機動戦艦ナデシコ
  育てよう  01: 逆行、後、相談



 気持ちよい風の吹く草原に二つの人影があった。

 地に膝を付けている黒マントと黒いバイザー青年とその傍らに立つ白いマントの少女。

ドスッ

「何故死ねない!」

 突然、地面に拳を突き立て叫んだ青年──テンカワ・アキトの腕を少女──ホシノ・ルリが抑えた。一瞬それを振り解く仕草を見せた青年だったが、動くのを止め、黒いバイザーの下で目をつむんだ。

「ここはどこだ? ジャンプに失敗したのか? ナデシコCは? 核は?……」

 アキトは頭に浮かぶ疑問を次々に口に出した。しかし、それに答える者はいない。それは傍らのルリにしても分からない事だから。

 戦術核を搭載したナデシコCを火星宙域から統合軍幕僚本部にボソン・ジャンプさせて自爆しようとした二人は、地球のどこかと思われる川辺で目を覚ました。二人ともジャンプ直前までの意識はあったが、それ以降の事は分からなかった。いや、分かる以前に核の炎に焼かれて死ぬ予定だった二人には、まだ生きていると思われるこの現状が理解出来なかったのである。

「……分かりません。ですが、とりあえず現状を調べてみます」

 ルリはそう言うとコミュニケを操作し始めた。

 ジャンプした時の状況、ナデシコCの破損は酷いものがあった。その為ジャンプ・フィールド発生装置にも不具合が起り、ランダム・ジャンプをしてしまったのではないかとルリは考えたのだ。その推論を確かめる為にコミュニケで情報を確認していたルリの動きがピタッと止まった。

「ルリちゃん?」

 ルリは訝しげに声をかけるアキトにぎこちない笑みを見せた。
 それを見たアキトが何か言う前にルリは言った。

「アキトさん、私達は過去に来てしまったようです」










 2195年10月サセボ市。

 コミュニケの故障の可能性も含めて、場所を図書館に変えた二人が調べて分かった事はそれが全てだった。図書館に行く途中、『怪しいですから』の一言でルリがアキトのマントとバイザーを取り上げたのは余談である。ついでに、ルリの艦長服姿も十分過ぎる程に怪しいというのは、完全に余談である。

 閑話休題。それは第一次火星戦役が起こり、テンカワ・アキトが初めてボソン・ジャンプをした日と場所を示していた。その証拠を示すかのように、二人は気付かなかったが近くにこの時代のテンカワ・アキトも倒れていたりもしたのだが。

「アキトさん、これからどうしましょう?」
「どうすると言われてもね……」
「そうですよね〜……」

 些細な行き違いはあったが、皆の仇を取る為に100%死ぬつもりで手に手を取ってジャンプしてみれば、この現状である。二人とも気が抜けた状態であり、急に何をしたいと問われて答えられる筈もなかった。
 とはいえ、ルリはいつまでもタレている訳にはいかないと思い質問を変えた。

「歴史に干渉して未来を変えますか?」

 重い意味を含んだルリの質問にアキトはただ首を横に振った。ルリがその意味が分からず首を傾げると、アキトは口を開いた。

「未来は変らないよ」
「……それは歴史という大河に小石を投げ入れても流れが変る事は無いという意味ですか?」

 ルリはアキトが言った言葉を口の中で繰り返し、少し考えてから訊いてみた。アキトもルリの質問を自分なりに解釈すると首を横に振って答えた。

「俺が言ってるのは、あの俺達が生きてきた時代と今は違うって事だよ。名前も遺伝子も性格もが同じで全く同じ経験を積む事が出来たとしても、それはもう俺の愛したユリカじゃないんだ。俺のユリカはこの世界には居ないんだよ」
「私の家族だったユリカさんもラピスもコウイチロウおじさんもミナトさんもユキナさんも、この世界の人ではないんですよね」

 アキトとルリは顔を伏せた。二人の間に沈黙が降りる。

 しかし、それは長くは続かなかった。

「だとしても……」
「そうだったとしても……」

 アキトとルリは、

「彼らに俺達と……」
「あの人達に私達と……」

 決意の眼差しを交わし、

「「同じ苦しみを味あわせるつもりはない(ありません)」」

 言葉を合わせた。

「では、私達のナデシコに乗る為に……とりあえずネルガルに行ってみますか?」

 ルリは自らの想いとアキトの想いが同じ所にある事に嬉しくなり言葉を続けたが、アキトはそれに疑問を返した。

「ナデシコに乗る事に異論はないけど、ネルガルに?」
「ええ、アカツキさんに連絡して交渉すれば、ナデシコには簡単に乗れるでしょうから」
「何をもって交渉するつもりだい?」
「未来の技術とかボソン・ジャンプについて触れれば、向こうから喜んで喰い付いて来ると思います」

 ルリのあっさりとした答えにアキトは眉をしかめ、顎に手を当てた。

「それはパワーゲームを呼び込むことになりそうだな」
「えっ!?」

 疑問の声を上げるルリ。
 それに構わずアキトは、未来の技術や知識をこの時代に持ち込んだ際の危険性を説いた。それは戦闘に楽に勝つ為、或は発言力や勢力を増す為の戦力増強は、過剰なパワーゲームを引き起こす事になるというものであった。
 ルリは正直驚いた。この話を聞くまでアキトにそんな知識があるとは思わなかったのだ。そんな失礼なことを思わず言って赤面したルリをアキトは笑って許した。

 アキトとイネスの二人は、ボソン・ジャンプによる時間移動を詳細に検討し、実害の出ない範囲での実験さえ行ったことがある。ジャンプ・イメージに時計やカレンダー、果ては太陽・月・星の位置、惑星配列などを組み合わせる事での時間遡行の実験をしたのだ。
 その実験は全て失敗に終わり、人間、マシンチャイルドやオモイカネ級AIの手助けがあったとしても、時間遡行は不可能だという結論に到った。少なくとも通常ジャンプでは。

 今回はその際に何度も話し合った議題をルリに聞かせたからである。

「でも、ナデシコには乗るんですよね?」

 一通り話を聞いたルリはアキトに確認した。アキトは力強く肯いた。

「そうするとナデシコに乗る為にどうするつもりですか? あらかじめホウメイさんの所で働いてましょうか、それともウリバタケさんの所とか……」

 ルリは、未来においてプロスペクターがナデシコにスカウトする人の名を上げた。

「それでもいいけど、俺にちょっと考えがあるんだけど聞いてくれるかな」
「はい、勿論です」
「それはね……」

 アキトはルリに賛意を示しつつ、ある提案を始めた。










 暫しの相談の後、アキトとルリは声を合わせ、

「「アキトさん(ルリちゃん)、ナデシコに乗って……」」

 お互いを信頼の目で見詰め合い言葉を続け、

みんなを守りましょう!
ユリカを育てよう!







「「はぁ!?」」

 遠くでカラスが鳴いたのを聞いた気がしたような後、同時に疑問の声を上げたのだった。











<あとがき>
ルリが出ずっぱりですが、メイン・ヒロインではありません。
何故ならアキトは胸の大きな女性が好きだから^^
ちなみにル○の盆地胸を育てようという話でもありません。
全然伏せてないけど^^;



 

 

 

代理人の感想

育てるって、ユリカを?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・駄目だ、さっぱり予想がつかん!

空明美さんてば、いつもこちらの予想の285度程側面に回り込むからなぁ(笑)←無論、いい意味でですが

 

>盆地胸を育てよう

そ〜ゆ〜方向に流れた場合、ナイムネ繋がりでルリの髪が紅くなりそうで怖いんです(爆)