは…」
「火星で待ち構えている第2陣を殲滅するためよ。
 火星降下に入ると、大気圏内では相転移エンジンの出力が下がるからよね、艦長?」

エリナが最後に艦長に確認しようとすると……


ウルウルウルウルルル………(涙目)

というユリカちゃんがいた。

「…ちょ、ちょっと、どうしたのよ?」
「…エリナさんが私の説明を奪ったんだもん。私が考えたのに……ウルウル(やっぱり涙目)」
「うっ……」

どうやら、ユリカちゃんは無意識に涙目上目使いというエリナの弱点を使うようになってきたようである。

「せっかく、私が話そうと思ったのに…」
「ああ、わかったわよ、私が悪かった、ごめんなさい。今度何か奢るからね?」
「……本当?」
「ええ、本当よ。だから、機嫌を直しなさい」
「うん♪ 約束だよ♪」

エリナはとことん子供に甘いのかもしれない。


…ミ、ミスター、こ、これは本当に戦艦のブリッジでの会話だろうか?
ゴートさん、久しぶりの登場ですから緊張しているのですかな?
…ミスター、そんな事はない(汗)


「エリナさん、約束だよぉ? いい? じゃあ、ルリちゃん、敵の位置のサーチはできたかなぁ?」
「完了しています。ミナトさん、この位置です」
「……ふんふん♪了解よ♪」


てえぇーーーー!!


ドゴオォォォォオオオォォォンン!!!


ユリカちゃんの掛け声に敵火星第2陣が壊滅した。

「何をしているのですか、ラピス?」

ルリは、Vサインを出しているラピスに不思議そうに問いかけた。

「何でもないよ、ルリ姉。……重力制御成功♪

………








艦内某所


「いいかしら、空いている席は一つだけよ」
「ええ、ですから勝つのは一人だけです」
「わたしじゃダメなの?」
「「ダメです!」」
「ふにゃぁ」

ここと違った世界であれば、お仕置き部屋とも呼ばれるナデシコ艦内の一室。

「貴方も精神年齢は11歳なのですから、抜け駆けはいけませんよ、『幼き妖精』」
「そう、これだけは譲れないのよ、どうしてもね」
「……ラピスはアキトの目、アキトの耳…」
「こら!ここではコードネームを使いなさい!」
「…ごめんなさい、『裏方』さん」

シュンと小さくなる『幼き妖精』。

「この時、既にサブオペレーターがいる世界なんて稀です。是非ともここは私が行かせて貰います」
「『妖精』なんて、マシよ。私は大体事情も知らずに極楽トンボの世話をしてるのが普通なのよ。
 こんな機会、ありえないもの!」
「わたしもここでナデシコにのってるセカイはあまりない…」

『裏方』、『妖精』、『幼き妖精』の間に緊迫した空気が張り詰める。
が、発言が不可思議なのは気のせいだろうか?

「準備はいいかしら?」
「恨みっこなしですよ?」
「うん」


ギン!!


「「「じゃんけん、ポン!アイコでしょ!!……」」」







そして、一人の勝者が選ばれた…

「正義は勝ちます!遂にアキトさんと一緒にアキトさんの故郷を見る事が出来ます!!」
「「くっ」」






エステバリス・アサルトピット内


「うっわ〜〜!!気持ちいいです、アキトさん!!」
「あんまり、身体を乗り出すと危険だよ」
「はい、気をつけます。…ここから、アキトさんの故郷は遠いのですか?」
「まぁ、ちょっとね…」

アキトは言葉を濁した。

一体何時の間にエステバリスに張り付いていたのか?
時として女の子は想像を越えるなと至極常識的な事で頭を悩ましているアキト。
女の子とはそういうモノである。





ともかく、アキトはメグミと前の歴史と同じようにユートピアコロニーに向かっていた。






ナデシコブリッジ


何故ですか? どう言う事ですか? 何でですか?(怒怒怒怒怒)

ブリッジには、怒りの妖精の姿があった。

「…何って、ルリルリ達がブリッジにいないんだもの? コミュニケで呼んでも反応ないしね」

ミナトは常識的な発言でルリを落ち着けようとするが、効果はない。

「艦長!ユートピア・コロニーに向かいましょう!!」
「あ、ルリちゃんもそう思う? 私もずーっと考えてたんだよぉ!
 よし! ナデシコ、ユートピア・コロニーに向け出発ぅ!!
「わ〜ぁ!待ちなさい!よしなさい!!」

暴走する12歳コンビを必死に食い止めようとするミナト。

「止めないで下さい、ミナトさん。少女の危機なんです」
「アキトがメグミちゃんに襲われたら、どう責任を取ってくれるというのですか!」

しかし、止まらない…

「エリナ、エリナも黙ってないで、止めてよ!」
「……問題ありよね」
「そう問題なのよ」

エリナの冷静な様子に少しホッとするミナト。しかし、甘い。


私達も急いでユートピア・コロニーに向かうわよ!!
おう!」×ユリカちゃん、ルリ、ラピス
「わぁーーー!!せめて、オリュンポス山に行ったみんなが帰ってきてからにしてよ!!」

プロス、ゴート、リョーコ、ヒカルと比較的常識人がいないブリッジで一人奮闘するミナト。
ご愁傷様である。

え、ジュン? 医務室に入院している、既に『医務室の主』という称号を胸に。






ユートピア・コロニー跡地


「アキトさん、ドコに向かっているのですか?」

何があったかは知らないが(時ナデ参照)、幾分二人の距離感が狭くなった感じのメグミが問いかけた。

「うん、確かここら辺に……」

アキトが向いている方向……建物の瓦礫の山……そこに立つ一体の巨人……それは、まるで…

あたかもゲキガンガーであるかのように…

「…幻覚だ…幻覚だ…」
「あ!アキトさん、アレ、まるでゲキガンガーみたいです!」

アキトの呟きは、メグミの一言で崩壊した。
そう、メグミは元声優である。一般人に比べ、そちらの知識はかなりある。

『おーーい、アキト久しぶりだなーー』

さらにそのゲキガンモドキからも通信が入る。しかも、聞き慣れた声で。

「アキトさん、呼んでますよ。ゲキガンガーとお知り合いなんですか?」

『おう!俺は、アキトの親友だぜ、ナナコさん!』

「誰がナナコさんですか!……でも、どこかで聞いた事がある声ですねぇ……」

流石は声優通信士メグミ・レイナードである。数える程しか接点がない声すらも記憶にあるとは。

「……たしか…ヤマダ…」

俺の名は、ダイゴウジ・ガイ・セカン!!

 海燕ジョーのように舞い戻ってきたぜ!!

「「………」」

だが、当然これだけでは済まされない。

ピッ

『やっ!テンカワ君、一瞥以来だねぇ♪』

さらに、ロンゲの女性からも通信が入る。

アカツキィーーー!!、お前こんな所で何をしている!!

度重なる笑撃にアキトもキレたようだ。

『フッ、愚問だね…』

髪をかきあげ、歯を光らせる某ネルガル女性会長。

『おっと、その前にそこに可愛い娘がいるねぇ〜。テンカワ君ダメだよ、浮気してはエリナ君が悲しむよ。
 君達はラピス君も含め、時間をも超えた絆で結ばれた不変の恋人同士なんだからね♪』

何気に爆弾を落とすアカツキ。

何ですってぇーー!?

『さぁ、君もそんな甲斐性なしは放って置いて、僕と熱い夜を過ごさないかい、マイハニー?』

更に、相変わらずの極楽百合トンボである。

アカツキィー!!
 我いい加減にせんと耳から手ぇ突っ込んで脳ミソ擽るでぇ!!

アキトもいい加減キレている。

『ハハハ、短気はいけないな、テンカワ君。そちらのマイハニーが怯えているじゃないか』
『そうだぜ、アキト、女性を怖がらす奴は男じゃないぜ!』

ア・カ・ツ・キ!ガ・イ!貴様等死にたいようだな…

『ハハハ、何を言ってるんだい、テンカワ君…(汗)』
『そうだぜ、アキト…(汗)』

「いいから、何故お前等がここにいるのか、さっさとその訳を話せ!」

こんな所で黒の王子と化すアキト。
だが、その人並みはずれた殺気もメグミには通用していない。

「そんなどうでもいい事は置いておいて…」
「どうでもいいって、メグミちゃん?」
「エリナさんと時間をも超えた絆で結ばれた不変の恋人同士というのはどう言う事ですか!
 私を騙したんですか!酷い!それは私は純粋で穢れも何も知らない少女ですが、
 あんまりです!!説明して下さい!

アキトの胸元を鷲掴みにして、人を殺せそうな視線で睨みつけるメグミ。
しかし、それは致命的な一言であった。














『説明しましょう!!』


全ての元凶が白衣を着て現れた…
















『やっほ〜〜!ア〜キト!来ちゃった、テヘ♪』

その説明は、ナデシコが到着するまで続けられた。

要約すると、アカツキとガイにいきなり麻酔&拉致をし、かつ、すぐさまジャンパー処置
その後、ボソンジャンプして火星に先回りし、自ら開発したグレートガンガーに乗せたらしい…

更に自分は、遺跡ユニットを解析し単独でこの世界に跳んで来たという事、
ついでに年齢調整もしようとしたが失敗したらしい…
という事をアキトは理解した。

ちなみにメグミは考える事を早々に放棄した。それはある意味非常に正しい選択である。
そして、ガイにはそんな些細な事は全く関係していない。彼はゲキガンガーさえあれば平気なのだから。
だが、アカツキは良いのか?

「僕は面白くて、かわいい女の子がいれば構わないさ♪」





こうして、ナデシコと火星の生き残り?は合流を果たした。
一部のネルガル関係者に多大な精神的疲労を与えつつ。







<あとがき>

今回はノンストップで最後まで行きます!!
ラピスってちょっとかわいいですよね?

 

 

 

代理人の感想

 

最終兵器師弟(核爆)。

 

 

しかし赤と青に続いて銀のスリッパ・・・・・

もうこうなったらのスリッパも出してファイブハンドならぬ

ファイブスリッパにするしかないでしょう!