えりなせんせいといっしょ!第四話『桃色宇宙に秘書さんと』
「ジュン君には、側にいてほしいなぁ〜」
「ユ、ユリカちゃん」
「ジュン君はユリカの一番大切なお友達だものぉ!!」
自分の人生を完全否定され真っ白になって戻ってきたアオイ・ジュンにユリカちゃんが暖かい言葉をかけた。
ジュンは廃人と化した。
「これから頑張って下さい……でも、ロリコンなんですね」
「耐えてるわねぇ……ルリルリやラピスちゃんも気をつけないと」
「人生経験ですからあまり悲観しないことです……ま、公共良俗に反しなければ」
「うむ……いい趣味だ……」
「「……ばか」」
メグミ、ミナト、プロス、ゴートの順に慰め?の言葉をかけ、ルリ&ラピスがゴートから遠ざかった。
普通ならこれでジュンのナデシコ再合流になるが、そう、ここにはエリナがいた。
「無断欠勤、職務放棄に契約違反! これでそのままという訳にはいかないわよね」
「………」
廃人中のジュンの返答はない。
「給料30%カット。降格して副長補佐ね。プロス、契約書を訂正して血判ね」
「はいはい、今のうちにパッパとやっておきます」
「そうそう、せっかくIFSを付けたのだから、非常勤パイロットの項目も入れときなさい」
「お給料は据え置きで構いませんな」
「ええ、当然ね」
無情な言葉が続いている。
「ジュン君、憐れですねぇ……でもロリコンですし…」
「まぁ、無駄使いしそうにないタイプだし、いいんじゃない……それに少女の敵かもしれないし…」
メグミとミナトは同情してても口出しはしない。
プロスは嬉々としてまだ廃人中ジュンの右手親指を契約書に押し付けた。
<ナデシコ食堂>
「うわぁ〜テンカワさん、料理もできるんですか〜?」
「たいしたことないよ。あ、アキトでいいよ」
アキトの慣れた包丁さばきに感心する、ホウメイガールズの一人テラサキ・サユリ。
味を修正しているアキトにしてみれば謙遜でも何でもないのだが、包丁さばき、中華鍋の返しを見れば、
ホウメイガールズたるもの感心して当然である。
「あ、じゃあ、わたしのこともサユリって呼んでくださいね」
「わかったよ、サユリちゃん」
過去そう呼んでいたこともあり違和感なく呼ぶアキト。ついでにやはり食堂の空気は合うのか笑顔である。
当然のように見惚れるサユリ。
「「「「あ〜ずるい、わたしも名前で呼んでください」」」」
ホウメイガールズの他の4人エリ、ミカコ、ハルミ、ジュンコが割り込んだ。
何か一人だけラブラブしそうな雰囲気が気に食わなかったのだろうか?
「こらこら、お客さんがいないわけじゃあないんだから、仕事しな」
「「「「「は〜い」」」」」
厨房に集まる5人を注意するホウメイさん。ミナトさんとはまた違った大人の女性である。
エリナ、ミナトがいろいろな意味で暴走の可能性を持つ現在、ナデシコ最大の良識のはずである。
「それにしてもテンカワ、意外だね、どこで料理修行したんだい?」
ホウメイもアキトの経験を見抜き問いかける。
「町の食堂ですよ」
あなたにも教えてもらったんですよ、と心の中で続けるアキト。
「ふ〜ん、味覚がなくなってパイロットにか。あたしにゃあ、ここのあんたが一番合ってる気がするよ」
「……なんか、そう言ってくれると嬉しいですね」
直感で言ったのだろうホウメイの言葉に、不意を突かれたが満面の笑みで答える。
それを見たホウメイは、あ、これはサユリが赤くなるはずだと納得していた。
「はい、出来ました」
チャーハンを差し出すアキトにどれどれと試食するホウメイ。
「お、上出来だね。これなら店にも出せるね」
「本当ですか、ありがとうございます」
ゆっくり咀嚼して、批評した。
「うん、次は、もう少しだけ塩を減らしな。あと香りづけの醤油もね。
テンカワ、味覚だけでなく嗅覚もやられたろう?」
「あ、分かるんですか?」
「なんとなくね。でも、感覚が治って良かったじゃないか。なんなら、明日からコックをやるかい。
こっちも助かるし、あの子達も喜ぶよ」
ホウメイはサユリ達の方に目をやりながら聞いた。
「え〜嬉しいんですけど、ちょっと忙しくて……」
調理道具を片付けるアキトが言いよどむ。
「ま、パイロットは休むのも仕事の内だからね。特にあんた、他にも働いてるようだし」
驚いた顔でアキトがホウメイを見る。
「おや、知っているのが意外かい。整備員達の夜食を誰が作っていると思ってるんだい。
自分の機体の整備を手伝う昔かたぎのパイロットで、機体や武器もいっしょに相談できる珍しい奴が
いるってウリバタケの奴がね」
「ああ、ウリバタケさんですか〜」
「話の分かる奴って喜んでたよ。まぁ、さっきも言ったがパイロットは休めるうちに休んどきな。
それも仕事だ。で、気分転換にでもここに来るといい」
そこで、ホウメイのまじめな表情が一転した。
「それは、さておき、そこのお嬢さんに何か作ってやりな」
ホウメイの視線の方向を見ると、ユリカちゃんがカウンター席でジーーーーッとアキトを見ている。
「は〜〜〜何やってるんだよ」
「だって、だって、アキト、ルリちゃんとかラピスちゃんとかエリナさんとかお話してるのに、
ユリカには冷たいんだもん!お話しよ、ね、ね、ねぇ、いいでしょう?」
お子様丸出しで聞いてくるユリカちゃん。
その12才の容姿と相まって、アキトにクリーンヒットしていた。
ルリとラピス二人が与えた保護欲かきまくり!の影響は大きい。
しかし、声を大にして言わねばならない!
ユリカちゃんは、12才にして、一部、
ルリとは違うのだよルリとは!!
「わかったよ。じゃあ、まず、何食べたい?」
「ん、え〜と、ラーメン!!」
「はいはい」
「ん、えへへへへ…」
「…どうした?」
「アキト、やっぱりやさしいね♪」
・
・
・
「…魯さんの別れ話…いけないいけない……テンカワさんもロリコン?」
通りがかりのイツキ・カザマが誰とはなしに呟いた。
<アキトとラピスの巣>
夜、アキトとラピスの部屋にエリナとルリ4人が集まっていた。
サツキミドリ2号対策会議である。
「……アキト……ラピスにも……るりとおなじこ……して……」
訂正。一人は既にお寝むであった。所詮は6歳児、睡眠時間10時間以上は必須である。
しかし、どんな夢を見ているのであろう。
「サツキミドリの件なのですが……それよりエリナさん! 何故パジャマなのですか!!」
「あら、すぐにでも眠れるようによ」
そう答えるエリナの姿は、うさうさ模様の入ったピンク地のパジャマ。
年の事はともかく、ラピスとお揃いである。
「どこで寝る気ですか!!(怒)」
「ふふ、夜に男の人を訪れるなら基本よ」
「ううう」
一人制服がくやしいルリ。どうせならわたしもパジャマ姿をアキトに見てほしいというところか。
かわいいね、ルリのパジャマ姿。抱きしめて眠りたいな〜。そんな…アキトさんならいいですよ…あ、それ以上も…
妄想全開でニヘラと顔の緩むルリ。
「ル、ルリちゃん?」
「アキトさん!!」
「はい!?」
「わたしだけ制服なのは不公平です。アキトさんのYシャツを貸して下さい!!」
「は!?」
「こら、ホシノ・ルリ!」
呆けるアキトに突っ込むエリナ。
「い、いいじゃないですか」
「駄目!! そういうことは順序があるの」
「順序ですか?」
ルリは、首を傾げた。
「そうよ。そういうことは、何も言わずに突然見せるから効果があるの。同棲していてある日とか。
例えば、あなた位の年齢ならパジャマが小さくなったので買うまで代わりに貸して下さいとかね」
ポンと手を叩き、納得のルリ。
「そして、突然押しかけるとか待ち構えるってのが基本ね」
「わかりました。ミナトさんに聞いて、わたしなりに実行します!」
「……ルリちゃん……エリナも変な事教えるなよ……」
頭の痛いアキトであった。
「さて、サツキミドリ2号の件ですが、襲撃されると分かっていてどうして目的地を変えなかったのですか?」
結局部屋に戻り、薄い黄色で無地のシルクのパジャマ、少しがんばりました♪、に着替えたルリが尋ねた。
シルクは手触りが良い…
「それも考えたけど、ルリちゃんはどうしてサツキミドリが襲われたと思う?」
「それは、ナデシコが行ったからです」
「じゃあ、何故ナデシコが行くって分かったと思う?」
「情報が木連に漏れた……からですね」
「うん、だから合流地点を月面とかに変えても、今度はそちらを襲われると思ったんだ」
は〜なるほどと思うルリに、今度はエリナが聞いた。
「ナデシコ出航予定日1週間前にサセボが襲われたのは、何故かわかる?」
「……ナデシコの情報が漏れていた。でも、ネルガルの極秘プロジェクトですよね?」
「ま〜軍のドックで戦艦作って人材を集めていたから、分かる所には分かる極秘だったけどね。
それにしても襲撃は正確だったでしょう?」
「はい。主要クルーの乗船日に合わせたような…」
「私とアキト君の予想なんだけどね。木連とクリムゾンは既に組んでいるわ。これは事実。だけどね、
軍の一部とネルガル反会長派がクリムゾンに協力しているのよ。これが、木連への情報の流れね。
そして、ナデシコの実力を測る為にサセボ襲撃。艦長の遅刻のせいで劇的勝利になったけど」
エリナが得意そうに説明する。
「そこまで分かっていてネルガルは反会長派を放って置いているのですか?」
ルリが不思議そうに聞く。
粛清なり左遷なり手段はあるし、エリナもアカツキも甘い人ではないはずなのにと考えている。
「裏切りは一度きりが勝利の秘訣よ」
エリナの目が細まり、大企業会長秘書の目になった。
しかも、ニヤリと笑みを浮かべる。
アキト的に例えるなら、北辰並にやばい笑み。
ルリ的に例えるなら、アキトの膝の上を占領して優越感を滲ませるラピスの笑み。
どちらにしろ沈黙してしまう二人。
「ず〜っと正しい情報を与えておく、最後に偽情報を出す。絶対に疑われることは無いわ。
これが人間心理よ。ホシノ・ルリ覚えて置きなさい」
「……はい」
なにか神妙そうに返事をするルリ。内心は、某策謀の女帝などを思い起こしていたりするが。
「で、サツキミドリに戻るけど、何かあるかしら?」
3人は意見を出し合った。
史実通りだとナデシコとサツキミドリの通信可能範囲到達後、襲撃が始まり全滅すること。
スバル・リョーコが自分の分と他に3体0G戦フレームを持ってくるが、パイロット5人で一つ足りないこと。
ナデシコには、0G戦フレームがないので機動兵器の援護はできない。又、グラビティ・ブラストでは、
サツキミドリ自体を破壊しかねないので事実上、援護不可ということ。
時限式の襲撃かエネルギー感知式の襲撃か不明のこと。
「ふ〜厳しいわね〜」
「ネルガルの社命で避難させれませんか?」
「出来るけど理由がね。科学者だの技術者だのは、要らぬ所で頑固で鋭いから、半端な理由では逃げないし、
木星蜥蜴を出すと何故襲撃が分かったのか疑問に思う人が出る可能性があるわ」
「なら、エマージェンシーアラームを鳴らす。監視カメラのいくつかにバッタの映像でも流せば、逃げるだろう」
「そうね…できる、クラッキング?」
「できます。今から用意すれば簡単ですね」
自信を持って断言するルリ。
「さすがは、電子の妖精というところかしら」
「ええ、ラピスとよく遊びましたから。わたしが一番。ラピスが二番。最後がハーリー君でしたね」
「「…そう……」」
何をしていた3人でぇ〜と思う二人であった。
実際には、ハーリー君を囮にして、ラピスがそちらを集中的に苛めている間にラピス秘蔵ライブラリィを
いただく遊びである。電子の妖精、マシンチャイルド心理に一日の長があった。
その後、サツキミドリ2号から逃げ出したシャトル群と遭遇した。
エマージェンシーアラームと監視カメラを信じてくれたようだ。アキトは、内心血の気の多いリョーコや
探究心旺盛な研究者が迎撃に燃えないか心配していたが、杞憂で済んだようだ。
補充パイロットとも無事合流できた。
自分の機体とそれぞれ1体をシャトルに括り付けて曳航してきたのには、プロスが本気で喜んだ。
これが0G戦か〜く〜いいね〜とウリバタケが頬擦りし周囲を不気味がらせた。
<ナデシコ食堂>
「では、始め……あれ?アキトは、ねぇ、アキト!アキト!どこ…」
スパーン!
鋭く掠めるような蒼色スリッパの一撃でユリカちゃんを静めるエリナ。これは、痛い。
衝撃の緋色に痛みの蒼色。
スリッパを極めし者エリナ・キンジョウ・ウォン……何か嫌だ!
「早く始めなさい!」
「うう……苛める?」
涙目上目使いのユリカちゃん。
ピクピク…エリナの頬が引きつる。しかし、内心は思わずかわいい♪と思ってしまった自分を抑えこんだ。
「…いいから、やりなさい!!」
「…グス…始めちゃって下さい!…」
ユリカちゃんの宣言で始まった。
「はいは〜い! 新人パイロットのアマノ・ヒカルで〜す!! 蛇使い座の18才、好きなものは、
ピザのはしっこの硬いところに萩の月で〜す。よろしくお願いしま〜す!」
「おおおおおおお!!!」
眼鏡っ子のあいさつに整備員達の魂の叫び声。
ユリカちゃん発案新人パイロット歓迎会である。
「うす、あたいはスバル・リョーコ。よろしく。特技は、居合抜きに射撃。好きなものは、おにぎり。
嫌いなものは鶏の皮。以上」
「おおおおおおお!!!」
ボーイッシュなエメラルドグリーンの髪の女の子に整備員達の魂の叫び声。
「ベベン……どうも、マキ・イズミです」
「し、師匠!!」
イズミが何かを話す前にイツキ・カザマが勢いよく飛び出し叫んだ。
「師匠!会いたかったです!私は、師匠に会えず支障をきたしました。
封印することにしたこの魂の呼び声を持て余して来ました!!」
涙ながらに告白するイツキ。熱く語るその手には、風鈴を一つぶら下げている。チリン!
イズミも人魂を背負いながら、無表情にウクレレを掻き鳴らした。ベベン!
「ベベン……屋根と出世魚……庇とブリ……ひさしとぶり……久しぶり」
「プププ……相変わらず見事な冴えです……チリン…四マス……四升……ししょう……ププ…」
「くくくく……」
「…………………プププ」
「…………………くくくく」
イズミとイツキにより、氷点下の風ブリザードが吹き荒れた。
「……………」
時間が止まった。
後にルリはこのあいさつの削除をオモイカネに命じたが、オモイカネのデータの中には
最初から存在しなかったという話である。
マキ・イズミ…黙っていれば+何もせず立っていれば長身長髪の片目の美女。
イツキ・カザマ…黙っていれば、いやマキ・イズミに出会わなければ、清々しい凛とした武道系美少女。
これにイネス・フレサンジュ女史を加え、後にナデシコ3人のマッドアイと呼ばれる者達のデビュー戦であった。
<ナデシコブリッジ>
「…予想以上だったな…」
ミュートでその様子を眺めていたアキトが冷や汗をかきつつつぶやいた。
「アキト、よそういじょうってなに?」
アキトのひざの上に乗るラピスが尋ねた。
「前よりも酷いからね、よもやイツキちゃんもとは…」
アキトは、苦笑して答えた。
「そう」
「ラピスはルリちゃんと一緒に歓迎会でればよかったのに」
「ラピス、アキトといっしょがいいアキトがいったらいくよ」
ピッ
『アキトさん』
突然コミュニケで通信が入る、ルリだ。
「あれ、ルリちゃん、無事だったの?」
『はい、耳栓してましたから』
考えてみればひどい問いにあっさり答えるルリ。
「エリナは?」
『逝ってます』
「そう、言わなかったかな?」
『はい、ところで、アキトさん、ラピス、何か食べますか? みんな凍ってますから持っていきますよ』
「う〜ん、お願いしていいかな?」
「わたし、チョコレートパフェたべたい!」
『ラピス、パフェはないからケーキを持って行きますね』
「うん、ありがと、ルリ姉」
ルリは、アキトが嬉しそうに自分を見ているので?と聞いてみた。
『アキトさん、わたしの顔に何かついてますか?』
「すっかりかわいいお姉さんの顔だなと思って」
『な!?(ポッ) あ、あ、あのすぐ行きますね』
ピッ
返事を待たずに通信画面は閉じられた。
ラピスはアキトを見て微笑んで言った。
「アキト、よかったね」
「うん?」
「うれしそう」
「そうだね」
アキトは、やさしくラピスの頭をなでながら答えた。
「かんげいかいをみてるときは、さびしそうだった」
手が止まった。
「アキト、ひとがいっぱいいるとこきらい?」
「そんなことないよ」
再び、なでなでを始める。
「ほんとう?」
「大勢の人の集まりは好きだよ。ただ、ちょっと苦手なだけ、かな」
「ラピスは、アキトの目、アキトの耳、アキトの手、アキトの足、………いつもいっしょ。さびしくないよ」
なでなでしていない方の手をギュッと握り、一生懸命自分の思いを伝えるラピス。
そんなラピスへのなでなでは、ルリが来るまで続けられた。
<あとがき>
うむ、静かな話だ。ほのぼのしてるな。ラピスはいい子だし。ラピスはオアシスだな。誰も壊れてないし。
今回は、ネルガル極東本部会長秘書に踏まれたい協同組合さんのご提供でお送りしました。
代理人の感想
誰も壊れてないし。
ジュンは勘定に入ってないんですね(笑)。
それと一つ痛感した事。
たとえ十二歳でも
ルリとは違うのかっ!(ナニが)