えりなせんせいといっしょ!第一話『秘書です!でいこう』〜後編〜




ナデシコブリッジ


「プロスさ〜ん、艦長っていつ来るのですかぁ?」

暇で暇で仕方がないという口調で問いかけている女の子。
黒い少しくせっけのある髪の毛を編み込んで一本にしている。

「いや〜どうしたのですかね〜もう予定時刻はとっくにすぎているのですがね〜」

プロスと呼ばれた男性は、困っていると思われる内容を普通のことのように話す。

「ほ〜んと、どんな人がくるのかしら?」

今度は女の子とは言えない大人の雰囲気満載の女性が操舵席に突っ伏しながらつぶやく。
ちなみに突っ伏しているので改造制服から見えるその豊かな胸は、今は見えない。

「かっこいい人ならいいですね〜」
「メグちゃん、ブリッジに女性ばかり集める人に期待しちゃいけないわよ」
「え〜戦艦って言うからには、期待してたのに〜何の為にこの艦に乗ったかわからないですよ〜」

三つ編みの女の子メグミ・レイナードがちょっと頬を膨らませる。
それに対し大人の女性、22,23才と思われる、は指をふりふり、わかってないとばかりに言った。

「あまり期待していると反動が大きいわよ。それに男は中身よ」
「うわぁ〜ミナトさん、おっとなぁ〜」
「当たり前でしょう」

ハルカ・ミナトが答えた。

「ちなみに艦長は、連邦大学主席卒業の戦略シュミレーション無敗の伝説をもつ方らしいですよ」

プロスこと本名いやペンネーム、プロスペクターがフォローを入れる。

しかし、戦艦のブリッジという雰囲気ではない。
この3人以外では、ブリッジ上段の提督席でおじいちゃんが茶をすすり、
大男が一人壁側に立っているだけである。


そんな中、アキト達4人がブリッジに入ってきた。

今まで暇を持て余していたブリッジ要員はいっせいに注目する。
その視線にちょっと引いてしまうアキト。

「ん〜これは、まあまあ」
「ですよね」

ミナトとメグミのつぶやき。そして、気付く。

「あら、かわいい子連れているわね〜どちらのお子さん? あっ、それとも二人の?」

ラピスを見つけたミナトは、おもちゃを見つけた猫のように嬉々として問いかけた。
可愛いお子様にはナデシコ一目のないお姉さまである。

「そんな二人なんて、わたしがママ(ぽっ)」
「ん、一応、俺の子かな」
「え〜と、私もかな」

上からルリ、アキト、エリナの答え。ルリは逝っちゃているけど。
どちらにしろ単にからかおうと思っていたのに予想を大きく裏切る答えに固まるミナト。

え〜艦長って、妻子持ちだったんですか〜!!

メグミが大きく誤解を広げる。いや、この場合メグミに非はないか。

「え〜お楽しみの所悪いのですが彼は艦長ではありませんよ。
 ほら、エリナ女史もテンカワさんも自己紹介して下さい」

プロスが方向修正を図る。

「ネルガルから出向のエリナ・キンジョウ・ウォンよ。副操舵士、よろしく」

エリナはさすが会長秘書とばかりにクールに決める。
ちなみにエリナはここ一年髪を少し伸ばしている。後ろでちょっとシッポを作れるくらいに。

「俺は、テンカワ・アキト。エステバリス小隊リーダーになる。二人ともよろしく。
 それから、この子はラピス・ラズリ。一応、俺の養子。ちょっと人見知りが激しくて、
 俺とエリナにしか懐いてないけど仲良くしてあげてほしい」
「……ラピス・ラズリ……よろしく」

懐かしいと思いつつ挨拶するアキトに、その影に隠れて挨拶するラピス。

「私は、ハルカ・ミナト。操舵士よ。よろしくね」
「はい、メグミ・レイナード。通信士です。前は声優やっていました。よろしくお願いします」

「ねぇ、ルリルリ、あなたこの人たちの知り合いなの?」
「はい、ミナトさん、アキトさん達のことは良く知っています。ってルリルリですか?」
「うん、かわいいでしょう!」
「え、ま〜(もう、そう呼んでくれるのですね、嬉しいです)」
「じゃあ、これからはルリルリね♪」


突然ブリッジに轟音が響いた。続いてエマージェンシーアラームがナデシコ内に鳴り響いた。

「あら、お昼の……」

メグミのとぼけた発言に割り込むアキト。

「ルリちゃん、状況を」
「はい。敵襲です。サセボ周辺に木星蜥蜴無人兵器多数接近」
「パイロットに至急伝達、格納庫に集合するように」
「わかりました。あっ……」

オペレーター席でルリが一瞬躊躇する。
ついでにあれ何かが足りない気がすると10%位思考を取られる。

「どうしたのホシノ・ルリ?」
「パイロット、ヤマダ・ジロウ、骨折及び脳震盪で医務室に収容されています」
またか
「「また?」」

つぶやきというには大きいアキトの言葉にミナトとメグミが反応する。

「あ、いや、その前にも……今度は2週間も訓練させたのに……」
「は〜確かにそれでも、また、です、アキトさん」

アキトのつぶやきの真の意味を知るルリも疲れた声を出した。

「ルリちゃん、イツキちゃんにだけ連絡して……」

『イツキ・カザマ格納庫入りました。テンカワさん指示をお願いします』

アキトの言葉を遮るようにコミュケの通信画面が開かれた。
そこには、黒髪を背中まで伸ばしている凛とした美少女が映っていた。

「イツキちゃん、エステバリス起動後、中長距離用装備を持って搬送用エレベーター前待機。
 俺もすぐ行く」

『了解』

連合宇宙軍出向の彼女らしい簡潔な答えに満足し、アキトは格納庫に向かった。







その後体感時間にしてしばらく、ブリッジ上段の扉が開き明るい能天気そのものの声が聞こえた。

「ほんのちょっと遅れちゃったねぇ、あ、みんな、まだ待ってくれてるよぉ〜」
「ユ、ユリカちゃ〜ぁん〜〜それは違うと思うよ…(泣)」

ユリカちゃんと呼ばれた女性はブリッジに入り、みんなの注目を集めて口を開いた。

みなさぁ〜ん、私が艦長のミスマル・ユリカで〜しゅ! ブイッ!!

言葉どおりに突き出されたブイサインと満面の笑み。
ブリッジはこの直撃をまともにくらった。

特にエリナとルリが痛恨の一撃を浴びた。

聞いていない。ええまったく聞いていない。
聞いていたのは、ユリカが遅刻してきて見事な作戦を披露するということだけ。
それを教えたアキトはユリカのセリフを聞いたことがないのだから当然といえば当然だが。

しかし、ルリは二度目である。その程度では呆然とはしない。

ブリッジを静寂が包む。







「…あの子が、艦長ですか?」

何とか再起動を果たしたミナトがプロスに問いかけた。

「はい」

重々しく答えるプロス。

「連邦大学主席卒業の…?」
「はい」
そうだよぉ!ユリカァ、主席卒業なんだよぉ!えっへん!!

将来性を予感させる胸を張り、割り込むユリカ。

そう、将来性である…

 

 

 

 

ミスマル・ユリカ、外見年齢12才!!

エリナとルリが逝ってしまっても、誰も文句は言えない!!


「ばか」

ラピスが呟いた。
今ブリッジで現状を把握しているのはラピスだけである。いいのか。





「ホシノ君、現状を報告してくれ」

過去の戦場経験からか、それとも比較的ユリカに注目していなかったからか、
おじいちゃんことフクベ・ジン提督がいち早く復活した。

それに対し、現状復帰していないルリも惰性でスクリーンに地上戦力分布図を出し報告する。

「…地上軍は全滅間近です。敵無人兵器、ナデシコドックを中心に展開しているようです…」

少しの間、腕組みをして考え込んでいたユリカちゃんが指示を出した。

「本艦は、海中ゲートを抜けて海中へGO!その後浮上して敵を背後より殲滅しますねぇ」
「なるほど、妥当だな」

提督が合格とばかりに肯く。
約二名、まだ逝っている。

「は〜い、相転移エンジン、核パルスエンジン始動。グラビティ・ブラストのエネルギーチャージ
 をお願いしまぁ〜す」
「は〜いと、ルリルリお願いね〜」
「…え、あ、はい。相転移エンジン、核パルスエンジン始動開始。ゲート注水開始。
 ……海上への浮上まで…約10分です」

真面目モードに入ると有能なナデシコクルー達。

「む〜〜ぅ、時間稼ぎと敵の誘導の為に機動兵器を出しましょう!パイロットさんに連絡してぇ下さ〜い」
「…すでにパイロット、エステバリスにて搬送用エレベーターに待機しています。通信ひらきます」

と報告するルリだが実際には最初から自分の手元にアキトの映像を小さく出していたりする。
が、魂があっちに逝っているので見ている訳ではない。

『こちらテンカワ、イツキ、ブッリジ指示をお願いする』

「こちら艦長でぇ〜す。10分で迎えに行きますから、指示の場所まで囮をお願いしますねぇ〜」

『了解。エレベーター上昇させてくれ。テンカワ・アキト出ます』
『こちらイツキ・カザマ。了解。出ます』

この時アサルトピット内がサウンドオンリーだったことは、アキトにとって幸運だったのだろうか?

「がんばってくださいね、アキトさん、イツキさん」

通信士の仕事をルリに取られてしまったメグミが意地で最後の一言を送った。
一方、ユリカちゃんはテンカワ、テンカワ……アキト、アキト……熟考に入った。



「かなりの数ですね」
「イツキちゃん、援護お願い。俺が接敵する」
「了解。ナデシコとの遭遇ポイントは正面左40度。お先します……国の海…あ、封印封印…

黒と白の陸戦エステバリスの戦いが始まった。





「すっご〜い」
「二人とも上手いのね〜」
「ええ、ですがお二人の本気はこんなものではありませんよ」
「当然だな。軍の逸材を引き抜き、ネルガルのエースが鍛えたのだからな」

上からメグミ、ミナト、プロス、ゴートは二人の戦いに感心している。

黒のエステバリス、アキト機が近距離でラビットライフルを放ち牽制、不用意に接近したバッタを
ワイヤーフィストで破壊。無人兵器の群のスピード、方向を調節している。
白のエステバリス、イツキ機はアキト機の後方を確保。回り込むバッタを移動、狙撃している。

二人の操縦は無駄がなく、ロボットが移動しているぎこちなさは感じられず、
人間がそのまま動いているように速い。華麗といっても良いなめらかさだ。

ちなみにエリナとルリはようやく世界復帰しそうな所である。
ラピスは、アキトなら単独で余裕に殲滅できるのにしない為、暇で普通に観戦している。
何も考えずに手と思考が勝手に、高画質録画をしてはいるが。

「あれ、あのもう一人のパイロットも逸材なのですか?」

ふとメグミが疑問に思って聞いた。

「はい。ヤマダ・ジロウさんも間違いなく一流です」

自信を持って断言するプロス。

「でも、骨折して脳震盪起こして医務室に運ばれたのでしょう?」
「はははは、些細なことです」

ミナトのジト目の質問を笑ってごまかすプロス。

「あ、あのね〜ほんとに…」

アキトだぁ!!

艦長ミスマル・ユリカちゃんの絶叫がブリッジを貫いた。

アキト、アキト、アキトだ、ねぇ、ねぇアキ…」

スッパ〜ン!!

いやに軽快な音がブリッジに響き渡った。
叫びまくるユリカちゃんのおかげで現実復帰を果たしたエリナが旅館ネルガルのスリッパでひっぱたいたのだ。
実にいい音である。

「ぐうぅぅぅ」
「大丈夫かい、ユリカちゃん?」

後頭部をおさえうめくユリカちゃんに何もなかったかのように問いかける影の薄い男。変な所で慣れている。
初めから逝っていて絶叫のおかげで戻ってこれたエリナとルリ、耳栓していたラピス以外は、
超音波兵器に落とされているというのにたいしたものだ。

ブリッジの外でも、イツキはその瞬間、派手に射撃を外した。
当然である。相手は対人兵器である。初対決で防げるはずがない。
ちなみにアキトも態勢を大きく崩した。
こちらは、超音波がくることは分かっていたが、タイミングが分からず、しかも前回と違って
余裕がありまくり周囲に気を配っていたのが災いしたようだ。

『……ユ、ユリカ!?

アサルトピット内にユリカちゃん12才がドアップで映し出され、驚愕のアキト。
驚きつつもエステバリスが止まることがないのは流石である。

「アキトの意地悪ぅ〜知っていたなら、どうして教えてくれなかったのぉ〜?」

ユリカちゃんは、涙目で問いかけるがプロスが邪魔をする。

「おや、艦長はテンカワさんをご存知なのですかな?」
「はい!だってアキトは私の王子様なんですよぉ!いつもいつもユリカが危ない時、助けてくれるのぉ!」
「「王子様!?」」

ミナトとメグミが、はい?という感じの声を上げる。

うん!アキトは幼馴染で、もう結婚の約束もしたんだよぉ!一生の誓いだよぉ!!
 ユリカはアキトのことが好き!アキトもユリカのことが好き!!

ユリカちゃんは思いっきり宣言しまくる。

「…幼馴染って、艦長とアキトさんでは年が離れすぎだと思いますが…?」
えーーー!アキトとユリカ、2才差だよぉ!ユリカ、20才だもん!!

ドゲシッ

もはや、物理的衝撃を持って、ブリッジ要員を攻撃しまくるユリカちゃん12才。

でね、でね、ユリカとアキトはねぇ…

スッパーーーンン!!

「はいはい、艦長仕事しましょうね〜」

もう諸々の事を一度脇にどかし、現実問題を進行させるべくエリナがユリカちゃんをひっぱたいた。

「…エリナさん、そのスリッパどこから出しているのですかぁ?」
「乙女の嗜みよ」

疲れながらもにこにこと緋色のスリッパ片手におっしゃるエリナ。
突っ込むメグミを一蹴する。

「……うう……どうしてぇ…」
「艦長、ドック注水率80%超えました。ゲートオープン、ナデシコ発進準備オーケーです」

今度はルリがユリカちゃんの話を遮る。ルリも現実問題を解決することを望んだようだ。

「……機動戦艦ナデシコ発進!……」

ちょっとすねた涙目のユリカちゃんが号令をかけた。かわいいかもしれない。


「テンカワさん、本当に艦長の幼馴染ですか?」
「…いや、そのはずだけど…自信ない…」
「…人の趣味に口出し出来ませんが少女は止めた方がいいですよ」
「うっ。…って、違うんだ、イツキちゃん!」
「はいはい」







浮上してくるナデシコに海岸線から飛び降りる黒と白のエステバリス。
ナデシコの主砲グラビティ・ブラストによって殲滅される木星蜥蜴無人兵器群。
そして、ブリッジの歓声。

「何がどうなっているんだ?」

アキトが大きな不安を胸に軽くつぶやいた。ナデシコから何かを感じながら。




<あとがき>

第一話を再構成する人がよく二つに分けている意味が初めて分かりました。
ナデシコ搭乗すると人が一気に増えるんだもんな〜 三人称だと余計そうですね。

頑張れ、エリナ!負けるな、エリナ!行け行け、エリナ!さあ、暗躍するぞ、エリナ!

当番組は、エリナ・キンジョウ・ウォンご提供でお送り致します。のはずが、ユリカちゃん目立ちすぎ!

 

 

代理人の感想

 

いや、目立て! 目立つのだユリカ!

 

どうせ大抵のナデSSでは扱い悪いんだし、

壊れゴートなみにキャラが立ってるのに目立たないのは勿体無いぞ(笑)。