玄武戦記〜玄武覚醒〜
ぬおぉーーーーーーー
ぬぬ
ここはどこだ
…………
おお、見慣れた天井、畳、掛け軸、一輪挿し
開け放たれた障子から来る風、虫の音
そして、染み込んだ血の匂い……
なんだ我が家ではないか
ふふ、驚かせる……
・
・
・
・
・
・
・
・
「なにぃーーーーー我が家だとっ!!!」
我に家などない。
あ奴等に騙され扇動された愚か者により影に隠れたのだ。
その時に捨てた。
「あなた、騒がしいですよ?」
な、そ、その声は……
滅多にないことだが、戦慄が我を襲った。
驚愕を内に隠し、振り返った。
長い黒髪を腰まで伸ばした女。
美女と呼ぶにふさわしいが若干たれ目がちなので、のほほんとみえる。
だが、今の我には恐怖しか呼び起こさない。
我は無意識につぶやいた。
「南無妙法蓮華経……南無阿弥陀仏……」
「あなた、何の真似ですか?」
小首を傾げて聞くその仕草が……怖い、恐ろしい!
「ぬぬ、迷わず成仏してくれーーーー!!」
は、錯乱をしてしまった。
と、女はキョロキョロしている。
「あなた、幽霊でも見たのですか?」
我は、女を指差した。
女は、?顔で自分を指差す。
「何故、さな子がここにいる!!」
「あら、妻が夫といることは普通です。おかしいですか?」
ころころ笑う女を見て、我は自分自身について考え込んだ。
・
・
・
我は、我が名は、北辰。
人にして、人の道を外した漢。
そう、そんな我を他人は、敬意と尊敬をこめて呼ぶ、外道と!!
木連の、火星の後継者達の影。
木連中将草壁春樹閣下を支える四方天が北天。
地球の修羅・漆黒の戦神と我が娘・真紅の羅刹と壮絶な戦い繰り広げた漢の中の漢!
そして、火星で散った……
・
・
・
ポン
そうか我は死んだんだ。それで地獄に行き、妻と再会したのか。
いや、待て待て。この我が地獄に行くのは当たり前であり我が誇り。だが、さな子がいるわけがない!!
やむを得ぬ所により我が手をかけることになったが、さな子に限って地獄に行く訳が無い!!
だが、そうなると……
深い思考に嵌って行く我をさな子が揺さぶった。
「あなた、本当にどうなさったのですか? 修練所より戻りお休みかと思えば大声を上げて」
「うむ」
「大丈夫ですか?」
心配そうに問いかけてくるさな子。
ちゃんとした気配がある。幽霊ではなさそうだ。山崎の幻覚剤でもないな。
「時にさな子、今日の新聞を見たいのだが」
「はい、あなた、お茶もいりますか?」
さな子がちゃぶ台から新聞を取ってくれる。
そして、今日再び我は愕然としてしまった。
2186年7月………これは、どういうことだ……ここは過去か過去なのか!?
「さな子、これは今日の新聞か?」
「当たり前です。昨日のはもう片付けましたよ」
我の確認にさな子が答えてくれる。それが、確信を与えてくれる。
我は、過去に戻ったのだ。何故かは知らん。神か悪魔の介在か、知らん。
山崎か、山崎の実験か。覚えが無い。
だが、過去に戻った。
と言う事は…
あの最悪の未来を変えることが出来るのか!
漆黒の戦神と真紅の羅刹との戦いを変えることが出来るのか!!
やる、やってやる、我がすべてを賭けて過去に挑戦する!!!
「ふはははははは、すべては木連と我が一族の為に!!!」
中指をおっ立てて叫ぶ我を見てさな子がつぶやいた。
「……何か燃える記事があったかしら……」
ち、違うんだーーさな子ぉーーーー
カコーーーーン
庭で鹿落としの音がこだまする。
ここは、我自慢の茶室。手早く茶を立て、客にすすめる。
灰被油滴天目茶碗。未だ草壁閣下にしか見せたことの無い一族伝来の一品を使った。
「結構なお手前で」
「今一服いかがかな?」
「いえ、結構です」
・
・
・
ふむ、我の前で臆することなく茶を喫するか。合格だな。
隣は、少し落ち着かぬが、将来の姿を知っているから問題ない。
未来を知る我とはいえ、人選は慎重を期せねばならぬが、間違いないようだ。
「さて、東八雲、舞歌、話がある」
「「はい」」
東八雲。戦略・戦術シミュレーションの天才。不戦の立場から失職、後、事故死。ちなみに我は関係無い。
東舞歌。後の木連軍少将。優人部隊総司令官。草壁閣下を裏切り地球との和平の推進役。
現在15歳の少年と14歳の少女。
今から我の為に手なづけておけば、これ以上無い良い手駒になる。
「お前達に頼みがある」
「何でしょうか?」
「我が娘、北斗の養育を任せる」
「「え!?」」
ほう、あの何を考えているか分からぬ舞歌もこのような顔をするのか。呆けておる。
「我が娘を任すと言ったのだ」
「……私は士官学校、妹は幼年学校に通っている身です。無理です」
「我は、八雲お主よりも舞歌に期待しているのだがな」
「「妹(私)ですか!?」」
ふん、驚くなという方が無理か。だが、話が進まん。
「娘は舞歌を姉のように慕っておると聞いたのだがな」
「それはそうですが……」
「………」
「無理では、仕方ない。六連師範代の誰かに任すとするか……」
「えーー!!」
舞歌若いな……いや、14だったな
「お兄ちゃん、何か私達悪いことしたのかな? 抹殺されるのかな?」
「いや、北辰殿はそんなまわりくどいことはしまい。いきなり狩るだろう」
「じゃあ、どうして、おかしいよ。こんなの北辰殿じゃない!」
「待て待て、慌てるな。まだ狩られると決まったわけじゃない」
「ほんと?」
「うん、質問してみる」
「気をつけてね」
「北辰殿、あなたと奥様がいるのに何故、北斗殿を任すなどと言うのですか?
私もまだ養ってもらっている身、安請負は出来ませぬ」
「ふむ、もっともだな。だが、事は極秘。他言すれば死のみ。覚悟はあるのか?」
「はい」
「お兄ちゃん!?」
「北斗殿のことだ。聞くしかない。北辰殿、お願いします」
「うむ。我々木連も力を蓄えてきた。おそらく今後10年以内に極悪卑劣な地球人類どもと何らかの形で
接触があると予想される。それが戦争か交渉かは分からぬ」
「「………」」
「故に我が地球に潜入する。影として我以上のものなどおらぬ。
そして、一度潜伏すれば開戦か交渉開始まで戻ることはありえないからな」
「奥様もご一緒ですか?」
ほう、良く気のつくことだ。戦術だけでなく戦略シミュレーション無敗というのは伊達ではないな。
「さな子は実家に戻す。あいつでは、北斗を甘やかすからな。北斗は我が娘ながら我を超える逸材。
木連の守護者にもなれる可能性を秘めているのだ。木連式武術の修練は六連がやる。それ以外を任したい」
「……何故、未成年でしかない私達なのですか?」
「今、ここで臆することなく我と話す。資格は十分だな」
「「………」」
「すべては木連の為だ!」
「はい」
「私も」
「うむ、よろしく頼む」
「北辰殿もご武運を。どうかご無事で」
ふふ、成功だ! すべては木連と我が一族の為!!
<地球・日本・サセボ>
2196年地球連合宇宙軍サセボドック内ナデシコブリッジ。
地球に潜入してネルガル・シークレットサービスに入社。実力を余すことなく発揮し、人を狩り続けて10年。
我が二つ名として称えられる外道に恥じぬ仕事振りによって、ネルガルSS第一班班長を務めている。
しかし、誰も外道と呼んでくれない……悲しい、寂しい……何故だ! 何がいけないのか、わからぬ……
ともかくその実力でナデシコに戦闘指揮官として乗船することになった。
その為に3ヶ月前にゴート・ホーリーの乗るヘリに細工して重傷を負わせた。もっとも、怪我自体は完治した。
が、「神を見た」と言い出し、所構わず宗教の勧誘、販売を始めたのは決して我のせいではない。
いかに我とて、山崎でなし、そこまでは無理だ。
ともかく我が計画はここまで順調に来ている。
が、何故かブリッジの者達が注目している感じがする。
「ねぇ、プロスさん、その人誰ですか?」
たしか、通信士メグミ・レイナードが我を指差して聞いてきた。
人を指差してはいけないと親に習わなかったのだろうか?
「ああ、みなさん、はじめてですね。では、自己紹介をしてもらいましょう」
ミスターの言葉に自己紹介をする。しかし、相変わらずミスターの普通さは凄い。
たとえ我でも一見ではその実力を測ることは出来なかったネルガルSSの長。
「我は、戦闘指揮を担当する、北辰だ。よろしく」
「……北辰!?」
何故か電子の妖精ホシノ・ルリが目を見開いて凝視してくる。これ以上ない位簡潔で悪い所などないと思うが。
「は〜い、質問で〜す。その仮面は何ですかぁ?」
また、メグミが人を指差して聞いてくる。まったく躾がなっていない。
そうか、妖精はこの仮面に驚いたのだな。なるほど納得だ。我は顔を隠す為に、常に仮面を付けている。
木連の英雄の親が地球の企業に勤めていたとなれば、スキャンダルだからな。
ちなみに仮面は、弓形の三日月状の目と口だけのつけた白い仮面だ。道化師の仮面といえばわかるか。
「顔にひどい火傷があるので勘弁してくれ」
いつもの言い訳を告げる。
「「ふ〜ん」」
メグミと操舵士ハルカ・ミナトは分かってくれたようだ。そうだ、一般人は素直が一番。
こちらも余計な獲物を狩る必要がなくて楽だ。
それでも、妖精はこちらを見ている。子供だから仮面とか好きなのか?
そんなことをしているうちにミスターに連絡が入る。ゲート詰所に来てくれということだ。
「北辰さん、ちょっと来客らしいので出て来ます。ここはお任せしますよ」
「いや、ミスター、我も気になる。同行しよう」
「そうですか。では、一緒に」
ふふふ、漆黒の戦神テンカワ・アキトの登場だ、出迎えねばなるまい。
・
・
・
・
・
「はてさて、どこでユリカさんと知り合ったのですかな?」
「知り合ったというか、ユリカとは幼馴染なんです。それでユリカに聞きたい事があって…」
ミスターとテンカワ・アキトの会話が続いている。
しかし、その間も戦神は我をチラチラ見ている。そんなに仮面は気になるのか?
いや、戦神のことだ。我の実力を感じ、自然に警戒しているのかもしれない。
だが、我も戦神から目を離すことが出来ない。待った。10年待った。歓喜に心が震える。だが、まだ早い!
叫びだしたい気持ちを抑え、心の中だけで絶叫する。
(婿殿! 北斗は花嫁修業中!! 孫をたくさん頼みますぞ!!!)
漆黒の戦神と真紅の羅刹の子供なら、間違いなく銀河最強となる。そう我が夢、一族が最強となるのだ。
木連の為!
何より我が一族の為!!
草壁閣下、南雲よ、礎となってくれ!!!。
話が終わり、契約書作成の途中に婿殿が聞いてきた。
「ところで、プロスペクターさん」
「プロスで結構ですよ。みなさん、長いからそう呼びます」
「では、プロスさん、こちらはどなたですか?」
ミスターが目を向けたきたので、あいさつをする。
「我は、ナデシコの戦闘指揮担当の北辰だ。よろしく」
ドン
婿殿は盛大に頭を机にぶつけた。そして、じっと我を観察している。いや、睨んでいる。
北辰という名に何かあるのか?
前回はいきなり恨みをぶつけられた。こんな商売をしているから、どこかで恨みを買ったのだと思っていたが、
今回は何もしていないぞ。婿殿の両親を殺した事件は、我が入社前の話だ。関係無い。
はっ! わかったぞ。婿殿は、北辰という誰かに苛められたりひどい目にあわされたことがあるのだ。
なるほど、つまり、八つ当たりのわけだ。
負の感情から始まる付き合いは、正の感情に変わったとき反動がでかい。
よし、ならば時間をかけて信頼を得ればいいのだ。
北斗よ、お父さんは頑張るぞ!舞歌の元で修行中のお前の為に!!
・
・
・
3人でナデシコ内部を案内しようとした所、戦神と妖精が旧知の仲ということが分かったので案内を任した。
「アキトさん、あの人は北辰ですか?」
「わからない。だが、背格好は間違いない」
「では…」
「だが、奴には瘴気のような殺気が感じられない…」
「危険です。監視します」
「俺も注意するよ」
「…はて、あんな明るい方でしたかね、ルリさんは?」
ミスターは頭を捻っていたが、木連情報では戦神争奪戦においてトップの奮闘振りと伝えられていた。情報通りだ。
・
・
・
その後、負傷したパイロットの代わりを戦神が勤め、その殆どの実力を隠したまま、ナデシコが決着をつけた。
改めてナデシコの恐ろしさを感じ、身に染みる思いだ。
第一位危険人物艦長ミスマル・ユリカ。第二位危険人物妖精魔女ホシノ・ルリ。
我は、この二人を止めることが出来るだのうか。いや、やらねばならない!! 我は誓う!!
すべては、北斗と戦神の結婚の為に!!
<あとがき>
北辰のお話です。北辰パパのお話です。やっぱりパパでしょう。
どんっっっ!(注:代理人が二ページ見開きで銀河の彼方まで吹っ飛んでいく音)
ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・
ズシャァッ!(落下してきた肉体がリングに叩きつけられた音)
・
・
・
・
・
・
・
・
・
首がなにやら変な方向に曲がっている代理人の感想
「北辰パパ」・・・・・・・何度見ても壮絶な破壊力ですなぁ。
特に大笑いしたのがここ。
木連の為!
何より我が一族の為!!
草壁閣下、南雲よ、礎となってくれ!!!。
・・・・・・・それが本音かい(爆笑)!
親馬鹿・・・・・・いや、パパでしたな(笑)。
では、以後この物語に出てくる北辰の事はパパさんとお呼びしましょう(爆)。
次回から始まる新コーナーにご期待下さい(核爆)。
追伸
木連情報では戦神争奪戦においてトップの奮闘振りと伝えられていた。
情報って(汗)。