温厚・良識派なんですよね?
信じてますからね♪
孫 通信士外伝
地球の戦地を渡り歩く一隻の艦。
物見遊山・食べ歩きの旅とも称される奔放な航海と主砲による着実な戦果。
マスコミにもてはやされるメディアの寵児。
それでいながら不思議と連合軍での評判も悪くは無い。
最近木製蜥蜴の無人兵器にも強力なシールドを備えたモノが出てきて、一撃必殺ではなく、一撃露払いと呼ばれるようになってからは尚更である。
そんな艦で艦長・提督・プロスペクターを除き、一番外部と接触があるのは通信士であろう。
彼女の名をメグミ・レイナードと言う。
メグミ・レイナードの朝は早い。
ナデシコで初めて出会った気になる男性を起こす事が日課だからである。
その彼はメグミを正面から諌めてくれた。
声優として早くから芸能界という所で仕事をしている彼女は、怒られる事には慣れている。
余程のベテランや大物でもない限り日常茶飯事なのだから。
しかし、ナデシコで初めて話した時の彼の言葉は、今までのどんな時より彼女のささやかな胸に突き刺さった。
それ以来、彼女は何かと彼を観察し、遂には日課にまで発展したのである。
メグミは低血圧とは無縁なので、そういうシチュエーションが好きな事もあり嬉々としてやっている。
女性艦橋クルーは、艦長を筆頭にルリ、ミナトと朝寝坊しかいないのに偉い事である。
昔から寝る時に解いた長い髪を三つ編みにする作業が毎朝あるので、早起きになったのかもしれないが。
「ルンルンルルルン♪」
それは今朝も一緒で、イソイソとトレードマークを作っている。
順調に編み上げた三つ編みを胸元に垂らすとポンと鏡台の前から立ち上がった。
「さぁ、早く行かないと勝手に起きてしまうから」
メグミはそう呟くと、冷蔵庫から昨晩作った特製スタミナジュースとコップを持ち部屋から出た。
目指すは男性居住区である。
軽やかな足取りで早朝の誰も居ない通路を駆ける。
そして、一室に辿り着くと胸ポケットからカードキーを取り出した。
艦長のアキト対策を立てた事へのお礼としてせしめた物である。
「よっと♪」
ウィーーーーン
扉が開くとメグミは元気に挨拶した。
「おはようございます、北辰さん。朝ですよ〜」
純和風に作り変えられた部屋で布団に眠る北辰が目を覚ました。
北辰は食堂スタッフであるがデザートを主担当としている為、アキトやホウメイのように早起きを強制される事は無い。
元来夜型の事もあり、その分夜食で貢献しているので、朝は普通なのである。
その北辰はムクッと立ち上がると、左手を腰に当て、右手を差し出した。
メグミはその右手にコップを握らせる。
ドクドクドクッ……
そして、すかさず効果音通りのその毒々しい液体をコップに注いだ。
北辰はその間微動だにしない。
「はい、北辰さん、ど〜ぞ〜♪」
満面の笑顔で告げるメグミに、北辰は一度大きく深呼吸をすると勢い良くコップを呷った。
ゴクゴクゴクッ……
喉の動きがメグミ特製スタミナジュースの口腔から食堂を通り胃に入る様を想像させる。
「ふぁ〜〜〜っ」
一気飲みをして息を吐いた北辰は、コップを突き出すと叫んだ。
「マズイ!もう一杯!」
「はい♪」
北辰の定番な言葉にも、メグミは満面の笑みでコップに新たに注ぐのだった。
何と言っても今までメグミの特製スタミナジュースを飲んで、更に飲もうとしてくれる猛者は過去存在しなかった。
それがここに居るのである。
しかも毎朝である。
たとえ北辰の鍛錬の一つだったとしても、それを知らないメグミの嬉しさに変りは無い。
普段から北辰の部屋に近づこうという酔狂な者は存在しないが、メグミの毎朝の行動が知られてからは余計である。
一時期は何故にあんな純情可憐で健気な美少女が変態ラピス命パティシェに近づくのか疑問に思い、アンチ北辰連盟が結成されるかに見えた。
しかし、それもメグミが作る得体の知れない飲物を見るまでであった。
それが知られて以降、彼等に好んで近づく者はいない。
アキト・ユリカ・ルリのワールドと共に新たなワールドと認知されたからである。
こうして今日も『孫ナデシコ』の朝は平和に明けるのだった。
<あとがき>
みんなに読んで貰いたい為に書くSSもあれば、たった一人の為に書くSSもあります。
これ以上の言葉は必要ありませんよね?
ではでは、私は膨大な危機感を胸に消えるとします^^;
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